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貴方の瞳は誰のもの?
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「綺麗な瞳だね」
「ありがとう、僕の自慢なんだ!」
少年と少女が初めて出会ったのは緑が溢れキラキラと光が差している綺麗なところで、虹の出ている日だった。護衛とはぐれてしまい少し彷徨って歩きたどり着いた池のほとり。
「君は誰?」
「私?私は精霊よ」
「精霊?人ではないの?」家からあまりでたことがなく、家族以外の他者と関わるのが初めてで人と精霊の違いも分からない。ただ綺麗な女の子だと思った。
「ええ、気になるなら自分で調べて」表情を変えずに淡々と池のさらに遠くを見ているようにも見える。少年には少女が何を見ているのか、見えているのか分からない。でも精霊について知れば分かるのだろうと思った。
まだ話したい。知りたい。また会える?純粋な少年は新たな出会いに喜び、再開することを望んだ。
「ええ、きっとね」
「そっか、じゃあまたね。次に会う時には精霊について知っておくから」
「ええ」これは少年にとって初めての出会い、少女にとっては懐かしい出会い……。
少年は家に帰り両親に家の裏で精霊に会ったことを伝えた。両親はその精霊と会話できたことに驚き、話すことのできる精霊は上位種であることを少年に教えた。そして我が子は天才なのだとお祝いをすることになったのは仕方がないのだと思う。
上位種の精霊はここ数百年誰も見ていなかったから。
その後少年は学園に入り精霊や魔法について深く学んだ。少年の頭の片隅にはあの時の精霊の少女のことがあったのだろう。
月日は流れる。
初めての出会いから数年後。偶々訪れた同じ場所で再開を果たす。前回と違うことは少年が青年へと成長を遂げていること。
「久しぶりね」
「会いたかったです…私は精霊様について知りました」その先を促す視線に青年は高まる気持ちを抑えつつ言葉を続ける。
「精霊様は私と同じ瞳を持っているそうですね」
「そう、ね」
「貴女は何故違う瞳を?」それはあまりにも純粋な疑問。あの時から何一つ変わっていない心地よい程の清さ。
「ふふ、どうしてだと思う?」
「分かりません」
「貴女は知らなくてもいいわ」精霊であることは疑いようがない。あの時から何一つ変わっていないのだから。でも少女は何も話してくれない、自分はこれ以上深入りするべきではないのだろう。
「そうですか。そう言えば私は精霊と契約したんです」
「そう、良かったわね」少し動いた表情に青年は嬉しくなる。見て欲しい、そう思った。
「ソル!」青年の一言でそこには白銀の髪をもつ美男子が現れる。
「何用だ?」精霊とは基本仲良くは慣れない。力を貸して貰う以外に関わることはなかった。昔は仲良くしていたらしいが、上級精霊が見られなくなってからその関係も終わったのだと習った。
何用かと聞かれればいつもと違い特出した用などない。ただ少女に…そう思い少女を横目にソルと向き合う。
精霊のソルは契約者の青年の目線の先を見、そして驚き、目を見開いた。「精霊王、様?そんな、まさか…」
「久しいな」隠し立てのできない確信めいたソルに少女は言葉を紡ぐ。数千年経とうが、彼らの容姿に変化などあり得ないのだ。
「お会いできて光栄です。皆がどれほど探し、再会を夢見ていたか」畏敬の念を抱きながらその目は少女を離さない。
「ソル?精霊王様!?この精霊様が?」
「なるほど、私はそなたの瞳に惹かれたのか」ソルは疑問が解けた様に納得する。
「瞳?どう言うことです?ソル説明をお願いします」少女とソルの会話に青年は全く付いていけない…。
「精霊王様、何故です?この様な……。いや、だからか…。精霊王様に返して差し上げなさい。それは精霊王様のモノです」
「何のことです?私は何一つ取っていないのに」青年には身に覚えなどない、あるはずがないのだ…。本当に?精霊なのに精霊の瞳を持たない少女。人間なのに精霊のような瞳を持つ自分。自分は何もしていない。初めて会ったときからそうだった。なら、何故?
「やめろ、月…いや、今はソルか…。私は望んでいないのだ」
「いえ、なりません。皆待ちわびているのですよ」精霊王様だけの話ではないのです。その目はもう離さないと語っている。
「しかし…分かった。説明をしよう、判断はそこにいる青年に任せる。場合によってはまた暫く皆には会えないがそれも運命ということだ」分かったな?退かないソルに妥協案で模索する。
「……精霊王様が仰るなら」有無を許さない提案にソルは渋々了承する。
そして少女は青年の方に向きとても簡潔に説明する。「青年よ、それは、そなたの瞳は私のモノだ」理解したくない事実と心の中にあった自分の答え。そんなはずないと思いたかった。
「迷うまでもありません、返して差し上げなさい」
「ソル!」
「…申し訳ありません」
「詳しい説明は必要か?」
「お願いします」青年は分からなかった。何故自分が少女の瞳を持っているのか。そこだけがいくら考えても分からない。
「遥か昔のことだ。そなたの先祖はこの国の悲惨な現状を打開したいと願ったのだ。そこにたまたま居たのが私。私はそなたの先祖に狙われた。当時上位種の精霊はさして珍しくはなかった。きっと間違われたのだろう…。私は精霊王であるから人を傷付けるのを好まない…」
「まさか…」
「そなたが考えていることはおそらくほとんど正解だ。私は捕まった。子どもが怪我をしていてな、その手当てをしようとしていた時に。逃げようと思えば簡単に逃げれただろう。愚かなことに、私は少し興味を持ってしまった。これ以上は…と思い離れようとした時には禁術を使用され、気が付いたら森にいた」…精霊界には戻れなくなってもう数千年は経つよ。そう話す少女は少し寂しそうに思えた。
「さて、そなたはどうしたい?(真実を知って)」少女は意地悪な質問だと理解していた。すぐに答えなど出ないだろうとも。それでも良かった。もともと話すつもりなどなかったのだから。…待ちわびていたのは確かだったが精霊にとって、いや自分にとって青年が老いて亡くなるまで大した時間ではない。数千年ここにいたのだ、あと少し青年の生涯を見守ることさえ問題ない。
「私は…」青年はどうするべきなのか必死に頭を働かせているようだった。
「他の精霊が五月蝿くてな、別にそなた一人くらい待っても良いのだぞ?」それは今も昔も変わらない少女の優しさ。人間を信じ愛おしく思う精霊王の本心。
「考えさせてください」そう一言言うと青年は足早に立ち去っていく。少女は追うことはせず、静かに見送った。
そして二度と少女と青年は会うことがなかった。
家に帰った青年は部屋に籠った。考えをまとめようとしたのだ。学園長は青年の契約時に上位種の精霊はソル以外もう数百年も見られていないと言っていた。先祖がしたことが理由だったのだ。今分かった、分かってしまった。精霊の恩恵は莫大なものだ。人が思っている以上に…。青年は果てしないものをその身に背負ってしまった様に感じられた。
青年と少女の再会から更に数年後。少女のもとに精霊の瞳が返ってきた。「なるほど…」これがそなたの選択か……。
人間は本当に愚かな選択ばかりする。精霊たちも精霊たちだ。仕方なかった。では済まないのか…。あの時…、いやもう…。
「願わくは幸せに天寿を全うできますように…」少女は旅立つ青年の魂を暖かな光とともに見送った。
「ありがとう、僕の自慢なんだ!」
少年と少女が初めて出会ったのは緑が溢れキラキラと光が差している綺麗なところで、虹の出ている日だった。護衛とはぐれてしまい少し彷徨って歩きたどり着いた池のほとり。
「君は誰?」
「私?私は精霊よ」
「精霊?人ではないの?」家からあまりでたことがなく、家族以外の他者と関わるのが初めてで人と精霊の違いも分からない。ただ綺麗な女の子だと思った。
「ええ、気になるなら自分で調べて」表情を変えずに淡々と池のさらに遠くを見ているようにも見える。少年には少女が何を見ているのか、見えているのか分からない。でも精霊について知れば分かるのだろうと思った。
まだ話したい。知りたい。また会える?純粋な少年は新たな出会いに喜び、再開することを望んだ。
「ええ、きっとね」
「そっか、じゃあまたね。次に会う時には精霊について知っておくから」
「ええ」これは少年にとって初めての出会い、少女にとっては懐かしい出会い……。
少年は家に帰り両親に家の裏で精霊に会ったことを伝えた。両親はその精霊と会話できたことに驚き、話すことのできる精霊は上位種であることを少年に教えた。そして我が子は天才なのだとお祝いをすることになったのは仕方がないのだと思う。
上位種の精霊はここ数百年誰も見ていなかったから。
その後少年は学園に入り精霊や魔法について深く学んだ。少年の頭の片隅にはあの時の精霊の少女のことがあったのだろう。
月日は流れる。
初めての出会いから数年後。偶々訪れた同じ場所で再開を果たす。前回と違うことは少年が青年へと成長を遂げていること。
「久しぶりね」
「会いたかったです…私は精霊様について知りました」その先を促す視線に青年は高まる気持ちを抑えつつ言葉を続ける。
「精霊様は私と同じ瞳を持っているそうですね」
「そう、ね」
「貴女は何故違う瞳を?」それはあまりにも純粋な疑問。あの時から何一つ変わっていない心地よい程の清さ。
「ふふ、どうしてだと思う?」
「分かりません」
「貴女は知らなくてもいいわ」精霊であることは疑いようがない。あの時から何一つ変わっていないのだから。でも少女は何も話してくれない、自分はこれ以上深入りするべきではないのだろう。
「そうですか。そう言えば私は精霊と契約したんです」
「そう、良かったわね」少し動いた表情に青年は嬉しくなる。見て欲しい、そう思った。
「ソル!」青年の一言でそこには白銀の髪をもつ美男子が現れる。
「何用だ?」精霊とは基本仲良くは慣れない。力を貸して貰う以外に関わることはなかった。昔は仲良くしていたらしいが、上級精霊が見られなくなってからその関係も終わったのだと習った。
何用かと聞かれればいつもと違い特出した用などない。ただ少女に…そう思い少女を横目にソルと向き合う。
精霊のソルは契約者の青年の目線の先を見、そして驚き、目を見開いた。「精霊王、様?そんな、まさか…」
「久しいな」隠し立てのできない確信めいたソルに少女は言葉を紡ぐ。数千年経とうが、彼らの容姿に変化などあり得ないのだ。
「お会いできて光栄です。皆がどれほど探し、再会を夢見ていたか」畏敬の念を抱きながらその目は少女を離さない。
「ソル?精霊王様!?この精霊様が?」
「なるほど、私はそなたの瞳に惹かれたのか」ソルは疑問が解けた様に納得する。
「瞳?どう言うことです?ソル説明をお願いします」少女とソルの会話に青年は全く付いていけない…。
「精霊王様、何故です?この様な……。いや、だからか…。精霊王様に返して差し上げなさい。それは精霊王様のモノです」
「何のことです?私は何一つ取っていないのに」青年には身に覚えなどない、あるはずがないのだ…。本当に?精霊なのに精霊の瞳を持たない少女。人間なのに精霊のような瞳を持つ自分。自分は何もしていない。初めて会ったときからそうだった。なら、何故?
「やめろ、月…いや、今はソルか…。私は望んでいないのだ」
「いえ、なりません。皆待ちわびているのですよ」精霊王様だけの話ではないのです。その目はもう離さないと語っている。
「しかし…分かった。説明をしよう、判断はそこにいる青年に任せる。場合によってはまた暫く皆には会えないがそれも運命ということだ」分かったな?退かないソルに妥協案で模索する。
「……精霊王様が仰るなら」有無を許さない提案にソルは渋々了承する。
そして少女は青年の方に向きとても簡潔に説明する。「青年よ、それは、そなたの瞳は私のモノだ」理解したくない事実と心の中にあった自分の答え。そんなはずないと思いたかった。
「迷うまでもありません、返して差し上げなさい」
「ソル!」
「…申し訳ありません」
「詳しい説明は必要か?」
「お願いします」青年は分からなかった。何故自分が少女の瞳を持っているのか。そこだけがいくら考えても分からない。
「遥か昔のことだ。そなたの先祖はこの国の悲惨な現状を打開したいと願ったのだ。そこにたまたま居たのが私。私はそなたの先祖に狙われた。当時上位種の精霊はさして珍しくはなかった。きっと間違われたのだろう…。私は精霊王であるから人を傷付けるのを好まない…」
「まさか…」
「そなたが考えていることはおそらくほとんど正解だ。私は捕まった。子どもが怪我をしていてな、その手当てをしようとしていた時に。逃げようと思えば簡単に逃げれただろう。愚かなことに、私は少し興味を持ってしまった。これ以上は…と思い離れようとした時には禁術を使用され、気が付いたら森にいた」…精霊界には戻れなくなってもう数千年は経つよ。そう話す少女は少し寂しそうに思えた。
「さて、そなたはどうしたい?(真実を知って)」少女は意地悪な質問だと理解していた。すぐに答えなど出ないだろうとも。それでも良かった。もともと話すつもりなどなかったのだから。…待ちわびていたのは確かだったが精霊にとって、いや自分にとって青年が老いて亡くなるまで大した時間ではない。数千年ここにいたのだ、あと少し青年の生涯を見守ることさえ問題ない。
「私は…」青年はどうするべきなのか必死に頭を働かせているようだった。
「他の精霊が五月蝿くてな、別にそなた一人くらい待っても良いのだぞ?」それは今も昔も変わらない少女の優しさ。人間を信じ愛おしく思う精霊王の本心。
「考えさせてください」そう一言言うと青年は足早に立ち去っていく。少女は追うことはせず、静かに見送った。
そして二度と少女と青年は会うことがなかった。
家に帰った青年は部屋に籠った。考えをまとめようとしたのだ。学園長は青年の契約時に上位種の精霊はソル以外もう数百年も見られていないと言っていた。先祖がしたことが理由だったのだ。今分かった、分かってしまった。精霊の恩恵は莫大なものだ。人が思っている以上に…。青年は果てしないものをその身に背負ってしまった様に感じられた。
青年と少女の再会から更に数年後。少女のもとに精霊の瞳が返ってきた。「なるほど…」これがそなたの選択か……。
人間は本当に愚かな選択ばかりする。精霊たちも精霊たちだ。仕方なかった。では済まないのか…。あの時…、いやもう…。
「願わくは幸せに天寿を全うできますように…」少女は旅立つ青年の魂を暖かな光とともに見送った。
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