愛し子

水姫

文字の大きさ
上 下
4 / 30
幼少期

5歳

しおりを挟む
日は巡りリリアは5歳になった。

一般的な5歳児よりは遅いものの、家の中でなら歩けるまでに成長した。
それでも少しの短い時間だけだったが、家族からしたら大きな一歩だったのは言うまでもない。


「リリア今日は調子が良いみたいだね」

「ええ、お兄様このまま続けば良いのだけど」

「少しずつで良いのよリリア」

「分かってますお母様」

「久しぶりに家族が揃ったのだから食事にしよう。準備してくれ」

「失礼いたします」

続々とテーブルに食事が並んでいった。
ベットで過ごすことの多いリリアと家族にとって家族での食事は大切なものだった。


そしてリリアの体調を考えて今日まで先延ばしになっていた王家の方たちの訪問が近づいてきた。

王家の紋章のついた馬車が家の前にとまった。家族皆で迎えた。

「ようこそいらっしゃいました」

「ご苦労」

「ありがとう。あなたがリリアね」

「はい、私がリリアです。本日はお越しくださいましてありがとうございます」

「まぁ、礼儀正しい可愛い子ね」

「恐れ入ります」

王子たちは王と王妃に続いて馬車から降り、リリアを見て固まっていた。

「「……可愛すぎる」」

ぼそりと言った王子たちの声に王妃は目を開いてあらあらとこぼした。王子たちは王族としての教育が関係しているのか周りにあまり興味を持たない良く言えば落ち着いた、変に大人びた子供だったのだ。久しぶりにみた子供たちのその顔に王妃は
「リリアは誰のお嫁さんになるのかしら?」と満面の笑みで質問した。

!!!!!王子たちはアルバートの方を一斉に見た。

「王妃様まだ決めておりません。体調もまだ芳しくなく、元気になってからと考えております」

「そう……。ふふ、でもまだチャンスはあるわね」

「「母上!」」

王子たちの目が輝いていた。王妃はリリアならばとアルバートに話を進める。

「お、王妃様何を?お父様?」

リリアは困り果ててあたふたしている。家から出たことがなく、免疫のない同年代の男の人、それだけで一杯なのに話がどんどん進んでしまっていたから…。

「まぁ、可愛いわね。ふふふ。リリア安心してこの子たちは良い子よ」

「え、いや、そういうことでは」

許容範囲を超えそうなリリアに救いの手を差し伸べるようにラレルがそろそろ家に入らないかと提案してくれた。

「あぁ、そうだな。リリアすまなかったな」

「いえ」


そして、談話室に場所を移し、再度話し始めたが、リリアの体力は限界。椅子で少しぐったりしているリリアにラレルが心配して声をかけた。

「大丈夫か?」

「申し訳ございません。お兄様……」王家の前で倒れるような失態は犯したくなかったので救いとばかりに部屋に戻りたいと伝える。ラレルはすぐに動いてくれる。

「お父様、リリアが限界のようです。私が部屋に送ってきます」

「!!気づいてやれずすまなかった」

「いえ、王家の皆様お先に失礼いたします」

「いこうか」

「はい」

リリアとラレルは退出していった。無事に部屋に戻ったことを確認して部屋に残った人たちはリリアの話を続ける。

「リリアは相変わらずか?」

「そうだな。少しづつ良くはなっているようだが……」その顔は暗い。

「そうか……」しんみりとした空気を打ち消すようにアルバートは12歳が楽しみなのだと続ける。12歳は重要な意味のある年齢で、ステータスが授けられる歳だ。

「きっと、理由があるはずだ。今の状態の理由が……」

それはアルバートの希望でもあった。あの子を神は絶対見捨てない…。

そしてラレルが戻ってきたタイミングで話が切り替わった。リリアの周りの状況について。

「「アルバート!」」

王子たちは同時に声をあげた。これを機にリリアともっと仲良くなりたかったのだ。

「「この家に度々訪ねることを許してくれ」」

切実な頼みと、リリアのためを想いアルバートは許可することにした。同年代との関わりはリリアにとってもよい刺激となるだろうと。

「これでまた何か変わると良い……」それは思わずでた誰の耳にも入らない本音。


アルバートはどんどん盛り上がる王妃たちの会話についていけなくなって「あの、フェリア?」

「何ですか?リリア次第でしょう?ふふふ」

アルバートは少し後悔した。可愛いリリアが誰かに取られるかも知れないと不安になったのだ。

「アル、いつかは来ることよ。それにリリアにとっても良いことだわ」

「そうだよな、そうなんだよな……」

どこの時代も女性は強かった。王妃とマリアの話は驚くほど弾み、進んでいく。

蚊帳の外に出された王と、アルバートは苦笑いを浮かべていた。

「リリアが嫁にきてくれたらこっちは嬉しいがな」

「やめてくれ、まだその気にはなれない」

「まぁ、考えといてくれ。王妃たちもその気だしな」

思わぬ発展にため息が溢れる。


時間は一瞬で過ぎていき、城に帰る時間になった。見送りには失礼にならないようにリリアも出てきた。

「またいらしてくださいね」

「「絶対くる!待っていてくれ」」

「ふふ、はい」

食い気味の王子2人に思わず笑顔が溢れる。その笑顔に王子たちはますます惹かれていった。

「今日は有意義な時間だった」

「本日はお越しくださいましてありがとうございました」

「それでは。あと、………考えといてくれ」

「うぅ。………時間があったらな」

王家の方々を見送って家族は家に入った。

「今日は楽しかったです。初めて同年代の方とお話しましたわ」

「それは、良かった」

「疲れただろ、もう休みなさい」

「はい、失礼いたします」

「ああ」

「リリア、しっかり休むのよ」

「分かってますわ、お母様」

「お兄様もおやすみなさい」

「おやすみリリア」


願わくば夜だけでも一時の安らぎを……。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら

風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」 伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。 男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。 それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。 何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。 そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。 学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに! これで死なずにすむのでは!? ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ―― あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?

【完結】復讐は計画的に~不貞の子を身籠った彼女と殿下の子を身籠った私

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
公爵令嬢であるミリアは、スイッチ国王太子であるウィリアムズ殿下と婚約していた。 10年に及ぶ王太子妃教育も終え、学園卒業と同時に結婚予定であったが、卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されてしまう。 婚約者の彼の隣にいたのは、同じ公爵令嬢であるマーガレット様。 その場で、マーガレット様との婚約と、マーガレット様が懐妊したことが公表される。 それだけでも驚くミリアだったが、追い討ちをかけるように不貞の疑いまでかけられてしまいーーーー? 【作者よりみなさまへ】 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

突然現れた自称聖女によって、私の人生が狂わされ、婚約破棄され、追放処分されたと思っていましたが、今世だけではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
デュドネという国に生まれたフェリシア・アルマニャックは、公爵家の長女であり、かつて世界を救ったとされる異世界から召喚された聖女の直系の子孫だが、彼女の生まれ育った国では、聖女のことをよく思っていない人たちばかりとなっていて、フェリシア自身も誰にそう教わったわけでもないのに聖女を毛嫌いしていた。 だが、彼女の幼なじみは頑なに聖女を信じていて悪く思うことすら、自分の側にいる時はしないでくれと言う子息で、病弱な彼の側にいる時だけは、その約束をフェリシアは守り続けた。 そんな彼が、隣国に行ってしまうことになり、フェリシアの心の拠り所は、婚約者だけとなったのだが、そこに自称聖女が現れたことでおかしなことになっていくとは思いもしなかった。

【完結】些細な呪いを夫にかけ続けている妻です

ユユ
ファンタジー
シャルム王国を含むこの世界は魔法の世界。 幼少期あたりに覚醒することがほとんどで、 一属性で少しの魔力を持つ人が大半。 稀に魔力量の大きな人や 複数属性持ちの人が現れる。 私はゼロだった。発現無し。 政略結婚だった夫は私を蔑み 浮気を繰り返す。 だから私は夫に些細な仕返しを することにした。 * 作り話です * 少しだけ大人表現あり * 完結保証付き * 3万5千字程度

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。

もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」 隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。 「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」 三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。 ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。 妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。 本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。 随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。 拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。

愛する人が姉を妊娠させました

杉本凪咲
恋愛
婚約破棄してほしい、そう告げたのは私の最愛の人。 彼は私の姉を妊娠させたようで……

処理中です...