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中級冒険者の章

第92話 猫かぶりキャット

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 猫ちゃんに見せてもらったセクシー女優さんの生々しいエッチは最高だった。ホテルの一室だったのにあんなリアルな映像を見れたのは、さすが近未来的な技術だと感動してしまった。

 チロル先生によると、どうやらあのホテルはヤリ部屋と呼ばれているらしく、VIPな方達が専用で使っているそうなのです。そしてそこには無数のカメラが仕込まれていて、会員同士が覗き見して楽しんでいるのだ。芸能人も来るらしいよ?

 チロルには御礼としてちゅる~んを大量にプレゼントしました。いいニャンコを持ち帰ったものですねぇ。


 そして昨晩、ちょっとした実験をしてみた。試しにチロルと一緒に寝てみたのだ。だけど残念ながらギルドに連れて行く事は出来ませんでした。前にビアンカちゃんがアイテム持って行けるって言ってたのにどういう事だろね?

 こうなったらチロルの面倒は一生ボクが見ようと決めた。べ、別にエッチな映像が見たい訳じゃないんだからねっ!

 あと残念なお知らせがあります。ギルドで恵美さんに仲間募集の話を聞いたけど新しい仲間は誰も来ませんでした……。そんな感じでいつも通りにソロプレイで適当にアイテムを持ち帰って来て終わりました。



   ◇



『昨夜未明、衛星軌道上に謎の物体を観測したとアメリカの――』

 テレビのニュースは何か宇宙関係の話題で持ち切りだった。お隣の大陸からミサイルが宇宙に飛んでったんでしょ? ボク知ってるんだから!

 それよりも今日の天気予報はまだですか? 朝はやっぱりお天気お姉さんを見ないと始まらないのだ。七海さんが居ないからじっくりと見られます。ぐへへ。

「ねぇチロル、そんなところで何やってんの?」

 チロルが窓際に立ってバンザイする感じで立っている。元気玉を作ってる猫ちゃんですねぇ。日光浴かな?

『ちょっと静かにするニャ、いま大事なんだニャ』

「はーい」

 チロルに構ってもらえないので、一人寂しくクロワッサンをモキュモキュと頂くのでした。うまうま。






 ご飯を食べ終わってもチロルは日光浴を続けていた。暇を持て余したのでお部屋の掃除をする事にした。年末だし、綺麗にして七海さんを驚かせようという作戦だ。

 いま流行りのアニメソングを歌いながら掃除機でウィーンってやっていたところ、急にチロルが叫び声を上げた。

『や、ヤバイのニャ!!』

 掃除機を止めて急いでチロルのところへ向かった。もしかしてネットワークに侵入しているのがバレたんじゃ……。侵入じゃなくて盗聴だっけ? 良く分からないニャン。

「どうしたのチロル、もしかして逮捕されちゃう!?」

 さっきまで居た窓際ではなく、キャットタワーの上で丸まっているチロルを発見。毛が逆立っているぞ……。

『も、もうおしまいニャ。ヤバい奴が来るニャ……殺されるニャン……ガクガクブルブル』

「ええぇ……」

 慌ててキャットタワーを飛び降りたチロルがテレビの後ろに隠れてしまった。覗いてみると伏せた状態で尻尾を丸めている。耳がペッタンコだしガチで怯えている様子だ。一人でブツブツと言っているだけで何が何だか分からない。『どうしてここにあの御方が』とか『この魔力は間違いないニャ……』って言ってる。魔力?

 何があったのか考えていると玄関チャイムが鳴った。もしかして……。

「じゃじゃ~ん! 彼女がハワイに行って寂しいおにーちゃんを慰めに愛しのビアンカちゃんが来たよ~♡」

「び、ビアンカちゃん!?」

 玄関を出るとエチエチメイド服を着たビアンカちゃんがいました。



   ◇



 久しぶりの一人暮らしを満喫しようと思ったらビアンカちゃんが遊びに来ました。七海さんが居ないチャンスに狙って来たのだろう。バッタリと二人が出会ったら修羅場になっちゃうからね。最近はデレデレな七海さんだけど、ふとしたきっかけでヤンデレさんになっちゃう恐れがあります。七海さんは笑顔がいいんですよ。浮気ダメ絶対。

 そんなボクの前で誘惑するビアンカちゃん。露出の激しいエロいメイド服を着て紅茶を淹れてくれている。でも何故かわざとらしく腰を振りながらパンチラサービスをしているのでした。純白もいいよね!

「ほらチロル、大丈夫だから出て来なよ」

『…………』

 コッソリと話し掛けても返事をしてくれない。気配を消して隠れたまま出て来ないのである。スペースコロニーの住人であるチロル、そしてサキュバスクイーンのビアンカちゃん。二人の関係は知らないけど、もしかしたら敵同士とか?

「きゃはっ、お待たせしましたご主人様~! 熱いからフーフーしてあげるねっ。フーフー♪」

「えへへ。ちょっと照れますね」

 上目遣いでボクを見ながらフーフーする姿は可愛いです。このまま押し倒してチュッチュしたい気持ちをグッと抑える。美少女にフーフーしてもらった紅茶はいつもより甘く感じました。仲良くソファーに座ってお茶を飲んでいるけど、ビアンカちゃんが来ると事件が起こりそうで怖いなぁ。

「えっと、今日は突然どうしたんですか?」

「…………へぇ。せっかくビアンカちゃんが遊びに来てあげたのにそんな事言うんだぁ。もしかしておにーちゃん、ビアンカちゃんのこと飽きちゃったのかなぁ?」

「そ、そんな事ないですー! ビアンカちゃんと会えて嬉しいですー!」

 ヤバい、めっちゃ失礼な事を聞いてしまった。

 ビアンカちゃんとサキュバスの館でエッチしてからというもの、二人きりというのはこれが初めてかもしれない。魂の契約を交わしているとはいえ、寂しい思いをさせてしまったのだろうか。いつも助けてくれるビアンカちゃんが寂しいのなら癒してあげたい。

 そんな気持ちが通じたのだろうか、ビアンカちゃんがボクの手を握って来た。

「こうやっておにーちゃんと二人っきりでイチャイチャしたかったから嬉しいな~。おにーちゃん、大好きだよ♡」

「ビアンカちゃん……!」 

 自然と見つめ合いキスをした。唇を合わせるだけのソフトなキスだけど、心がポカポカと暖かくなるのが分かった。まだ日が高いけど、いいムードだしこのままイチャラブエッチの開始か……そう思ったら視線を感じた。

『…………にゃ』

 そんなボク達を見つめる猫がいます。テレビの裏から顔を出し、口を大きく開けてこっちを見るチロルが……。さっきまでビクビクと怯えてたのに大丈夫なのかな?

 さすがにあれだけ見られるとビアンカちゃんにもバレました。

「わぁ、可愛い猫ちゃんだー! おいでおいで~」

『にゃんにゃんニャーン!』

「…………」

 尻尾をピーンと立てて興味津々な感じでビアンカちゃんに近づいて行くチロル、どうやら媚びを売る作戦に切り替えたようだ。きっと会話を聞いて無害だと判断したのだろう。でも空気を読んで欲しかった。イチャラブエッチはお預けです。

 それにしてもチロルはあざとい。抱っこされたビアンカちゃんのおっぱいに顔を擦り付けている。ちょっと代わってもらってもいいですか?

「この子どうしたの~? 猫なんて飼ってなかったよね。人懐っこくて可愛いね~」

「色々あって一緒に暮らす事になったんです。チロルって言います」

「チロルちゃんだね。モフモフで良い子だね~」

『にゃーん!』

 美少女メイドとデブ猫の組み合わせはいいですね。可愛いので写真をパシャパシャ撮っちゃいますよ。一通りナデナデして満足したビアンカちゃんがチロルを持ち上げて顔を覗き込んでいる。チロルも大人しく従っていた。

 そんな二人を見て安心した次の瞬間、ビアンカちゃんから極寒を思わせる鋭い殺気が迸った。

「ねーねーチロルちゃん。どうやってスペースコロニーからおにーちゃんのところに来たの? もしかしておにーちゃんを殺そうとか、考えてないよねぇ?」

『に゛ゃ、にゃーん!?』

 どうやらビアンカちゃんには全部お見通しだったらしい。バレバレなのにアホ猫は猫被ってるよ。諦めろチロル、もうおしまいだ。

 チロルが目をグルグルと回してアタフタしている。さすがに可哀想だから助け舟を出してあげよう。

「実はこんな事があったんです。酒場でチロルが助っ人に来てくれて――」

 理想のヒモ生活という称号のせいで助っ人が雇えないボクの元へ来てくれたチロル、一緒に冒険して持ち帰り金庫に頭を突っ込んで連れ帰ってしまった事を話しました。

「おにーちゃんったら運がいいんだね~。金庫って確かアイテムしか持って帰れないって話だけど……まあアンドロイドなんてアイテムみたいなものだよね♪ チロルちゃん、言っておくけど悪い事したら即スクラップだからね♡」

『ピニャー!? ミャーは悪い事なんてしないニャン。良い子にしてるにゃーん!』

 必死に訴えるチロルは可愛かった。でもアイテム扱いされるチロルにちょっと同情してしまった。スペースコロニーで冒険者相手に無双したチロルが恐れるビアンカちゃんか。一緒にダンジョン攻略した時も指パッチンだけで無双するチートキャラだもんね。恐れるのも分かるかもしれない。

 でもまあ、チロルはもう家族だし、ビアンカちゃんとも仲良くしてくれたらいいなと強く思った。
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