妹に婚約者を取られてしまいましたが、あまりにも身勝手なのであなたに差し上げます

第十二話

リディアは翌日もエルフィンに呼ばれた。

そして昨日と同じ中庭のベンチに腰掛けた。

エルフィンは手にバイオリンを持っていた。

「リディア。このバイオリン、きみにあげる。このバイオリンも貴重で有名な職人が作ったバイオリンなんだ。このバイオリンできみの“先生”の曲を弾いて僕に聴かせて欲しい」

「う……受け取れません。そんな貴重なバイオリンなんか！」

しかし、エルフィンは引かない。

「リディア。これは僕からのお願いなんだ。お願い、聞いてくれるよね？」

エルフィンはいたずらそうな笑みを見せた。

しかし、リディアとしては貴重なバイオリンを受け取るなどできない。

例え、王太子のお願いであっても。

「お願い……でも受け取れません。ごめんなさい」

「いや、いいんだ。きみが受け取れないというなら仕方がない。諦めるよ」

エルフィンは諦めてくれた。


「但し……」

「但し？」

「これだけは受け取って欲しい」

と言って左手を手に取った。

「婚約指輪だ」

エルフィンはそう言って指輪をはめた。


「私なんかで良いのですか？」

リディアは半分泣いていた。

セレドニオに愛されずに婚約破棄をされた事。

今でも心の奥でわだかまっている。

「何かあったの？」

エルフィンが心配そうに顔を眺めてきた。

「い、いいえ……何でもありません」

リディアは平静を装うようにそう言ったが、エルフィンには既に見透かされていた。

「僕にはわかるんだ。リディア、悲しい顔をしているね。何かあったの？」

これは誤魔化しようがなさそうだ。

「色々……ありまして」

「失恋経験があるみたいだね」

完全にお見通しのようだ。

「僕も色々な人と会ってきたから、顔をみただけで概ね何を思っているのかわかるんだ」

流石はエルフィン王子殿下。抜け目が無い、とリディアは思った。

「実は……」

リディアはハワード王国第二王子セレドニオと婚約破棄になった事、しかも婚約者を奪ったのは実の妹だった事を素直に告白した。

「そうだったんだ。それは辛い思いをしたね。でも、僕は絶対に約束する」

と言って両手を包み込んできた。

「僕はリディアを幸せにする。そう、次期王妃はリディア、きみなんだ」

エルフィンの顔は真剣そのものだ。

「だから、僕もリディアの為に一曲披露するよ」

そう言ってエルフィンはバイオリンをケースから取り出した。

そして、演奏を始めた。









聞いた事の無い曲。

これがこの世界の曲。

モーツアルトでも、ビバルディでも無い曲。

この世界にもこんな素敵な曲があったなんて。


リディアは前世の女子高校生岩原珠美に心が戻っていた。







演奏を終えると、エルフィンはリディアの唇にやさしくキスをした。