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俺様の運命 ※クルト視点 ★

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流石の晴れ男の俺様であっても、旅立ちの日は雨だった。

冷たい雨が降っている。

寒い。震える。

歯がガタガタいっているのがわかる。


「さあ、クルト様、パラダに向かいますよ」

「コバルド。いい、もう私のことはクルトで。もう身分剥奪されたからな」

俺様は全財産没収された。

宝飾品から何からな。

そうさ。俺様はお洒落だから宝石大好き。

それらの俺様が集めた宝石は全て没収だ。

自慢のフープピアスも取り上げられた。

フープピアスは宝石ではないけれど、黄金でできていたからな。


その後ヴィヴィアンはソーマ邸へ帰った。

俺様が追い出した。

もうヴィヴィアンは俺様の妻でも何でもない。

赤の他人だ!!

もう、ヴィヴィアンがどうなろうと知った事ではない。

何? ノアは俺様の血の分けた子供だろって?

育児放棄するのかって?


そんなものは俺様の知った事ではない。

ヴィヴィアンが勝手に誘ってきたんだ。

俺様には何の責任も無い。


ヴィヴィアン。あいつはどこかの男と一緒になってソーマ家を継承するんだよな。

その方が俺様にもヴィヴィアンにも良い。

ウィンウィンだ。


で、ノアはソーマ家の継承者になれるかはわからない。

けど、他の男との間に男子が授からなかった場合の保険にはなるな。


俺様はモニカを愛した。

親父もほとぼりが冷めればパラダまで俺様を探しに来るだろう。

しばらくの間の罰ゲームだな。


結婚式は挙げられなかったけれど、もう、俺様とモニカは夫婦みたいなものだ。

「すまない、モニカ。こんな事になってしまって」

「良いですわ。私はどこまでもクルト様について行きますわ」

「ありがとう、モニカ」

俺様はモニカの頭を愛撫した。


モニカの髪はサラサラだ。

モニカは髪を下ろしている。

それに引きかえ、ヴィヴィアンは髪をお下げにしていた。

やっぱり髪は触りたくなるものだな。

「モニカ。結婚指輪もなくてごめんな」

「結婚指輪なんか無くても私達は共に愛し合った夫婦ですわ。気になさらないで下さい」

本当はモニカにドレスを着こなして欲しかった。

そして、宝飾品も身に着けて欲しかった。

モニカなら、次期公爵夫人として申し分の無い存在だ。

モニカは平民ではあるが、品がある。


そうだな。なまじ貴族令嬢の身分でいるよりも、平民のモニカには勝てまい。


「モニカ。やっぱり俺様にはモニカしかいない」

「ありがとうございますわ、クルト様」

「モニカ。もう俺様の事はクルトでいい。互いに平民なんたまからよ」

「はい、クルト」


「モニカ。もう葉巻を買えないけど、良いか?」

「ええ、我慢しますわ」

葉巻はなかなかやめられない。

まして、モニカのように、1日に15本以上吸うヘビースモーカーには禁煙などそう簡単にはいかない。

全財産没収されたら、葉巻など買えない。

葉巻は高価だ。

モニカの家は葉巻農家だからこそ、葉巻が吸えたのだ。



俺様ら二人は囚人の服を着せられ、馬車に乗せられた。

「クルト様。もうそろそろパラダに着きますよ」

パラダ。俺様は馬車の窓から外を見た。

汚い街だ。

そこいらにゴミが散乱している。

そして、今にも破れそうな薄汚れた服を着ている人が沢山。

いかにも貧民の街だ。


「パラダに着きました」

俺様は馬車から降りた。

続いてモニカも馬車から降りた。


「薄ぎたねぇ街だ。こんなところで過ごせってか。貴族には似つかわしくない街だな」

「クルト、あなたと一緒なら、パラダの街でもしあわせに暮らしていけると思いますわ」

「ああ……モニカ」

「ではクルト様。私はこれにて失礼させていただきます」

コバルドは馬車を走らせ、この場を去った。


「やっべーところに来ちまったな、モニカ」

「はい」

「今晩はどうする? メシの確保もされていないぞ」

「って……。やっぱりこんな筈ではなかったわ。こんなひどい街にいるなら、私は農村の方が良いですわ」

モニカは馬車の方まで駆けて行った。

「ま……待て! モニカ」

「嫌ですわ! 葉巻も吸えないの辛いですわ」


「これはこれはモニカ様。どうなさいました?」

「コバルド様。私は農村に戻りたいです。こんな酷い街だなんて思いませんでしたわ。葉巻も吸えないし、明日の食事も確保されていない」

「ま、待てよ、モニカ」

「離婚ですわ!! この結婚は無かった事にしたいですわ」

「モニカ、冗談だろ?」 

「冗談なわけないですわ。しかも、今夜は野宿? こんな街にいたら、明日の命もありませんわ」


「モニカ様。わかりました。モニカ様の実家までお送りしましょう」

「どういう事だ、コバルド」

「はい。ご説明致しましょう。御主人様はモニカ様の気持ちが変わる事を予想していました。気持ちが変わったら、実家まで送り届けるように言われました」

モニカ!!

「モニカ、俺様を裏切るのか? もう俺様の事が嫌いになったのか?」

「ごめんなさい、クルト様」

「ま、待て!!」

俺様が止めようとしても、モニカは聞かない。

モニカは俺様と目を合わせる事も無く、馬車に乗り込んだ。


「モニカー!!」

馬車は発車した。


くそっ!!

俺様は道端の石ころを蹴飛ばした。


俺様は一人になってしまった。

モニカの気持ちが一瞬にして変わるだなんて。


俺様はパラダの街を歩く。

とにかく、メシにありつかないとな。


と、そこへ。

「泥棒!!」

一人の大柄な男が店屋から出てきた。

男は猛スピードで俺様の前を通り過ぎた。


そうか。

この街は盗みの街だったんだよな。


俺様はメシにありつくために、盗みを働く事にした。

そうさ。弱い者から搾取するんだ。

それがこの栄えていない街の暗黙の掟なんだろうな。



と、その時。

一軒家からおいしそうな匂いがした。

俺様は匂いに誘われるがままに一軒家に入った。

俺様は誰もいない家に忍び込む事に成功した。


ラッキーだった。

俺様は食べ物を奪って行った。

しかし!!

「泥棒だ!」

家の外には警察が張っていた。

俺様は呆気なく警察に捕まってしまった。

畜生!

しくじったか。


「御用ですな、お坊ちゃん」

クソっ!!


「この家は盗みが多いから警戒していたんだよ」

そうか。囮だったのか。

俺様は捕まり、牢獄に入れられてしまった。


筆頭公爵令息から、犯罪者に成り下がった。

邸にいるどころか、牢獄だ。

俺様はとことん落ちた。

女には逃げられ、牢獄に入る。

やるせない思いでいっぱいだ。
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