興醒めの瞬間

ゴカンジョ

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朝チュン

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「おはよう、朝だよ」

 小鳥が気持ちよさそうにチュンチュンとさえずる中、若い男の子の、少し甘えたような柔らかい声が聞こえる。

 目を覚ますと、見慣れた板張りの天井が見えた。朝の清らかな空気に包まれたベッドの上で、右向きで寝ていたはずの私の身体は仰向けになっていて、掛け布団の下ではガニ股になった両足がだらしなく伸びていた。

「おはよう、起きて。朝だよ」

 起きようとしない私にしびれを切らすように、男の子が再び、吐息多めのくすぐったい声を出す。私はゆっくり「ウーン」と伸びをする。それから仰向けのまま、近くにあるサイドテーブルに左手を伸ばした。

「おは」

 キャスター付きのサイドテーブルをゴロゴロと近くまで引き寄せた私は、そこから寝たままの姿勢でテーブルの上を手でワサワサと探る。スマートフォンの感触を確認すると、画面も見ないでバンバンと雑にタッチする。よく知らない男性声優の声が止まった。

 窓の外で楽しげに歌っていた小鳥が「チュチュンッ」とどこかに飛び去ると、代わりに近所で巣を作ったらしいムクドリが「ギャーギャーギャー」と、けたたましく叫んだ。どこかのオッサンが「ヴえぇっ!」とえづく声が聞こえる。

「んああああぁぁっ」

 私以外誰もいないベッドの中で、私は誰に気兼ねすることなく腹の底から「起きたくない」という意思をうめき声で表す。それから枕に顔をうずめるようにしてうつぶせになった。

「会社に隕石でも落ちないかなぁ。誰も死なない程度の被害で」

 ムクドリの鳴き声をげんなりと聴きながら、私は枕に顔を埋めたままくぐもった声を出した。昨日、会社の後輩の女の子に教えてもらったモーニングコールアプリが、スヌーズになって再び、今大人気らしい男性声優の声で「おはよう」とつぶやき始める。

 誰も起こしてくれない以上、私はこの身一つで起き上がらなくてはならない。五年の社会人生活で培ってきた「おひとり様生活スキル」を今、発揮するのだ。

 身体をガバッと起こして布団を剥ぐと、ベッドの上で正座の姿勢になって一瞬の一時停止をしたのち、素早くベッドから降りてスマホを手に取る。六時十二分。四月十一日。火曜日。不燃物の日。

「イケボじゃダメだったなぁ」

 私は立ったままスマホからモーニングコールアプリを削除した。

 勢いよく起きた甲斐もなく、というか起きることで力を使い果たしたというべきか、ともかく私はいつものように、もたもたと朝の準備を進める。

 特に見る気もないテレビを惰性でつけて、「五分でできる時短メイク」という動画をスマホで見ながら、ほかの人が五分でできるらしいメイクに二十分以上かける。クオリティは五分以下だ。

 ローテーブルに広げたメイク道具をちまちまと片付け、朝が楽という理由で四年間ずっと同じショートヘアを、ヘアアイロンで毎度おなじみの形にセットする。それから無難で代り映えしない白のブラウスと黒のパンツ、ベージュのジャケットを選ぶ。どうせ仕事に行くだけだから、オシャレに着飾る必要なんて何もない。

 つけっぱなしのテレビに、よく見るタイプのイケメン集団が注目のアイドルグループとして紹介されていた。しばらくじっと見てから、そのままテレビを消した。


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