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婚約

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夏の日差しが眩しい。

この日もまた王宮に行くことになった。

トールとはかれこれもう10回以上会っている。


(トールは私を騙そうとはしてないわ!! トールを信じる!! お医者様なんてもうどうでも良いわ!!)


スティーブンは医者を志していた。

しかし、相手にされなかった。

元々狙っていなかった。

記憶が戻る前から、無視されていたから。

そう。これが悪役令嬢の宿命というやつ。


クララは王宮の階段を昇っていた。

すると、上の方から声がした。

「クララ」

トールだった。

「よく来てくれたね」

トールの笑顔には癒やされる。


「ヴィクトール王子殿下。今日も参りました」

「今日はね」


トールは階段から降りてきた。

「僕の部屋に来て欲しいんだ」

部屋?

いつも二人が会うのは執務室だった。

部屋って……寝室?


「寝室ですか?」

「そうだけど。変なことはしないよ」

変なこと……。


実はクララは結婚こそはできなかったけれど、処女ではない。

そう、結婚詐欺師に身体を許してしまったのだ。

結婚詐欺師には「浮気をしないように」と陰毛を剃られたのだ。

それをふと思い出してしまった。


(でも、トールなら信用できる)


トールとは学園時代の同級生。

交友関係も把握済み。


「ここだよ」

トールは部屋のドアを開けた。

「失礼致します」

クララはトールの部屋に入った。


部屋は絵画が飾られていた。

ふと、背後に人の気配を感じた。

メイドだった。

「アイシャ。ケーキとお茶を持ってきて」

「かしこまりました」

メイドはそう言って踵を返した。


「実はね。今日は特別な日だよね?」

この日はクララの18歳の誕生日だった。

「はい、ヴィクトール王子殿下。今日はわたくしの誕生日でございます」

「おめでとう」

トールは笑顔を見せた。そして、続けた。

「実はね……」

トールは小さな小箱をテーブルの上に乗せた。

「粗品なんだけど……」

粗品?

トールは小箱を開けた。

「これ」

中には宝石が嵌め込まれた指輪だった。

「さあ、手を出して」


クララは敢えて右手を出した。

「違うよ。反対の手!」

もしや!!

クララは左手を差し出した。

「はい」

トールは指輪を嵌めた。

「どう? 嫌ならいいんだよ」

「嫌ではありませんわ!! 嬉しいですわ」

それもそうだ。

アラフォー生涯独身の自分がようやく結婚できたのだ。

(嘘……みたい)

「本当にわたくしで良いのですか?」

「勿論だとも!」

「後悔無いですか?」

「後悔なんかしない!!」

「わたくし、魔法を使った料理ができないんですよ?」

「きみは手作りにこだわっている。あの手作り弁当は美味しかった」


トントン。

扉をノックする音がした。

先程のメイドがお茶とケーキを持ってきた。

「このケーキは特別に美味しいんだ。勿論、手作りさ」

クララはケーキに口をつけた。


美味しい。

しかも、見るからに高価なケーキ。


改めてクララは転生に感動してしまった。
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