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愛の告白
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晩餐会を終え、マドレーヌはジェームスに呼ばれた。
一家はジェームスの希望で王宮で一泊する事になっていた。
王宮はとにかく広いので、客人のための部屋も用意されていた。
ジェームスは長く伸びた髪を下ろしていた。
ジェームスの執務室は本が沢山置かれていた。
天井にはろうそくを模したシャンデリアがぶら下がっている。
執務室の机もきれいに整えられていた。
(誰かさんとは大違いだわ)
誰かさんとは勿論ミハイルの事だ。
ミハイルは俗に言う汚部屋の住人だ。
執務室、寝室共に物が無造作に置かれ、おまけにとっ散らかっている。
まず、整理整頓をしようとしない。
それ以前に不必要な物を手放さそうとしないのだ。
理由を問えば
「まだ使えるから」
だった。
そして、物を溜め込んでいたのだ。
兎にも角にも貧乏性だった。
見かねて部屋を掃除すると、
「マドレーヌは何でも捨てる」
だった。
「まだ使えるのに」
と言って捨てようとしない。
タンスを掃除すると、靴下やズボンが入った袋がいくつも出てくる。
しまいには、お金までが出てくるのだ。
それほど汚い部屋に住んでいた。
ダミアンが亡くなれば、王宮はゴミ屋敷になるかもしれないのだ。
(ああ恐ろしい)
しかし、そんな汚部屋から解放され、今はきちんと整理整頓された部屋にいる。
何と心地よい。
「マドレーヌ。きみには伝えたいことがあったから、呼び出した」
「はい、ジェームス王子殿下」
「僕はあの日。きみと一緒に踊った日」
「しかと、覚えておりますわ」
「そうなんだ。きみは何の下心が無かった」
「はい」
「僕は何度も言ってしつこいかもしれないけれど、この国の王侯貴族の女性たちから言い寄られていたんだ」
ジェームスは続けた。
「皆、わが先にとばかりに僕にアプローチをかけてくる。僕はそれがうんざりだった」
ジェームスは立ち上がり、部屋の中を歩きだした。そして、言った。
「そんなだったら、他の国の女性と結婚しようと思ったんだ」
「他の国の女性……。そうですわね。例えば私のいるアルヴィンデル王国のエリザベス王女殿下なんか素敵だと思いますわ」
ジェームスはマドレーヌの前で足を止めた。
「いや……エリザベス王女殿下でもない。僕にはマドレーヌ、きみなんだ」
ジェームスはマドレーヌの手を握った。
「えーーーー!? わっ……私で本当に良いのですか?」
「当たり前じゃないか!!」
「え!? でも……」
「きみには確かアルヴィンデルのミハイル王太子妃候補に上がっていたよね?」
(なぜ知っているのだろう?)
「なぜそれを?」
「隣国の王室情報は僕の耳にも入ってくる」
「そう……なんですか」
再びジェームスは歩き出した。
「僕はいけない事をしているのを知っている。だってミハイル王太子殿下から婚約者を奪う事をしているのだから」
でも、このままミハイルと一緒になれば悲惨な結末になるのはわかっている。
今がチャンスだ!!
「私はミハイル王太子殿下の事は好きではありません。お妃候補にも上がりましたが、私より相応しい人は他に3人いますから。私にアルヴィンデル王国の王太子妃なんか務まりませんわ」
嘘だった。
ミハイルと結婚など言語道断だ。
あんなモラハラ男と一緒にいたら、頭がおかしくなりそうだ。
ことあるごとに説教をしてきて、ああでもない、こうでもない、いや、ああすべきだと言ってくる。
おまけに二重人格で、世間様には「温厚で気さくな人」という反面、内面が悪く暴力的。
そんな男と一緒にいたら、死刑以前に頭おかしくなりそうだ。
「ミハイル王太子殿下の事が嫌いなんですか?」
この際ハッキリ言ってしまおう。
「余り好きではありませんわ」
「どうして……かな?」
「なんか……裏の顔がありそうで……ほら、よく言うではないですか。温厚なお人柄な人にはもう一つの顔を持っているって」
「まあ、確かにミハイル王太子殿下は温厚で有名だね」
「外面が良くて内面が悪い。なんか……そんな気がして」
「そうか。警戒しているんだね?」
「そうです」
(ミハイル王太子殿下も他にお妃候補が3人もいるのだから、私がお妃候補から外れても、何も困らないはずよ)
「じゃあ」
ミハイルは再び足を止めた。
「僕と一緒になって欲しい」
ジェームスは手を握ってきた。
「でも……ジェームス王子殿下。私にお妃が務まるかどうか」
「大丈夫だよ。僕と二人三脚でいこうよ」
マドレーヌは笑顔になった。
「このことは父上やきみの家族にも伝えておく。そして、そのミハイル王太子殿下の魔の手から逃げられるように手配しよう」
「わぁ、ありがとうございますわ」
これで完全にミハイルと決別できる。
人生やり直しは成功になりそうだ。
(見ていなさいな、ミハイル王太子殿下、イルダ。私はしあわせを掴み取るのよ!!)
「ミハイル王太子殿下もお妃候補が3人に減ったのだから、選びやすくなったろうね」
「これで良かったんですわ。ありがとうございますわ、ジェームス王子殿下」
「ああ、マドレーヌ。もう夜遅い。ゆっくり寝ると良いよ」
「はい、ジェームス王子殿下」
「お休み、マドレーヌ」
ジェームスはマドレーヌの頬に口づけをした。
マドレーヌは一瞬だけ身体が熱くなるのを感じた。
「お休みなさいませ、ジェームス王子殿下」
マドレーヌは案内された部屋で一夜を過ごした。
一家はジェームスの希望で王宮で一泊する事になっていた。
王宮はとにかく広いので、客人のための部屋も用意されていた。
ジェームスは長く伸びた髪を下ろしていた。
ジェームスの執務室は本が沢山置かれていた。
天井にはろうそくを模したシャンデリアがぶら下がっている。
執務室の机もきれいに整えられていた。
(誰かさんとは大違いだわ)
誰かさんとは勿論ミハイルの事だ。
ミハイルは俗に言う汚部屋の住人だ。
執務室、寝室共に物が無造作に置かれ、おまけにとっ散らかっている。
まず、整理整頓をしようとしない。
それ以前に不必要な物を手放さそうとしないのだ。
理由を問えば
「まだ使えるから」
だった。
そして、物を溜め込んでいたのだ。
兎にも角にも貧乏性だった。
見かねて部屋を掃除すると、
「マドレーヌは何でも捨てる」
だった。
「まだ使えるのに」
と言って捨てようとしない。
タンスを掃除すると、靴下やズボンが入った袋がいくつも出てくる。
しまいには、お金までが出てくるのだ。
それほど汚い部屋に住んでいた。
ダミアンが亡くなれば、王宮はゴミ屋敷になるかもしれないのだ。
(ああ恐ろしい)
しかし、そんな汚部屋から解放され、今はきちんと整理整頓された部屋にいる。
何と心地よい。
「マドレーヌ。きみには伝えたいことがあったから、呼び出した」
「はい、ジェームス王子殿下」
「僕はあの日。きみと一緒に踊った日」
「しかと、覚えておりますわ」
「そうなんだ。きみは何の下心が無かった」
「はい」
「僕は何度も言ってしつこいかもしれないけれど、この国の王侯貴族の女性たちから言い寄られていたんだ」
ジェームスは続けた。
「皆、わが先にとばかりに僕にアプローチをかけてくる。僕はそれがうんざりだった」
ジェームスは立ち上がり、部屋の中を歩きだした。そして、言った。
「そんなだったら、他の国の女性と結婚しようと思ったんだ」
「他の国の女性……。そうですわね。例えば私のいるアルヴィンデル王国のエリザベス王女殿下なんか素敵だと思いますわ」
ジェームスはマドレーヌの前で足を止めた。
「いや……エリザベス王女殿下でもない。僕にはマドレーヌ、きみなんだ」
ジェームスはマドレーヌの手を握った。
「えーーーー!? わっ……私で本当に良いのですか?」
「当たり前じゃないか!!」
「え!? でも……」
「きみには確かアルヴィンデルのミハイル王太子妃候補に上がっていたよね?」
(なぜ知っているのだろう?)
「なぜそれを?」
「隣国の王室情報は僕の耳にも入ってくる」
「そう……なんですか」
再びジェームスは歩き出した。
「僕はいけない事をしているのを知っている。だってミハイル王太子殿下から婚約者を奪う事をしているのだから」
でも、このままミハイルと一緒になれば悲惨な結末になるのはわかっている。
今がチャンスだ!!
「私はミハイル王太子殿下の事は好きではありません。お妃候補にも上がりましたが、私より相応しい人は他に3人いますから。私にアルヴィンデル王国の王太子妃なんか務まりませんわ」
嘘だった。
ミハイルと結婚など言語道断だ。
あんなモラハラ男と一緒にいたら、頭がおかしくなりそうだ。
ことあるごとに説教をしてきて、ああでもない、こうでもない、いや、ああすべきだと言ってくる。
おまけに二重人格で、世間様には「温厚で気さくな人」という反面、内面が悪く暴力的。
そんな男と一緒にいたら、死刑以前に頭おかしくなりそうだ。
「ミハイル王太子殿下の事が嫌いなんですか?」
この際ハッキリ言ってしまおう。
「余り好きではありませんわ」
「どうして……かな?」
「なんか……裏の顔がありそうで……ほら、よく言うではないですか。温厚なお人柄な人にはもう一つの顔を持っているって」
「まあ、確かにミハイル王太子殿下は温厚で有名だね」
「外面が良くて内面が悪い。なんか……そんな気がして」
「そうか。警戒しているんだね?」
「そうです」
(ミハイル王太子殿下も他にお妃候補が3人もいるのだから、私がお妃候補から外れても、何も困らないはずよ)
「じゃあ」
ミハイルは再び足を止めた。
「僕と一緒になって欲しい」
ジェームスは手を握ってきた。
「でも……ジェームス王子殿下。私にお妃が務まるかどうか」
「大丈夫だよ。僕と二人三脚でいこうよ」
マドレーヌは笑顔になった。
「このことは父上やきみの家族にも伝えておく。そして、そのミハイル王太子殿下の魔の手から逃げられるように手配しよう」
「わぁ、ありがとうございますわ」
これで完全にミハイルと決別できる。
人生やり直しは成功になりそうだ。
(見ていなさいな、ミハイル王太子殿下、イルダ。私はしあわせを掴み取るのよ!!)
「ミハイル王太子殿下もお妃候補が3人に減ったのだから、選びやすくなったろうね」
「これで良かったんですわ。ありがとうございますわ、ジェームス王子殿下」
「ああ、マドレーヌ。もう夜遅い。ゆっくり寝ると良いよ」
「はい、ジェームス王子殿下」
「お休み、マドレーヌ」
ジェームスはマドレーヌの頬に口づけをした。
マドレーヌは一瞬だけ身体が熱くなるのを感じた。
「お休みなさいませ、ジェームス王子殿下」
マドレーヌは案内された部屋で一夜を過ごした。
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