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第六章 ページをめくって
29.意外な一面
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「具合はどうですか?」
「んー、まだ頭はボーッとするけど、別に息苦しいとかはないわぁ。」
昼過ぎに目が覚めたお姉さまは、お腹がすいたと言ってお粥をねだるくらいには食欲も回復していた。
「ごちそうさま。美味しかったわ。」
「よかったです。では…。」
「薬は飲まないわよ?」
まるで猫のように警戒している。そりゃあ薬は進んで飲みたくなるものじゃないかもしれないけど、なんでそんなに嫌がるんだろう。
「わかってます。だから、僕と取引をしませんか?」
「取引?」
「はい。お姉さまの欲しい物を渡す代わりに、熱が下がり、体調も回復するまで薬を飲んでいただきます。」
お姉さまは少し考えて僕のほうを見た。
「ずいぶん自信がありそうだけど、私の欲しいものって一体何をくれるつもりなのぉ?」
「僕の"答え"です。」
それだけで何か分かったようだ。
以前の課題のときに、お姉さまに聞かれて散々はぐらかしたあのこと。
『チカにとっての恋ってどっちの意味なの?』
「…ふーん?」
満更でもない様子。
気になったことは徹底的に知りたがるお姉さまの性格だ。僕がどっちの意味とも答えずにうやむやにしたことを納得いってないのはわかっていた。
「回復するまでって言うなら、それじゃ足りないわね。薬1回分なら…考えるけど?」
(そんな何回分も出せるほどカードはない。僕の切り札はこれだけなのに。)
「せめて、3日分は飲んでくださいよ。」
「嫌よ。朝夜1回ずつで6回も飲まないといけないじゃないよ。」
「じゃあ2日分では?」
「1日分。」
「…1日半は?」
「まぁ、それならしょうがないわね。」
僕はまんまと口車にのせられて、回復するまで薬を飲むという提案から1日半まで引き下げてしまった。
今までワガママを貫き通してきたお姉さまの交渉術を侮った僕のミス。
「さぁ、聞かせてもらいましょうか?」
「まずは今日の分飲んでからです!」
「はいはい。」
お姉さまは心底嫌そうな顔をして、保険医お手製の薬をコップすべての水を使って流し込んだ。
「っあ"ーーー!」
(お姉さまから聞いたことのないダミ声が…。)
「そんなにその薬が嫌いなんですか?」
「この薬だけじゃなくて、全部嫌いなの!」
「どうしてまた。」
「私の親がいつも無理矢理飲ませてたからよ!」
僕は何故か聞いてはいけないことを聞いてしまった気がして、言葉に詰まってしまった。
親、ということはお姉さまの生前のときの話。そんな個人的なことをこんな状況で聞くつもりはなかった。
「……。そうでしたか。」
「もう、チカはすぐ気にするんだから。私にとっては過去のことだからどうだっていいのよ。」
(お姉さまにあったこと、僕は何も知らない。)
天界に、この学園にいるということは事情があるはずだ。でも、僕にはそれを聞く権利はない。
「…課題、あったんでしょ?
私も集会の様子をここで見てはいたけど、熱のせいかぼやけてよくわからなかったのよ。詳しく教えなさいよぉ。」
「あ、はい。今回の課題は副会長のミネルウァ様からの伝達でした。『自分を表す本を見つけること。』とのことです。」
「ふーん?チカが苦手そうな課題ねぇ。」
僕のことをよくわかっている。
実際に、図書室で探しても全然見つからなかった。自分がどんな人物かわかっていることが前提となるのだから、わからずに生きてきた僕はマイナスからのスタートになる。
「お姉さまは、すぐに本が見つかりそうですか?」
「楽勝よぉ。自分で書いた本を選ぶだけだもの。自伝的な内容で課題にもぴったり。」
「自分で書いた本?お姉さまが?物書きを??」
あの授業もほとんど聞かず、遊んでばかりのお姉さまが書き物をする姿なんて想像できない。
「何よ、その信じられないって顔は。私だってそのくらいやるわよぉ。」
「本当なんですか。」
(なにそれ凄い気になる。読みたい。)
お姉さまが書いた本…。しかも自伝的内容とは。
いや、読んでいいのだろうか。つい先程まで、お姉さまの個人的なことを聞いて狼狽えていた僕が。
「あ、でもどこにやったかしら。図書室に置いといたことは覚えてるんだけど。」
「え、図書室に?」
「ええ、匿名でね。皆が読めれば楽しめるじゃない!」
(まさかの自主寄贈!?名前は伏せてるとはいえオープンすぎでは!?)
「…それ、僕も読んでいいものなんですか?」
恐る恐る聞いてみた。
いくらそんな誰でも読める状態とはいえ、僕は著者を知ってしまっているのだ。
「うーん…、チカに読まれると思うと少し恥ずかしいわ…。まぁ、図書室で見つけたら、あとはご自由に。」
(いいってことかな?)
あの大量の本が天の天まで埋め尽くされている図書室で、お姉さまの本を見つける確率はほぼゼロに近い。
お姉さまのことを知りたいからできれば読みたいけれど。
「題名はなんていうんですか?」
「忘れたわぁ。そもそも題名をつけたかしら?」
「ええ~。」
「仕方ないでしょお?学園に来たばかりの頃に書いたものなんだからっ。」
お姉さまは口を尖らせた。
「そういえばお姉さまはいつ頃学園に来たんですか?」
「すごく前よ。街で偶然ルイと出会って、学園を創立したけど生徒が少ないから困ってるって言われて。入学しないかって誘われて来たの。」
それで昔からの友人ってわけだったのか。
校長先生から直接誘われるくらい、お姉さまには女神の素質があったのだろう。
「チカが嫉妬してたルイにね。」
「それは余計ですっ。」
けれど、そんなに昔のことならお姉さまはいったい天界に来て何年経っているのだろう。
お姉さまも校長先生も、街の人達も、歳をとっているようには見えない。
(天界で生まれたひとは歳をとるけど、天界にきた人は歳をとらないとか?
…と、いけない。また関係ないこと考えちゃってた。)
「お姉さま。集会の際、メガイラ様がお大事にとおっしゃってました。皆心配してるんですから、しっかり休んで早く良くなってくださいね。」
「わかってるわよぉ。メガイラは心配してるかわかんないけどねぇ?」
「なんでそんな言い方を。」
二人の間に何かあったのか、お姉さまは意味深な言い方をする。
「あの子の考えてることわかんなくなっちゃったもの。」
「…?仲良かったんですか?」
「まあね。メガイラが子どもの頃から一緒だったもの。」
(子どもの頃から…?)
お姉さまは『眠くなるまで』と言って、入学した頃に会った女の子の話を始めた。
「んー、まだ頭はボーッとするけど、別に息苦しいとかはないわぁ。」
昼過ぎに目が覚めたお姉さまは、お腹がすいたと言ってお粥をねだるくらいには食欲も回復していた。
「ごちそうさま。美味しかったわ。」
「よかったです。では…。」
「薬は飲まないわよ?」
まるで猫のように警戒している。そりゃあ薬は進んで飲みたくなるものじゃないかもしれないけど、なんでそんなに嫌がるんだろう。
「わかってます。だから、僕と取引をしませんか?」
「取引?」
「はい。お姉さまの欲しい物を渡す代わりに、熱が下がり、体調も回復するまで薬を飲んでいただきます。」
お姉さまは少し考えて僕のほうを見た。
「ずいぶん自信がありそうだけど、私の欲しいものって一体何をくれるつもりなのぉ?」
「僕の"答え"です。」
それだけで何か分かったようだ。
以前の課題のときに、お姉さまに聞かれて散々はぐらかしたあのこと。
『チカにとっての恋ってどっちの意味なの?』
「…ふーん?」
満更でもない様子。
気になったことは徹底的に知りたがるお姉さまの性格だ。僕がどっちの意味とも答えずにうやむやにしたことを納得いってないのはわかっていた。
「回復するまでって言うなら、それじゃ足りないわね。薬1回分なら…考えるけど?」
(そんな何回分も出せるほどカードはない。僕の切り札はこれだけなのに。)
「せめて、3日分は飲んでくださいよ。」
「嫌よ。朝夜1回ずつで6回も飲まないといけないじゃないよ。」
「じゃあ2日分では?」
「1日分。」
「…1日半は?」
「まぁ、それならしょうがないわね。」
僕はまんまと口車にのせられて、回復するまで薬を飲むという提案から1日半まで引き下げてしまった。
今までワガママを貫き通してきたお姉さまの交渉術を侮った僕のミス。
「さぁ、聞かせてもらいましょうか?」
「まずは今日の分飲んでからです!」
「はいはい。」
お姉さまは心底嫌そうな顔をして、保険医お手製の薬をコップすべての水を使って流し込んだ。
「っあ"ーーー!」
(お姉さまから聞いたことのないダミ声が…。)
「そんなにその薬が嫌いなんですか?」
「この薬だけじゃなくて、全部嫌いなの!」
「どうしてまた。」
「私の親がいつも無理矢理飲ませてたからよ!」
僕は何故か聞いてはいけないことを聞いてしまった気がして、言葉に詰まってしまった。
親、ということはお姉さまの生前のときの話。そんな個人的なことをこんな状況で聞くつもりはなかった。
「……。そうでしたか。」
「もう、チカはすぐ気にするんだから。私にとっては過去のことだからどうだっていいのよ。」
(お姉さまにあったこと、僕は何も知らない。)
天界に、この学園にいるということは事情があるはずだ。でも、僕にはそれを聞く権利はない。
「…課題、あったんでしょ?
私も集会の様子をここで見てはいたけど、熱のせいかぼやけてよくわからなかったのよ。詳しく教えなさいよぉ。」
「あ、はい。今回の課題は副会長のミネルウァ様からの伝達でした。『自分を表す本を見つけること。』とのことです。」
「ふーん?チカが苦手そうな課題ねぇ。」
僕のことをよくわかっている。
実際に、図書室で探しても全然見つからなかった。自分がどんな人物かわかっていることが前提となるのだから、わからずに生きてきた僕はマイナスからのスタートになる。
「お姉さまは、すぐに本が見つかりそうですか?」
「楽勝よぉ。自分で書いた本を選ぶだけだもの。自伝的な内容で課題にもぴったり。」
「自分で書いた本?お姉さまが?物書きを??」
あの授業もほとんど聞かず、遊んでばかりのお姉さまが書き物をする姿なんて想像できない。
「何よ、その信じられないって顔は。私だってそのくらいやるわよぉ。」
「本当なんですか。」
(なにそれ凄い気になる。読みたい。)
お姉さまが書いた本…。しかも自伝的内容とは。
いや、読んでいいのだろうか。つい先程まで、お姉さまの個人的なことを聞いて狼狽えていた僕が。
「あ、でもどこにやったかしら。図書室に置いといたことは覚えてるんだけど。」
「え、図書室に?」
「ええ、匿名でね。皆が読めれば楽しめるじゃない!」
(まさかの自主寄贈!?名前は伏せてるとはいえオープンすぎでは!?)
「…それ、僕も読んでいいものなんですか?」
恐る恐る聞いてみた。
いくらそんな誰でも読める状態とはいえ、僕は著者を知ってしまっているのだ。
「うーん…、チカに読まれると思うと少し恥ずかしいわ…。まぁ、図書室で見つけたら、あとはご自由に。」
(いいってことかな?)
あの大量の本が天の天まで埋め尽くされている図書室で、お姉さまの本を見つける確率はほぼゼロに近い。
お姉さまのことを知りたいからできれば読みたいけれど。
「題名はなんていうんですか?」
「忘れたわぁ。そもそも題名をつけたかしら?」
「ええ~。」
「仕方ないでしょお?学園に来たばかりの頃に書いたものなんだからっ。」
お姉さまは口を尖らせた。
「そういえばお姉さまはいつ頃学園に来たんですか?」
「すごく前よ。街で偶然ルイと出会って、学園を創立したけど生徒が少ないから困ってるって言われて。入学しないかって誘われて来たの。」
それで昔からの友人ってわけだったのか。
校長先生から直接誘われるくらい、お姉さまには女神の素質があったのだろう。
「チカが嫉妬してたルイにね。」
「それは余計ですっ。」
けれど、そんなに昔のことならお姉さまはいったい天界に来て何年経っているのだろう。
お姉さまも校長先生も、街の人達も、歳をとっているようには見えない。
(天界で生まれたひとは歳をとるけど、天界にきた人は歳をとらないとか?
…と、いけない。また関係ないこと考えちゃってた。)
「お姉さま。集会の際、メガイラ様がお大事にとおっしゃってました。皆心配してるんですから、しっかり休んで早く良くなってくださいね。」
「わかってるわよぉ。メガイラは心配してるかわかんないけどねぇ?」
「なんでそんな言い方を。」
二人の間に何かあったのか、お姉さまは意味深な言い方をする。
「あの子の考えてることわかんなくなっちゃったもの。」
「…?仲良かったんですか?」
「まあね。メガイラが子どもの頃から一緒だったもの。」
(子どもの頃から…?)
お姉さまは『眠くなるまで』と言って、入学した頃に会った女の子の話を始めた。
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