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第三章 初めての課題
11.僕*ドキドキ=?
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「ぃやあっ…。」
僕はお姉さまの体を押す。
そんな抵抗も虚しく、お姉さまの腕はしっかりと僕を捕らえたまま。
「…っ、早くどこまであの小娘にされたか言いなさいよぉ。」
「だからっ、何もされてませんってばっ…!」
そう言ってる間もずっと、お姉さまの柔らかな唇は音をたてて、瞼、頬、首にまで這う。唇だけは避けて。
部屋に戻ってからずっとこの調子だ。
いい加減立っているのもツラい。
「お姉さま…っ、どうしちゃったんですかっ。」
「チカは私のだって印をつけてるの。」
脳裏にローズの言葉が浮かぶ。
『証明してあげる。』
…証明ってなに!?
お姉さまが究極に嫉妬深いってこと?
他の子と遊ぶのが気に入らない子供みたいってこと!??
僕は背の高いお姉さまを支えきれずに尻もちをついてしまった。それでもお姉さまは引っ付いて離れない。
(まるでじゃれてくる大型犬だ…。)
「誰が犬なのよぉ?」
がぶっ。
首筋に歯を立てられる。ツンとした痛みが走った。
「ったぁ!」
僕が懺悔するまでは、これを永遠に続ける気だ。
「チカは意地悪だわ。」
「え?」
意地悪なのはお姉さまじゃないか。
「いつも私の側から逃げて、私の知らないところで解決して、わかったような顔になってるんだもの。」
「お姉さま…。」
「チカは私のこと、信じてないの?」
お姉さまは苦しそうに訴える。
(信じてないわけじゃない…。)
でも、信じることができない。
いつも予防線を張って、傷つかないようにしてるだけ。
そう、ただ臆病なだけなんだ。
「僕にはそれが難しいんです…。」
お姉さまは視線を落とし、離れようとする。
「待って!」
咄嗟に袖の端を掴み、引き止めた。
「難しい、でも…。僕はお姉さまを信じたいと思っています。
僕もこんな気持ちになるとは思ってなかった。どうしたらいいかわからない時、諦めの気持ちより悔しいって気持ちのほうが大きくなるなんて…。」
初めてお姉さまに自分の気持ちをぶつけた。
今ぶつけなければ、僕が臆病なせいでお姉さまを傷つけてしまったことを後悔する。
無意識に涙がこぼれ落ちた。お姉さまは僕の目元を指先でそっと拭って、困ったような、可笑しそうな顔で笑う。
「チカって面倒くさい性格なのねぇ。」
「うっ…。」
(まさに仰る通りです。)
「それに、泣き虫。」
(やっぱり庭でも見られてたんだ…。)
「不思議だわ、そんなところも愛しいと思ってしまうなんて。」
お姉さまは僕の頭を撫でた。
その言葉を信じてみよう。
空っぽで面倒な僕を愛しいと言ってくれるなら、僕は空っぽななかを自分で満たさなければ。
もう、他の誰かに言われた偽りの自分を受け入れてもらおうとしてはいけない。
(いつか自分を否定せず、お姉さまとちゃんと向き合えるくらいに。)
「チカは特別かどうかなんて気にする必要ないのに。」
「え…?どうして。」
「この私があなたのこと気に入ってるからよ。」
またお得意の上から目線。
不思議と説得力があるからすんなりと心に入ってきて納得してしまう。
僕はつい笑ってしまった。
「ふふっ。」
「あら?なんで僕なんかを気に入るんですかーって言わないのねぇ?」
お姉さまはよくわかってる。
確かに僕ならそう言うだろう。
「セレナお姉さまの言うことなら、そうなんだって思って。」
「まぁ、生意気。」
お姉さまは頭をくしゃっと撫でた。
僕はお姉さまの袖を掴んだまま、顔を寄せた。
「チカ…なに?」
お姉さまは潤んだ瞳で僕を見つめる。瞳に映る自分を見て、勝手に体が動いていたことを知った。
(…ハッ!僕はなにを!?)
今、僕は自分からお姉さまに近づいて…。
何をしようとした?
頭が混乱して、部屋をとびたしてしまう。
ありえないくらいのうるさい鼓動。
「チカ、今何しようとしたの!?」
「ひゃぁ!!」
後ろから聞こえる声にもまた驚いてしまった。
僕は一目散に駆け出す。
「あっ!まったく、逃げ足が早いんだから!」
僕は走る。
(こんな…こんなつもりじゃなかったのに…!!)
高鳴る心臓。
耳元で聞こえる声さえ僕の心をかき乱す。
(もしかして僕は何かの病気?)
いやいや、死人が病気とかありえないだろう。
とにかく今僕はおかしくなってて、これはバグみたいなものってだけだ。
ずっと逃げたかった。
逃げた先は今よりはいくぶんかマシ、いや、全てまっさらな世界だと思っていた。
(それがこれだよ…。)
たどり着いたのはまっさらな世界なんかじゃない。
(僕をこんなにおかしくさせてしまう世界だ。)
僕が生きてるときからずっと逃げ続けているなんて茶番だ。
自分がわからないから逃げて、今も掴みかけた自分がバグって揺らいだことに混乱して逃げている。
(考えすぎて疲れちゃったな…。)
今日の鬼ごっこはここまでにしよう。
「お姉さま…いつもお姿を見せず僕に意地悪をするのですね。」
(僕がどこにいるのかわかってるくせに。
追いかけてきてくれて嬉しい僕も僕だけど。)
「セレナお姉さま、でしょ?」
やっぱりお姉さまの手が飛んできた。これでいくぶんか目が覚めた気がする。
…暴力は問題点だけど、叩けば直る方式で僕のバクも良くなるだろう。
「転生なんか、許さないから。」
お姉さまを見て、言い表せないような胸の高鳴りを感じた。
…ってそうじゃなくて。
「するって決めてませんし、そもそもまだできません!」
「じゃあさっきの行動の意味教えなさいよぉ。」
「…。」
僕にもわからない。
あれはただのバグなんだ。
「教えてくれるまで、転生はダメよぉ?」
やっぱり勝手なお姉さまだ。
自由にしていいと言ったり、転生は許さないと言ったり。
(ほんと、お姉さまは言うことコロコロ変わるんだから。)
一番意外なのは、僕はそんなお姉さまのことが嫌いじゃないということ。
「まずは課題をクリアしないことには何も始まりませんから。課題のこと考えないと。」
「話をそらしたわね?」
バレバレか。
僕は小指をみる。リボンはしっかりと巻き付けられたままだ。
「恋ってどういうことなんでしょう?」
「知らないわよぉ。アリアの考えることなんて。」
「アリア様はご存知なんでしょうか。」
「生徒会は何でも知ってるわ。だから課題に参加もしないのよ、腹立たしい。」
"恋"の意味を知って行動できたら課題はクリア。
恋なんて僕には無縁の存在だったからわかるわけがなく、難しすぎる問題だ。
「まぁそのうちわかるでしょお。ほら、行くわよ」
(楽観的だなぁ。)
差し出される手をとると、お姉さまの手は少しひんやりしていて僕の手が熱を帯びていることを教えてくれた。
そして、胸に小さな苦しさが沸く。
(まただ…。バグは直らなかったみたいだ。)
お姉さまといると、触れると、胸に違和感を持つ。
鼓動も早くなる。ドキドキする。
(…ん?)
僕は、ドキドキしてる?
昔、妹に貸してもらって一緒に読んだ少女漫画にを思い出した。主人公の子は確か、同級生の男の子に恋をしていた。
その子は男の子のこと考えるといつもドキドキしていた。
女の子+男の子=ドキドキ?
女の子*ドキドキ=恋?
なんてメチャクチャでおかしな式が僕の頭のなかをぐるぐると回る。
(ーー!)
前を歩くお姉さまを見る。
この変でどうしようもない気持ちに説明がつくとすれば…。
(まさか…これはバグじゃない。)
これは、恋かもしれない。
僕はお姉さまの体を押す。
そんな抵抗も虚しく、お姉さまの腕はしっかりと僕を捕らえたまま。
「…っ、早くどこまであの小娘にされたか言いなさいよぉ。」
「だからっ、何もされてませんってばっ…!」
そう言ってる間もずっと、お姉さまの柔らかな唇は音をたてて、瞼、頬、首にまで這う。唇だけは避けて。
部屋に戻ってからずっとこの調子だ。
いい加減立っているのもツラい。
「お姉さま…っ、どうしちゃったんですかっ。」
「チカは私のだって印をつけてるの。」
脳裏にローズの言葉が浮かぶ。
『証明してあげる。』
…証明ってなに!?
お姉さまが究極に嫉妬深いってこと?
他の子と遊ぶのが気に入らない子供みたいってこと!??
僕は背の高いお姉さまを支えきれずに尻もちをついてしまった。それでもお姉さまは引っ付いて離れない。
(まるでじゃれてくる大型犬だ…。)
「誰が犬なのよぉ?」
がぶっ。
首筋に歯を立てられる。ツンとした痛みが走った。
「ったぁ!」
僕が懺悔するまでは、これを永遠に続ける気だ。
「チカは意地悪だわ。」
「え?」
意地悪なのはお姉さまじゃないか。
「いつも私の側から逃げて、私の知らないところで解決して、わかったような顔になってるんだもの。」
「お姉さま…。」
「チカは私のこと、信じてないの?」
お姉さまは苦しそうに訴える。
(信じてないわけじゃない…。)
でも、信じることができない。
いつも予防線を張って、傷つかないようにしてるだけ。
そう、ただ臆病なだけなんだ。
「僕にはそれが難しいんです…。」
お姉さまは視線を落とし、離れようとする。
「待って!」
咄嗟に袖の端を掴み、引き止めた。
「難しい、でも…。僕はお姉さまを信じたいと思っています。
僕もこんな気持ちになるとは思ってなかった。どうしたらいいかわからない時、諦めの気持ちより悔しいって気持ちのほうが大きくなるなんて…。」
初めてお姉さまに自分の気持ちをぶつけた。
今ぶつけなければ、僕が臆病なせいでお姉さまを傷つけてしまったことを後悔する。
無意識に涙がこぼれ落ちた。お姉さまは僕の目元を指先でそっと拭って、困ったような、可笑しそうな顔で笑う。
「チカって面倒くさい性格なのねぇ。」
「うっ…。」
(まさに仰る通りです。)
「それに、泣き虫。」
(やっぱり庭でも見られてたんだ…。)
「不思議だわ、そんなところも愛しいと思ってしまうなんて。」
お姉さまは僕の頭を撫でた。
その言葉を信じてみよう。
空っぽで面倒な僕を愛しいと言ってくれるなら、僕は空っぽななかを自分で満たさなければ。
もう、他の誰かに言われた偽りの自分を受け入れてもらおうとしてはいけない。
(いつか自分を否定せず、お姉さまとちゃんと向き合えるくらいに。)
「チカは特別かどうかなんて気にする必要ないのに。」
「え…?どうして。」
「この私があなたのこと気に入ってるからよ。」
またお得意の上から目線。
不思議と説得力があるからすんなりと心に入ってきて納得してしまう。
僕はつい笑ってしまった。
「ふふっ。」
「あら?なんで僕なんかを気に入るんですかーって言わないのねぇ?」
お姉さまはよくわかってる。
確かに僕ならそう言うだろう。
「セレナお姉さまの言うことなら、そうなんだって思って。」
「まぁ、生意気。」
お姉さまは頭をくしゃっと撫でた。
僕はお姉さまの袖を掴んだまま、顔を寄せた。
「チカ…なに?」
お姉さまは潤んだ瞳で僕を見つめる。瞳に映る自分を見て、勝手に体が動いていたことを知った。
(…ハッ!僕はなにを!?)
今、僕は自分からお姉さまに近づいて…。
何をしようとした?
頭が混乱して、部屋をとびたしてしまう。
ありえないくらいのうるさい鼓動。
「チカ、今何しようとしたの!?」
「ひゃぁ!!」
後ろから聞こえる声にもまた驚いてしまった。
僕は一目散に駆け出す。
「あっ!まったく、逃げ足が早いんだから!」
僕は走る。
(こんな…こんなつもりじゃなかったのに…!!)
高鳴る心臓。
耳元で聞こえる声さえ僕の心をかき乱す。
(もしかして僕は何かの病気?)
いやいや、死人が病気とかありえないだろう。
とにかく今僕はおかしくなってて、これはバグみたいなものってだけだ。
ずっと逃げたかった。
逃げた先は今よりはいくぶんかマシ、いや、全てまっさらな世界だと思っていた。
(それがこれだよ…。)
たどり着いたのはまっさらな世界なんかじゃない。
(僕をこんなにおかしくさせてしまう世界だ。)
僕が生きてるときからずっと逃げ続けているなんて茶番だ。
自分がわからないから逃げて、今も掴みかけた自分がバグって揺らいだことに混乱して逃げている。
(考えすぎて疲れちゃったな…。)
今日の鬼ごっこはここまでにしよう。
「お姉さま…いつもお姿を見せず僕に意地悪をするのですね。」
(僕がどこにいるのかわかってるくせに。
追いかけてきてくれて嬉しい僕も僕だけど。)
「セレナお姉さま、でしょ?」
やっぱりお姉さまの手が飛んできた。これでいくぶんか目が覚めた気がする。
…暴力は問題点だけど、叩けば直る方式で僕のバクも良くなるだろう。
「転生なんか、許さないから。」
お姉さまを見て、言い表せないような胸の高鳴りを感じた。
…ってそうじゃなくて。
「するって決めてませんし、そもそもまだできません!」
「じゃあさっきの行動の意味教えなさいよぉ。」
「…。」
僕にもわからない。
あれはただのバグなんだ。
「教えてくれるまで、転生はダメよぉ?」
やっぱり勝手なお姉さまだ。
自由にしていいと言ったり、転生は許さないと言ったり。
(ほんと、お姉さまは言うことコロコロ変わるんだから。)
一番意外なのは、僕はそんなお姉さまのことが嫌いじゃないということ。
「まずは課題をクリアしないことには何も始まりませんから。課題のこと考えないと。」
「話をそらしたわね?」
バレバレか。
僕は小指をみる。リボンはしっかりと巻き付けられたままだ。
「恋ってどういうことなんでしょう?」
「知らないわよぉ。アリアの考えることなんて。」
「アリア様はご存知なんでしょうか。」
「生徒会は何でも知ってるわ。だから課題に参加もしないのよ、腹立たしい。」
"恋"の意味を知って行動できたら課題はクリア。
恋なんて僕には無縁の存在だったからわかるわけがなく、難しすぎる問題だ。
「まぁそのうちわかるでしょお。ほら、行くわよ」
(楽観的だなぁ。)
差し出される手をとると、お姉さまの手は少しひんやりしていて僕の手が熱を帯びていることを教えてくれた。
そして、胸に小さな苦しさが沸く。
(まただ…。バグは直らなかったみたいだ。)
お姉さまといると、触れると、胸に違和感を持つ。
鼓動も早くなる。ドキドキする。
(…ん?)
僕は、ドキドキしてる?
昔、妹に貸してもらって一緒に読んだ少女漫画にを思い出した。主人公の子は確か、同級生の男の子に恋をしていた。
その子は男の子のこと考えるといつもドキドキしていた。
女の子+男の子=ドキドキ?
女の子*ドキドキ=恋?
なんてメチャクチャでおかしな式が僕の頭のなかをぐるぐると回る。
(ーー!)
前を歩くお姉さまを見る。
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これは、恋かもしれない。
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