異世界探訪記

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理解の遠い場所

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 この世界には不思議な事が多くある。けれど、それは〝理解出来ない〟訳ではない。だから、〝理解出来ない〟という事はまた別の事柄なのだろう。けれども、これはその〝理解出来ない〟事柄の話だ。



「理解出来ない」
 そう言ったのは私だったのか彼だったのか。何方ともなくお互いをそう称した。それは、断絶の様で断絶では無かった。分かりやすく言葉にするならば、お互いを区分したのだろう。私と彼は決して相互理解出来ない存在なのだと。だから私は、彼について語る言葉を持ち合わせない。彼について私は理解する事が出来ないから、上辺だけの話しか語り得ないのだ。

 思えば彼と会ったのも不思議な場所だった。其処では、確たる存在が居ない場所で、迷い込んだ私は自分の存在が霞む様な不安定さを感じたのだ。けれど、私は私の存在を見失わずに其処を歩けた。それは、私が自身を不安定な存在なのだと理解していたからなのだろう。それが、その場所の特徴であり全てだった。
 〝理解出来る〟事ならば存在し、〝理解出来ない〟事はあやふやに溶けて消えてしまう。そんな不思議な場所だった。普通の人であれば、そんな場所があり得るのだと〝理解出来ない〟から、その場所を見る前に霧散してしまう。だから、その場所に辿り着けないし、尚の事、そんな不思議な場所があると信じられず〝理解〟から遠ざかってしまう。
 だけど、私はこの世界でならどんな事でも起こり得ると〝理解〟していたのだろう。何となく思っていたに過ぎないはずだったのだけど、迷い込めてしまった以上、そういう事になるはずだ。

 ともあれ、私はそんな不可思議な場所に居た。そして彼とあったのだ。けれど、果たしてそれが彼であったのか彼女であったのかは曖昧だ。それは、私達が姿を現す前に言葉を交わし合ったから。
 私と彼は一事が万事噛み合わなかった。私が此処に「迷い込んだ」と言えば、彼は此処に「逃げてきた」と言った。私が此処で「誰とも会いたく無かった」と告げれば、彼は此処で「誰かに会えてよかった」と告げた。私が「会わなければよかった」と口にしたら、彼は「会えて良かった」と口にした。そして、私と彼はお互いにお互いの事を「理解出来ない」と称した。

 〝理解出来ない〟ものは存在し得ないこの場所で、お互いが〝理解出来ない〟ものとなった。だから、二人してこの場所から放り出されたのだろう。気付いたら、誰も居ない荒野に私は一人佇んでいた。



 その後、私が再びあの場所へ行く事は出来なかった。暫く後に一度、迷い込んだ場所に程近い荒野に赴いたけれど、見つける事は叶わなかったのだ。
「はぁ~あ」
 思わず吐いた落胆のため息は、偶然近くにいた男のものと重なり合って風に吹かれ消えていった。
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