大丈夫のその先は…

義父と私

入るよ。朝の9時ノックの音にぼーっとする頭で返事する。朝の回診は好きじゃない。問い詰められる空間が嫌いだ。

「…実来ちゃん？実来ちゃん聞いてる？」どう切り抜けようか考えていたら義父さんの話もまともに聞いていなかった。

もうそろそろ家に帰してくれないかな～なんて期待するだけ無駄なこと、聞いたって心配そうで申し訳なさそうな顔をしながらごめんね、今は無理なんだ、言われるに決まっている。はぁ、もう何度目かも分からない溜め息が漏れる。どうせ何をしてもこれ以上良くなることはないし、徐々に悪化していくのだ。今くらい自由にさせてくれてもいいのではないかと、次第に怒りが湧いてくるのを感じた。

「私の気持ちも知らないで、勝手ばかり。もうほっといてよ！」言いきってからはっとした。こんなこと言いたかったわけじゃないし、お義父さんに自分は何を言っているのだ。

「あっ、ごめ、ごめんなさい…」

「…実来ちゃんがきちんと話してくれないと分かることも分からない。今は心の整理ができていないようだからまた日を改めて来るね。でもひとつだけ…医者が本当は言ったら駄目なんだろうけど…大丈夫」私はお義父さんの方を見なかった。静かにドアの閉まる音がする。おそらく、出ていったのだろう。


「…大丈夫じゃないこと私が一番知ってる」




実来ちゃんから話を聞くこともできなかっただけでなく、怒らせてしまった。それに…やはり諦めるわけにはいかない。

「そういえば、新薬の治験がきていたな…実来ちゃんにも使えたらいいのだけど。相談してみるか」後悔していては進めない、ここで留まっているわけにはいかないのだから。