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第17章 魔王軍との戦い

第595話 対魔王防衛軍

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 勇者嫁たちへのお詫びツアーの最後となる、結愛ゆあたちへのお詫びが終わったケビンは、清々しい気分で元の空間に戻ってきていた。

「いやぁ、ソフィの力って凄いよなぁ」

「ふふっ、あなたのためだもの」

 ケビンが座る玉座の隣では、満面の笑みでしなだれかかるソフィーリアの姿がある。だが逆に、玉座の前に広がる嫁たちの憩いの席には、満身創痍な結愛ゆあたち三姉妹の姿があった。

 実はケビン。時間の進みが遅いことをいいことに、ソフィーリアの創った学校空間に1週間も滞在していたのだ。当然のことながら、その間はソフィーリアを始めとする結愛ゆあたち三姉妹と、飽きることなくめくるめく官能の世界を楽しんでいたのだ。

 それゆえに結愛ゆあたちは憩いの席でへばっていて、神であるソフィーリアだけがピンピンとしている。

「まさか学校だけでなく、家まで用意しているとは思わなかったよ」

「学生っぽく生活できたでしょ?」

「ああ。それにショッピングモールもあったしな」

「試着室でするエッチは燃えたわね」

 このようにケビンとソフィーリアが語る内容は実際にやったことであり、最初にケビンが頼んだ学校空間だけに留まらず、小世界と言っても過言ではないような空間をソフィーリアは創り出していたのだ。

 当然のことながらそれに気づいたケビンが利用しないはずもなく、フル活用に近い形で利用した結果、1週間も滞在することになったのである。

 それでもまだ全てを制覇できていないので、本当ならまだ滞在していたかったのだが、ソフィーリアがいつでも創れると言ったことにより、あとのお楽しみとして元の空間に戻ってきたのだった。

「ねぇねぇ、ユアたちはどんなプレイをしたの?」

 へばっている結愛ゆあたちにそう声をかけるのは、エロフとして定評のあるエルフのティナだ。

「健兄が前世の姿になって、学校生活を送ったのよ」
「若い頃のおにぃに会えた」
「にぃ、可愛かった」

「可愛かった? カッコよかったじゃなくて?」

「健兄の若い頃って童顔だから、年相応に見えなくて可愛かったの」

「いいなぁ……私もケビン君の前世の姿が見てみたい」
「お姉ちゃんも見たいわ!」
「ケビン君の前世の姿かぁ……」

 ティナの願望にシーラやクリスも乗っかり、他の嫁たちも見たことのないケビンの前世の姿を想像しては、その姿にニヤニヤとしている。

「でも、きついよ? 1週間も健兄のお相手をするから」

「1週間? たったそれだけで済んだの?」

「え……」

 結愛ゆあがケビンの凄さを知ってもらうために期間を伝えたのだが、対するティナが“たった”という言葉で返してきたことにキョトンとしてしまう。

「1週間って普通だよ」

「うそ……」

 ティナから普通と言われてしまった結愛ゆあたちは愕然とした。そして、ティナやクリスは普通と言った根拠を伝えるのだった。

「オフェリアの里帰りで行ったサキュバスの里では、サキュバスを相手に1週間ぶっ通しでやってたし」

「その後、帰ってきた時はお嫁さんたちに、1週間の嫁巡りツアーをしてくれたよねー」

「ちなみに最長記録は……?」

 1週間を普通と言うティナたちが、いったい最長でどれだけお相手をしたのか気になった結愛ゆあがそう尋ねると、最長記録だけあって覚えているのかティナはすぐに答えた。

「1ヶ月くらい?」

「「「……は?」」」

「あの時は嫁大集合だったもんねー」
「あの時のケビンは野獣だったわ!」

 それから語られるのは、ケビンがステータス確認でガチへこみした時の話である。ケビンの嫁や現地妻、はたまたまだ手を出してもいない女性まで参加したという乱癡気騒ぎの話に、結愛ゆあたちはケビンの底知れぬ性欲にただただ唖然とするほかない。

「あれは楽しかったなー」
「またしてみたいよね」
「色々な服が着られるものね!」

「ティナさんたち凄い……」
「おにぃに付き合えるなんて……」
「まだまだ修行が必要」

 自分たちの体験した初の1週間プレイが、まだ普通の範囲だということを知らされてしまった結愛ゆあたちは、1ヶ月を経験したティナたちやまだ見ぬ現地妻たちを、ある意味で尊敬してしまうのだった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 オークエンペラーを倒して以来、追加の魔王情報もなくしばらくケビンがのんびりと過ごしていると、リンドリー伯爵家のレメインから唐突に通信連絡が届いた。

『ケビンくん、聞こえる?』

『聞こえてるぞ。何かあったのか?』

『辺境伯が負けちゃったの』

『…………は?』

 ケビンは連合軍が烏合の衆であるため、そうそうに勝てないだろうとは思っていたが、まさか敗走に至るまでとは思っておらず、理解が追いつかなかったのか長い溜めの後に聞き返してしまった。

『戦線が徐々に後退して辺境伯領が半分ほど奪われたわ』

『馬鹿なの?』

『馬鹿なのよ』

 連合軍のどうしようもない有り様に対して、通信越しにお互いの溜息がこぼれると、レメインは報告の続きをしていく。

『これにはフィリア教団も焦っているみたいで、諸国に追加の派兵を要請しつつ、本軍を速やかに進軍させたみたいよ』

『いや……今更速やかにやったところで、本軍が到着するまでに辺境伯領全土は確実に奪われるだろ』

『せめてもの救いは南国だから雪が降らなくて、進軍速度が遅れないことかしら』

『降らないのっ?!』

 北国に住むケビンからしてみれば、レメインからセレスティア皇国は雪が降らないと聞かされてしまい驚きを隠せない。

『滅多なことでは降らないわ。私が生まれてから初めて見た雪は、ケビンくんの所で見た雪よ』

『うわぁ……こっちは既にパラパラと降り始めているのに……』

 滅多なことでは雪が降らないと言われたセレスティア皇国の気候に対し、ケビンは【聖戦】時におけるセレスティア皇国軍の進軍を思い返していた。

 あの時はセレスティア皇国軍が、不慣れな雪原の中を進軍して開戦に遅延してしまったため、ケビンたちはだいぶ焦らされてしまった経験がある。しかも、それを相手の軍師による策略だと勘違いしながら。

 今となっては笑い話にできるほどだが、雪が降らないと聞かされてしまえば、あの進軍速度も納得と言ったところではある。

『とりあえず、辺境伯領近辺のお嫁さんたちは確保したわ。更に戦禍が広がるようなら、ケビンくんの所にお邪魔するわね』

『ああ、それは構わないけど。現地の避難民はどうなってる?』

『続々と東に逃げてきているわ。どこの領主も難民が大量に流れてきて、てんやわんやの大騒ぎよ。一部逃げ遅れた人たちは最悪の結末を辿っているけど……』

『ゴブリン主体の魔王軍なら、逃げ遅れた女性にとっては地獄だろ』

『ケビンくん……助けないの?』

 ケビンの性格を知っているレメインが一縷の望みをかけてそう言うが、ケビンから返ってきたのは当たり前の返答となる。それは、ケビンの自論でもある「逃げないのが悪い」という辛辣な言葉だった。

『魔王軍との戦争になると、西が戦地になるのはわかりきってたことだ。楽観視して行動に移さなかったのは自業自得だろ。俺が仮に一般人だったら、戦争の噂を聞いた時点で逃げる準備を進めるな』

『それもそうね……何でもかんでもケビンくんに甘えるのはダメよね』

『まぁ、レメインが同じ女性として思うところがあるのは理解できる。俺だって想像したら胸くそ悪い気分になるしな。だからと言って、怠けてたやつらを無条件に助けようとは思わない』

 ケビンが「無条件に――」と言ったことによって、レメインは条件次第なら何とかなるのかもと思い尋ねてみるも、ケビンからはそれでも難しいことだと説明を始める。

『助けたところで精神は壊れてるだろ? 開戦してしばらく経ってるから、多分……もうゴブリンを産んでるはずだぞ。レメインはゴブリンに孕ませられ、そのゴブリンの子を産んで正気を保てるのか?』

『……無理。心が壊れてると思うわ』

 レメインとしては吐き気のする思いだが、そのことを想像してみては正気を保ったまま助けを待つなんてことは、並大抵の精神力ではできないことだと理解してしまった。

『これが虐待とか盗賊に襲われてだとかなら、時間をかければ心も癒されるかもしれないが、ゴブリンに襲われてゴブリンを産むわけだからな。残る手だては記憶を消してまっさらにするしかない』

『ケビンくんはできる?』

『無理だな。やるとしたらソフィしかできない。だが、それをするわけにはいかない。下界の戦争なんてもんは、女神のソフィにとって全く関係のないことだからな。それに――』

 それからケビンが語ったのは以前に救出した当時のロナに対して、ソフィーリアに力を使ってもらおうとした時のことだ。それを聞かされたレメインは、神の力と言えど何でも都合よくはできないことを知る。

『ままならないものね』

『仕方がないさ』

 かくして、ケビンとレメインの通信は終わるのであった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 レメインと通信を終えたケビンは、珍しく自ら動いて状況を確認することにしたら、善は急げと言わんばかりに行動に移した。そして向かった先はイグドラである。

「ヴァリス、今いいか?」

 ケビンは転移にてヴァリスの仕事場に来ると、ダークエルフ族の代表としての仕事をしていたヴァリスに声をかけた。

「ケビンさんのためなら、何がなんでも時間をお作りしますよ」

 執務をしていたヴァリスが顔を上げると、唐突なケビンの来訪に嫌な顔1つせずにそのように返答する。それからヴァリスはケビンをソファに座らせると、お茶を用意して対面に座り来訪の理由を尋ねた。

「今日はどうされたのですか?」

「ここに来たのは、イグドラの近況を知りたくてな」

「わかりました。では、まず……反逆者たちの処罰についてお話します。彼らの処遇について民たちから極刑の声も上がったのですが、代表会議の場において出した結論は“何もしない”です」

「何もしない……?」

 何かしらの罰はあるだろうと予想していたケビンだったが、ヴァリスの言葉に首を傾げる。すると、ヴァリスは満面の笑みで続きを話し始めた。

「彼らには生き恥をさらしてもらいます」

「あぁ……」

 ヴァリスから出た“生き恥”という言葉によって、ケビンはある意味で極刑だなという感想を抱く。その理由として、戦場で戦った時にマリアンヌから、獣人の誇りでもある耳と尻尾を切り落とされているからだ。

「彼らは今、住んでいた集落からも追い出されていますからね。いい気味です」

「えっ、追い出されたの!?」

「今回のことは、人族排斥主義の中でも過激派がしたことですから。人族排斥主義を掲げているので穏健派というのもおかしな話ですけど、その一派が恥さらしだとして追い出したのですよ」

「穏健派……?」

 ケビンは『穏健派になるくらいなら、人族排斥主義をやめろよ』と思ったが、そうは問屋が卸さないようだ。それを続くヴァリスの言葉によって理解する。

「穏健派が嫌っているのは人族であって、同族ではありませんから。魔王軍を手引きしたことによって、同族を危険にさらした過激派が許せないそうです。『獣人族の誇りを忘れた獣めが!』と、人族に向ける感情のように烈火のごとく怒っていたらしいです」

「それはなんとも……」

 既にマリアンヌの手によって獣人の誇りを失っている彼の者たちだが、同志たちからは人ですらない獣呼ばわりをされていたと聞かされたケビンは、微粒子レベルで同情しながらも自業自得だと結論づける。

「次は戦時体制ですね。今回のことで魔大陸との国境沿いに、兵を派遣することが決まりました。各種族の混成隊となりますが、獣人族は汚名をそそぐために兵を1番多く派出しています」

 そのことを聞いたケビンはとある提案をすることにした。

「その派兵に関して、アリシテア王国とミナーヴァ魔導王国を1枚噛まさせてもらえないか?」

 ケビンの唐突な提案に対してヴァリスはキョトンとする。

「1枚……ですか?」

「これはまだ先方に確認を取らないといけないが、国境沿いを防衛するなら数は多い方がいいだろ?」

「しかし……」

 ヴァリスは他国のしかも人族が国土に入り込んでくるとあってか、たとえ援軍であっても快くは了承できない。そのことはケビンも気づいており、ゴリ押しする気はないようである。

「代表会議で話し合ってみてくれないか? この前みたいにイグドラを突破されると、次はアリシテア王国が被害に遭う。その間はイグドラ領土を荒らされることになるし、どうせ倒すなら荒らされる前の方がいいだろ?」

「それはそうなのかもしれませんが……」

「心配なのはわかる。参加できるのはダメ元でいいんだ。仮に問題を起こした人族は死刑とか、そういう処罰を予め周知させておけば問題ないはずだしな」

「問題を起こせば死刑……」

「たとえば現地の人と揉めて暴力を振るったとか、店の物を飲み食いしたのに金を払わなかったとかだな。こういうのは基本的に厳重注意や支払いをさせるとかで平時は終わってしまうが、それが死刑になるとなったら問題を起こそうって気にならないだろ? ぶっちゃけそれだけで殺されるなんて、馬鹿らしいと考えるはずだ」

 ケビンの言葉を吟味するかのようにしてヴァリスが考え込んでいると、やがて結論が出たのか代表会議の議題にあげることをケビンに伝えた。

「結論がどうなるかはわかりませんが、議題にあげるだけはしてみたいと思います」

「さっきも言ったけどダメ元でいいんだ、ダメ元で。上手くいけばイグドラの被害を減らせるし、少なからずイグドラと2国との交流もできるだろ。目指せ、国交回復だ」

 ケビンの目指すところにある程度の共感ができたのか、ほぼ鎖国状態のイグドラに一陣の風を吹かせるのもいいかも知れないと、ヴァリスは考えた末に自身の気持ちを伝える。

「……そう……ですね。少なからず前回の魔王軍襲撃は私たちイグドラのせいでもありますし、アリシテア王国に迷惑をかけたことは否めません。私も及ばずながら、共同戦線が可決されるように働きかけたいと思います」

「無理はしなくていいからな。ダメ元が基本で、上手くいけば儲けものとだけ思っててくれ。ヴァリスの立場を危うくしてまで推し進める気はない」

 こうしてケビンは魔王軍という共通の敵がいる状態で、過去の過ちによって国交のなくなったイグドラと他国の仲を取り持つように動き、多少なりとも交流ができればとヴァリスを通じて働きかけるのだった。

 そして、後ほど代表会議にて話し合われた結果、各代表は快くとはいかないもののその議題の発案者がケビンということもあってか、自国の負担が減るのであればという意見によって可決されることとなる。

 これによりアリシテア王国の国王ヴィクトールや、ミナーヴァ魔導王国の国王エムリスは、ケビンからの提案を受け入れて、過去久しく見なかったイグドラとの国交回復に向けて惜しみなく支援することを決意する。

 まず、アリシテア王国は隣国であるということで派兵と物資の支援を。次に、ミナーヴァ魔導王国は派兵するには距離があり過ぎるので、魔導具の貸し出しという物資の支援を行う。

 その魔導具貸し出しの一例として、ターナボッタの兵士用魔導武器が候補にあがり、ターナボッタは随時量産していくという嬉しい悲鳴に遭ってしまう。

 だが、さすがに敵から鹵獲されては困るので、そこはケビンが手助けをし、個人認証型魔導武器という代物にグレードアップさせた。

 そして、この認証には決められた手順が必要であり、それを無視して鹵獲し扱おうとしても、武器を持ち運ぶことができない仕様となる。かと言って、紛失や所持者が死亡した場合があっては困るので、魔導武器に発信器を埋め込み、対となる受信器を持つ者ならば、被認証者以外であっても扱えるように措置はしてある。

 更にはもののついでに【複製】が付与された魔導具。ケビン宅では料理を人数分作るために使っている宝の持ち腐れ的なものなのだが、それをターナボッタに贈呈し、ターナボッタの魔導武器量産を大いに捗らせる。ちなみにこれも認証型で、ターナボッタ以外は扱えないようにマスター登録をしてある。

 こうして数々の準備が着々と進んでいき、フィリア教団とは違う形で、エレフセリア帝国のケビンを中心に、イグドラ亜人集合国、アリシテア王国、ミナーヴァ魔導王国の対魔王防衛軍という協力体制が築き上げられていくのであった。
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