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2 婚約指輪を売る

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一夜が明け、カトリーヌは実家アルファン邸へと戻った。

私は早速アルフレッドからもらった婚約指輪を売りに行きました。

ま、大した値段にはならないでしょうが、これでお終いにしましょう。


私は隣町ヨハンナに行くことにしました。

ヨハンナは商人の街。

キャラバン隊が沢山来ているのだ。

ヨハンナの商人なら、多少高く買い取ってくれそうだからです。


初春の風はまだまだ冷たい。

私は少し多めに服を着込んできました。


街中は人々が行き交っている。

粋の良い商人の声。

食べ物の匂いもする。

賑やかな光景だ。





と、そこへ。

背後から声がしました。

「カトリーヌ! カトリーヌ!」

誰だろう。私はふと後ろを振り返りました。

すると、王立学園時代の親友カリーナが立っていた。

カリーナは平民で絵を描いて生計を立てている。

王立学園は突出した才能があれば平民でも入れた。

カリーナの絵の才能は郡を抜いていて、他の王侯貴族の子息や令嬢を圧倒させていた。

「カリーナ!」

栗毛色の髪を二つに分けてみつあみをしていて、赤とピンクのチェックのヘアバンドをしている。


「カトリーヌ。どうしてこんな街中にいるの?」

訝しげな顔をしてこちらを見てきた。

「それはね……ヒ・ミ・ツ」

カリーナに心配かけさせたくはない。

私は今回の件は黙っておくことにしておきました。

親友だからこそ、本当の事を話したくはない。

「でも、なんか寂しそうな顔をしているよ?」

「!!」

流石は親友だ。表情が読まれていました。

「え!? 気のせいよ。あは。あはははは……」

私はハイトーンボイスで笑ってみせました。

「あは…………」

カリーナも笑顔になった。


「あー。そうそう。例の彼……えっと……誰だったっけな……えーっと、えーと」

カリーナは額に手を当て、踵を上げ下げしながら思い出している。

「あ。そう。アルフレッド! そうそう、アルフレッドよ。ねぇ、アルフレッドとはまだ今も仲良しなの? 結婚は?」

「!」

ドキッとした。

もはや、ここまで来たら嘘は通りません。

素直に白状する事にしました。

「それが……」

私は思わず足元を見てしまいました。


「そうだったんだ」

カリーナは察してくれたようです。

しかし、従姉妹に取られたとはとても言い難い。

「あんなに仲良くしていたのにね」

カリーナは残念そうな顔を見せた。

「人生わからないものよ」

私はため息をつきました。

「カトリーヌ。今日は何しにここに来たの?」

まさか婚約指輪を売りに来た……と言うわけにはいかない。

「ちょっと散歩」

「散歩!?」

やはり挙動不審に思われています。

それもそうでしょう。

王侯貴族がヨハンナを徘徊しているなど余り無い話だからです。


散歩と言っても、アルファン邸からはかなり離れています。

私は運動がてら歩いてヨハンナに来たわけですが。


「何か買いに来たの?」

「ほら。失恋しちゃったからさ、パーっと何か好きなもの買っちゃおうかなと思って」

私は笑顔を努めました。

「そうだったのね」

カリーナはやっと了解してくれたようです。

しかし、この婚約指輪は何としてでも売り払いたい。

アルフレッドとの思い出はこれを手放せば消えたも同然。



「そうそう、カリーナ」

「うん?」

「何か食べたいと思わない?」

私はお腹が空いていました。

今朝から何も食べずに家を飛び出して来たからです。


「うん。何か食べたいわ」


私は先程からシチューが気になっていました。

シチューの良い匂いが漂ってきたからです。

「シチュー、食べない?」

私はカリーナを誘った。

「いいわね。シチュー」

カリーナはそう言うと自分の財布をバッグから取り出した。


私はカリーナの財布を掴み、

「私が驕るから、財布はしまって」

と言いました。

「でも……」

カリーナはしぶりました。

「遠慮しなくて良いから、ね」

と私がそう言うと、カリーナは

「ありがとう、カトリーヌ」

と言って財布をバッグにしまいました。


「2杯お願いします」

「はい。6ソトだよ」

私は6ソト支払った。


私はシチューに口をつけました。

美味しい。

ましてや寒い今は暖かい食べ物がありがたい。

身体がポカポカしてきた。

「美味しいね」

「うん、美味しいね。身体が暖まるわ」

カリーナは喜んでいる。

「喜んでもらえて嬉しいよ」

「いえいえ。こちらこそおごってもらえてありがとう」

カリーナの満面の笑顔に思わず私も笑顔になりました。


「ところで、カリーナは何しに?」

「私? 私は買い物よ。親から頼まれ事されていて」

「頼まれ事?」

「そう。今晩のおかずはローストチキンにするの。それで鶏肉買いに来たの」

カリーナは平民の生活そのものだなぁ、と感じた。

貴族の私は親から頼まれ事はされても、買い物の頼まれ事はされません。

買い物は使用人たちの仕事だから。


「じゃあ、鶏肉買いに行きましょう」

二人は肉屋を探した。


「あ。おじさん。この鶏肉7つお願いします」

「はーい。20ソトだよ」

カリーナは10ソト札を2枚出した。

「毎度あり!」

カリーナは祖父母と暮らしているため、大家族なのだ。




「ねぇ、これからどうするの?」

私はカリーナに訊ねました。

カリーナがいる前で婚約指輪を売るわけにはいかないから。

「私は買うもの買ったしこれからお家へ帰るわ。カトリーヌはどうするの?」

「私はまだ散歩してるわ」

「そっか」

「じゃあ、もう帰るね」

と言ってカリーナと別れた。


これでアルフレッドからもらった婚約指輪を売れる。

私は思わずほくそ笑んだ。

指輪をポケットから取り出した。

そして、その指輪を目の前にして

「あんたなんかもう他人なのよ、この裏切り者め!」

と言ってみせました。


そうよ。よりによって従姉妹のルイーズと一緒になるのだから。


しかし、そんなルイーズも幼少時代はよく面倒を見てくれた。


やさしいお姉ちゃん的存在だった。

そのルイーズがなぜ?

天変地異が起きたとしてもあり得ない話だった。

しかし、それが現実になってしまった。



私は商店街を彷徨った。

何としてでもこの婚約指輪を売りたい。


すると真ん前に『宝石買い取ります』という看板があった。


私は何の躊躇いもなく、お店を訪ねました。

「すみません」

すると、サングラスをかけた体格のいい男がこちらを向いた。

「お嬢ちゃん、どうしたんだね?」

「これ、売りたいんですけど」


そう言うと、買取商の男は指輪を手に取った。

そして、品定めをした。

「嬢ちゃん、この宝石、かなりレアな宝石だぞ。どこで手に入れたんだい?」

相手は商人。私は本当の事を言いました。

「婚約指輪です」

「婚約指輪かぁ。失恋したんだね。可哀想に。でも、嬢ちゃん可愛いし若いから、まだまだチャンスはあるよ」

男はそう言うと

「よし。10,000ソトでどうだ?」

10,000ソト!?

信じられない高値がついた。


「は、はい。10,000ソトでお願いします」

そう言うと男は100ソト紙幣を100枚くれた。


思わぬ高値にカトリーヌは驚いている。
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