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プロローグ

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「ねぇ、生まれ変わるなんて許さないわよ?」

穏やかで艶やかで優しげで、裏に潜む黒さを完璧に隠しているようなその声はいつも僕の耳元について回る。

(こんな…こんなつもりじゃなかったのに……!!)

クルクルと乾風のように頭のなかに巻き上がりは過ぎてく思い。何故、死してなおも追い詰められなければならないのか。

息もあがらないはずなのに呼吸が苦しく思えてくる。


逃げ続けてもその先へ行けるのだろうか。

僕は、僕の、僕自身から逃げられるか?
そんな疑問が頭に沸いてくるのは日常茶飯事になってしまった。
ここにいるべきじゃないのに。こんなところに来るつもりではなかったのに。

(あーあ、自業自得なのかな。)

ずっと逃げたかった。
逃げた先は今よりはいくぶんかマシ、いや、全てまっさらな世界だと期待してた。

(それがこれだよ…)

たどり着いたのはまっさらな世界なんかじゃない。
その上、逃げた先でも逃げ続けてるなんて、僕はバカなのか。
なんだか、もう、一旦休憩させてほしい。
できれば、フレンチトーストとスクランブルエッグ、リンゴジュースもあるといい。



何回と繰り返されてるこの茶番のなか、いつしか僕は冷静さも持ち合わせるようになっていた。それかただ疲れて呆けただけか。

(もう…とりあえず座りたいなぁ…)

今日の鬼ごっこはここまでにしよう。
逃げきることができないならば手はひとつ。

彼女の癖はわかっている。姿は見せないが、絶対に痕跡を残しているのだ。
僕の耳に声が届くということは、逃げ回る僕の姿が見えているほどの距離にいるのだろう。

息を整える間もなく、すっと吐くように言った。


「お姉さま…いつもお姿を見せず僕に意地悪をするのですね。」

ポツリ。立ち止まり呟いたその瞬間。


バァァシーーーーーーーンッッッ!!!


滑らかな美しい手が、それはもう場に慣れすぎた力士のような重みを持って右頬に直撃した。

「っ……たぁ!!」

目の前がチカチカする。これはぶたれてぶっ飛んだからではない。


お姉さま、でしょ?」


目映い輝きを放ちながら、銀色の波風のようにウェーブのかかったロングヘアーをさらりとなびかせ、やっと彼女は姿を現した。


左利き。暴力性あり。上から目線。勝ち気な佇まい。
美貌と性格のコントラストが眩しすぎて目がおかしくなる。


やっぱりだったか。


彼女はにっこり微笑みを浮かべながら僕の頬に手をやり、耳元で優しく言った。

「転生なんか許さないから。」
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