狼と人間、そして半獣の

咲狛洋々

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太陽の国 獣語

クロウの初恋(1)

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 ぼくはくろう さんさい。
ぼくがすきなものは まま、ぱーぱ、おはな、おにくでも いちばんすきは にーに。
にーにだいすき!
ままがにーにはくろうよりもおにいさんだからやさしいんだよっていったけど、にーにはぼくのことだいすきだと おもうの。
だってぼくはままとぱーぱがだいすきだから、ままとぱーぱもぼくのことだいすきっていったもん
このまえ、にーににのおよめさんになるっていったら『ありがとう』っていったもの!ぼくはもうにーにの
およめさんでしょ?ちがう?

「まま、まーま、おきて くろう おそといきたい」

ダブルベッドに、ファロに抱かれて眠るナナセの上にクロウは飛び乗り、何とか起こそうとナナセの顔をペロペロと舐めている。ナナセは顔まで布団を引き上げ粘ったが、クロウが遠吠えをし始めた為、渋々布団から顔を出した。

「えぇ、ちょっとまってください、あとすこし、ね?クロウも、もう少し寝ましょう?まだ5時ですし」

「まま、くろうおそとであそびたい。ろーすのこうえん!すべりだいであそびたい」

白々と明け始めた外を見て、ナナセは溜息と共に布団から起き服を着替え、クロウを抱き上げた。

「クロウ、まずお顔を洗って、ご飯を食べて、歯を磨いたら行きましょう?私がご飯を作るまでに準備は出来ますか?」

「うん!ぼくもうおかおもあらったし、ばっくもじゅんびできた!くまさんとねこさんもばっくにはいってる!じゅんびばんたん」

「……りょーかい、ボス」

何とか興味を別の事にそらして、朝一からの公園遊びを回避したかったが、その算段も先回りされてしまいナナセは仕方ないなと、気合いを入れた。

「さてと、ご飯を作りますか。クロウ、私のお手伝いしてくれますか?」

「ままのおてつだい?えー…くろう、こうえんいきたい」

「でも、ご飯を食べない子は連れて行きませんよ?」

「はぁい ぱーぱ おこすの?」

「えぇ、お父さんを呼んできて下さい。でも、お父さんは昨日お仕事を沢山したので、優しく起こしてあげてくださいね?」

「うん!」

とととととっ バタンッ バフッ 

キュー キュー アオーーーーン アオーーーン


「んんっ、、クロウ、やめなさい、朝から遠吠えは近所迷惑だろう?」

モゾモゾと起き出したファロは、右側にナナセが居ないのを手で確認すると、溜息を吐いてクロウに目をやった。

「ぱーぱ!ぱーぱ!ごはんたべよってままいってるよ!ごはんたべたらこうえん!ぱーぱ すなばで じゃいあんとすいんぐしてー」

「……はぁ、おいでクロウ」

ファロはクロウを抱き上げると、ベットに横になったままぽーんと上に放り上げて、キャッチする。

「キャン!キャーーーぱーぱ、もういっかい!もういっかい」

「いいぞ。でも、公園はなしだ。夕方なら付き合ってやる」

「え、やだ、ままこうえんいくっていったもん!」

「ママと公園に行くか、俺と今遊ぶか。どっちがいい?」


 こんな朝早くから公園で遊ぶなんて…仕事に障りが出そうだ。昨日だってナナセはゴーレム三体の討伐に参加していたし、俺はクロウのお迎えだったから早めに終われそうな、ゴブリンの巣の掃討クエストを受けた。何気に疲れが溜まっている…そこに来て朝から公園で全力で遊ぶクロウの相手は、ドラゴン討伐よりも骨が折れる。

「どっちもがいい、ぱーぱ どっちも」

「どちらか一つだ」

「やだっ!ぱーぱきらい!くろうとあそぶのいやなんでしょ」

ドキ…

「そんな事は…ない。お前と遊ぶのは楽しいさ。けどな、俺もママも仕事を沢山して、少し疲れているんだ。だから、夕方から公園に行くなら、二つしてやってもいい」

「えー…でも…いまからこうえんいかないと、にーに あえない」

「うん?バートか?」

「にーに、きょうおしごとで だんじょんにいくっていってた」

「だんじょん、ろーすのこうえんにあつまっていくんだよっておしえてもらったから…にーに いってらっしゃい したかったんだもん」


コンコン

ナナセが扉にもたれて腕組みをして2人を見ていた。

「クロウ、私はクロウに何をお願いしましたか?」

「?ぱーぱ おこすおしごと」

「そうですね。お父さんと遊んで良いとは言いませんでした。ご飯がすっかり冷めてしまいました。それに、バートさんに会いたいなら、なぜそう言わなかったのですか?」

「だって、くろうがにーにに あいにいったら どじぇむのおじちゃん かなしいかお するんだもん でもくろう にーにあいたいんだもん」

「はぁ…男の子なのに、乙女…」

「なんだ?乙女とは…」

「気にしないでファロ」

「わかりました。では私と行きましょう、お父さんをもう少し寝かせてあげましょうね?さぁ、クロウは私と一緒にご飯です。ファロ、おにぎりを準備しているから、起きたら食べてね?」

「あぁ、助かる。ナナセ、おいで」

ファロとナナセは、朝のキスをして互いの首を噛み合うと、ナナセはクロウと食事を取って、ファロはもう一眠りする事にした。



「クロウ!走らないで下さい、危ないですよ」

「うん!」

元気よく返事をしたクロウは、言った側から駆け出して冒険者の集まる広場に向かった。

「にーに!にーにーー!」

人集りにバートを探すクロウは大声で叫ぶ。冒険者達は、小さな黒い狼の子供に手を振り声を掛けた。

「おいぼーず!見送りに来てくれたのか?」

「そー、にーに探しにきたの」

「にーに?誰の事だ?」

「くろうのだんなさまだよ」

「ぶっ!誰だよこんな幼気な子供を誑かすのは」

クロウを取り囲むように、冒険者が集まり笑いながら相手は誰だと揶揄い合っている。その人混みを掻き分けて、一人の冒険者が現れた。

「お、クロウじゃないか!バートを探してんのか?」

「あっ、ろーじぇのにーにだぁ!だっこ!」

ロージェスは、クロウを抱きかかえると肩に乗せてバートの元へと連れて行く事にした。

「母ちゃんは一緒か?」

「うん!ままあっち!あぁっままこまってる!またひといっぱい、ままにいいよってる!」

「おいおい、どこでそんな言葉覚えたんだよ!」

「まっくしゅがいってた。あれはままにいいよるおとこだから、ちかづいたらたべられちゃうよ、そのときはぱーぱをよびなさいって」

「はははっ!そら大変だ、お前の父ちゃんに殺されるなソイツ等」

「ぱーぱ そんなことしないよ?めってするだけだもん」

「そーかぁ?お前の父ちゃん、母ちゃんの事になるとおっかねーからな。お前も母ちゃん困らせるとキツいお仕置きされるぞ?」

「くろう、ままこまらせないもん」

「いやいや、どうせバートに会いたいのに嘘をついてこんな朝早くに連れてきて貰ったんだろ?」

「くろう うそついてないもん!」

クロウはロージェスの頭に噛み付いて、手足をバタバタとばたつかせ泣き出してしまった。

「あーあー、悪りぃ悪りぃ、ほら、お前の大好きなバートだ!行ってこい」

「にーに?あ、にーにだ!」

クロウは駆け出して、バートの足元に飛びついた。

「うおっ!おぉ?え?クロウ君?どうしたの、こんな朝早くに」

「くろうね にーににいってらっしゃい しにきたの」

周りの目に、バートは少し恥ずかしげな顔をしてクロウを抱き上げ辺りを見渡した。

「ね、ねぇ?クロウ君。お母さんと一緒かな?お父さんは?」

「そー。ままあっちにいるよ ぱーぱはまだねんねしてる。ままはたくさんおじちゃんたちにかこまれてこまってた でもままつよいからだいじょうぶ」

「え?それは大変だ!お母さんの所に行こう」

「う?ままのとこいくの?」

「そうだよ、お母さん困ってるかも知れないでしょ?」

「うん」

クロウは少し、悲しい気持ちになってしまってバートの服をぎゅっと掴んだ。
なんでおなか、きゅーってするの?ごはんいっぱいたべたからかな?おなかいたいな。えんえんしたくないのに、
おめめからなみだがでちゃう

「え?どうしたのクロウ君、あぁ、お母さんが心配なんだね、大丈夫だよ、ちゃんと私が助けるからね?」

ちがうのに。ちがうの!くろうがえんえんしたいのはままのこととちがうのに!なんでにーにはわからないの?


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