上 下
4 / 119
ひよっこ冒険者の章

第4話 親切設計でご都合主義なダンジョン

しおりを挟む

 スライムという尊い犠牲によりボクの冒険がスタートした。まるでゲームのようなアッサリとした戦闘に気を良くしたボクは探索を開始する事にしたのだった。

 ゴワゴワとした岩肌が剝き出しなダンジョンなのに明るい親切設計、至れり尽くせりでヌルゲーだと感じ取ったボクは鼻歌を歌いながらスライムをペチンと倒して進むのでした。ふふ、スライムの悲鳴が心地良いですね。

 そして通路を進み次の大部屋に出た。部屋に入った瞬間にマップ情報が更新されて赤い点が3つ、青い点が2つ表示された。そして青くて四角いマークが奥の方にある。

「スライムと……コウモリ?」

 ボクの近くにスライムが1匹ポヨンポヨンと揺れている。まるで昼間会った清楚系色白ビッチギャルの大きなお胸を思わせるプルンプルン具合だった。ボクをこっぴどく振った名も知らぬ彼女もスライムのようにプルンプルンなのか気になったが、確認する事は不可能だろう……。

 そしてスライムの少し奥にパタパタと飛翔しているコウモリが居る。灰色のフワフワな体毛と鋭い牙がチャームポイントな可愛いコウモリだ。

 マップから自分の位置とモンスターの位置を計算して作戦を考える。ターン制なので考える時間は無限にあるのだ。……今更だけど冒険の途中で夢から覚めるとかあるのかな? いや、さっさと敵を倒そう。

 まずはスライムに一歩近寄り距離を詰める。遠距離攻撃の無いボクは脳筋アタッカーの如く近づいて殴るしか出来ないのである。

「むむっ、コウモリが変だ」

 スライムがボクに接近して来たのに対して、コウモリは真横に移動した。ボクに視線を向けている事から敵だと認識されているはずなのにどういう事だ? 良く分からないけどサクっとスライムを倒しちゃおう。ふふ、もうスライムなんて雑魚ですよ。

『ピギィ……』

 非力なボクでも夢の中なら強いのかもしれない。スライムをパンチ2発で倒した次はコウモリに狙いを定めた。コウモリはスライムと戦っている間もウロウロするだけで襲ってくる気配が無かった。

 やる気の無いコウモリちゃんを相手にするか迷ったけど、後ろを向いた瞬間に襲われる可能性を考えて倒す事にした。フワフワと飛行するコウモリにパンチが当たるか疑問だったけど、都合の良いゲームだから大丈夫だろう。

 横を向いているコウモリに接近したところ急にコウモリが襲い掛かって来た!

『キュキュー!』

「うわあぁ!」

 ボクの顔面目掛けて飛んできたコウモリの攻撃を受けてしまった。ダメージは3だったのでスライムよりも強い設定なのだろう。

『キュゥ……』

 少し背の低いボクのパンチが当たるか不安だったけど、HPに余裕あるしお試しで攻撃をしてみたら2発で倒せた。やはり1階は雑魚しかいないようだ。

 だがしかし、コウモリを倒した瞬間にボクの体から緑色のオーラが噴き出した。体の奥深くから力がみなぎり、やる気満々な気分になってくる。アダルティな動画を見た時のボクの愛棒のような逞しさと言えば良いのだろうか、全能感に溢れて負ける気がしないのだ。ちなみに、愛棒は一度も負けた事がありません。何故なら対戦相手が居ないからです。ぐすん……。

「HPが3上がってるー!」

 視界に映る表示を見ればレベルが2になりHPが18になっていた。コウモリにやられたダメージも瞬時に回復する親切設計、さすがヌルゲーです。

 部屋の奥にいるスライムは寝ているのかこっちに向かってくる様子がなかった。とりあえずマップの青い点を確認しよう。

 そう思ってマップを確認すると青い点が3個になっていた。さっきまで2個だったのにどういう事だと確認すると、コウモリがドロップアイテムを落としていたようです。レベルアップに気を取られて見逃していたようだ。てへぺろ。

「これは剣かな……? うわっ、消えた!」

 デフォルメされた剣のオブジェクトを手に取った瞬間にキュピーンと光って消えてしまった。もしかしてドロップアイテムを拾うとマジックバッグの中に強制転移ですか?


【マジックバッグ】
・ビッグマッキュセット
・金の剣


 どうやら拾った剣は『金の剣』という名称らしい。取り出して右手に装備をしてみた。

「しゅごい……かっこいいー!」

 拾った時のデフォルメされた剣のオブジェクトとは違い、装備した剣は全長80cmくらいある黄金に輝く剣だった。これは凄い性能に違いない。

 試しに剣の事を知りたいと願って見たら、ホワワワンと内容が浮かんできた。


【金の剣+2】
剣先から持ち手まで純金で出来たショートソード。
刃先を潰してあるので万が一の時にも安全です。


「プラス2って事は強化されたお得品ってことだろうけど……刃先を潰してあるの?」

 ステータスを確認してみると『剣の強さ:4』となっていた。強化分を差し引くと剣の強さは2という事か。まあ素手より強いだろうし気にしたら負けだ。

 寝てるスライムちゃんが起きない事を願いながら他の2つのアイテムを拾ってみた。


【マジックバッグ】
・ビッグマッキュ
・金の剣+2(装備中)
・斬鉄剣
・鍋の蓋


 ふふ、笑いがこみ上げて来るのを必死で抑え込んだ。斬鉄剣ってヤバいでしょ。鍋の蓋はゴミだろうけど素手よりマシだろう。とりあえず装備してみよう。

 金の剣をマジックバッグに突っ込んで斬鉄剣を取り出して装備してみたところ、『デロデロリン♪』という不吉な音楽が聞こえた。まるで呪われたような……。


【斬鉄剣-1】
鉄をも真っ二つにしてしまう程の凄まじい斬れ味を誇る刀。
その恐ろしいまでの切れ味から、興味本位で何でも良いから切ってみたくなるやつ。
決めセリフは『またつまらぬものを斬ってしまった』でお願いします。
※呪われているため解呪するまで外せません。


「落ち着こう、次は鍋の蓋を装備だ」


【鍋の蓋-1】
テファール社が誇るインジニオ・ネオバタフライガラスの鍋の蓋です。
つまみが平らになるから、かさばらず、重ねてすっきり収納できます。あと、食洗機対応です。
※呪われているため解呪するまで外せません。


「斬鉄剣はカッコイイけど呪われ過ぎじゃないかな? しかもこの鍋の蓋の取っ手が持ちにくいよ?」

 上下ライトグレーのスウェットに肩掛け鞄を装備した素足の男が日本刀とガラスで出来た鍋の蓋を持っている。これが夢の中じゃなかったら一発で通報案件です。

 斬鉄剣は持ち手の部分が木で出来ていて、刀身は鏡のように研ぎ澄まされていた。日本刀とか初めて触ったけど怖いです。夢なのに凄いリアリティだ……。

 両手が塞がった状態でしかも呪われて外せないとなると詰んだ状態かと思ったが、試しにマジックバッグにあるマッキュを取り出そうと剣のまま突っ込んでみたら普通に取り出せました。マッキュをしまうと右手に斬鉄剣が装備されている親切設計だ。

 左手に装備した頼りない鍋の蓋は透明なガラスで視界が塞がれないというのは有難いけど防御力に不安があった。でも、もしかしたら凄い強い装備なのかもしれない。何せテファール社といえば主婦が憧れるメーカーだからね。ボクは少し期待しながらステータスを確認してみた。


【ひよっこユウタ】
最深階:1
満腹度:90%
剣の強さ:9
盾の強さ:0
ちから:8/8
経験値:10


「盾を装備しているのに強さ0って……装備してないのと同じってこと?」

 武器は凄い。呪われているのが問題にならないくらいの強さだ。盾の事は忘れて寝ているスライムで試し斬りをしてみようと思う。

 試しに寝ているスライムの少し離れた場所をグルグル回ってみたけど起きる気配が無かった。スライムは丸い体をペッタンコにして寝ている。『Zzzz』という吹き出しが出ているから分かりやすいのである。

 そしてスライムの真横に立った瞬間、寝ていたスライムが起きた。こやつ寝たフリだったのか!?

「ごめんよスライムちゃん、今宵の斬鉄剣は血に飢えているのだ……」

 スライムちゃんがプルンプルンと震えてボクに命乞いをしていたように見えた。清楚系色白ビッチギャルのおっぱいのようにプルンプルンさせているのです。想像だけど。

 ボクは心を鬼にして斬鉄剣で切りつけた。日本刀の扱い方とかサッパリなボクですが、夢の中だからかゲーム感覚で攻撃したらいけました。ご都合主義最高ですね!

『ピギィ……』

 ついにスライムを一撃で倒す事が出来るようになりました。もしかしたら金の剣でも一撃だったかもしれないけど装備を交換出来ないので確認のしようがない。

 さて、ゲームの進め方が分かったしどんどん先に進もうと思います。あ、でもそうだ。

「またつまらぬものを斬ってしまった……」

 ボクはスライムの居た場所にそう言い残し、地下へ続く階段を下りて行ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

かつてダンジョン配信者として成功することを夢見たダンジョン配信者マネージャー、S級ダンジョンで休暇中に人気配信者に凸られた結果バズる

竜頭蛇
ファンタジー
伊藤淳は都内の某所にあるダンジョン配信者事務所のマネージャーをしており、かつて人気配信者を目指していた時の憧憬を抱えつつも、忙しない日々を送っていた。 ある時、ワーカーホリックになりかねていた淳を心配した社長から休暇を取らせられることになり、特に休日に何もすることがなく、暇になった淳は半年先にあるS級ダンジョン『破滅の扉』の配信プロジェクトの下見をすることで時間を潰すことにする. モンスターの攻撃を利用していたウォータースライダーを息抜きで満喫していると、日本発のS級ダンジョン配信という箔に目が眩んだ事務所のNO.1配信者最上ヒカリとそのマネージャーの大口大火と鉢合わせする. その配信で姿を晒すことになった淳は、さまざまな実力者から一目を置かれる様になり、世界に名を轟かす配信者となる.

始めのダンジョンをループし続けた俺が、いずれ世界最強へと至るまで~固有スキル「次元転移」のせいでレベルアップのインフレが止まらない~

Rough ranch
ファンタジー
 人生のどん底にいたこの物語の主人公こと清原祥佑。  しかしある日、突然ステータスやスキルの存在するファンタスティックな異世界に召喚されてしまう。  清原は固有スキル「次元転移」というスキルを手に入れ、文字通り世界の何処へでも行ける様になった!  始めに挑んだダンジョンで、地球でのクラスメートに殺されかけたことで、清原は地球での自分の生き方との決別を誓う!  空間を転移して仲間の元へ、世界をループして過去の自分にメッセージを、別の世界線の自分と協力してどんどん最強に!  勇者として召喚された地球のいじめっ子、自分を召喚して洗脳こようとする国王や宰相、世界を統べる管理者達と戦え! 「待ってろよ、世界の何処にお前が居たって、俺が必ず飛んで行くからな!」

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

☆男女逆転パラレルワールド

みさお
恋愛
この世界は、ちょっとおかしい。いつのまにか、僕は男女が逆転した世界に来てしまったのだ。 でも今では、だいぶ慣れてきた。スカートだってスースーするのが、気になって仕方なかったのに、今ではズボンより落ち着く。服や下着も、カワイイものに目がいくようになった。 今では、女子の学ランや男子のセーラー服がむしろ自然に感じるようになった。 女子が学ランを着ているとカッコイイし、男子のセーラー服もカワイイ。 可愛いミニスカの男子なんか、同性でも見取れてしまう。 タイトスカートにハイヒール。 この世界での社会人男性の一般的な姿だが、これも最近では違和感を感じなくなってきた。 ミニスカや、ワンピース水着の男性アイドルも、カワイイ。 ドラマ やCM も、カッコイイ女子とカワイイ男子の組み合わせがほとんどだ。 僕は身も心も、この逆転世界になじんでいく・・・

最弱の職業【弱体術師】となった俺は弱いと言う理由でクラスメイトに裏切られ大多数から笑われてしまったのでこの力を使いクラスメイトを見返します!

ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
俺は高坂和希。 普通の高校生だ。 ある日ひょんなことから異世界に繋がるゲートが出来て俺はその中に巻き込まれてしまった。 そこで覚醒し得た職業がなんと【弱体術師】とかいう雑魚職だった。 それを見ていた当たり職業を引いた連中にボコボコにされた俺はダンジョンに置いていかれてしまう。 クラスメイト達も全員その当たり職業を引いた連中について行ってしまったので俺は1人で出口を探索するしかなくなった。 しかもその最中にゴブリンに襲われてしまい足を滑らせて地下の奥深くへと落ちてしまうのだった。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

食いつなぎ探索者〜隠れてた【捕食】スキルが悪さして気付いたらエロスキルを獲得していたけど、純愛主義主の俺は抗います。

四季 訪
ファンタジー
【第一章完結】十年前に突如として現れたダンジョン。 そしてそれを生業とする探索者。 しかしダンジョンの魔物も探索者もギルドも全てがろくでもない! 失職を機に探索者へと転職した主人公、本堂幸隆がそんな気に食わない奴らをぶん殴って分からせる! こいつ新人の癖にやたらと強いぞ!? 美人な相棒、男装麗人、オタクに優しいギャルにロリっ娘に○○っ娘!? 色々とでたらめな幸隆が、勇名も悪名も掻き立てて、悪意蔓延るダンジョンへと殴り込む! え?食ったものが悪すぎて生えてきたのがエロスキル!? 純愛主義を掲げる幸隆は自分のエロスキルに抗いながら仲間と共にダンジョン深層を目指していく! 本堂 幸隆26歳。 純愛主義を引っ提げて渡る世間を鬼と行く。 エロスキルは1章後半になります。 日間ランキング掲載 週刊ランキング掲載 なろう、カクヨムにも掲載しております。

処理中です...