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最終章 姉と妹
38.新たな日常
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アリア様が副会長に指名したのは、まさかの…。
(お姉さま!?)
「はっ、はぁ!?ならないわよそんなもの!!」
さすがにお姉さまも動揺している。
そりゃそうだ。今日のメインイベントは転生式だったんだから、ここにいる誰1人としてこんなサプライズがあるとは微塵も思ってなかったのだから。
「私は下級生よ?上級生じゃないと、生徒会になれないじゃない。」
「うん!だから、副会長になると同時にちーちゃんは上級生に昇級だよ!おめでと!
ちなみに、生徒会長の指名だから断れないのは知ってるよね?」
「はぁぁあ!?!?」
怒濤の展開すぎて、誰もがついていけてない。
先生も、妹のリョーコ様も。アリア様だけが完全に場を掌握していた。
「これにて、集会は終わり!」
ミネルウァ様は学園を去り、お姉さまが副会長となる。
新たな日常が始まった。
集会から一夜明けた今も、生徒達は昨日の話題で持ち切りだった。
「セレナさん、おめでとう。」
「あなた以外副会長の役目にぴったりな生徒はいないわ。」
教室に入ったとたんに生徒に囲まれ、お姉さまは心底うんざりとした顔をしている。
「私の前で心にもないことを言うなんて馬鹿なのぉ?」
「なっ…!?」
生徒の顔がみるみる赤くなる。
副会長という役職に気をとられ、お姉さまの能力を忘れていたのか。
「お姉さま。」
「何よ?手の平返すようにすり寄ってくる奴が一番嫌いなのよ。」
「僕もですよ。さすがだなって思って。」
お姉さまのハッキリとした物言いにヒヤヒヤさせられることもあるが、こういうときはかっこよく思える。
「でしょぉ?
でも、ほんとにアリアは何考えてるのかしら。」
「お姉さまを評価してのことじゃないですか?」
「そんなわけないでしょ?自分で言うのもなんだけど、問題児だってずっと生徒会に目をつけられてたんだから。」
(それはわかってたんだ。)
お姉さまの言う通りなら、昇級させても生徒会に入れるのは不自然かもしれない。
アリア様の言い方も、副会長にさせたいから上級生にしたってニュアンスにもとれるし。
「あら、セレナさん?ここは下級生のクラスですからもう受ける必要はありませんよ。」
僕達は教室に入ってきた先生に追い出されてしまった。
しかし、お姉さまは上級生のクラスに行こうともせず、別の方向へ歩いてゆく。
「どこ行くんですか?」
「生徒会室よ。アリアに何のつもりかちゃんと聞かなくちゃ腹の虫が収まらないわ。」
学園の最上階。他の教室とは違う、彫刻が施された両開きの木の扉。一目でそこが生徒会室だとわかった。
お姉さまが勢いよく扉を開けると、アリア様は窓際でお茶を淹れていた。
「せれちゃん、ちーちゃん、待ってたよ~。座って座って~。」
紅茶のいい香りが僕達を迎える。今、ここに来ることをわかっていたかのように。
テーブルに置かれた可愛らしいカップのなかで紅く色づいた液体が揺れる。
「アリア、私を副会長に指名するなんてどういうことなの?」
「どういうことって、せれちゃんは優秀だし、態度もずいぶん改善したし、適任かなって思ったんだよ?
私よりも学園に長くいて内部のこともよく知ってるから、支えになってくれるしね。」
「ふーん…アリアは読めないからややこしいのよねぇ。」
嘘をついてるようには思えない。
お姉さまを指名した理由ももっともらしい。
「ところで、私達を待ってたって何か用でもあったの?」
「そりゃあるよ~。副会長の引き継ぎとか、色々ね。」
「はぁ…。本当に私にやらせるつもりなのね。」
アリア様が事務的な話を進めると、お姉さまもどうしようもないと察したようで大人しくなった。
「せれちゃんは上級生になったことだし、制服も変えた方がいいかもね!」
「ダサいお揃いケープなんてお断りよ?」
「別にお揃いってわけでしてるんじゃないんだけどな~。上級生っていう目印みたいなものだよ?」
「制服は私の好きにするわぁ。」
「別にいいけど、上級生らしい格好してほしいかな。裸で歩き回るなんてダメだよ?ね、ちーちゃん!」
「それは同感ですね。」
(目のやり場に困る格好をされるのもあれだしなぁ。)
お姉さまはアリア様に賛同した僕を責めるように睨む。
「わかったわよぉ!考えておくわ、それでいいでしょ?」
「今のところはね。
じゃあ、話はこれで終わり。上級生のクラス頑張ってね!」
「頑張らなくても楽勝よ。」
お姉さまに続いて生徒会室を出ていこうとすると、何故か僕だけ呼び止められた。
「あっ、ちーちゃんの話は終わってないよ!」
「え?僕に?」
「チカに話って何なのよ?」
「副会長の妹としての業務とかだよー。少し長くなるから、せれちゃんは授業に行ってていいよ~。」
「ふーん、まあミネルウァには妹いなかったものね…。先行ってるわ。」
生徒会室に残された僕は、また椅子に座り直した。
今この部屋には生徒会長と僕だけ。なんだか緊張する。
(そういえば、リョーコ様がいないな。下級生だから授業中かな。)
僕が黙っていると、目の前に大きなグラスがどんっと置かれた。中にはピンク色の液体が注がれている。
「さぁどうぞ!」
「ありがとうございます。いちごみるく、本当に好きなんですね。」
「美味しいもん!せれちゃんは嫌いみたいだからストロベリーティーを出したけど、やっぱこれだよね~。」
口をつけると、ほんのり甘いミルク味が広がり僕の緊張を和らげた。
不思議とホッとする味がする。
「あの、副会長の妹ってどんなことをすればいいんでしょうか?」
「ん?あ、そっか。それは心配しなくて大丈夫。いつも通りせれちゃんを補佐してくれてれば。」
「…?わかりました。」
あれ?さっき、副会長の妹の業務の話をするとか言ってなかったっけ。
話長くなるとも言ってたのに、すぐに終わってしまったんだが。
「…ぷはーっ。
さてと、ここからが本題だよ。」
グラスを空にしたアリア様はレースのハンカチで口元を拭く。
そして、少し真剣な顔つきで僕を見た。
「ちーちゃん、今回の特別課題をこなせたんだね。ミネルウァも誉めていたよ。」
「あ、ありがとうございます。
でも、直感で選んだ本だったので、正直なにが合っていたのか自分でもはっきりしないんです。」
「…やっぱりそうなんだ。」
「え?」
「ううん。よく頑張ったね~。」
僕があのとき選んだ本は花の図鑑だった。
自分の内側を考えたとき、心に浮かんだのはエゴのなかでみた花畑だったからだ。
(安直かもしれないけど、あの花はミネルウァ様のエゴの火のように、僕の何かを表してると思ったんだよな…。)
「そういえば、ミネルウァは実際にちーちゃんのエゴに行ったみたいだね。」
「そうらしいです。あの、話が見えないのですけど…。」
僕のエゴと課題の話をするのはなんでなんだろう。
「あのね、転生式の前にミネルウァが教えてくれたの。
課題を通して知った、今のちーちゃんの状況のこと。」
「今の僕の状況、ですか。」
(それって、何故か自殺者でもないのに天界に来てしまったことの話だよね。)
久々に自分の置かれた状況を思い出した。
いつも頭の片隅にあったけれど、ここの生活に慣れ始めて考える日も少なくっていたんだ。
「ちーちゃん、せれちゃんのことは私達に任せて。」
「……。」
アリア様の言わんとしていることがわかる気がした。
「率直に言うけど、ちーちゃんがここに居続けるのはおすすめしないな。」
「僕がお姉さまに連れてこられただけの迷い人だからですか?
だから、この学園じゃない正しい所へ行けといってるんですか…?」
視線を落とす僕に、アリア様は手を重ねた。
そして、耳を疑うような言葉を発したんだ。
「ううん……、
千華。あなたは生きてるから。」
(お姉さま!?)
「はっ、はぁ!?ならないわよそんなもの!!」
さすがにお姉さまも動揺している。
そりゃそうだ。今日のメインイベントは転生式だったんだから、ここにいる誰1人としてこんなサプライズがあるとは微塵も思ってなかったのだから。
「私は下級生よ?上級生じゃないと、生徒会になれないじゃない。」
「うん!だから、副会長になると同時にちーちゃんは上級生に昇級だよ!おめでと!
ちなみに、生徒会長の指名だから断れないのは知ってるよね?」
「はぁぁあ!?!?」
怒濤の展開すぎて、誰もがついていけてない。
先生も、妹のリョーコ様も。アリア様だけが完全に場を掌握していた。
「これにて、集会は終わり!」
ミネルウァ様は学園を去り、お姉さまが副会長となる。
新たな日常が始まった。
集会から一夜明けた今も、生徒達は昨日の話題で持ち切りだった。
「セレナさん、おめでとう。」
「あなた以外副会長の役目にぴったりな生徒はいないわ。」
教室に入ったとたんに生徒に囲まれ、お姉さまは心底うんざりとした顔をしている。
「私の前で心にもないことを言うなんて馬鹿なのぉ?」
「なっ…!?」
生徒の顔がみるみる赤くなる。
副会長という役職に気をとられ、お姉さまの能力を忘れていたのか。
「お姉さま。」
「何よ?手の平返すようにすり寄ってくる奴が一番嫌いなのよ。」
「僕もですよ。さすがだなって思って。」
お姉さまのハッキリとした物言いにヒヤヒヤさせられることもあるが、こういうときはかっこよく思える。
「でしょぉ?
でも、ほんとにアリアは何考えてるのかしら。」
「お姉さまを評価してのことじゃないですか?」
「そんなわけないでしょ?自分で言うのもなんだけど、問題児だってずっと生徒会に目をつけられてたんだから。」
(それはわかってたんだ。)
お姉さまの言う通りなら、昇級させても生徒会に入れるのは不自然かもしれない。
アリア様の言い方も、副会長にさせたいから上級生にしたってニュアンスにもとれるし。
「あら、セレナさん?ここは下級生のクラスですからもう受ける必要はありませんよ。」
僕達は教室に入ってきた先生に追い出されてしまった。
しかし、お姉さまは上級生のクラスに行こうともせず、別の方向へ歩いてゆく。
「どこ行くんですか?」
「生徒会室よ。アリアに何のつもりかちゃんと聞かなくちゃ腹の虫が収まらないわ。」
学園の最上階。他の教室とは違う、彫刻が施された両開きの木の扉。一目でそこが生徒会室だとわかった。
お姉さまが勢いよく扉を開けると、アリア様は窓際でお茶を淹れていた。
「せれちゃん、ちーちゃん、待ってたよ~。座って座って~。」
紅茶のいい香りが僕達を迎える。今、ここに来ることをわかっていたかのように。
テーブルに置かれた可愛らしいカップのなかで紅く色づいた液体が揺れる。
「アリア、私を副会長に指名するなんてどういうことなの?」
「どういうことって、せれちゃんは優秀だし、態度もずいぶん改善したし、適任かなって思ったんだよ?
私よりも学園に長くいて内部のこともよく知ってるから、支えになってくれるしね。」
「ふーん…アリアは読めないからややこしいのよねぇ。」
嘘をついてるようには思えない。
お姉さまを指名した理由ももっともらしい。
「ところで、私達を待ってたって何か用でもあったの?」
「そりゃあるよ~。副会長の引き継ぎとか、色々ね。」
「はぁ…。本当に私にやらせるつもりなのね。」
アリア様が事務的な話を進めると、お姉さまもどうしようもないと察したようで大人しくなった。
「せれちゃんは上級生になったことだし、制服も変えた方がいいかもね!」
「ダサいお揃いケープなんてお断りよ?」
「別にお揃いってわけでしてるんじゃないんだけどな~。上級生っていう目印みたいなものだよ?」
「制服は私の好きにするわぁ。」
「別にいいけど、上級生らしい格好してほしいかな。裸で歩き回るなんてダメだよ?ね、ちーちゃん!」
「それは同感ですね。」
(目のやり場に困る格好をされるのもあれだしなぁ。)
お姉さまはアリア様に賛同した僕を責めるように睨む。
「わかったわよぉ!考えておくわ、それでいいでしょ?」
「今のところはね。
じゃあ、話はこれで終わり。上級生のクラス頑張ってね!」
「頑張らなくても楽勝よ。」
お姉さまに続いて生徒会室を出ていこうとすると、何故か僕だけ呼び止められた。
「あっ、ちーちゃんの話は終わってないよ!」
「え?僕に?」
「チカに話って何なのよ?」
「副会長の妹としての業務とかだよー。少し長くなるから、せれちゃんは授業に行ってていいよ~。」
「ふーん、まあミネルウァには妹いなかったものね…。先行ってるわ。」
生徒会室に残された僕は、また椅子に座り直した。
今この部屋には生徒会長と僕だけ。なんだか緊張する。
(そういえば、リョーコ様がいないな。下級生だから授業中かな。)
僕が黙っていると、目の前に大きなグラスがどんっと置かれた。中にはピンク色の液体が注がれている。
「さぁどうぞ!」
「ありがとうございます。いちごみるく、本当に好きなんですね。」
「美味しいもん!せれちゃんは嫌いみたいだからストロベリーティーを出したけど、やっぱこれだよね~。」
口をつけると、ほんのり甘いミルク味が広がり僕の緊張を和らげた。
不思議とホッとする味がする。
「あの、副会長の妹ってどんなことをすればいいんでしょうか?」
「ん?あ、そっか。それは心配しなくて大丈夫。いつも通りせれちゃんを補佐してくれてれば。」
「…?わかりました。」
あれ?さっき、副会長の妹の業務の話をするとか言ってなかったっけ。
話長くなるとも言ってたのに、すぐに終わってしまったんだが。
「…ぷはーっ。
さてと、ここからが本題だよ。」
グラスを空にしたアリア様はレースのハンカチで口元を拭く。
そして、少し真剣な顔つきで僕を見た。
「ちーちゃん、今回の特別課題をこなせたんだね。ミネルウァも誉めていたよ。」
「あ、ありがとうございます。
でも、直感で選んだ本だったので、正直なにが合っていたのか自分でもはっきりしないんです。」
「…やっぱりそうなんだ。」
「え?」
「ううん。よく頑張ったね~。」
僕があのとき選んだ本は花の図鑑だった。
自分の内側を考えたとき、心に浮かんだのはエゴのなかでみた花畑だったからだ。
(安直かもしれないけど、あの花はミネルウァ様のエゴの火のように、僕の何かを表してると思ったんだよな…。)
「そういえば、ミネルウァは実際にちーちゃんのエゴに行ったみたいだね。」
「そうらしいです。あの、話が見えないのですけど…。」
僕のエゴと課題の話をするのはなんでなんだろう。
「あのね、転生式の前にミネルウァが教えてくれたの。
課題を通して知った、今のちーちゃんの状況のこと。」
「今の僕の状況、ですか。」
(それって、何故か自殺者でもないのに天界に来てしまったことの話だよね。)
久々に自分の置かれた状況を思い出した。
いつも頭の片隅にあったけれど、ここの生活に慣れ始めて考える日も少なくっていたんだ。
「ちーちゃん、せれちゃんのことは私達に任せて。」
「……。」
アリア様の言わんとしていることがわかる気がした。
「率直に言うけど、ちーちゃんがここに居続けるのはおすすめしないな。」
「僕がお姉さまに連れてこられただけの迷い人だからですか?
だから、この学園じゃない正しい所へ行けといってるんですか…?」
視線を落とす僕に、アリア様は手を重ねた。
そして、耳を疑うような言葉を発したんだ。
「ううん……、
千華。あなたは生きてるから。」
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