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ひよっこ冒険者の章

第29話 パリピ記念日

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「今日は水曜日、パリピの奴くるかな~」

 気だるい体を起こして時計を見ると朝の7時を指していた。いつも以上に空腹なのはスキルのせいだろうか。もしかして寝ている間に体の悪いところが治ってたり?

 健康優良児なボクに悪いところは無い気がする。あるとしたら…………頭?




 ボクが夏子さんと初体験を済ませた翌日である水曜日、今日は必修科目がある日という事でパリピと会わないといけない。あんまり会いたくないけど七海さんにバリアシステム先生を渡すためだから頑張ろう。

 ちなみに、昨晩のダンジョンアタックは見事に失敗しました。

 地下5階まで順調だったけど、キノコの白濁した液体をピュッピュされたボクは『ちから』が落ちた。でもそれ以上に気力が減ってしまったのです。うへぇ。

 自暴自棄になったボクは近くに寝ているおじいちゃんに八つ当たりしてしまいました。老人虐待と言われてもおかしくない許されざる所業だけど相手はモンスターなのでご安心ください。

 棍棒でたたき起こされたおじいちゃんはボクに魔法を唱えた。睡眠の魔法である。夢の中で睡眠というのは変だけど、身動きが取れずにボーっとしてしまう恐ろしい魔法なのだ。どうやらこの睡眠魔法は5ターンの間ずっと眠り続けるらしく、攻撃をされても起きないのです。そして運の悪い事に新手が現れた。グロいキノコである。

 眠るボクにキノコが特殊攻撃ピュッピュを行い、おじいちゃんに殴られ、そしてキノコのタックルを受けてボクはギルドに戻って来た。きっと老人虐待の罰が当たったのだろう。

「次からはおじいちゃんには優しくしよう」

 洗面所で顔を洗い、鏡に映った自分を見つめる。水も滴る良いイケメン……とは言えそうにない。でも顔が綺麗になった? これならショタっ子アイドルになれるかも。

「おおっ、キスマークが消えてる~」

 ペリペリと絆創膏を剥がしたら消えていた。でもビアンカちゃんの事だからトラップがあるかもしれない。

 用心深いボクは新しい絆創膏をペタっと貼った。

『いひひ、おにーちゃんったら心配性なんだから~。それにビアンカちゃんの魔力が染み込んじゃったからもう遅いもんね~』

 どこからかエチエチな悪魔の声が聞こえたような気がした。

 さて、まだ授業の時間まで余裕があるから実験してみようと思う。部屋の中央に立ち、この場所にマーカーを立てたいと願ってみた。


『マーカー1:自室 をセットしました。残りマーカー数は5です』


「おおっ!?」

 ギルドでは出来なかったけど自分の部屋なら登録出来た。あと5個出来るらしいけどどうしよう。まあ出先からビュビューンとこの部屋に戻れるだけでも十分だよね。

 早速実験してみよう。家を出て少し遠くのコンビニを抜けてちょっと大きな公園へやってきた。鉄棒やジャングルジム、砂場やブランコといった遊具が設置されている。

 試しに砂場の近くに立って自室にテレポートしたいと願ってみた。


『現在の場所は監視カメラ及び複数の視線に晒されています。場所を移動して下さい。全ての条件が揃った場合即座にテレポートを実行します。キャンセルする場合はご指示をお願いします』


「っ!?」

 そんな文字が浮かんだ瞬間、周囲を見渡してみた。

 公園の入り口には監視カメラがあり、車も何台か止まっている。車にはドライブレコーダーがあるのかも? あ、運転手と目が合った。

 そしてボクの事を不審者のように見つめる近所の若奥様がいらっしゃる。平日の朝から公園の砂場で直立不動なイケメンは刺激が強すぎたらしい。どうやらキュンとさせちゃったようだ。

 小走りで植え込みに隠れるように移動したところ、玉ヒュンする感覚が起きた。玉ヒュンって男性にしか分からないかな? タマタマがヒュンってする感じね。

「はっ!? 凄い、部屋に戻って来てる……!」

 まさに瞬間移動だった。でもボクは思った。登録地点を玄関にしようと。床が泥だらけになってしまったのだ。



   ◇



 先週よりも気温が下がり、季節は完全に秋となってしまった。秋という季節は寂しい感じがして好きじゃないけど、ボクにとっては出逢いの季節になるのかもしれない。

 無駄に広いキャンパスを歩きながら思う。今日でボクがフラれてから一週間が経った。そしてそれは、ボクが夢の世界に行けるようになった日数でもある。

 キャンパスをせわしなく移動する学生、恋人同士で手を繋いで歩く学生、疲れ切った死んだ目で俯いている教授……そんな彼らの中にボクと同じように夢の世界に旅立てる人はいるのだろうか。

 ボクがあの世界で得たものは何だろう。スキル、夏子さんのおっぱい、魅力、ビアンカちゃんのキスマーク、夏子さんのおっぱい、あとビアンカちゃんのおっぱいか。ふむ、あんまり変わってなかった。

「どうしたんだそんなところで突っ立って。講義始まっちゃうぞ」

「あ、ホッシー。ちょっと考え事をしててね。そうだ、ボクって一週間前と比べて何か変わったかな?」

「何だ急に。でもそうだな、ちょっと変わったような気がする」

「おお、例えば?」

 ホッシーが立ち止まり、ボクを見てう~んと悩んでいた。魅力が一週間前よりも8上がっている。期待出来そうだ。

「そうだな、まず肌ツヤと髪質が変わったな。今までも女顔だったけどそれに磨きが掛かったっていうのかな、変な色気が出てる感じがする。ニチアサの魔女っ子コスプレすれば冬の有明で巨大囲みが出来るんじゃないか? それに最近のユウはアホっぽさもレベルアップしてるな。まあアホっぽいところもユウの魅力だからな、気にするなよ」

「……えっ? イケメンになったとかそういうのは? それにアホっぽい?」

「いや~、無いな。実はミッチー先輩が初めてお前を見た時、『えっ、あいつ本当に男?』とか言ってたし、姫ちゃんからも『実は先輩がウチのバイト受かったの女顔だったかららしいですよ。最近は特に肌が綺麗になってるから店長が女装させようと狙ってます』って言ってたぞ」

「ガーン……」

 ホッシーの話を信じるならば、ボクは魅力を上げる事で女顔に近づいたという事か? それとアホっぽいって何だろう?

「ねぇホッシー、ボクの魅力って何だろう?」

 気になって聞いてしまった。もしここでボクの恐れている結果が出て来たとしたら……。

「そりゃ今言ったように童顔で小柄なところだろ。それだけじゃなくてアホっぽいところが良いキャラになってると思う。愛されキャラみたいな感じだな。今まで会った男の中で一番可愛いと思うぞ。いろんな意味で」

「男に可愛いって言われても嬉しくないし、そもそも可愛いって言われても嬉しくないよー!!」

 ホッシー曰く、ボクの魅力は小っちゃくて可愛い男の子だと言う。あとアホっぽいところ。そしてその魅力を上げたボクはどうなるのだろうか……?

 ボクは誤解していた。魅力を上げるとモテモテなイケメンになれると自然と思っていたのだ。身長が伸びたり、筋肉がモリモリになったりとか、濃いヒゲが生えてダンディになったりとか、男らしいイケメンになれると思っていた。

 このまま魅力を上げると女になっちゃうのか!? ボクはステ振りを間違ったのだろうか……。あとボクってアホな子なの?



   ◇



「ウェーイ、今日も辛気臭い顔してんなー。そんなんじゃいつまで経っても童貞だぞ?」

 一週間前と同じような事を言われたけど、ステータスが上がったからか、あれだけ苦手意識を持っていたパリピに何とも思わなくなっていた。ギルマスで慣れたからかも?

「あ、上井君。今日もよろしくね」

 パリピが揶揄からかって来るけどボクは未だにホッシーから突き付けられた事実に気落ちしていた。ギルマスの話だとステータスの再振り分けは出来ないらしく、上げた魅力を落とす事は出来ないのだ。

 この世の女性の趣味嗜好はバラバラだけど、多くの女性は『ちょっとアホな童顔で女顔のショタ』よりも『知的で背の高い筋肉質なイケメン』を選ぶだろう。

 つまりボクの事を好きになってくれる女性というのは舞子さんのような特殊性癖を持つ女性しかいないと思われる。七海さんの事は好きだけど、彼女がボクを好きになってくれる可能性は極端に低いのだろう。

 そうか、ボクは舞子さんルートを歩むか生涯独身の二択しかないのかもしれない。

「先週は悪かったな。その、なんだ、ユウタには悪い事をしてしまったと反省している。ミキからもこっぴどく怒られてな、その、スマンかった」

「えっ、そんな大丈夫です。気にしないで下さいー」

 あのウェーイなパリピがボクに向かって頭を下げたのである。この講義や発表を全部ボクに任せてスマホをポチポチしているパリピが殊勝な態度をボクに!?

 もしかしたら今日は事件が起きるかもしれない。それも世間を騒がすような凄い大事件が……。

「それでな、ミキもお前に謝りたいって言ってんだ。良かったらこの後会ってやってくれないか、頼むっ!」

「も、もちろんオッケーだよ」

「そうか、助かる! 実はミキからお前を連れて来なかったら別れるって脅されててな。いや~、助かったぜ」

「…………あ、うん」

 やっぱりパリピはパリピだなーって思った。でもミキちゃんと会えるのは少し嬉しいかもしれない。ミキちゃんの髪はクンカクンカしたくなる綺麗なストレートヘアなのだ。

 それにこれはチャンスだと思った。ストーカーって急に腕を掴んで来たりするんでしょ? ミキちゃん経由でバリアシステム先生を渡して貰えば七海さんも安心だ。

 ミキちゃんはちょっとクールで怖いけど、頑張って親睦を深めたいと思う。




 パリピがちょっとだけ手伝ってくれた講義も終わり、遂にミキちゃんと会う事になった。

「おいおい童貞、な~に緊張してんだよー」

「だ、大丈夫だよ?」

 清楚系なお嬢様のミキちゃんとお話しすると思ったら緊張して来た。ミキちゃんは遠くで見つめるだけで会話した事は無いのだった。

「まあミキは良い女だからな、童貞のお前が気にするのも分かる。だけどあれは俺の女だからな、惚れんじゃねーぞ?」

「あはは、そんな訳ないでしょー」

「ああん? ミキじゃピクリとも反応しないって言いたいのか?」

「そうじゃないってー!」

 面倒くさいパリピと二人で大学を出た。何やらお気に入りの喫茶店があるらしい。

 道中ずっと彼女自慢をするパリピがうざかったけど聞き流し、やって来たのは『紅茶とどら焼き』というお店だった。どら焼きって紅茶に合うの?

 中に入ろうとしたらパリピが立ち止まり、思わぬ発言をした。

「これから俺仕事あるから戻るな。じゃーなー」

「えっ、あのっ、上井君っ!?」

 もしかしてボク、ミキちゃんとマンツーマンでお茶ですか?
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