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新生編

鑑定

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「これ、これが原因ってことありますかね?」

リャーレはグレースの胸の魔道具に手を触れ呟いた。

「それに、そんな力はないだろ?」

コレットも覗き込んでリャーレの真意を探る。

「いや、これ付けたのってオルポーツ様ですよね?あの人、権能持ちじゃ無かったですか?何の権能か知りませんけど、タチの悪い呪具とか結構私室の隠し部屋から見つかってたんで、これにもなんかタチの悪い呪法や制約ついてるんじゃ無いかって。」

皆の顔が確信に変わる。

「サリザンドは来てるか?」

魔道隊隊長コンフェルが扉を開けて確認した。

「いえ、今サリューン様と皇帝宮に掛けられている制約と呪法の解除に回っています。」

近衛騎士が敬礼して返答する。

「連絡を取って来てもらってくれ。神子が再臨されて、オルポーツ様の魔道具により危険な状況だと説明しろ。」

「畏まりました。」




緊急連絡を受け、駆け付けた魔導鑑定士のサリザンドは、粗方の仔細を聞くと鑑定魔導具をグレースの枕元や足元に設置し、グレースの胸に打ち込まれた調教用の魔道具に手をかざし鑑定を試みる。
サリザンドは特S級の鑑定士であり、自身も鑑定・解除に関しては帝国一だと自負している。しかし、もしこの魔道具に魂の破壊などが組み込まれていたらどうあっても対処は出来ない、そう考えると初めて手が震えるという経験をした。

幸い、施された制約は四つだった。

一、 魂と肉体の固定。
二、 変質魔粒子の取り込みの妨害。
三、 魔粒子消費の拡張。
四、 肉体構成の変質。

「制約の内容は鑑定完了しました。続いて呪法の鑑定に入ります。」

「呪法の鑑定を開始しますがこの結界は非常に強い物になります。そして CTカウント120毎に結界の張替えを行いますので、朱雀さん及び完全変体が出来ない方や種族の方は部屋を出て、結界外枠の保護結界よりも外側で待機をお願いします。変体中で受肉が完了していない隊員や職員は絶対近寄らせないで下さい。結界内では身体が分解される恐れがあります。ご注意ください。宜しいですか?」

みな黙ってサリザンドの言葉に従い、部屋に残ったビクトラ・リャーレ・アガット・ソレス・コレット・ルーナ、魔導隊と近衛騎士隊の五名の計十一名は補助と魔粒子補給の継続を行う事になった。

サリザンドは結界内に魔粒子精製の魔道具を通して自身の魔粒子を放出する。十分に結界内に魔粒子が溜まると、左手でグレースの胸元にある魔道具に手をかざし薄く消えかかる肉体と、出来始めた神核を貫く楔に保護結界を張った。それから、右手でベッドを囲むように張られた結界内の魔粒子から赤と黄の魔粒子を選び、グレースの枕元にある上の蓋が開かれた小さな箱に右手で魔粒子を促すように移す。すると今度は右手で箱の横に置いた袋から銀色の鉱石の様な粒を二粒掴んで箱に入れる。蓋を閉じて蓋の上にある魔石を一撫ですると、カタカタと音が鳴った。音が止むと箱の側面にある噴出口から鈍色の煙が生まれ結界内に充満していった。
 サリザンドは胸のポケットから鑑定用のスコープを出して目に嵌め、グレースの胸元の魔道具の宝珠の中をのぞいた。

「これは、、、また厄介な呪法が組み込まれていますね。」

スコープで宝珠をいろんな角度で見ながら、その中の呪法の文字を一つづつテキストに起す。

「なんだ!何が組み込まれているんだ!」

「大隊長焦らないでください。確認していますから。」

ビクトラは目を瞑って天を仰いだ。

「魂縛、、、あぁ、あの方というのは何と愚かな。いにしえの呪法を使っています。」

サリザンドはスコープを外して、ビクトラの顔を苦々しい表情で見た。

「こ、魂縛こんばくとは、なんだ?」

「その名の通りです。魂を縛っているんです。」

「どこにだ!」

「繋がっている先は明確ではありませんが、オルポーツ様の、、青龍の神核にでしょうね。あくまでも推測です。確定ではありません。」

「クソッ!!」
「どうしたらいい。」

ビクトラはサイドテーブルに拳を振り下ろした。

「落ち着いてください。そうですね。あくまでも個人的な意見ですが、オルポーツ様もグレース様に神核があるとは思ってないでしょうから、このままにしておいても良いかもしれませんね。魂を取り込んだと思ったら何にもなくって、代わりに神核がグレース様にあると知ったら驚くでしょうね。それにしても、なぜ神核が生まれたんでしょうか。こればかりは私にもわかりませんね。いつ生まれたか分かりますか?」

ソレスがコレットの足元から顔を出して答えた。

「オラの見立てだと70分ってとこだべかね?」
 
「何でわかるですか?というか、見えてるんですね?あなたも。」

「ん?オラが最初に気付いたんだべ?それに、隊長達さから呼ばれった時、大きさはこれの半分以下だったべ。それ確認すて大体30分でこの大きさなら、アンタが来るまでの時間も加味すて逆算したら大体そんくらいだべ?」 

「なるほど。で、神核というのはどれほどの大きさになるもの何でしょうね?」

「さぁ、んっだな事はわかんね。オラ神様にあっだことねーもの。」

「え?なのに神核が分かったんですか?」

「んだぁ。オラも鑑定眼と真眼持ってるしね。直ぐに分かったのは、オラが村に神核のカケラがあんのさぁ。それでわかったすね。」

「神核のカケラ?それって神が死んだって事ですか?」

「んにゃ、テュルケット神の加護は最近まであったすね。多分創生時の神様のカケラじゃなかんべかなぁ?そんれも、カケラなのにとんでもなくできゃーてな。グレース様の神核がどんだけ大きゅうなるかはわかんねんだわ。」

「このままで問題ないのか?」

ビクトラは眉間を指で押さえながら話に耳を傾けた。

「そうですね。楔がこうもがっつり嵌ってると解除はおススメしません。神核がいつ頃完成するかもわかりませんし、解除したら間違いなくこの身体は霧散して神核も下手したら消失しますよ。」

サリザンドは結界を解除して道具をテキパキと片付け始めた。

「さて、医務官とも相談が必要ですが、おススメの選択としては肉体の構築です。これがなければ戻せるものも戻せませんからね。」

「とりあえず、制約を解除して肉体を戻せれば命を繋ぐことはできるはずです。今から解除に入りますが、半日はかかります。Sの方はこれからの為に体力の温存とポーションガブ飲みして教会で魔粒子吸収しておいて下さい。」

「お、おう。」

サリザンドの目の奥が緑にキラリと光った。何やらとんでもない事を考えているのでは無いかとビクトラは強張った。

「ま、まぁいい。さっそくどうすれば肉体の構築が出来るのか算段してくれ。」

医務官のルーナが計測器で身長やグレースの胸に張る魔道具の根を測り計算する。

「そうですねぇ。ここにいるSの魔粒子30%をそれぞれ与えれば肉体構築は可能でしょうね。ですが、この方“黒”ですよね?経口摂取じゃ無理ですね。」

「な!何故だ!ではどうすれば、、、」

「それは制約解除が無事に終わったら説明するとしましょう。」

「それでは補給をSからA とBの隊員に代わってください。」

「ポーション忘れずに!」


その場に居る全員がこれからの対応に言い知れぬ不安を覚えた。

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