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初級冒険者の章
第52話 女子会(七海視点)
しおりを挟む生エッチ発言でアタフタするユウ君を押し倒したくなったのを我慢して紫苑様と家を出た。あのままお泊りしたかったけれど紫苑様からの圧力に屈してしまったのだ。
「七海、話があります。部屋まで来て頂戴」
「わかりました、紫苑様」
ユウ君の部屋から紫苑様と一緒に出た瞬間、さっきまでの穏やかな雰囲気から一転して普段の厳しい紫苑様になった。これが天王寺グループの名を世界に知らしめた女帝、天王寺紫苑の普段の姿である。
天王寺グループと言えば車以外のあらゆる分野で活躍する世界屈指の大企業である。何故かユウ君は知らないようだけど、きっとエッチな事ばっかり考えてるんだと思う。
紫苑様の後に続いてエレベーターを上がり42階にやって来た。この天王寺スカイヒルズは43階建てになっており、40階から上は全て紫苑様の私物である。ユウ君は知らないだろうけど、紫苑様が自らの手でサポートするというのは只事ではないのだ。
「適当に座ってなさい。珈琲で良いわね?」
「はい、ありがとうございます」
42階にある紫苑様の家には初めて入った。間取りはユウ君のお部屋と同じだけど家具などの調度品はどれも一級品だ。
フカフカのソファーに座りこれからの事を考える。紫苑様は夢の世界で入手出来るファンタジーなアイテムを狙っている。可愛いユウ君が顎で使われるのは癪だけど、逆を言えば紫苑様がバックについてくれるのだ。これ以上に心強い事は無いだろう。
そんな事を考えていると良い香りの珈琲を淹れてくれた。紫苑様が淹れた珈琲を飲める人間はそういないだろう。
「頂きます」
「ええ、どうぞ。安物の豆だからイマイチかもしれないけどね」
対面に座った紫苑様がニヤリと笑いながら私を見つめる。正直なところ珈琲の味は分からなかった。年に数回しか会わない紫苑様は何を考えているのか読めない人で、少し苦手だったのだ。
天王寺グループの跡取りはお兄様だろうし、私は紫苑様と関わる事はほとんど無いと思っていた。
「ユウタさん……アレはなかなか可愛い子ですね。日向さんを更に可愛くしたような愛くるしさがありますが、ちょっとアホっぽいところが魅力的ね」
「はい、一目惚れしてしまいました」
「良い事です。あなたは恋愛に興味が無さそうだったので不安だったのです。それに薫さんの占いでは運命の人と出ていたのでしょう?」
「正しくは運命の出会いと書いてありましたが、運命の人だと信じています」
「そう。援助が必要なら遠慮なく言いなさい」
「ありがとうございます」
日向さんというのは薫さんのお兄様である。小さくて可愛らしいけど、私のタイプとはちょっと違うのだ。
そして今の会話の中から読み取れるのは、遠回しで『ユウタを絶対に手に入れろ』と言っているのだ。つまりそれを伝えるために呼ばれたのだろう。
せっかく紫苑様とお話するチャンスが出来たので思い切って聞いて見る事にした。
「あの、質問よろしいでしょうか?」
「良いわよ。何でも答えてあげるわ」
私は気になっていたあの話をしてみる事にした。地位も名誉も全て手に入れた紫苑様が欲しがるあの薬について……。
「ユウ君にお願いした『幸せの薬』とはどのようなモノなのでしょうか。それとどこからそんな情報を?」
「ユウタさんには内緒だけど、あれは若返り薬よ。七海のような若い女性には分からないでしょうけど、アレを飲めば自身の最盛期まで若返るそうよ。情報はとある悪魔と取引して聞いたのよ」
「……サキュバスクイーンのビアンカさんですね?」
「あら、七海も会った事があるのね。色々と思うところはあるだろうけど、彼女はビジネスパートナーなんだから喧嘩しちゃダメよ?」
そうか、病院から帰る日の夜に会った時に言っていた取引とはこれの事だったのか。私も若返りに憧れる。ユウ君は年上よりも年下好きかもしれない。
愛するユウ君を独り占め出来ない事に少しは思うところはあるけど、それはもう言わない約束なのだ。
喧嘩なんてする訳がない……そう言おうとしたところ急に隣のソファーが深く沈んだ。まるで誰かが座ったかのように……。
「シオンちゃんったら酷いんだ~。ビアンカちゃんとななみんは一緒におにーちゃんを愛するって決めたんだから喧嘩なんかする訳ないじゃんー。ね、ななみん?」
「え、ええ。ビアンカさんとは仲良しですからね」
「ほらねー! って、シオンちゃんったら驚き過ぎじゃない?」
紫苑様は口を大きく開けて驚いていた。
瞬間移動してきたかのように突然現れたビアンカさん、確かに驚いたけど彼女ならいつ現れても不思議じゃないと思っていた。
「失礼しました。でも急に転移してくるのはマナー違反じゃないかしら?」
「あはっ、残念ながら転移じゃありませーん! しっかりと玄関から入って来たよ。見てこれ、おにーちゃんに貰ったんだ~。暗殺者の指輪って言うんだけど、声以外を認識阻害出来る魔法の指輪なの~」
ビアンカさんの左手の薬指にキラリと光る銀色の指輪、まるで婚約指輪のようなデザインの指輪は羨ましかった。昨夜、ビアンカさんを通じて体験したユウ君とのエッチな勝負は凄かった。私のテクニックなんてまだまだダメだという事を思い知ったけど、次は上手く出来そうな気がするのだ。
「なっ! でも玄関のセキュリティは……」
「開錠の魔法くらい使えるよ?」
「くっ……次からはチャイムを鳴らして下さいね!」
「あはは、ごめんねー!」
今の会話からして紫苑様も全ての情報を持っている訳ではないのだろう。
「それで、今日はどのようなご用件で?」
「もうそんな怒らないでよシオンちゃん! えっとね、実は耳寄りな情報を入手したんだけど知りたい?」
「耳寄りな情報ですか……それの対価は?」
「えへへ、そう難しい話じゃないよ。えっとね、この代官山にあるパンケーキのお店に行きたいんだけど半年先まで予約でいっぱいなんだってー。ビアンカちゃんってさ、甘いものに目がないじゃん? だからね、このお店に行きたいんだよね~。ほらみて、この生クリームが山盛りになったパンケーキ! これめっちゃ美味しそうだし絶対インスタ映えするよねー!」
ビアンカさんがスマホを取り出して紫苑様の隣に移動した。キラキラした目で生クリーム山盛りのパンケーキを力説している。でもこのサキュバスクイーンがインスタ映え?
「あの、ビアンカさん。インスタをやってるんですか?」
「ん~? ななみんはやってないの? 女の子ならみんなやってるんでしょ? ほら、ビアンカちゃんもやってるんだよー! サキュバスクイーンのビアンカって名前だよ♪ ほら、フォロワーも凄い増えて来たんだ♡」
スマホの画面にはかなりエロいサキュバスクイーンのコスチュームに身を包んだビアンカさんの画像が表示されていた。普段は翼や尻尾といったサキュバス由来の部位は隠しているけど、この画像だけならコスプレにしか見えないから問題ないだろう。
「個人の趣味にとやかく言うつもりはありませんが、ビアンカさんの正体がバレたりしたら大変な事になりますからね」
「大丈夫だって。私って貞操観念が高いからね。生涯の相手はおにーちゃんだけって決めてるんだよ~」
「はぁ。私はそういう事を言ってるんじゃありません……もう良いです」
フォロワーはまだ2,000人くらいだけど、エロくて可愛いビアンカさんの事だからもっと増えるだろう。
紫苑様とビアンカさんの話に割り込んでしまったが、紫苑様は誰かに電話を掛けていたようだ。きっと秘書の恵子さんだろう。
「そのお店、明日の朝一で予約を取りました。詳細は恵子から行くと思いますが、くれぐれも問題だけは起こさないようにして下さいね」
「もちろんだよシオンちゃん! えへへ、これでフォロワーどれくらい増えるかな~。っと、そうだ。情報がまだだったね。実はね、若返りに魔法があるって言ったじゃん? あれについて凄い情報があるの~」
「若返りの魔法ですか!?」
「そうそう。時魔法って言うんだよ~」
時魔法……最近どこかで聞いた事があるような無いような?
「はぁ、魔法の名前だけ分かったところで手に入らないならどうしようも無いじゃないの」
「まぁまぁ、そんな落ち込まないでよシオンちゃん! そうだ、とある男の子の話をしようか」
「とある男の子……?」
ビアンカさんが悪巧みを思い付いたような顔を紫苑様に向けた。
あ、男の子という単語で思い出した。ビアンカさんを通じて体験した中で、ユウ君が自分のアソコを魔法で回復させてたやつだ。
「そそ。とある男の子が時魔法をゲットしたんだけどね、彼女にシコシコして貰って空っぽになった自分のアソコに使って楽しんでるんだよ。『これでいっぱい七海さんを気持ち良くしてあげるんだー!』って張り切ってるの。どう、面白いでしょ~?」
「な、なんて勿体無い!!!」
ビアンカさんのテクニックであっという間に果ててしまうユウ君が魔法を使っているシーンを思い出した。魔法を使った時はやる気満々で自信に満ちているのに、シコシコされた後は『らめぇ、もう出ないからやめてぇ』と弱音を吐いているのだ。可愛い。
私も魔法を掛けて貰えば若返るのかな?
「ちなみに、時魔法は使用者のMPで効果が大きく変わるから急激に若返る事はないからね。それにどんなに頑張っても幸せの薬ほどの効果はないから注意してね」
「なるほど。その情報を私にくれたという事はユウタさんを借りても良いという事ですね?」
「うん、良いよ~。ななみんも別に魔法使うくらいいいよね? まあエッチする日とかは遠慮して欲しいけどね~。うひひ、おにーちゃんといっぱい遊べるからね」
「私も別に構いません」
ここでダメと言える人は居ないと思う。
凄く上機嫌になった紫苑様がビアンカさんのためにスイーツをデリバリーしてプチ女子会がスタートした。コレクションしているお酒まで封を開けて大賑わいだ。
普段話せないような事からどうでも良い事まで楽しく笑い合った。少し苦手だった紫苑様への抵抗が少なくなった気がした。
そして最後に、良い感じに酔っ払った紫苑様が私に向かってこう言ったのだ。
「あなたも天王寺家に名を連ねる女です。旦那の管理はしっかりとするのですよ」
「それって……?」
「結婚が決まったら私に言いなさい。盛大に祝福してあげましょう」
お母様は最初から味方してくれていたけど、最大の難関だった紫苑様も味方に付いてくれるなら心強い。これならお父様も文句は言わないだろう。
ユウ君と結婚する気だけど、もう少し恋人気分を味わおうかな。
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