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どうする、サーラ

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まさかヴィクトル王子がクリストフ先生なわけ?

サーラは俄には信じがたかった。

しかし、金髪にエメラルドグリーンの瞳。鳥の嘴のような形をした高い鼻、顔のパーツが鼻に寄った小顔。

誰がどう見てもクリストフ先生としか思えない。

サーラは確信した。

ヴィクトル王子がクリストフ先生であるという事を。





陽が落ちる事の早くなった秋の夕刻。

サーラはいつも通りクリストフ先生とマンツーマンの補修をしていた。

まさか……まさか……。

サーラは言おうか言わまいか逡巡していた。

もし違ったら……。

それに、仮にヴィクトル王子と同一人物だとしても、訳ありでこの国に来ているのかもしれない。

その“訳あり”の事は聞いてはいけないタブーの言葉なのかもしれないからだ。

「何を考えているんだ、サーラ。何だか今日はいつもより落ち着きが無いね」

「え!? あー、はい、クリストフ先生、申し訳ございません」

サーラは現実に戻されたような気がした。

しかし、クリストフ先生の顔が昨日見た行方不明者の顔にあまりにも似ている。瓜二つ。

双子?

いや、一卵性双生児だとしても、ここまで似ている人物などそうそういない。

「サーラ!!」

「あ~、はい。すみません」

サーラはエレメント魔法の質は少しは上がってきた。

しかし、激しい炎や津波のような水魔法、雷霆(らいてい)、トルネードのような巨大な竜巻、強度な地震を起こすなど高度な魔法がまだ身に付いていなかった。

『サーラ、きみならできる』 

『不思議な釜を操れるのだから、エレメント魔法とて例外では無いよ』

クリストフ先生のその言葉に幾度となく励まされてきた。

サーラはその激励に答えようと、全身全霊を込めて魔法を繰り出した。

――負けない!! 魔法ができない事でアーチュウ殿下に婚約破棄されたのだから。

アーチュウに婚約破棄された事はトラウマの如くサーラの心に残るのだった。

――アーチュウ殿下。ブリジット。あんた達を必ずや見返してやるんだ!!

サーラは唾を飲み込んだ。

「さあ、サーラ。激しい炎を出すんだ!」

サーラはアーチュウやブリジットの顔を思い浮かべ、指先から炎を繰り出した。

炎は大きく燃え盛っていた。

「できるじゃないか! 今までのきみが嘘のようだ」

アーチュウやブリジットへの憎しみがいつしかスキルアップへと繋がっていたことを確信した。

――ありがとう。アーチュウ殿下。ブリジット。そして、私を散々転けにしてくれたブリジットの親友コレット。あなた達のお陰で私は魔法を上達させる事ができた。ありがとう。ありがとう。

何度もありがとうを連呼した。

幾度ありがとうを言っても言い足りない。

姉のクロエのようになりたい。

それが何よりもの成長の糧となった。

「じゃあ、次は津波を起こしてごらん」

サーラは再度憎き2名の顔を思い浮かべた。

――あの二人だけは絶対に許さない!

津波は発生した!!


高くて勢いのある波だった。

サーラの身長の実に10倍はあるだろう、巨大津波を起こした。

しかも、ここまで巨大な津波を起こした人物はサーラが知るまでにはいなかった。

まさか、このような津波を自分が発生させたなんて……。

「サーラ。凄い。凄いよ」

クリストフ先生は手を叩きながらハグをしてきた。

――いいの? 先生と生徒がハグなんかして。。。


暖かかった。

その温もりがサーラのやる気をさらに引き立てた。

「サーラ。きみの巨大津波はクラス1だ。魔法が苦手なきみには凄い潜在能力がある。それならできるさ。雷霆。地震、竜巻」

サーラはできると確信した。

高度な魔法を使うなど自分には土台無理な話だと思っていた。

才能など微塵も無いと思っていた。

しかし、違った……。

――できる! できる! クリストフ先生の期待に答えたい!

「さあ、サーラ。次はトルネードだ」

サーラはまた2人の顔を思い浮かべた。

――婚約破棄した事がいかに愚鈍な行為であったか、思い知らせてやる!

サーラは息を整え、指先に力を入れた。

すると、トルネードが巻き起こったではないか!!

「サーラ。今のはきっと物凄い破壊力だ。成長したよ、サーラ。僕も嬉しい!」

「ありがとうございます、クリストフ先生」

サーラは涙ぐんできた。

ここまで成長できたのは紛れもなくクリストフ先生のお陰だからだ。

エレメント魔法がまるでダメ。

その酷さはクラス中の笑いものになるレベルであった。

しかし、それが今は高度な魔法を操っているのだ。

「さあ、サーラ。次は雷霆だ!!」

サーラはできると確信した。

そうしたら、雷霆を起こせたのだ!!

「サーラ。凄い、凄い。この勢いで地震を起こしてごらん」

サーラはやはり、二人の顔を思い浮かべた。

――あなたたちのお陰で私は前進した。ありがとうって言わせて。

サーラは指に力を込めた。

揺れた。

しかもかなりデカい。

「サーラ。できるじゃないか! きみは魔法を使いこなせるようになったんだよ」

サーラはようやくクリストフ先生に答える事ができた。

そして、ふと封印していた言葉を口にしてしまった。

「先生。ヌヴェール王国のヴィクトル王子を知っていますか?」

「誰かね? その人は」

え!? 知らない!?
やはり別人!?

「先生に顔がよく似ているんです」

「さあ、別人じゃないのかな」

「そう……ですよね」

「でも実はね、君だから言える。僕は20歳以前の記憶が無いんだ」
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