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サヨナラ、婚約指輪

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秋晴れというのはどうも長続きしないものね。

そらはどんより曇り空。

わたくしは街まで行く事にしました。


それはクルト様からもらった数々の品々です。

婚約指輪のみならず、ネックレスやイヤリング、オルソン家で仕立ててもらったドレスなどを処分しに来たのです。


幼少期にもらったおもちゃの指輪はダスターボックスに捨てました。

おもちゃだから、一銭にもならないのを知っていますからね。


他のものはお金に変えられる。

わたくしは売ることを決意したのです。


侍女のサリーと共にわたくしはクルト様からのもらいものを処分に来ました。

あまりにも大荷物なので、馬車で来ました。



「ねぇ、ロダン。あなたなら少しは街に詳しいのよね?」

「はい、お嬢様。この先少し行ったところに買い取りのお店があります」

「本当に?」

「はい」

御者のロダンは市井に詳しい。


「アンジェラ様。ついにオルソン家の精算をするんですね?」

「そうよ。こんな忌まわしいもの、とっとと処分したいわ」

もう、クルト様との思い出なんかゼロにしてやりたいわ!!

相手を妊ませるなんて、最高の裏切り行為よ。


「クルト様も酷いですわね」

「本当よ。青天の霹靂だったわ」


と、そこへ。

水晶玉の絵が描かれた看板が目に入りました。

「占い屋だわ」

わたくしは占いに興味がありましたの。 


クルト様が浮気をしていないかどうか占ってもらおうと思っていましたわ。

今は違う意味で占ってもらいたい。


そう。

わたくしは結婚できるのか? を。


「占い屋に行きたいのかね?」

「そうですわ」

「私も行きたいですわ」

と、サリー。


わたくしは占い屋の前で馬車を降りました。


占い屋にサリーと共に入りました。


「まずはサリー。あなたから占ってもらって!!」

「はい」


サリーが占い屋に入りました。

小一時間してサリーが中から出てきました。


「やりましたわ、アンジェラ様」

「どうしたの? サリー」

「私、どうやら騎士団員と結婚するかもしれないって言われましたわ」

「騎士団! いいじゃない。どこの騎士団?」

「この国の王族に仕える騎士団みたいですわ」

「それは良いじゃない」

サリーの顔がとても晴れ晴れとしています。


「で、お幾らだったの?」

「500ソトですわ」

「500ソト。かなり安いわね」


500ソトは破格です。

通常、占いとなると、1000ソトはかかります。

信用して良いのか……。

しかし、信じる者は救われる!

わたくしは占い屋に入りました。


そこには黒髪の女性がいました。

「何を占って欲しいのですか?」

「結婚……です。わたくし、つい最近婚約破棄したのです。そして、結婚できるのかどうかわからなくなりまして」

「そうですか」

「あなたは貴族の女性ですね?」

「はい、そうですが……なぜわたくしが貴族とわかったのでしょう?」

わたくしは追い剥ぎに遭わないように、平民と同じ服装をしています。

勿論、ノーメイク。

貴族ともなれば、盗人どもの格好の餌食になるからですわ。

「なんとなく、わかりますわ」




女性は水晶玉の上に手を乗せました。


「うーん」

女性は渋い顔をしています。

「あなたの場合、少し難しいです」

「え!? どうしてですの? わたくしが貴族だからですか?」

「違います」


「では占えないという事ですか?」

「最悪……そうなります」


「え!? 何とか占ってもらえませんか?」

「では、頑張ってみますね」


わたくしは唾をごくりと飲み込みました。

占い師は再び水晶玉の上に手をかざしました。


「実は……」

「も……もしかして……わたくし結婚ができないのでしょうか?」

半ば興奮気味に言いました。


ま、別に生涯独身でも構いませんけども。


「いいえ、結婚はできますわ。でも……相手は人間ではございません」

人間ではないですって?


そう言えば、右隣国はアルディール王国。竜の国。

上隣国ラストリデアンは獣人の国。

また、他の国では虫人もいます。


「アルディール王国の方ですか? ラストリルアンの方ですか?」

「断言はできませんが、どちらかの国でしょう。相手には凛々しい顔つきで、羽が生えていて、尻尾が生えています」


わたくしは何が何だかよくわかりません。


「相手は貴族なのでしょうか? 平民なのでしょうか?」


「申し訳ありません。そこまでは」

「そう……ですか」

「でも、結婚ができるだけでも凄い事だと思いますよ」

占い師はニコリと笑顔を見せてくれました。


「では、お代を支払いますわ」

「いえ、お代は結構です」

占い師にお金を突っ返されてしまいました。


「なぜですか? きちんと占って頂いたのですから、お代を支払うのは義務です」

「でも……あなたの場合は靄がかかっていたようなものですし、きちんと占えなかったのですから、お代を頂くわけにはいきません」

「それは……」

「あなただから言いますが、私が破格の値段で占いをしているのは、私はまだ一人前の占い師ではないからです」

「しかし……」

わたくしは500ソトをテーブルに置き、逃げるようにして占い屋を飛び出しました。



それにしても、相手は人間ではない?


わたくしは何だか不思議な感じがしてきました。


わたくしは馬車に戻りました。


「待たせたわね、ロダン」

「占いは終わったかね?」

「はい」


「どうでした? アンジェラ様」

「わたくしの場合、ちょっと難しいみたいです」

「まさか、結婚できないとかではないですよね?」

「いいえ。違うわ」

詳細を話そうか迷っています。


「結婚できるんですよね」

「一応ね。でも、相手の素性がわからないみたい」

「平民なんですか? 貴族なんですか?」

「それもわからないみたいで」

「そう……なんですね」


相手が人間ではない。

これは言わない事にしました。

隣国に行ってしまうとなると、驚かれてしまうから。

それに、占いはあくまで占い。

占いは娯楽のようなものだし、天気予報みたいなもの。

当たるも八卦、当たらぬも八卦。

だから、わたくし自身も占いを100%信じたわけではありません。


「さあ、お嬢様。質屋の前に到着しましたよ」

わたくしは馬車から降り、クルト様との思い出の品を手に取りました。


「ごめんくださーい」


そこに現れたのは髭を生やした初老の男性でした。

「はい」

「これ、売りたいのですが」

「あー、いいですよ」

男性は品定めに入った。


「よし。全部で10万ソトで買い取るよ」

「そんなになるんですか?」

「ああ。お客さんいいもの持っていますね」


こうしてわたくしはクルト様との思い出の品を処分しました。
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