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報告

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強い日差しが照りつける応接間。

アレクサンドラは応接間にて両親と家族会議をしている。


父、ジョゼフは茶色の長い髪をおろし、髭をたくわえている。恰幅が良く、事実、武術も強く、その体型は裏切らない。

母のミルラは銀髪にエメラルドグリーンの瞳をしている。アレクサンドラは母親のこの外見に似ている。


アレクサンドラには弟がいた。

それは一宮冬麻ではない、ルイという名の弟だ。

しかし、ここにはルイはいない。


「アレクサンドラ、話はアンドレイから聞いたぞ」

「はい、その通りです。王太子殿下がワルサ子爵令嬢で学園の同級生のディアドラを連れていたんです」

「なぜ、ワルサ子爵令嬢に?」

ジョゼフはソファーの手すりに肘をついた。

「そうなんです。私も青天の霹靂で何が何だかわからないんです」

「そうか……」

「ディアドラも王太子殿下と婚約していること、知っていたわよね?」 

「同じクラスですから、知っていると思いますわ。だって学園中の噂になっていたのですから」

ミルラもにわかには信じられないといった表情だ。

(原作でも、噂になったと書いてあった。それがアレクサンドラサイドの屈辱)

「ディアドラ嬢は噂に聞くにはとても気配りのできる女性と聞くが……」

「私もディアドラがそんな女性だとは知りませんでしたわ。だから、驚きで、だからそれがディアドラの真意なのかわからないでいます」

(原作ではディアドラはホームレスたちにご飯を分け与えているほど心優しい女性……ってあったわね。それが、なぜ同級生から婚約者を略奪するという暴挙に出るのか……。それがこの『山紫水明の中庭』の最大の疑問点なのよね)

ジョゼフはティーカップを手に取り、お茶を飲んだ。

「ディアドラは社会的弱者に徹底的に手を差し伸べているらしいじゃないか。そんな人がなぜだ。甚だ疑問だ」

再びジョゼフはお茶を飲んだ。


「そうなんです。そんな善良な人がどうして私から婚約者を奪うのかわからないでいます」

「ディアドラも裏の顔があるのね」

(二重人格!? そう。そういう人間に限って気性が荒かったり、暴力を振るったりするものなんだわ。ディアドラはまさにそういうタイプなのかも!?)

「二重人格なのかもしれませんね」

(そもそも、堀井さんも意図して『悪さ』なんて姓を名付けたんだわ。一応、アレクサンドラから婚約者を奪っているのだから。悪さをしでかす。だから、ワルサ子爵令嬢という事になっているのでしょうね。だとしたら、二重人格でも何らおかしくないわ)

雲が通過しているのだろう、日差しは和らいだ。


「ディアドラ嬢……。なぜだ」

(ネタバレになっちゃうけど、これは王太子殿下に非があるのよね。王太子殿下が一方的にディアドラを好きになって、王族という立場を悪用して誘い込んだ。王太子殿下も人として最悪なキャラに描かれていたわね)


「もしかしたら、王太子殿下が私に飽きてしまい、ディアドラに目移りしてしまったのかもしれませんわ」

「という事はディアドラは王太子殿下の掌で転がされた……ってわけだな?」

「恐らくです」

(いやいや、恐らくじゃなくてそうなんだけど)

「王太子殿下はもしや、お前を婚約者に据え置く一方で、浮気を働いていたという事か」

(正しくは二股かけていたのよね)

「いいえ。もしかしたら、二股交際していたのかもしれませんわ」

「ふ……二股交際だと!? 王太子たる人がそのような……」

「しかし、ありうるかもしれないわ、あなた。だって、王太子殿下とて、1人間ですわ。間違いを犯すこともあるわ」

「確かに……な」

(王族とはいえ、神様ではない。だから、完璧なわけないわ)

「そうですわ、お父様、お母様。王太子殿下も人間。神様ではないのだから、過ちは犯します」

「うーむ」

再びジョゼフは頬杖をついている。

ミルラは髪を弄っている。

「王太子殿下の事はもうわかったわ。これはもう、王太子殿下の過ちという事ですわね、あなた」

「ああ。そうなのかもしれんな」

「ディアドラに関しても、ディアドラには裏の顔があったという事。あの二人は出会うべくして出会ったのかもしれないわね」

(ディアドラが弱者にやさしいから惹かれたのかそれとも、ディアドラの母親が聖女だから惚れたのか。まー、いずれにせよ、わだかまる話ね)

「それから……お前が連れてきた護衛についてだ」

「どうかトビーをよろしくお願いしますわ。我が家で雇用契約結んでくれませんでしょうか? もう彼は私についてきた以上、王宮には戻れませんわ」

「そうだな」

(そう。原作でも護衛としてアレクサンドラについてきた。しかし、原作では王宮に帰るところを父親に引き止められるんだっけ)

「うちで雇用契約を結んであげましょうよ。もうどこにも行けないんでしょうから」

「お父様、お願いしますわ」

アレクサンドラはソファーから離れ、土下座をした。


「そこまで言うならそうしよう。引き続きアレクサンドラの護衛を頼むとするか」

ジョゼフは続けた。

「まあ、王宮の元騎士団の一員だったのだから、それなりの素質はあるだろう」

「ありがとうございますわ」

アレクサンドラは頭を上げた。


こうして、アレクサンドラは両親に言いたい事が言えた。

そして、トビーの今後も決まった。


アレクサンドラは応接間を出た。

「姉上?」

外には肩まである銀髪を垂らした少年がいた。

弟のルイだ。

「あら、ルイ。来ていたのね?」

「やっぱり王太子殿下に裏切られたんですね?」

「ええ。そうよ」

「で、ワルサ令嬢にも」

「そうよ」

「でも、大丈夫だよ、姉上。二人には罰当たると思うから」

本当に罰が当たって欲しい、と思った。

だってそれが因果応報の摂理だから。
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