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ブティック『ニコル』

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空には鉛色の雲が広がっている。

今にも雨が降りそうだ。

秋の夜長とはよく言ったもので、早朝起きると外は真っ暗だった。


この日はヴァレンティーナの職場、ブティック『ニコル』に行く日だった。

『ニコル』は王侯貴族御用達のお店。

勿論、親友のアナスタシアも来店する。


ちなみに、嫌な話、あの、エカテリーナも『ニコル』に買い物に来る。

決まって衣料品とピアスを何点かお買い上げしていく。

あの女にピアスは付き物。

ピアスが大好きなのだ。


ヴァレンティーナもピアスをしているが、エカテリーナほど大量にピアスを所持していない。


「おはようございます」

婚約破棄のちの出勤だ。

「おはよう。ヴァレンティーナ」


店長のマルガリータ・ハーバーだ。

ニコルは伯爵。神々の血は引いていない。


神々の血を引いているのは一部の侯爵以上だ。

神々の血は炎、水、土、風、雷、海、太陽、月、星、川、山、空の12の神々がいる。


マルガリータはジョージと婚約していたことを知っている。

婚約したことを話した時には「おめでとう」と言ってくれた。


やはり、隠し事は良くない。

それに、発覚するのも時間の問題。

ヴァレンティーナはジョージと婚約破棄したことを告白することにした。


「あの~~~」

「何かあったの、ヴァレンティーナ。それに、なんか今日ちょっと挙動不審よ」

やはり見透かされていた。

まさか態度に出てしまったとは。

ともなれば、なおさら隠してなどいられない。


「実はわたくし……」

「うんうん」

マルガリータは目線を合わせてきた。

「ジョージ様と婚約破棄しました」

「そうだったの。それは辛かったわね」

「はい。ジョージ様が他の女性に乗り換えてしまって」

「そうなのね。人ってわからないものね」

「兎に角わたくしは今日は仕事に全身全霊込めますわ」

「そうね。そうして頂戴」


と、その時。

依にも依ってエカテリーナの来店。

(婚約者を奪っておいて、よくぞノコノコと買い物にこれたものね)

エカテリーナは赤いドレスに釘付け。


「いらっしゃいませ」

それでも仕事だから、隠れるわけにもいかず……。

至って平静を装う。

でも、身体は震えている。

(完全に挙動不審)

エカテリーナはドレスを置き、ピアス売り場へと足を進めた。

そして、エメラルドのピアスを手に取った。

「これ、お願いします」

手は完全に震えていた。


「ありがとうございました」

精算を終え、エカテリーナは踵を返した。


「何か変だったわよ。どうしたの、話してちょうだい」

「はい。実はエカテリーナがジョージ様の婚約者なんです」

「そうだったの? 無理に接客することないわ。私に言って!」

「でも……」

「でもは無しよ。遠慮はいらないわ!」

「ありがとうございます。マルガリータ」
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