婚約者が浮気相手を妊娠させてしまいました。あなたたちでどうぞ幸せになって下さい。私はもう知りません。

hikari

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二人きり ※マーニャ視点

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マーニャはジョフレイの部屋にいる。

二人はソファーの上で語らいをしている。


「ねえ、ジョフレイ様。本当に私で良かったの?」

「ああ。俺にはお前しかいない。本当にエマヌエラは最低な女だ」

「政略結婚なんて嫌ですわね」

「ああ、嫌だ」

「私なんか下位貴族だから、婚約者が予め決められているなんてそんなの無いわ!!」

「マーニャ。俺は心底お前を愛している!!」

ジョフレイはマーニャの頬にキスをした。

「ジョフレイ様ってば……」

「お前、顔が赤いぞ!!」

「あら……」

マーニャは赤面症だった。

それは以前交際していた男性からも言われた。


「マーニャ、これを受け取って欲しい」

「なんですの?」

ジョフレイは棚から小さな箱を取り出した。

「これはな」

そう言って箱の中を開けた。

そこには宝石が嵌め込まれた指輪が入っていた。

「まぁ。指輪!!」

「これは本物の愛だ」

「じゃあ、エマヌエラに渡した指輪の宝石はニセだったの?」

「いや……ニセでは無かったな。ニセものをあげると、貴族のプライドはズタズタだからな」

マーニャは鼻の先にまで来てしまったメガネを持ち上げた。

「そうですわね。でも、婚約した当初から私と交際していたんですよね?」

「そうだ。だけど、貴族のプライドだし、婚約は建前。だから、それ相応に高価な指輪は渡した。まぁ、今頃売っ払っているだろうけど」

「そうですわね」


コンコン。

「ああ」

「失礼いたします」

小柄なメイドが部屋にやって来た。


「これ、お召し上がり下さい」

二人が大好きなブラックコーヒーにケーキ。

「ああ、ありがとよ」

「ありがとうございますわ」


「では、失礼致しました」

メイドはそう言って頭を下げ、踵を返した。


「美味しそうですわね」

「ああ、これは旨いよ。輸入もののコーヒーだけど、捨てたもんじゃない」

マーニャはコーヒーを啜った。

ほどよい香りが口の中に広がる。


「うーん、美味しい」

「葉巻にコーヒー。口臭としては最悪の組み合わせだけど、マーニャの口臭だけはまるで桃の香りだ」

「うはっ♡ジョフレイ様ってば」

口臭まで受け入れてくれるとは。

マーニャは続けた。

「ねぇーえ、ジョフレイ様」

「なんだい?」

「浮気……しないわよね」

マーニャはお腹を触りながら言った。

「するわけないじゃないか! マーニャのお腹の中にいるのは俺の子。だから、浮気をするわけにはいかないよ」

「でも、エマヌエラとはあっさりと婚約破棄したわよね?」

「あの女は別さ。だって、家同士で決められた結婚だ。本気で愛するわけないだろう?」

「そうでしたのね」

「あー、そうだ。父上も俺の意志を尊重してくれなかった。これが政略結婚の闇さ」


ジョフレイはお腹を触ってきた。

「お腹の中の子、男の子だと思うかい? 女の子だと思うかい?」

「ジョフレイ様はどちらがよろしくて?」

「俺は勿論、女の子さ。マーニャそっくりの女の子だな。マーニャはどちらが良いんだい?」

「私はジョフレイ様そっくりの男の子よ」

「そうだな。我がローレンシア家は男系男子が継承者だからな。そして、医者としての後釜も必要だろ?」

「そうですわね。だったら、男子と女子、両方産めば良いんですわ」

ジョフレイは王室に仕える医師。

外科手術が得意な医師なのだ。


「それにしても、エマヌエラ」

「うん」

「あの女は金が目当てだったんだろうな。男爵令嬢だ。男爵令嬢からすれば侯爵との結婚なんて玉の輿に近いからな」

「玉の輿!?」

「ああ。俺という人間に食いついて金を貪り取ろうとしていたんだ。三毒の強い女だった」

「でも、私は子爵令嬢。下位貴族には変わりありませんわ」

「マーニャ、お前だけは別だ」

「本当に?」

「ああ」


マーニャとジョフレイとの馴れ初めは王室が主催する茶会だった。

茶会だけは下位貴族も招かれた。

勿論、その茶会にはエマヌエラも招待されていたようだが、エマヌエラは体調を崩していて、欠席していた。


マーニャは王宮にて足を滑らし、階段から滑落した。

そこに、ジョフレイがいたのだ。

ジョフレイはやさしい言葉をかけてきてくれた。

マーニャはその時に、ジョフレイの事が気になるようになった。


かれこれ3年前の出来事だった。

その時から、既にエマヌエラと婚約が成立していた。


マーニャは葉巻を吸い、煙を吐き出した。

煙は白く濁ったがすぐに空気に溶け込んで透明になった。


「俺はエマヌエラと婚約が決まってはいた。だけど、お前を離す事ができなかった」

「ですわよね」


「それにしても、マーニャ」

「はい」

「禁煙しなくて良いのか?」

妊娠している時に喫煙は良くないと聞いていたが、マーニャは葉巻をやめる事ができなかった。


「何度もチャレンジしていますが、やめられません」

「だよな。子供はきっと丈夫だ。葉巻き位で障害を持つとは思えない」

ジョフレイもまた葉巻きを吸い、勢いよく煙を吐き出した。


マーニャは葉巻を灰皿に置き、ケーキを食べ始めた。


「ああ、そのケーキはな、メイドたちが作ってくれた旨いケーキだ。お前、甘党だろ?」

マーニャは自他共に認める甘党だ。

甘いものには目がなくて、カントン家にいたときからケーキはよく食べていた。

「そうですわ。私は甘党ですわよ」


「お前は甘いものをいっくら食べても太らない。そこもまた魅力だよな」

マーニャは甘いものどころか、食べ物自体食べても太らない。

ストレス食いも常日頃からしている。

夜食もしている。

寝付きの悪い夜は毎晩夜食をしていた。


そうでなくとも、寝付きは悪い。

夜食をしないと徹夜確定。

それをわかっていたので、夜食をしていたのだ。

「私も自分の身体が不思議で仕方ありませんわ。きっと日頃の行いが良いからなんですわよね」

「そうだな」


マーニャはジョフレイと婚約ができた事自体が奇跡だと思っている。

子爵令嬢ともなれば、平民と結婚する事も稀ではないからだ。


「ジョフレイ様。あなたに拾っていただいてくれて本当に嬉しいですわ」

「ああ。お前みたいな良い女を平民に渡すわけには行かないからな」

ジョフレイは再びマーニャのお腹を触った。


「きっとお腹の中の子は私に似た女の子ね。そうよね?」

お腹の中の子供に話しかけた。


「名前はイルダにしよう」

「イルダ? 良いですわね」

マーニャは笑顔を見せた。

それに反応するかのようにジョフレイも笑顔を見せた。
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