神々にもてあそばれて転生したら神様扱いされました。

王都編

隷属する者が隷属される（2）

「正直、皆さまの仰っていることが分かりかねています。」

「天界で生まれ、こちらの世界の事は知らない事ばかりで、戸惑いしかございません。」

「ですから、隷属等々のお話なのですが私の守護者である朱雀が戻りましてお話をさせて頂きたいのです。」

どうにも、ただ帝都へ向かうというだけの事なのに関係の無い話で時間が失われていると感じ、グレースは皆の顔をみて、話しだした。

「今一番急務なのは、帝都へ向かう事です。」

皆、それまでの言い合いをやめてグレースの言葉に耳を傾けた。

「私の父であるエルザードは、天界で悔やんでいました。」

マラエカが呟いた。

「お悔やみになっておられる？一体何にたいしてでしょうか？」

「未来視の権能を失い、予言を終わらせる事となってしまった事を、です。」

「……それ、は、、我々も危惧しておりました。」

「テュルケット父様は、エルザード父様と天界で会う前に、お恥ずかしい事に別の世界にいらっしゃる神に懸想されました。そして、貢物としてエルザード父様から権能を奪い返すとその方にお渡しになったのです。」

その言葉に、皆眉を潜めた。

悪役になってもらうぜテュルケット！双葉を襲った罰だ！
やばいね、女優の素質あり寄りの有りなんじゃない！？嘘がポンポン出てくるわ！
そう心の中で拳をあげてニヤリと笑うグレースは、話し続けた。

「エルザード父様は権能を奪われ、未来視が使えなくなったのです。」

「そして、それまで見てきた予言が、予言無しに進む世界にとって破滅の起爆剤となる可能性を父様は考えました。」

「故に、予言の原書の内容を確認してから、各予言がなされた地を訪れ調和をする必要があるのです。」

「もし、調和が出来なければ、、、。」
　
皆が息を吞む。

「この世界は崩壊します。物理的に。それは、この世界だけではなく、ここよりも遠くにある世界へも影響を与えます。この場所に生きる者だけではなく、他の世界に生きる者たちも死に絶えてしまうでしょう。私はそれを止めたいのです。」

あまりの衝撃に四人は言葉もなく茫然としていた。
ビクトラはグレースに渡そうと思っていた鍵を、そっと心臓に手を当てて消した。
　
　鍵は、主人が持つ事で隷属された者と同じ魔粒子で縛られる。
グレースがもし、本来は肉体を持たぬ神であったならその鍵を持つことで、今依り代としている肉体にその肉体の魂として固定されるとビクトラは考えた。隷属されたものを縛る、主人に必要な肉体を得る為に。だが、万が一、グレースの言う予言の終わり以降の世界でこの世界が終焉を迎えたなら、主人として縛りを受けたグレースは生きてはいない。神の使徒であるならば、魂は天界に還るのかもしれないが、縛りを受けた場合、、、最悪、魂も天界には還れないかもしれないと思った。

冷静になれば、まだ俺はグレース様の信を得られていない。
勝手にこの地に縛り付け、あまつ俺の物にしてしまうにはあまりにも残酷な事だ。グレース様を得たいと思うが、決して苦しませたいわけではない。ただ、その存在の近くに居たいと強く願ってしまった。俺は本当に最低だ。

ビクトラは後悔に眉間にしわを寄せて目をつぶった。そして、息を吐くと提案をした。

「今すぐ、帝都へ向かいますか？それとも朱雀を待ちますか？」

グレースはビクトラをまっすぐに見つめ、微笑んだ。

「ありがとう。ビクトラ様。力をお貸しくださって感謝します。、、、是非、今すぐに。」

グレースはテーブルの上で固く握られたビクトラの拳を両手でふんわりと包み込んだ。

「今の私はあまりにも無知で、鍵を頂く事の責を理解する事ができません。ですが、この世界を守りたいのです。」

「今はまだ、ここで生きるにはあまりにも非力な私に、どうかお力をお貸しください。」

「隷属の事、責めたりは致しません。きっと私の為にその様な苦痛を耐えてくださったのでしょう？ですから、不満もおありでしょうが今暫く耐えて頂けませんでしょうか。どうぞお願いします。」

ビクトラは驚いて目を見開いたが、泣き出しそうな笑みで頷いた。

ハッハァ！どうよ？こんな風に淑女体で謝られたら、嫌とは言えまい！！もうよくわからんけど、肉の壁は多い方がよい！とりあえず怖いけど、この人偉い人みたいだし逃がさず傍に置いておこう。

下衆な浅知恵でグレースはビクトラを懐柔しようとしたが、それが逆にビクトラに縛られる事になるとは、まだグレースは気付いていなかった。