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最終章

死なば諸共

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 本教会の泉に拒絶された神体グレースは、黄龍の神核を使い

淀みをこじ開ける事にした。


「お主等は下がっておれ…」


サリューンが手を上げると、周りに居た神官達やウォーレン等が

黙って離れ、神体の行おうとしている事を見守った。


「ふん、バシュワなんぞで我を拒むかカイリよ!」


手を水面に付け、神力で泉の水は蒸発して中から真っ暗な穴のような

淀みの入り口が現れた。

その入り口の上には、バシュワが描かれていて都の魂の無い器では

淀みを開けることが出来なかった。

じわりと汗を額に浮かべながら、神体はさらに神力を込めてバシュワを

少しづつ削っていった。


パリンッ‼︎


バシュワが粉々に割れて、次第に淀みがゴボゴボと溢れ出したのを

見た神体は、淀みの泉に入るとその身体に淀みを吸い込み出した。

真っ白だった神体の身体に色がつき始め、次第に瞳や唇までもが

黒く変色すると、神体は手をパンッと叩いた。

すると、神体内の澱みが神力に破壊されて身体の周りに光の粒となり

溢れると、すっと消えて無くなった。

そして、それを何度も繰り返して神体はカイリの身体を引き上げようと

したその時だった。


ドンッ!


神体の足元から、大量の淀みが吹き出し巨大な塊を作ってサリューン達

を襲った。


「皆!撤収だ!外に出るんだ!急げ!」

「陛下!こちらに!」

「しかし!グレース様がっ!」


混乱する現場で、サリザンドが人体となったグレースを抱えて

階段を降りてきた。


「な!なんだこれ!」


グレースとサリザンドは目を見開き、混乱した現場に言葉を失った。


「我が抜け殻よ…何しに来た」


ひたすら浄化を行う神体がグレースを横目に忌々しい顔をして、

神力で二人を投げ飛ばした。


「「ぐっっ!」」


サリューン達がグレースとサリザンドを起こし、肩を掴むと首を横に

振って『上へ避難を!』と叫んだ。


「駄目だ!駄目なんだよ!そこからじゃカイリには辿り着けない!」


グレースが叫びながら、床を這って神体へ向かった。


「唯一神グレース様‼︎カイリ様へと繋がる場所が見つかったのです!」


サリザンドも叫びながら、淀みを結界で防ぎつつグレースの側に

歩み寄った。

サリザンドの言葉に、チラリと視線を動かした神体は泉から出てくると

ゆっくりとサリザンドに近付き、胸ぐらを掴むとそのまま持ち上げた。


「なんだと?もう一度言ってみよ。直答を許す」

「くっ!オブテューレでっ…カイリ様を映した鏡が見つかったんです!ルーナ隊員のネックレスがっ…反応したんです!まだ、都は生きている!その鏡は今、こちらに運ばれている途中です」


神体はサリザンドをドサリと落とすと、黄竜の神核を取り出し淀みの 

中に投げ捨てた。


「案内せよ」


顔色一つ変えずに、神体はサリザンドを見下ろしていて、その

顔にグレースや都の面影は無くなっていた。



上神とは…神体とは…もはや人ではないんだな。もし、都が

この身体に戻れたとして、都が都のままでいられるのか?



サリザンドは苦痛に顔を歪ませながらも立ち上がり、グレースの

腕を肩に回して立ち上がると、ヨロヨロと歩き出した。

澱みに投げ込まれた黄竜の神核は、淀みを吸い込み次第にヒビが

入り始めた。


全員が避難した泉跡に、物陰に隠れていたジジが現れ、

ヒビの入った黄竜の神核に触れた。


「親父…悪いな…こんな親不孝な息子で…来世があるなら…この恩は必ず返すから…許してくれ」


神体の壊したバシュワの跡に、ジジは制約と呪法を施し淀みの噴出を

止めた。


ジジは振り返らず、泉を後にする。

そこには色を失いひび割れ石ころのようになった黄竜の

神核だった物が転がっていた。



「お主、名を何という」


神体は前を歩くサリザンドに声を掛けた。

グレースを支えつつ、振り返り頭を下げて名乗った。

「サリザンドと…」

「お主、都様の番か?」

「…私の唯一です」

「…そうか。その身に潜ませる神核…よもや都様より奪ったのではあるまいな」


サリザンドは首を横に振った。


「彼からの愛だと…信じています」

「ふむ、愛か」

「グレース神、一つお伺いしたいのですが…お許し頂けますか」

「なんだ」

「どうするおつもりなのです」

「都様の魂をこの器にお迎えし、浄化を行う。それだけよ」

「…カイリ様は淀みの中で都の魂を使うつもりですよ」

「させぬ!その為の四聖獣の神核とラファエラの鎖だ!」

「…成功すると?」

「させるのだ」

「……」

「いい加減天帝も怒り狂っておるだろうからな」

「天帝⁉︎」

「カイリを返してやるのよ」


サリザンドは振り返らずとも、神体が笑っているのがわかった。




「サリザンド!」

教会のポータルには、ルーナとガットがボロボロになって立っていた。


「「ルーナ‼︎無事か⁉︎」」

「急いで!カイリ様の目が!開き始めてる!何の予兆?」


その言葉に、神体が駆け出しルーナから鏡を奪った。


「グレース様?」

「誰が我に声を掛けて良いと言った。下がれ」

「?」

ルーナがサリザンドをみると、その腕にはぐったりとしたグレースが

抱えられていた。


「‼︎……グ…グレース神…」

「不敬ぞ…下がれといったであろう」

「…し、失礼致しました」


ルーナとガットはサリザンドの側に行くと、後ろから神体を

見つめた。


「何だか…グレース様や都とは違う…」

「四聖獣とラファエラ殿が…どうやらグレース様の代わりに神体となったようだ」

「……それは…良かった…のかな?」

「分からない…」



神体は鏡を床に置くと、手を鏡の中に差し入れた。

「‼︎…おい、そこの者!サリザンドとやら!都様の神核を渡せ!」

サリザンドは眉を顰めながらも、ボタンカフスを外した。

「何故ですか!」

「都様の神核が!引き摺り込まれる!完全体に戻さねば、都様を出せない!」

その言葉に、ルーナも慌ててネックレスを外しサリザンドに渡した。


「都様‼︎半分も神核をお渡しだったのか‼︎なんて事を!」

「今、お救いします!都様!」


神核が神体の中で一つになると、神体は権能を呼び起こし具現化させ

鏡を囲わせた。


「護国…我主人を護る盾とならん」

「豊穣…主人の力を満たさん」

「祝福…全ての命の声を捧げる」

「祈祷…悪き者の浄化を行う」

「浄火…穢れを燃やし新たなる息吹を」

「祓い…穢れを寄せ付けぬ神力を与える」


次々とグレースと同じ顔をした人型の権能が現れ、鏡に力を注いだ。


「我等が主人を奪いし者よ!あるべき所へ帰るといい!」

「神座‼︎」


教会の天窓から、物凄い光量の柱が鏡に差し込む。

誰もが目を開けていられずに、目を閉じた。


「私の妻を迎えに来た…よくもこの様な穢れに沈めたな」

「ぬかせ天帝よ…その者こそが我主人を捉え澱みに沈めたのだ!」

「しかと報いを受けてもらうぞ!」


「…カイリ…もう離さぬ」


天帝が鏡に足を付け、手を澱みに沈めるとカイリの瞳が開いた。


「…天…帝…」

「さぁ、帰るぞ我等が城へ」

「帰らない!二度と帰らない!」


鏡の中のカイリが叫ぶと同時に、神体と権能が神力を注ぎきった。

神力の光でカイリに纏わりついていた淀みは消え去り、その身体に

飲み込まれた神々は天帝の手に縋り付いた。

しかし、天帝の身体を覆う神聖な光に阻まれて、触れる前に消えて

無くなった。

カイリは駄々を捏ねる子供の様に、淀みの中へと潜ろうとしていたが、

その身体を神体と権能達に捕まれ引きちぎられた。


「アァァァァァァァ‼︎」

「ぐぁぁぁぁ!この世界は!神の玩具箱ではない!」

カイリは叫びながら、抜けて行く神々の魂と共にその身体を

魔粒子に変えて白く色が変わり始めた淀みの中に沈んだ。


「都様‼︎」


神体と権能に魂を掴まれた都は、鏡から魂の一部が顔を出し、ずるりと

引きずり出された。

しかし、その魂に七色の光は無くただ真っ白でぼんやりとした

塊だった。

その姿に、神体と権能達は怒号をあげた。


『貴様‼︎我等が主人を喰らったな!』


その言葉に、グレースは泣きながら這いつくばり白い魂となった

都に手を伸ばした。


「カイリっ!カイリ様!やめてください!お願いします!返してください!俺の半身を返して下さい!嫌だ!嫌だ!都!俺を置いていかないで!俺を一人にしないで!」


天帝は鏡の中の澱みが静かに浄化されてゆくのを眺め、その手を

鏡から離した。


「なんと愚かな…」

「天帝様、グレース神様、ラファエル!お願いします!お願いします!何でもします!俺が死んでもいいから!都を返して下さい!俺の魂を返して!」


サリザンド、ルーナ、ガット。背後でその光景を眺めていたサリューン

達は皆一様に座り込み呆然としていた。

グレースはそれでも這いつくばり天帝の足にしがみつき、涙を流しな

がら縋った。



「其方、名は」

天帝が憐れみの目でグレースを見下ろした。


「グレース…大国主が付けてくれた…俺はグレースだ」

「グレースよ、其方の半身は淀みの浄化と共に消えて無くなった」

「嘘だ…なんでっ!何であんた等が浄化しなかったんだ!」

「神様だろ?天帝なんだろ⁉︎何で都なんだ!」

「その者の神核こそ、カイリの神核だったのだ…都はカイリだったと言って良い…」

「ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!」


グレースは立ち上がり、転がるガラスの破片を掴むと

自身の魔粒子核に突き刺した。


「「グレース様⁉︎」」

「都がっ…居ないならっ…世界なんてっ…滅びろっ!」


ブワリと黒い魔粒子がグレースを包み、神体を飲み込む様に包むと

神体から何かが抜け出てグレースの身体に入り込んだ。

すると何処からともなくジジが現れ、呪法をグレースに掛け出した。


「グレース‼︎お前の本当の名を思い出せ!都の為にしたい事を願え!」


その言葉にグレースは目を見開いた。


「天…光…これが…俺の…意味…」

「な!まさか…お前がそれを持っていたのか!」

「都、今…会いにいくよ」















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