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東のガーライドナイト領
祝福の力
しおりを挟む纏まらない思考を抱えたまま都はぼーっと街を眺め、
これからの自分のスタンスを考えた。
神として振る舞うのか、一人の男として振る舞うのか。
そして守護者の彼等に対して、素直に本心を曝け出す覚悟は
出来るのか。思い返せば、羞恥心から本音を曝け出せずにいつも
グレースに甘え、そして彼等の優しさにも甘えた。
…俺は甘え過ぎたな。
「もういいか、素直になっても。俺も楽しもうかな?この世界。」
「神様かぁ。本物の神様になれるなら、今すぐこの世界の憂いを無くしたいなぁ。」
子供連れの夫婦、恋人達、友人同士で笑いながら歩く人々、
何が理由で都を監視するのか分からない白使いを眺め、唐突に願いたく
なった。敵であったとしても、彼等に平穏が訪れ、笑顔が絶えません
ように。そう、彼等もこの世界に生きているのだから。
「君達に幸多からん事を願うよ。人を憎まず、人の幸せを幸せと思える世界にしたいな。」
ふと、そんな言葉が突いて出た。すると、一人の男が叫んだ。
「な!何だこれ!身体に光が入ってくる!」
「俺もだ!」「私も!」「僕も!」「凄い!俺の獣体が!」
周辺の人々が騒ぎ始め、隠れていた白使いまでも声を上げた。
「なんだ!俺の魔粒子の色が変わった⁉︎」
「これは!祝福か⁉︎」
この一声で、辺りは騒然となり皆獣体になったり、自分の魔粒子を
見たりしていた。
都はそれが自分のせいだとは分からず、何が起きたのかと立ち上がり
騒ぐ人混みに近付いた。
「そう言えば、宵闇様が今領主様の所にお越しだと聞いた!宵闇様からの祝福ではないのか⁉︎一昨日の鉱山の爆震も宵闇様がお越しになられたからだと聞いたぞ‼︎」
誰かが叫び、それから砂糖に群がる蟻の様に周囲の人間が集まり
グレースの事を話し出した。
「神殿跡で奇跡を起こしたとも聞いた!」
「そういえば、空気が急に澄んだ気がしたが、そのお陰なのか?」
「きゃあ‼︎うちの子が‼︎」
一人の猫の獣人が叫んだ。
「うちの子の目が‼︎」
大人達は一斉にその声の主に視線を移す。
「あぁ、奇跡だ!うちの子は生まれつき両目が白魔粒子に汚染されて、白濁してしまって見えなかったんだ!」
しかし、サバトラ猫の獣人の子供の瞳に白濁は無く、茶色の綺麗な瞳で
親を見上げていた。
「かか?かかなの?」
母親の獣人は泣きながら子供を抱きしめ叫んだ。
「そうだ!そうだよ!私は母さんだよ‼︎」
「かか!かかはこんなに綺麗な人だったんだね⁉︎僕、かかが見えるよ!」
その感動に包まれた人混みを都はスンとした顔で見つめていた。
ヤバい。ヤバいぞ、これ。間違いなく俺だよな?
そっと人混みに背を向け屋敷に帰ろうとした時、どこからとも無く
白使いが現れ、跪き都に首を垂れた。
「宵闇の神、グレース様。我等が行いをお赦しください。」
都は眼を瞑りグレースと交代して欲しいと願った。
——— えー、嫌だよ。今出たら俺、顔良い奴喰いたくなるし。
何で!欲求不満かよ!
——— そうだよ!どんだけ朱雀やヴィクやアガットとやってないと思ってんだよ。溜まってる!だから、俺は出ない!
クソッ‼︎参ったな、白使いに囲まれた!走って逃げるか?
「グレース様、ありがとうございます。我等にかけられた制約と呪法を取り除いて頂いた事、感謝致します!」
一人のフードを被った男が地面に額を擦り付け泣き出した。
静観しようと決めた途端に現れて跪く白使い達に、都は驚きで返答
出来ず、どうするべきか悩んだ。しかし、手が勝手に彼を抱き起こして
いた。
「あっ。ごめ、、大丈夫か?」
思わず肩を掴んでいた手を離し、行き場なくヒラヒラと手を振った。
「いえ、感謝致します。我等はオルポーツ様の白使いにございます。家族、仲間、自身の核を人質にグレース様を監視…しておりました。」
急に語り出した初老の男の言葉にカッと頭に血が上った。
「オル…ポーツ、だと?」
「はい。我等はオルポーツ様に隷属する白使いにございました。」
「グレース様の祝福により、隷属の鎖が切れ制約など全てが無くなったのです!ありがとうございます!ありがとうございます!」
その男の言葉に都は怒りを覚えた。
「あんたら、全員そうなのか?」
二、三十人はいるだろうか?彼等全員が、俺の様にあいつに制約を
かけられていたのか。怒りに思考が定まらぬまま、手に力を込めた。
「我等は、グレース様を監視しそのお力を探る事が任務でございました。もし、お一人となる隙がある様ならばその…弑せよと命も受けておりました。しかし!本心では皆その様な事をしたくは無く、出来ませんでした。申し訳ございませんでした。」
この人達は騎士隊の様な肉体もない。本当に寄せ集めで強制隷属させ
られた白使いなんだろうな。皆んな色が濁ってるし、やつれている。
可哀想に。ってか、俺殺されるところだったのかよ!危なっ!
一人になるのは避けよう。うん、今日の事も黙っておこうかな?
「いや、いい。それより、全員の枷が無くなったというのは本当か?」
跪く全員が強く頷き、涙を流している。
「そうか、なら良かった…これからは自由に生きろ。悪いが俺は屋敷に戻らなきゃ。」
その言葉にその場に居た街の人も含めて全員が縋り付いた。
「お待ち下さい!今暫く!今暫く神との拝謁をお許し下さい!」
振り向くと、誰も彼もが都を神を敬うかの様に見つめていた。
彼等の信仰心、希望、喜びが都の神核に満ち始めて都を潤す。
さっきまで、魔粒子不足でそろそろヤバいと思ってたのに。これが
神が信仰により生かされる、という事なのか?
ダメだ!これじゃ本当に神様になっちゃう!下心で言うとルーナや
サリザンドと触れ合う理由として使えなくなる!
いや?黙ってれば良いのか?
はっ‼︎下衆な事考えちゃったよ!いかんいかん!
「皆さん俺はっ!あっ、いや。私は神だと思っていません。確かに、知らずに祝福をしたかもしれませんが、私もこの世界に生きる一人の人間として、ここに居たいんです。神殿暮らしになってしまうと街にも出れなくなるかもしれない。だから、内緒にしてくれますか?私と皆さんだけの秘密です!」
いや、無理があるかな⁉︎あるよねぇ?どうしよう。
「神様!あっ!いや、グレース様、僕、グレース様と秘密、大事にする!絶対誰にも言わない!だから、また会って下さいますか?」
先程のサバトラ子猫がトトト、と近付いて都の手を恐る恐る触った。
ふわりとした子猫の毛に、ふにふにとした肉球に都は神核を鷲掴み
された。
「はぅっ‼︎ぐっ、可愛い‼︎」
都はその手を包むと、肉球を唇に当てがいニコニコと微笑んだ。
「勿論さ。俺は今旅の途中だけど、旅が終わったなら是非俺の所に遊びにおいで?さ、これをあげよう。国中に調和が終わったことが伝わったら皇宮においで?門番にこれを見せると良いよ。俺のだってすぐわかるからね。それに、これは御守りだから肌身離さず着けておくんだよ?」
都は子猫の虜となり、飴ちゃん食べなと言わんばかりに身につけていた
加護付きのペンダントを渡した。
「グレース様からプレゼント⁉︎ありがとうございます!大事にします!」
うんうん、子供は良いね!可愛いね!最高だ!俺も早く子供が
欲しいな。最初はルーナかな、ルーナの子供なら超可愛いんだろうな。
兎の子供!サリザンドは梟だろ?あー、目がクリクリできっとこの子も
可愛い筈だ!朱雀と子供作ったらどうなるんだろ?あいつが産むのか?
ははっ!楽しみだ!滾るぜ!
妄想が止まらぬ都はニコニコからニヤニヤに変わり、周囲がざわつき
だした。
「はっ!失礼。私は戻りますから、皆さんも、良い一日を。」
そう言って人混みを抜けようとした時、先程の白使いに手を掴まれた。
「グレース様、少しお話を!あの方について!」
あの方、オルポーツの事だな。一気に不機嫌になった都に白使いは
オドオドしながら民衆から離れた所へ都を誘った。
「グレース様、我々が既に隷属が切られた事をオルポーツ様は気付いている筈です。どうか、我等をグレース様の旅の一行にお加え下さい。」
彼等の願いは、このまま戻れば殺される可能性があるため、一行に
加わり力を使いたい、そして人質となった家族を救いたいので力を
貸して欲しいとの事だった。
このまま見放す訳にもいかず、都はサリューンに助けを求める事に
した。また、面倒な事になったなと思ったが、放っても置けないから
サリューンに押し付けよう。そう都は思考を放棄した。
「分かりました。旅に同行させるかは置いておいて、まずはサリューン陛下に助けを求め、解決したらその先を考えましょう。では、着いて来てください。」
そして都は白使い達と共に屋敷へもどった。都を先頭に出来た列は、
さながら神と使徒による行進の様に民衆の目には映っていた。
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