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無実の罪

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夕食の時間になった。

王室の人たちは食堂に集まって食べる。

マドレーヌもまた、食堂へ向かった。

外はなごり雪。まだまだ寒い。

王宮の中も寒い。吐く息が白く濁る。

「寒い。ハー」

マドレーヌは両手に息を吹き付け、手を擦り合わせた。


王室に嫁いでから、はや2年が過ぎようとしている。

今では立派な王太子妃となった。

元公爵令嬢。アルサ公爵の出自。

ヴェルナルド家は筆頭公爵家。

父のフィリップは王家専属の裁判官を務めている。

それゆえ、マドレーヌは法律については明るかった。


アルサ家と王室は交流があった。

とある舞踏会で、突如ミハイル王太子の相手になったのだ。

さらに、法律への知識が買われ、ミハイルと結婚することとなった。

ほぼ政略結婚だったが、マドレーヌ自身、それで良かった。

幸せだった。

二人の間には息子が一人いた。

シャイン王子だ。シャインはまだ4ヶ月の赤ん坊。

マドレーヌはシャインを愛した。

そして、王子誕生を誰よりも喜んだのが、王妃のヒルダだった。

しかし、ヒルダはマドレーヌには冷たかった。

それでも、初孫だから、シャインが可愛いのだろう。



マドレーヌは階段を上った。

階段は急で怖い。

赤い絨毯が敷かれ、廊下には代々の国王と王妃の肖像画が飾られている。

ところどころツボも置かれている。


そして、突き当りを右に曲がり、食堂に着いた。



「さあ、食事ですわよ」

ヒルダは立ち上がった。

国王のダミアン4世とヒルダが中央に座っている。

そして、向かいにミハイルが座っている。

マドレーヌの席はヒルダのすぐ手前だ。


ヒルダの横には宰相のジョゼフが座っている。

ダミアンの横には第2王子が座っている。

ミハイルの隣には第3王子が座っている。

マドレーヌの隣にはエリザベス王女が座っている。


エリザベスとヒルダは確執を起こしている。

それをいいことに、マドレーヌはエリザベスだけが良き話し相手だ。



最近、ミハイルの様子がおかしい。

ミハイルの部屋が甘い香りがするようになった。

なぜだろうか? しかも、香水までつけるようになったのだ。

ミハイルは葉巻を吸う。その匂いを消すかのように匂いに気をつけるようになったのだ。


まだ、マドレーヌとミハイルが結婚する前だ。

やはり、香水をつけ、執務室や寝室も甘い匂いを漂わせていた。





まさか!!

マドレーヌはミハイルの不貞を疑った。

しかも、ミハイルは日に日にマドレーヌに対し、冷たく接してくるようになった。

口数も少なくなり、会話もほとんど無くなった。

やはり、何かがおかしいのだ。


ミハイルは幼馴染がいた。

イルダだった。

母親の名前が『ヒルダ』だからだろうか、名前が似ているから……という理由でミハイルはイルダと仲良しだった。


イルダとは結婚後も親しくしていた。

イルダは既に結婚していた。子供もいた。

本人も「友達」と言ってはいたが、事あるごとに「イルダが、イルダが」と言っていた。

イルダも家庭がある身なので、特に気にはしていなかった。

しかし、やはり怪しい……。


その頃は貴族の間でも、W不倫のケースはあった。

不倫というと、既婚男性と未婚女性というケースが圧倒的多数を占めていたが、最近はW不倫も珍しくはなくなった。

それゆえ、嫌な予感はしていた。




今日も二人は無言で食堂に入った。

そして、いつもの席についた。


「今日もお疲れ様でした。では、食事にしましょう」

8人は食前のお祈りをすると、食事を始めた。


と、その時、ヒルダが声をあげた。

「このワイン、味がおかしいわ」

ダミアンがヒルダのワイングラスを取り上げ、ワインを取り上げ、匂いを嗅いだ。

「まず、匂いがおかしい。これは毒に違いない」

「誰かが、ヒルダ様を暗殺しようとしているのですか?」

とジョゼフ。

「暗殺? 穏やかでないな」

ダミアンが立ち上がった。

「誰かが母上を暗殺しようとしていたのか。暗殺と言えばどう考えても母上と仲違いしているマドレーヌが怪しい」

ミハイルが高々と言った。

「やっぱりそうなのね? マドレーヌ!!」

ヒルダがマドレーヌを指差した。

「いいえ、違いますわ」

マドレーヌは全力で否定した。

なぜ、ヒルダ暗殺の疑いをかけられなければならないのか。

「証拠がないぞ、ヒルダ」

ダミアンはヒルダを宥めるが、ヒルダは狼狽している。

「いいえ、マドレーヌに決まっているわ!!」

「証拠、ありますよ、父上」

皆の視線が一同にミハイルに向かう。

「私が見ました。マドレーヌがこっそりと食堂に忍び込んで、母上専用のグラスに毒を塗るのを」

でっちあげだ。

マドレーヌは納得がいかない。

「誠か? マドレーヌ」

ダミアンは至って冷静だ。

「断じて、違います」

「いいや、私は見たんですよ。この目で」



「そうか。ミハイルがそこまで言うのならば……」

ダミアンは立ち上がった。

「マドレーヌ! お前をヒルダ殺害未遂の容疑で処刑する!!」




















☆★☆★













死刑のその日は相変わらずなごり雪。

寒かった。

これで人生が終わるのか……。



マドレーヌは釈然としないまま、死刑台に上った。

公開処刑なので、国民が集まっている。

「王妃殿下殺害未遂の容疑で、マドレーヌ王太子妃の処刑を行う」







マドレーヌの目の前は暗くなった。
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