上 下
10 / 22

不思議な釜

しおりを挟む
「魔法の『釜』というのがあります。釜を上手に扱えば、欲しいものが手に入ります」

魔法釜の担当のスーザン先生。低いアルトの声でゆっくりと話す。

「魔法の釜だってよ。サーラが扱うと何が出てくるかしらね」

と、ブリジットが聞こえよがしに言ってきた。

「サーラ。気にしちゃいけないわ」

カミーユがフォローする。

「大丈夫よ。カミーユ」

「ブリジットなんか相手にしていたら負けだね」

と、アドン。

「では、手始めに中から傘を取り出してみましょう。これはこうして『アザーラ・ドリファイン』」

すると、紫色の傘が出てきた。

「色は欲しい色が出てきますからね。では、試してみて下さい」 

アドンが呪文を唱えた。

「わ! 黒い傘が出てきたぞ」

「アドン。あなたは流石ね。次はブリジット。あなたがやってみて」

ブリジットは呪文を唱えた。

すると、桃色の傘が出てきた。

「成功ね。次はサーラ。あなたがやってみて」

サーラは呪文を唱えた。

緑色の傘が出てきた。

「うん。成功ね」

確かに成功だ。

エレメント魔法は苦手だが、この魔法は難なくこなせるらしい。

「次はコレット。あなたがやってみて」

コレットは魔法を唱えた。

すると、赤い傘が出てきた。

「恋する乙女のハートは赤い。そうよ。燃えるような色ですもの♡」

コレットはいつも通り気取っている。

「では、ハロック。やってみて!」

平民でドジなハロックが呪文を唱えた!

すると……。




灰色の傘が現れた。

ハロックは傘を広げた。

傘は穴だらけだった。

それを見るなり、ブリジットは笑いだした。

「ハロック。笑わせないでよ。あなた穴だらけの傘で濡れて帰るつもり?」

「あははは。流石は間抜けのハロック!それでブリジットに言い寄るなんて身の程知らずだわね」

コレットも大笑いをしている。

実はハロックはブリジットの事が好きだった。

ブリジットがアドンと一緒になったのを聞いてショックを受け、寝たきりになった事があった。


パンパン!!

スーザンは手を打った。

静まり返った。

しかし、またコレットが笑いだした。

「コレット! お静かに!」

ハロックは再び呪文を唱えた。

すると、釜から火が出て、釜は燃えてしまった。

「くっそ~!」

ハロックは大声を上げる。

「静かに!」

「マッハロー・ヴァッキャロー」

スーザンが呪文を唱えると、釜は元に戻った。


「ハロック! 釜を燃やすなんてサーラ並みね」

サーラは一瞬心臓が高鳴った。


「うるせぇ、コレット! 俺はサーラと違ってエレメント魔法は得意だ!」

「あははは。もしかしてハロックとサーラってお似合いじゃないの?」

コレットは最高の悪役を買って出た。

緑色の長い髪を手ぐしでとかしている。


「サーラとお似合いだと!? あんなヤツ、お断りだね」

サーラはまたしてもドキッとした。

ハロックに圏外にされてしまったが、然程ショックではなかった。

むしろ、アーチュウから婚約破棄をされた方がショックだった。

「何だよ。アドンと婚約破棄したくせに!」

「うるさいわね。あなたに関係無いでしょ!?」

ブリジットが机を叩きながら立ち上がった。

「確かに関係無いけど……。でも、俺は……」

「ブリジットの事が好きだった……ってワケね。でも、あなたなんか見向きもしないわね。今はもっと高貴な方と婚約しているから」

「知ってるよ。もう日取りも決まったんだろ?」

平民のハロックでさえも知っていた。

こうして、魔法釜の授業も喧嘩で終わるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです

じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」 アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。 金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。 私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。

縁の鎖

T T
恋愛
姉と妹 切れる事のない鎖 縁と言うには悲しく残酷な、姉妹の物語 公爵家の敷地内に佇む小さな離れの屋敷で母と私は捨て置かれるように、公爵家の母屋には義妹と義母が優雅に暮らす。 正妻の母は寂しそうに毎夜、父の肖像画を見つめ 「私の罪は私まで。」 と私が眠りに着くと語りかける。 妾の義母も義妹も気にする事なく暮らしていたが、母の死で一変。 父は義母に心酔し、義母は義妹を溺愛し、義妹は私の婚約者を懸想している家に私の居場所など無い。 全てを奪われる。 宝石もドレスもお人形も婚約者も地位も母の命も、何もかも・・・。 全てをあげるから、私の心だけは奪わないで!!

悪役令嬢が行方不明!?

mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。 ※初めての悪役令嬢物です。

馬鹿王子にはもう我慢できません! 婚約破棄される前にこちらから婚約破棄を突きつけます

白桃
恋愛
子爵令嬢のメアリーの元に届けられた婚約者の第三王子ポールからの手紙。 そこには毎回毎回勝手に遊び回って自分一人が楽しんでいる報告と、メアリーを馬鹿にするような言葉が書きつられていた。 最初こそ我慢していた聖女のように優しいと誰もが口にする令嬢メアリーだったが、その堪忍袋の緒が遂に切れ、彼女は叫ぶのだった。 『あの馬鹿王子にこちらから婚約破棄を突きつけてさしあげますわ!!!』

殿下は、幼馴染で許嫁の没落令嬢と婚約破棄したいようです。

和泉鷹央
恋愛
 ナーブリー王国の第三王位継承者である王子ラスティンは、幼馴染で親同士が決めた許嫁である、男爵令嬢フェイとの婚約を破棄したくて仕方がなかった。  フェイは王国が建国するより前からの家柄、たいして王家はたかだか四百年程度の家柄。  国王と臣下という立場の違いはあるけど、フェイのグラブル男爵家は王国内では名家として知られていたのだ。   ……例え、先祖が事業に失敗してしまい、元部下の子爵家の農家を改築した一軒家に住んでいるとしてもだ。  こんな見栄えも体裁も悪いフェイを王子ラスティンはなんとかして縁を切ろうと画策する。  理由は「貧乏くさいからっ!」  そんなある日、フェイは国王陛下のお招きにより、別件で王宮へと上がることになる。  たまたま見かけたラスティンを追いかけて彼の後を探すと、王子は別の淑女と甘いキスを交わしていて……。  他の投稿サイトでも掲載しています。

公爵子息に気に入られて貴族令嬢になったけど姑の嫌がらせで婚約破棄されました。傷心の私を癒してくれるのは幼馴染だけです

エルトリア
恋愛
「アルフレッド・リヒテンブルグと、リーリエ・バンクシーとの婚約は、只今をもって破棄致します」 塗装看板屋バンクシー・ペイントサービスを営むリーリエは、人命救助をきっかけに出会った公爵子息アルフレッドから求婚される。 平民と貴族という身分差に戸惑いながらも、アルフレッドに惹かれていくリーリエ。 だが、それを快く思わない公爵夫人は、リーリエに対して冷酷な態度を取る。さらには、許嫁を名乗る娘が現れて――。 お披露目を兼ねた舞踏会で、婚約破棄を言い渡されたリーリエが、失意から再び立ち上がる物語。 著者:藤本透 原案:エルトリア

処理中です...