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婚約破棄
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名残雪の降る王宮。隙間風が肌に刺さる。吐く息が白く濁る。手が冷たく悴んでいる。
サーラはブルボン王国の王弟、アーチュウに呼ばれた。
王宮の中も非常に寒い。
「アーチュウ様の執務室に来て下さい」
アーチュウの側近、フィンがアーチュウの執務室へと案内してくれた。
一体何の用なのだろう?
サーラは怪訝な気持ちで王宮を歩く。
「ヨシュア、アーチュウが突如私を呼び出すてはどういう事なのでしょうか?」
ヨシュアは首を左右に振った。
「わかりませんが、急ぎの用だそうです」
急用?
一体何のため?
サーラはアーチュウに贈られた婚約指輪に手を触れた。
ついに結婚式の日取りが決まったのか?
半分ウキウキとした気分で歩いている。
カツカツとハイヒールの音が響く。
このハイヒールもアーチュウからの貰い物だ。
そして、執務室の前に着いた。
執務室の中からアーチュウの声と女性の声がする。
私は嫌な予感を感じました。
ヨシュアがドアをノックした。
「どうぞ」
中から歯切れのよいバリトンの声がした。
は扉を開けた。
「さあ、お入り下さい」
私はアーチュウの執務室へと足を運んだ。
その時!
私は恐ろしいものを見てしまいました。
夢を見ているの?
悪夢……。
夢なら冷めて。
アーチュウの隣には学園のクラスメイトのブリジットがいた。
ふわふわの緑髪に牛乳瓶の底のような分厚い眼鏡。その奥にはうぐいす色の瞳。すぐにブリジットだとわかった。
まさか……。
私は寒気がしてきました。
「では、私はこれで」
ヨシュアが一礼し、部屋を去った。
扉は軋むような音を立てて静かに締まった。
「見てわかる通り、俺はブリジットと婚約した。サーラ・エマ・ギーズ。きみとの婚約を破棄させてもらう! きみは頭脳明晰で化学や物理学においては優秀だ。しかし、魔法はてんでダメみたいだな。俺は魔法ができないのは嫌なんだ」
ちょっと待って!
ブリジットには既に婚約者がいたはず?
ブリジットはレニエ公爵家のご令息アドンと婚約していた。
「聞きたいんですが」
「何だ? 負け犬の遠吠えか?」
威圧的な態度でアーチュウは言ってきた。
「アーチュウ様。ブリジットには既に婚約者がいたはずです」
「ああそれね。あんな優男、婚約破棄してやったわ。そして私はアーチュウに見初められたの」
ブリジットはアドンと婚約解消したの?
俄には信じられなかった。
ブリジットはアドンと婚約した事を既に学園や国中の王侯貴族に報告したはずなのに。
「アドンは婚約解消を受け入れたの? まさか一方的に婚約解消したわけじゃないよね?」
「うふふ。アドンは今でもよりを戻したいとは言っているわ。でも、私は断固として拒否しているの」
ブリジットは勝ち誇ったような顔つきをしている。
「ブリジット。私はあなたを信じていたわ。あんなにアドンと仲良くしていたのに」
ある秋の晴れた日の事。
アドンとブリジットの二人は仲良く手を繋いで紅葉狩りを楽しんでいた。
しかも、私は二人がキスをしているところまで目撃してしまったのだ。
しかも、学園の中でも二人は仲睦まじく、誰もが二人を祝福していたのだ。
「アドンとの恋は偽りだったの?」
「違うわ。本気だったわ。でも、アドンは最近太ってきたから嫌になったのよ」
体型だけで判断するなんて、愚の骨頂。
「それだけでアドンと婚約を破棄したのね?」
「ふん。もうそんな話、ど~でもいいじゃない。あなたに関係無いでしょ?」
いや、関係ある。
アドンと婚約を解消させたから、アーチュウの元へ行った。
そして私がアーチュウから婚約破棄された。
間接的に関わりがあるのです。
「なんだか俺が不貞した、みたいな言い回しだな」
隣に座っていたアーチュウが口を開いた。
アーチュウは椅子にふんぞり返り、足を組んでいた。
「だってそうじゃないですか! ブリジットには婚約者がいたのだから」
「ブリジットは既にアドンと破局していた。だから、合法なんだよ」
アーチュウはテーブルを叩いてきた。
「アドンに対してはどう思うんですか? アーチュウ様」
「アドン。あんな奴の事はどうでもいい。太るのは自己管理がなっていないんだ。だから、自業自得なんだよ。出来損ないの莫迦なんだからな」
そんな……。そこまで罵倒するのでしょうか?
「アーチュウ様。それでもレニエ家は名家でもあり、その次期当主になるのがアドンなんですよ。そんな言い方無いですよ」
私は怒りが込み上げてきました。
「レニエ家ももう終わりだな。そもそもレニエ家当主自体が肥満体だからな」
アーチュウ様は元は姉の許嫁でした。
しかし、姉は13歳で夭逝。妹の私がアーチュウ様と婚約が決まっていたのです。
「アーチュウ様は元々は私の姉の婚約者でしたよね? それを忘れたのですか?」
「さあね。そんな話もあったね」
「国王陛下には私との婚約破棄を報告したのですか?」
アーチュウはほくそ笑んだ。
「兄上は知ってるよ、勿論。きみが魔法のできないクズだという事もね」
クズ……。
私は落胆した。
「とにかくきみとの婚約は破棄させてもらったんだ。もういいだろ! さあ、部屋から出て行ってもらおう。ついでに実家に戻ってもらうからな」
私は気持ちが落ち着かないまま、踵を返した。
まさか……だった。
アーチュウ様が婚約者がいたはずのブリジットと婚約していたなんて……。
外では雪がしんしんと降り積もっていた。
寒い……。
私は両手に息を吐き、擦り合わせた。
今年の冬開けは長そうだ。
サーラはブルボン王国の王弟、アーチュウに呼ばれた。
王宮の中も非常に寒い。
「アーチュウ様の執務室に来て下さい」
アーチュウの側近、フィンがアーチュウの執務室へと案内してくれた。
一体何の用なのだろう?
サーラは怪訝な気持ちで王宮を歩く。
「ヨシュア、アーチュウが突如私を呼び出すてはどういう事なのでしょうか?」
ヨシュアは首を左右に振った。
「わかりませんが、急ぎの用だそうです」
急用?
一体何のため?
サーラはアーチュウに贈られた婚約指輪に手を触れた。
ついに結婚式の日取りが決まったのか?
半分ウキウキとした気分で歩いている。
カツカツとハイヒールの音が響く。
このハイヒールもアーチュウからの貰い物だ。
そして、執務室の前に着いた。
執務室の中からアーチュウの声と女性の声がする。
私は嫌な予感を感じました。
ヨシュアがドアをノックした。
「どうぞ」
中から歯切れのよいバリトンの声がした。
は扉を開けた。
「さあ、お入り下さい」
私はアーチュウの執務室へと足を運んだ。
その時!
私は恐ろしいものを見てしまいました。
夢を見ているの?
悪夢……。
夢なら冷めて。
アーチュウの隣には学園のクラスメイトのブリジットがいた。
ふわふわの緑髪に牛乳瓶の底のような分厚い眼鏡。その奥にはうぐいす色の瞳。すぐにブリジットだとわかった。
まさか……。
私は寒気がしてきました。
「では、私はこれで」
ヨシュアが一礼し、部屋を去った。
扉は軋むような音を立てて静かに締まった。
「見てわかる通り、俺はブリジットと婚約した。サーラ・エマ・ギーズ。きみとの婚約を破棄させてもらう! きみは頭脳明晰で化学や物理学においては優秀だ。しかし、魔法はてんでダメみたいだな。俺は魔法ができないのは嫌なんだ」
ちょっと待って!
ブリジットには既に婚約者がいたはず?
ブリジットはレニエ公爵家のご令息アドンと婚約していた。
「聞きたいんですが」
「何だ? 負け犬の遠吠えか?」
威圧的な態度でアーチュウは言ってきた。
「アーチュウ様。ブリジットには既に婚約者がいたはずです」
「ああそれね。あんな優男、婚約破棄してやったわ。そして私はアーチュウに見初められたの」
ブリジットはアドンと婚約解消したの?
俄には信じられなかった。
ブリジットはアドンと婚約した事を既に学園や国中の王侯貴族に報告したはずなのに。
「アドンは婚約解消を受け入れたの? まさか一方的に婚約解消したわけじゃないよね?」
「うふふ。アドンは今でもよりを戻したいとは言っているわ。でも、私は断固として拒否しているの」
ブリジットは勝ち誇ったような顔つきをしている。
「ブリジット。私はあなたを信じていたわ。あんなにアドンと仲良くしていたのに」
ある秋の晴れた日の事。
アドンとブリジットの二人は仲良く手を繋いで紅葉狩りを楽しんでいた。
しかも、私は二人がキスをしているところまで目撃してしまったのだ。
しかも、学園の中でも二人は仲睦まじく、誰もが二人を祝福していたのだ。
「アドンとの恋は偽りだったの?」
「違うわ。本気だったわ。でも、アドンは最近太ってきたから嫌になったのよ」
体型だけで判断するなんて、愚の骨頂。
「それだけでアドンと婚約を破棄したのね?」
「ふん。もうそんな話、ど~でもいいじゃない。あなたに関係無いでしょ?」
いや、関係ある。
アドンと婚約を解消させたから、アーチュウの元へ行った。
そして私がアーチュウから婚約破棄された。
間接的に関わりがあるのです。
「なんだか俺が不貞した、みたいな言い回しだな」
隣に座っていたアーチュウが口を開いた。
アーチュウは椅子にふんぞり返り、足を組んでいた。
「だってそうじゃないですか! ブリジットには婚約者がいたのだから」
「ブリジットは既にアドンと破局していた。だから、合法なんだよ」
アーチュウはテーブルを叩いてきた。
「アドンに対してはどう思うんですか? アーチュウ様」
「アドン。あんな奴の事はどうでもいい。太るのは自己管理がなっていないんだ。だから、自業自得なんだよ。出来損ないの莫迦なんだからな」
そんな……。そこまで罵倒するのでしょうか?
「アーチュウ様。それでもレニエ家は名家でもあり、その次期当主になるのがアドンなんですよ。そんな言い方無いですよ」
私は怒りが込み上げてきました。
「レニエ家ももう終わりだな。そもそもレニエ家当主自体が肥満体だからな」
アーチュウ様は元は姉の許嫁でした。
しかし、姉は13歳で夭逝。妹の私がアーチュウ様と婚約が決まっていたのです。
「アーチュウ様は元々は私の姉の婚約者でしたよね? それを忘れたのですか?」
「さあね。そんな話もあったね」
「国王陛下には私との婚約破棄を報告したのですか?」
アーチュウはほくそ笑んだ。
「兄上は知ってるよ、勿論。きみが魔法のできないクズだという事もね」
クズ……。
私は落胆した。
「とにかくきみとの婚約は破棄させてもらったんだ。もういいだろ! さあ、部屋から出て行ってもらおう。ついでに実家に戻ってもらうからな」
私は気持ちが落ち着かないまま、踵を返した。
まさか……だった。
アーチュウ様が婚約者がいたはずのブリジットと婚約していたなんて……。
外では雪がしんしんと降り積もっていた。
寒い……。
私は両手に息を吐き、擦り合わせた。
今年の冬開けは長そうだ。
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