上 下
172 / 200
SS 新しい家族

孤独

しおりを挟む
 オブテューレの麓にあるクラリス家。周囲に民家は無く、川と街道を挟めば山ばかり。そんなポツンと一軒家には庭があった。苔を敷き詰めた地面、石畳で道を作り中央にはバーベキューが出来る釜戸やウッドデッキ。そして川を見下ろせる位置にはブランコがあった。

「……」

 川のせせらぎを聞きながら、コルは物思いに耽っている。

 最近思い悩む事が多くなった。
教会で信徒等や、子供達に神学を教えているが、それもつまらなくなった。毎日に不満があるわけでは無い。愛すると決めたカムイと都の居る生活。ビクトラやサリザンド達が居るのにも不満がある訳ではない。なのに、何故か虚無感が襲う。

「我はここにおっても良いものか」

 元々、我は孤独を司る朱雀星、四神の一柱。だが伴侶が欲しくて務めを捨てた。確かにカムイと都は伴侶になってくれた。なのに、なぜか今の方が遠くに彼奴等を感じるのだ。

 都に子供が出来た。兎に梟、龍の子だと言う。羨ましいかと聞かれたらそうでも無い事に気が付いた。何故彼奴等はあぁも子が欲しいのか。我もそう望んでいたのに、何故か彼奴等の輪の中には入れなんだ。

「何しとらすね」

「何だ」

「何だってぇ、そらこっちのセリフだで」

「特に何もしとらん」

「……居場所が見つけらんねぇだか」

「どうであろうな」

「んだねぇ、オラもカムイ様と都様の番になったけんど……お呼びはあんまかかんねぇし、オラの部屋に来てもすんぐ都様は寝ちまうし、カムイ様は抱かしてくれねぇだしな」

「そんな事はどうでも良い」

「そーけ?それが1番分かりやすく心が満たされるんでねーか?」

「この地に生きて有限を知った今、心満たす物が共寝ではな」

「んだら旅に出てみるのはどーけ」

「旅か」

「知らねぇ事知るのはワクワクすんでね。旅はそんの最たるもんでねーの?」

 何処へ行く?都を取り戻す為にこの世界をほぼ回った。特に戻ってみたい場所も無かったし、したいと思う事もなかった。

「都様達と離れられるんけ?」

「分からん」

「んだらもう家族になっとるんだね」

 何故そうなるのだ。別に家族で無いとは思ってはおらんが、前程の執着心がある様にも思えぬ。それはやはりカムイに捨てられた時に引かれた、あの線を簡単には消せぬが故なのだろう。都はいつも我を愛でてはくれるが、サリザンドやルーナの様にその心を預けてはくれぬ。

 あぁ、我には何も無いのだな。
神の使命で彼奴等を守り、愛すると義務付けられていた気もする。
だが、一度平穏に身を委ね、その枷がなくなると……この身に何の意味があるのだろうかと思う。

「何処に行きたい訳でも、彼奴等と離れたい訳でも無い。だが分からぬのだ……何故我はここに居るのだろうか」

「永遠の謎だでね。そげな事、悩むだけ無駄だぁね」

「其方は悩みが少なそうだな」

「うんにゃあ、山程あんべ?オラは都様が好きだ。けども……同じ想いは返して貰えねぇ。意地で番になったけんど、オラがいねぇ方がみんなは幸せなんでねーかね?そげんことば思ってしまうんだね」

「そうか」

「オラだって……都様の1番になりてぇ。サリザンド殿みてぇにかっこよく心は奪えねぇし、ルーナみてぇに不安を紛らわすて差し上げる事も出来ねぇ。ペット枠はずっとだでね。そうそう変えらんねぇのも分かってるだす」

「その心の澱を、其方はどうやって消すのだ」

「……畑ば耕すんだす。何も考えんとただ鍬持って土起こすて、作物育てて。えぇ土になっだなぁって思うと、愛されんでもオラは幸せだなぁって思うんだす。けんど、家に帰っと辛かなって思う事はあるだ……流石に今回はちーとキツかね」

 ソレスは我の方がまだ愛されている、求められている。羨ましいと言った。しかし、我にはまだ求める何かがある此奴の方が羨ましいと思うのだ。

「もー御二方を愛すてはねぇのけ」

「愛……なのかさえも分からん。2人が笑えば良かったなと思いはするが、ふと……そこに居ても我は1人なのではと思うのだ」

「やっぱり旅にでるすかねぇんでねぇか?多分、コルは何処に居たって、誰と居たってその孤独は癒せねぇよ?」

「何故孤独を感じるのだろうな」

「オラはその答え分かっけど、自分で見つけねぇと納得できねぇよ?オラにもそげな時があったけど、旅すて……寂すくなって。そん時初めて分かるんだす。ずぶんの帰る場所が何処で、本当に孤独だったのかどうかって」

 旅か。神魂があればな、他の世界を見にも行けた。
この期に及んでこんな後悔をするとはな。

「都に子が生まれたら……出て行こう」

「そこは旅に行くって言わんと、カムイ様なんかはコルを殺すてしまうかもしんねーよ?」

「……そうか」

 風に靡く髪、その行き先を眺めながら一房切り落としてその風に流してやった。地に落ちるでも、木々に遮られるでも無く空高く登り、あっという間に何処かへ消えた。それもまた命の様で、我は流されるままここでは無い何処かに行ってみたいと思った。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

強制悪役令息と4人の聖騎士ー乙女ハーレムエンドー

チョコミント
BL
落ちこぼれ魔法使いと4人の聖騎士とのハーレム物語が始まる。 生まれてから病院から出た事がない少年は生涯を終えた。 生まれ変わったら人並みの幸せを夢見て… そして生前友人にもらってやっていた乙女ゲームの悪役双子の兄に転生していた。 死亡フラグはハーレムエンドだけだし悪い事をしなきゃ大丈夫だと思っていた。 まさか無意識に悪事を誘発してしまう強制悪役の呪いにかかっているなんて… それになんでヒロインの個性である共魔術が使えるんですか? 魔力階級が全てを決める魔法の世界で4人の攻略キャラクターである最上級魔法使いの聖戦士達にポンコツ魔法使いが愛されています。 「俺なんてほっといてヒロインに構ってあげてください」 執着溺愛騎士達からは逃げられない。 性描写ページには※があります。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

王道学園なのに、王道じゃない!!

主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。 レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ‪‪.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

転生したら同性から性的な目で見られている俺の冒険紀行

BL
ある日突然トラックに跳ねられ死んだと思ったら知らない森の中にいた神崎満(かんざきみちる)。異世界への暮らしに心踊らされるも同性から言い寄られるばかりで・・・ 主人公チートの総受けストリーです。

ムッツリ眼鏡、転生したらモブのボスになりました(汗)

狼蝶
BL
モブおじさんになりたい自称ムッツリ眼鏡、青津。彼は自転車通学中に交通事故に遭い、最近ハマっていた『モブ族の逆襲』という漫画のしかもモブ族の長に転生してしまっていた!!

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...