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アレクシス王子殿下と共に

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「しかし、なぜわたくしを王宮に招いて下さったんですの?」

わたくしは不思議に思いました。

初対面のわたくしが、ならず者に絡まれているところを助けて下さったついでに。


「それはきみが余りにも無防備過ぎたからだよ。貴族令嬢なんだよね?」

「はい、そうですが」

「ラファエル王国のカーネギー家。聞いた事があります。カーネギー伯爵は手術が上手。実はラファエル王国よりカーネギー伯爵を招いて手術を行った事があります」

「え!? 本当ですか?」

「腕の良い医師として、我が国では有名ですよ」

「そう……だったんですね」

まさか、お父様がアルディール王国でも執刀していたとは!?


でも、お父様は度々家を留守にする事がありました。

それがアルディールへ行った事だったのですね?


わたくしはお父様が誇らしくなりました。


「ラファエル王国とは貿易も盛んだからね」

「あと、それからきみが危なかっしくて。アルディールで嫌な思い出を作って欲しくなかったからね。ちょっとしたお節介かな。 迷惑だった?」

「いいえ」

わたくしは首を左右に振りました。

迷惑だなんてとんでもない。



「あっ……そうだ。忘れていた」


アレクシス王子殿下は何かを思い出していました。

「甘いものは好きかい?」

「あ……はい」

勿論、甘いものは大好き。

レーズンサンドはわたくしの大好物です。


「サリサ」

「はい」

サリサが部屋に入ってきました。


「すっかり忘れていたよ。例のもの持ってきて頂戴。で、紅茶のおかわりを」


例のもの?

わたくしの頭の上にはクエスチョンマークが乗っかっています。

「はい、アレクシス王子殿下」

「それからね。夕飯の支度もついでに頼む。そして、部屋を用意してくれ。ついでに着替えもね」

「はい、かしこまりました」


サリサは一礼し、踵を返しました。


「夕食……着替え……部屋。どういう事なのですか?」

「ああ。今晩はここに泊まって行くといい」

「良い……のですか?」

「勿論だよ。遠慮はいらないよ。まして、カーネギー伯爵のご令嬢ともなれば、それなりにもてなして頂きたい」

「あ……はい」


暫くしてサリサがやってきました。

サリサはお盆の上にケーキを載せていました。


「さあ、食べて欲しい」

サリサはテーブルの上にケーキを載せました。

そして、紅茶をなみなみとカップに注ぎました。


「では、失礼いたします」

サリサは再び踵を返しました。


「これね、美味しいんだ」

見た目は普通のミルフィーユケーキといった感じ。

中にイチゴが挟まっている。

でも、なぜ冬にイチゴ?


「僕はこのミルフィーユケーキが大好きなんだ。で、どうして冬にイチゴなんだろう? って顔をしていたよね」

アレクシス王子殿下はケーキにフォークを入れました。

「そうだよ。この国は魔法でケーキを育てている人がいるんだ」

「ま……魔法ですか? どんな魔法なんですか?」


「それはね、イチゴの苗の周りだけ暖かくする魔法さ。その魔法のお陰で季節を早める事ができるんだ。そしてね、魔法を応用すると、一年中イチゴを栽培する事ができるんだ」

そう……だったんですか。


「魔法でできたイチゴ。さあ、お食べ」

「あ、はい。頂きます」

わたくしはミルフィーユにフォークを入れました。

そして、イチゴを口の中に入れました。


ほんのり甘く、スイーティー。

「美味しいですわ」

「そうでしょう?」

アレクシス王子殿下の笑顔が輝いて見えました。


「これは自慢のケーキさ」

アルディール王国にこんな美味しい食べ物があったなんて!!


わたくしは手を止めず、ケーキを完食しました。

「ごちそうさまでした」

「アルディールは他にも色々美味しいものがあるよ。私が明日案内するよ」

「あ、はい」

わたくしは紅茶を口に含みました。

甘いものと紅茶はよく合っています。


「アルディール王国の何が見たいんだい?」

「そう……ですよね」

わたくしは漠然とした気持ちでアルディール王国に来ました。


そう。婚約者を探すため。

特に見たいものとか全く決めていませんでした。


ただ、街を歩いていれば出会いがあるかな? 位にしか思っていなかったのです。


「街中も良いけれど、田園風景も良いよ。この国の農家は皆魔法が仕える。だから、農作物は本当に美味しいんだ」

「そうだったんですか」

ラファエル王国の農民は勿論魔法はできない。


だから、あの女……にっくきヴィヴィアンは魔法を使う事ができなかった。


「この国は魔法だけじゃない。錬金術にも長けた人がいる」

さすがは竜の国ですわ。

何でも進歩していますわ。


「ちょっと……カルチャーショック受けましたわ」

「そうかな?」

「文明が進化していますわ」

それとも、ラファエルが遅れているのかしら?


「文明が進化しているように見えてもまだまだだよ」


「わたくし、アルディール王国が気に入りましたわ」

「そうかい?」

そう思いました。

わたくしはアルディール王国を心底気に入ったのです。


そう。移住できるものなら、今すぐしたい。


でも、そこには壁があります。


わたくしは人間。

人間はかつて竜たちを迫害した悲しい歴史があります。

それを根に持った竜たちは未だに人間を受け入れないのです。


かと言ってわたくしはラファエルを嫌になった訳ではありません。

ラファエルにはラファエルの魅力があります。


アルファイド山の麓の温泉郷での癒し。

食べ物も勿論美味しいです。


魚もお肉も野菜も美味しいです。


カーネギー伯爵領は漁師町。

新鮮な魚が食べられるのが何よりもの魅力ですわ。


そして、国王夫妻はお優しい方ですし、王太子殿下もとても温厚な方。

王太子妃はわたくしの幼なじみのエリカ。


戦争も内乱もなく、また治安の良い国です。

文句のつけどころもない国です。


強いて文句を言うなれば、筆頭公爵の令息が無類の女好きという事。

モテモテと言えば聞こえは良いですが、タダの女たらし。タダのヤサ男。


ヴィヴィアンもヴィヴィアンでわきまえない女性。

貴族の人間関係が嫌なだけです。


それを除けば、ラファエルは世界一の国と言っても過言では無いでしょう。


「では明日、アルディールの魅力をきみに紹介するよ」

「本当ですか!?」

「ああ」
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