上 下
4 / 11

お便り

しおりを挟む
朝。

鳥たちのさえずりが聞こえてきた。

窓の外では雨が降っている。

雨が降ると涼しい。

夏の終りを感じる。




「マドレーヌ様!」

ドアをノックする音が聞こえる。

張りのあるハイトーンボイスはシャーロットの声だ。


「シャーロットね。入って」

シャーロットは部屋に入ってきた。

何かを持っている。


「あの、マドレーヌ様。アリステル王国のジェームス王子殿下よりお便りがありました」

マドレーヌはシャーロットから手紙を受け取った。


確かに送り主はジェームスからのものだった。


ジェームス王子殿下……どういう事なのでしょう?


「そう言えばマドレーヌ様は仰っていましたよね。ジェームス王子殿下とあの晩の舞踏会で踊った事を」

「ええ」

そのことについてなのだろうか?

マドレーヌは恐る恐る手紙を開けてみた。


手紙にはこう書かれていた。


『親愛なるマドレーヌ様。先日は一緒に踊ってくれてありがとう。きみにはもう一度会いたい。もし良ければ近々晩餐会を開催する予定でいるので王宮に来てもらえますか? 待っています。ジェームス』


「ジェームス王子殿下に気に入られたみたいですわね」

「う……うん」

ジェームスはなぜ自分に好意を寄せているのか甚だ謎だった。

なぜなら、色々な女性に言い寄られているので、女性にはもういっぱいいっぱいのはずだ。


「たった一度踊っただけなのよ、シャーロット」

「一目惚れだったかもしれませんわよ」

一目惚れ……かぁ。


もしかして、これが女を選ぶ権利というやつ!?


ジェームス王子殿下は自国に気に入った女性がいないのだろうか?

しかし、それでもアリステル王国の貴族の女性は綺麗で有名。


でも、このままジェームスに気に入られてしまえば、ミハイルとの結婚は遠のくはず。


ミハイル王太子殿下なんかもう懲り懲りだわ。

人生やり直しが利くなら、ジェームス王子殿下についていった方が良いわ!!


「そうですわよね。だって、ミハイル王太子殿下についていったら、また処刑されてしまいますからね」


今回は運良くミハイルと出会う前に戻れたけれど、今度ばかりは次が無いような気がしていた。

そう。処刑されたらそこでおしまい。

人生は完全に終わる。


今はやり直しのチャンスがある。

しかも、舞踏会でミハイルと踊らずにジェームスと踊った事によって人生が変わるかもしれないのだ。


可哀想なマドレーヌ。

王太子妃になったは良いものの、ミハイルの不貞によってあらぬ罪を着せられ処刑される。


私は王妃殿下のワインに毒なんか入れていないわ!!


犯人は誰であれ、でっち上げは余りにも酷すぎる。

理不尽な処刑。


嫌なら嫌だって言ってくれれば良いのに、何も王妃殿下暗殺を企てていたなんてあんまりよ!!


確かに王妃殿下とは仲違いしていたわ。

だけど、殺すなんて考えてもみなかった。


「私ね、本当に王妃殿下を殺害しようなんてしていなかったわ」

「わかります。マドレーヌ様が人を殺すようには見えません」


「100歩譲って私は王妃殿下と仲違いしていたわ。でも、暗殺なんて考えてもみなかった」

「そうですよね。わかりますわ」

「私は王妃殿下とは仲違いしていたわ。でも、エリザベス王女とは仲良しだったもの。王室を滅茶苦茶にするような事なんて考えていなかったわ」

「私はマドレーヌ様を信じます。でも、これは明らかに人生のやり直し。分岐点は過ぎたのです」


そうそう。その通り。

「私はジェームス王子殿下についていくわ」

「そうですわね。私はマドレーヌ様が命を落としてしまうなんて考えたくもありません」


そう。シャーロットも悲しませないために。




恐らくあの世界では私の遺体はアルサ公爵に送られたかもしれない。

王妃殺害の容疑をかけられたのだから、王家の墓に入れるはずはない。

すると、やはりシャーロットを悲しませていたのかもしれない。


それを思うと涙が出る。


でも、私は何がどうなってこうなったのかわからないけれど、人生にやり直しが利くなら、もうミハイル王太子殿下とは関わりたくない。

王室とも関わりたくない。


「ねぇ、もう私、シャーロットや家族を悲しませたくないわ」

「はい。マドレーヌ様」



私が処刑されたとなれば、お父様は王室から解雇される……。

すると、アルサ家はどうなってしまうのだろう?


お父様にも迷惑をかけることになるわ。

職を失ったお父様はどうなってしまうのだろう?

新しく仕事を探さなければならない……。


すると、聖女だった母がまた職場復帰をしなければならない事態になる……。


そうなると、弟のフィルはどうなってしまうの?


フィルも裁判官を目指して勉強している……。

フィルは無事に裁判官になる事ができるのだろうか?


けれど、王室に泥を塗った事になっているから、王室に仕える事はできない……。

フィルはお父様の後継になる予定。


「ねぇ、シャーロット」

「はい、マドレーヌ様」


「このままだとお父様は職を失ってしまう……それにフィルも裁判官を諦めなければならなくなる」

「では、もうジェームス王子殿下についていく、の一択ですわね」


勿論、そうなる。


マドレーヌは便箋と筆を取り出し、ジェームスに手紙を書いた。


『親愛なるジェームス王子殿下 お便りありがとうございました。お言葉に甘えて王宮へ伺わせて頂きます。 マドレーヌ』


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

将来の義理の娘に夫を寝取られた

無味無臭(不定期更新)
恋愛
死んだはずの私は、過去に戻ったらしい。 伯爵家の一人娘として、15歳で公爵家に嫁いだ。 優しい夫と可愛い息子に恵まれた。 そんな息子も伯爵家の令嬢と結婚したので私達夫婦は隠居することにした。 しかし幸せな隠居生活は突然終わりを告げた。

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

御機嫌ようそしてさようなら  ~王太子妃の選んだ最悪の結末

Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。 生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。 全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。 ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。 時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。 ゆるふわ設定の短編です。 完結済みなので予約投稿しています。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

処理中です...