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新世界編
さらば我が愛、さらば我が友
しおりを挟む目覚めて俺が感じたのは喪失感だった。
今まで漠然と感じていた五体満足感、それが無くなった。
手足は思い通りに動くのが当たり前で、空腹を感じたら飯を食う。
カイリの居ない世界を思い出して虚しさを感じたなら男を抱く。
いつもなら、愛以外この体で足りないも物は無かった。
けれど、目覚めたこの体からは芯を抜かれた様な無気力感しか感じ
ない。何が無くなったと問われても、何とは言えない。けれど確かに
あったであろう生を構築する何かが無くなった。
カイリの身体を抱いたからだろうか…長く夢見たあの身体と心を抱いた
と言う達成感が、この無気力感を生み出しているのだろうか?
「起きたか?其方がジジ•フィルポットか…長く生きている割には若いな」
「…貴方は?」
「サリューン•クラリスだ。初めましてだな」
「皇帝か」
「あぁ、そうだ」
「カイリはどこです」
「教会だそうだ」
「教会?騎士教会か?」
「いや、本教会だ」
「……そうか。行かなくていいのか?」
「そうもゆかぬ」
「まずは其方が掛けた呪いについて聞きたい」
「ヤルダ殿か」
「あぁ。奴は死ねぬのか?」
「ははっ!そんな訳無いだろう。あんな物、占いやまじないと変わらん…奴が死んでいない様に見えているのは生命の結びによる一種の副作用みたいな物だ。魂は壊れて死んでおるだろうな」
「生命の結び?」
「青龍や黄龍の持つ呪法だ。生命と死を結ぶ、ヤルダの伴侶が結んでいるのを知っていたからな、呪いと言って脅しただけだ」
「ロンベルトはとっくに死んだ」
「あぁ、だから獣体が死んだ。人体が実年齢に引っ張られ老いた姿となったまで。身体が修復されるのは龍種の生命が身体に残っている間だけだ、それも無くなれば身体も朽ちて消える」
「カイリも我が兄と結んでいた」
「そうか…」
「カイリ殿の魅了、あれはなんとか出来るのか?」
「天帝すら抜け出せず、億年という歳月カイリを抱き続けたというのに手放さなかった。そんな力、我々でどうにか出来ると思うか?」
「…何故、そんな力を持つ肉体を蘇らせた」
「権能や加護は何に宿る?身体では無い…魂と神核だ。あの身体に魂も神核も無い」
「では、何故あの力が発動しているんだ?」
「都が持っていたのだろう。魂が似ていた」
「だとして、想像しなかったのか?」
「しなかったな」
「…では、都様はこの世界の為に死ぬしか無いのだな?」
「なんでそうなるんだ」
「カイリ殿は淀みに向かったそうだ。都様の魂にテュルケット神が飲み込んだ神々の神核を宿らせ、都様の権能と加護を使い淀みで浄化と調和を行うのだろうとラファエラ殿が…予想…いや、確定した未来と現状を繋いだ結果だと言った」
「…馬鹿な」
「事実、テュルケットの神体は失われたと大司教が確認した」
「…俺の…所為か…だから、俺に抱かれたのか」
「俺はテュルケットに呪法でこの世界の結界を纏めると言う呪法をかけられて不死となった。俺が抱いた様で…カイリに抱かれる事で呪いを解いたのか…?だから、淀みに堕ちれたのか…何で…」
「俺は、永遠にカイリの義弟なんだな?」
「心が、身体が、魂が…燃えるほど、狂うほどに!カイリを愛したのに…全てを捧げて…捧げ尽くしてもなお…俺から奪うだけで…愛を与えてはくれないのか…俺はまるで道化じゃないか?」
「今更だ、嘆くのは死んでからにしてくれ。其方の愚行が、この世界の民が求める神の一柱を殺そうとしているのだ…止める手立てを考えろ」
「そんな物ありはしない」
「淀みとこの大地は隔絶されている。どうやったって俺たちが淀みに行くことは出来ない」
「では、何故カイリ殿は行けるのだ?」
「腐っても、神核を失っても、魔粒子核が無くとも…アイツは神なんだ。淀みに行けるのは神だけ…神核は与えられる物では無い。神たる資格を有する者が生み出す覚悟、信念、想いそれらが神核と言う存在を創り出す。神=神核なんだ…それに…都はかなりの権能持ちだろ。神核を集めたり、修復したりなんて権能位持ってそうだがな…」
「神の資格とはなんだ」
「さぁ?知っていたなら…俺も神に立候補しているよ。これはしりあいのジイさんの請け売りだがな」
「なら、グレース様も行けるのだな?」
「…どうだろうな?グレースって奴は都から生まれたんだろ?」
「いや、神により人格を作られたと言っていた」
「…権能か」
「権能?」
「グレースって奴は人格があっても神じゃ無い…都の権能だ」
「…そいつは権能を使う事が出来ない筈だ。なんせ自分が権能なんだからな」
「……神は…どこまでも我々を弄ぶのだな」
「それが神という存在だ」
サリザンドがグレースを連れて何処かに消えたとリャーレからの報告は
入ったが、それを追える程みな強く無かった。
ソレスにアガット等も目覚め、その日の内に誰も彼も都を案じつつも、
別れを覚悟してオブテューレ山へと向かった。何が出来るわけでも
ないが、そうしなければならないという強迫観念めいた信念に突き
動かされていた。
夕陽の沈む地平線の見える救護所で、ジジは一人世界を見る。
与え続けた物の価値の無さ、意味の無さを突きつけられたのに、尚も
胸が焦がす程の想いに、ジジは嫌気が差していた。そして、失った
小指の痕を摩り、ペンダントに隠した数本の髪を窓の外から風に
飛ばして呟いた。
「さらば友よ、もう二度とお前を愛さない。苦しめて悪かった」
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