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第17章 魔王軍との戦い

第582話 勇者たちの戦闘開始

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 ケビンが破壊光線を撃ち放って魔王軍の戦線が瓦解し、王国軍や冒険者たちは負傷者の救助などを落ち着いて行えるまでに至っていた。

「皇帝陛下がお出になられただけで、この戦績……英雄の名は伊達ではありませんな」

「今や魔王軍は立て直しのため魔物を退かせています」

「統率がまだ生きているということは、あの大破壊ブレスで指揮官らしき人物は戦死しなかったようですな」

 そう語り合っているのはデース・ブハトゥ大将軍と、冒険者ギルド王都支部の副ギルドマスターであるヒューバッハだ。

 2人の会話からわかるように王国を代表する大将軍が、冒険者ギルドの副ギルドマスターに礼節を重んじるのにはわけがある。

 一般的に冒険者というものは粗暴で礼儀知らずと言われているが、ことアリシテア王国に関しては、過去に起こった三国戦争の時に冒険者たちの活躍によって、だいぶ助けられたという経緯がある。

 しかも、その戦争を終わらせたのは爵位を持っていたとしても、冒険者として活動していたケビンだからだ。

 そして今回も、三国戦争時と同じく冒険者たちが祖国を守るために立ち上がり、その報告をギルドマスターであるカーバインから受けたヴィクトール国王が感謝し、各部へ「最大の敬意を払うように」と示達したのが始まりである。

 それゆえに、デースもヒューバッハ相手に尊大な態度になるでもなく、礼節をもって接するのだ。

「それで、皇帝陛下は今どちらにいらっしゃるのでしょうか?」

「空ですな」

「空……?」

 デースの回答に首を傾げるヒューバッハだが、その様子を見たデースは笑みを浮かべてその疑問に答えた。

「ヒューバッハ殿も見たであろう? 皇帝陛下がドラゴンになった姿を」

「え、ええ……今思い返してみても、とてもじゃありませんが我が目を疑うばかりです」

「それは私とて同じことですな。人の身からドラゴンに変化するなど、我が人生において1度たりとて見たことはありませぬぞ」

「それはどなたの人生でも同じことでしょう」

「くくっ……そうですな。で、そのドラゴンのお姿で、皇帝陛下は背に奥方様たちを乗せて空を飛んでおられるのです」

「それは何とも……」

「まぁ、そのおかげで、魔王軍も無闇矢鱈と攻め入ることはできぬ状態ではありますがな」

「確かに……ドラゴンが空を飛んでいる所に攻めようなどと、私でも嫌になります」

「先のブレスがよほど効いたと思われますな」

 その後もデースとヒューバッハはケビンの規格外っぷりを肴にして、これからの作戦について話を進めていった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 デースとヒューバッハが会議をしている頃、ケビンは嫁たちのリクエストに応えて遊覧飛行を実施していた。

 そのコースは戦場上空だけだと飽きてしまうので、魔物が退いたことをいいことに、適度にアリシテア王国上空やエレフセリア帝国上空を飛行し、終着点としてケビンパレスに降り立ち、一族たちと挨拶を交わしてから戦地に帰るというものだ。

 そして、最後のお客さん?の遊覧飛行が終わったところで、ケビンは元の姿に戻るのだった。

「はぁ~疲れた……」

 少なくない時間で飛び回るという行動をしていたためか、ケビンは伸びをしながら体をほぐしていき、気持ちよさそうな顔つきとなっていた。

「ケビン、楽しかったわ」

 そこで、最後のお客さんであるサラ(ぶっちゃけ最初からずっと乗り続けていた)がケビンにお礼を伝えキスすると、他の嫁たちもそれに倣い、お礼とともにケビンにキスをしていく。ただ、ガブリエルだけは恥ずかしかったのか、真っ赤な顔をしてほっぺにチューが限界だったようだ。

 その一連の光景はとても戦地に立ち、戦争中とは思えない行動ではあるものの、ことケビンの身辺からしてみればいつも通りの変わらない光景である。

「さてと……味方サイドの立て直しと再配置は済んでるようだな。魔王軍の方は……残り1万強ってところか。結構蹴散らしたと思ってたのに、思いのほか残ってるな」

「ケビンさん、遊びは終わりですか?」

 そう言いながら近づいてくるのは、ケビンの弟子である九鬼だ。戦争だと言うのにいつも通りの遊び心で、真面目にする気はあるのかと疑問に思う九鬼ではあるが、それでもやることはやっているケビンに対し、苦言を呈することができないジレンマを抱く。

「遊びじゃないぞ、時間潰しだ。乱戦にて疲弊している兵士や冒険者たちが、立て直しする時間を潰していただけだ。決して遊んでいたわけではない」

「ものは言いようですね」

「九鬼……何やら強気だな? 個人レッスンがしたいのか?」

「たまには強気な発言をさせてくださいよ。こっちは戦場ってことで緊張していたのに、始まってみればケビンさんの1発、正確には2発ですけど、それのせいで出鼻をくじかれたというか、いったい何しに来たんだろうって疑問が後を絶たないんです」

「あのまま戦わせていたら、お前たちはあっという間に疲れ果てて負けていたぞ? 九鬼は約5万の魔物と戦えるのか? まぁ、バラけているから全体からしてみれば、少なく見積もっても3万は左翼に集中してただろうけど」

「……無理です」

「だろ? つまり、俺の行動は正しかったわけだ。身内から死人を出すわけにもいかないからな、俺の最大限の配慮なんだぞ」

「本当にあの時、そう思ってました? 高笑いが聞こえてきたんですけど?」

 九鬼が訝しげにジト目でケビンを見ると、ケビンは視線を逸らすという技法にて対抗してみせた。

「さて、そろそろお前たちも配置につくか?」

「健兄……」
「安定……」
「逃げパターン……」

 あからさまに話題をそらすケビンを見る三姉妹は呆れ顔であるが、その視線を振りほどいてでも、ケビンはこの場からの逃走を図る。

 そして、戦闘組を引き連れて左翼に布陣すると、ケビンは突撃の合図を出す。

「それじゃあ、勇者たち。訓練の成果を発揮してこい! 母さんたちは勇者たちのサポートだ。死なない程度に支援してやってくれ」

 そう言い終えたケビンの合図により、戦闘組が敵へ向かって走り出すのだが、中央や右翼はいきなり戦闘を開始した左翼を見てしまい、呆気に取られてしまっていた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 エレフセリア義勇軍が突撃した頃、バタバタと総指揮官の天幕に兵士が駆け込んでくる。

「緊急ゆえ会議中失礼します! ブハトゥ閣下、左翼が突撃しました!」

「「え"……?」」

 駆け込んできた兵士の報告を聞いたデースとヒューバッハは、ポカンと口を開けて固まってしまう。

「現状、左翼の指揮は皇帝陛下が担っている模様! 突撃している部隊は勇者たちと奥方様たちです!」

 デースとヒューバッハは揃いも揃って頭を抱えてしまうが、動き出したものは仕様がないとして、すぐさま各部指揮官への指示を示達する。

「各部指揮官へ、皇帝陛下の義勇軍に負けないよう攻勢に出ろと伝えろ!」

「はっ!」

 来た時と同様にバタバタと慌ただしく走り去る兵士を見送ると、デースとヒューバッハは大きな溜息をつく。

「皇帝陛下はてっきり攻勢に出るための話し合いをするために、ここに来ると思ってたのですがな……」

「英雄ケビン様は三国戦争時の件から、1人で国を滅ぼせるXランク冒険者になっていますからね。1人で完結できてしまうために、元々軍行動のような連携は苦手なのでしょう。連携を図るにしてもパーティー単位だと思いますので、端から軍行動の連携という考えに行きつくかどうか……」

「並ぶ者のない強さというのも困ったものですな……」

「恐らくケビン様1人だけでこの戦場も片付いてしまうため、余計に各部と連携を図るという考えが抜け落ちてしまうのでしょう」

「「はぁぁ……」」

 デースとヒューバッハはもう何度目かわからないくらいに溜息をつきながら、味方から予定していた連携を崩されたとしても、ケビンがいる以上は勝ててしまうんだろうなという結論が頭をよぎるのであった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「くちゅんっ!」

「ケビン様、外套などのお召し物を御用意致しましょうか?」

「ん? ああ、別に寒いわけじゃないよ。美女が俺を噂してんだろ」

「はい! 私が崇高なるケビン様のお話をお姉ちゃんとしてました」

 ケビンの「美女が俺を噂」という言葉に反応したのは、元気よく手を上げるケビン教の教祖であるルルだ。そして、そのルルは祈るように両手を組むと、いつもの病気が始まってしまう。

「ケビン様のあの尊いブレス……まさに神の下す神罰の如しです! それに加え真っ白な鱗に身を包まれた尊きお姿……人神だけでなく龍神としての立場までお持ちになるとは尊すぎる! これからの布教活動に熱が入ります!」

 キラキラとした瞳でケビンを見つめるルルとは別で、隣にいるララは申し訳なさそうな顔つきでケビンに頭を下げるのだった。

「まぁ、ほどほどにね」

 既にルルの持病に関してはケビンも諦めており、もはや【ケビン教】の信者がどれくらいいるのか把握すらしていない。あくまでもケビンの中での予測は、少なくとも一部の嫁たちは入会してそうだというところまでだ。

 そして、プリシラが代表を務める【ケビン様を慕う会】の会員数は、間違いなく嫁たち全員が入っているだろうと予測している。

「とりあえず勇者たちは問題ないだろうから、のんびりとお茶でもするか」

「ご用意します」

 完璧メイドのプリシラがテキパキと幅広ソファとサイドテーブルを出すと、その間に負けじとニコルがお茶の準備を始める。

 そして、ソファが出た時点ですかさずライラがケビンよりも先に座り、ケビンに膝枕を提供するのだった。

「相変わらずライラの膝枕は最高だな」

「ありがとうございます」

「お姉ちゃん! ライラに先を越されたよ!?」

「ルルが尊いって言いながらトリップしてたからでしょ!」

「ケビン様、お茶の準備が整いました」

「ああ、ありがとう」

 そう言ってケビンがとりあえず一口飲もうと上体を起こしかけると、プリシラが機先を制してケビンを寝かせたままにする。

「私にお任せを」

 そう言うプリシラがケビンのお茶を口に含むと、そのまま口移しで飲ませていくのだった。

「ん……」

「あぁーっ! プリシラ、お前ばかりズルいぞ!」

 ニコルの抗議など知ったこっちゃないと言わんばかりに、プリシラはそのまま行為を続けていく。

「んはぁ……ニコルのお茶だと不十分なので、私の愛を注いでみました」

「最高だな」

「不十分って何だ、不十分って! 私の入れるお茶が不味いって言うのか!」

 完全に『どこの王族だ!』とツッコミを入れられてしまいそうな光景だが、ケビンの周りにそれを指摘する者は誰一人としていなかった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「あらあら、あっちは楽しそうね。居残りしてれば良かったわ」

 なんてことのないように呟くサラだが、周りにはそのおっとりとした口調とは思えないほどに魔物が死屍累々と蓄積されていく。

「ねぇ、ちょっと今からでも戻らない? こんなザコ相手だと勇者たちも負けることはないでしょう?」

 そう言いながらサクサクと魔物の首を狩っているのは、サラと同じ場所で戦っているマリアンヌだ。

「そうねぇ……強い魔物はいないし、数の暴力で来られても問題ないレベルかしら」

「でしょう? 戻ってケビンとイチャイチャした方が楽しいわよ」

「それじゃあ、戻りましょうか」

 早くも戦線を離脱してしまおうとするサラとマリアンヌは、後のことは他の嫁たちに任せても問題ないだろうという算段の元で、ケビンとのイチャイチャタイムを満喫しにその場を後にする。

「あぁーお義母さん帰っちゃうんだ。私も帰ろうかなぁ……でも、勇者たちを放っておくとケビン君が呆れそうだし……クララが残ってれば万が一も起こらないけど……んー悩むなあー……」

 適度に勇者たちのサポートをしているクリスは、目ざとくサラたちが引き返しているのを見つけ、自分も相乗りするかどうかを悩んでいた。

 そのような戦闘に集中していない嫁もいれば、逆に集中している嫁もいる。それは、いつも平時においてはおバカ扱いされるティナである。

 そのようなティナでも、戦闘指揮に関してだけ言えばケビンから鍛えられたこともあり、何気に優秀なのである。

「ちょっと、そこの勇者! 突出しすぎ! あなたよ、あなた!」

「す、すみません!」

「そこ! 魔法で牽制! 近接戦闘組に余計な魔物を近づかせない!」

「はい!」

「ニーナ、あっちの魔物を倒しちゃって」

「わかった」

「シーラはあっちの誰もいないところなら、お得意の氷魔法をぶっぱなしていいわ!」

「任せなさい!」

「アリス、格闘組が危なくならないように適度に魔物を弱らせて」

「はい!」

「クララ、あの清掃員君が孤立してるから、窮地にならないようにあそこの近くで暴れてて」

「任せよ」

 このような感じでテキパキと指示を飛ばして現場を取り仕切る姿は、誰が見ても“できる人”であるが、嫁たちは平時のティナを知っているので特にそうは思わない。

 だが、こと勇者たちに限っては素晴らしい指揮能力だと思い、常日頃からテキパキと仕事をこなすキャリアウーマンなのではないかと、残念ながら誤解するのだった。

「ティナ様の指揮はとても参考になりますわ。きっと、常日頃から周りを見て的確なアドバイスを出すような、そんなできる方に違いありませんわね」

「あー……うん、そだね」

 ティナの采配に感嘆する勅使河原てしがわらではあるが、傍にいる弥勒院みろくいんはいつものティナを知っているので、なんとも言えない表情となり、とりあえず同意するだけしておくことにしたようだ。

「フハハハハ! 帝王たるこの俺の道を塞ごうなどとは不届き千万! その身でもって後悔するがいい! 《爆炎球》!」

 ケビンが近くにいないためか、幻夢桜ゆめざくらは開放感により1人だけハイテンションになってしまい、並み居る敵を爆発の炎に包み込ませていく。

「威勢がいいの、わっぱ

 気分のいい状態で戦っている幻夢桜ゆめざくらの所へ来たのは、ティナから指示を受けたクララだ。

「――っ!」

 そして、せっかくいい気分で戦っていた幻夢桜ゆめざくらは、クララが来たことによって一気にテンションが落ちてしまった。

「どうした? 先程までの勢いが衰えたぞ?」

「いえ、ペース配分を考えようと思いまして……」

「お主もの子なら猿勇者のようにイキがってみせよ。私は主殿のようにチクチクと言ったりはせんからの。存分に暴れるといい」

「猿……?」

「あそこで突っ込んどる馬鹿な勇者がおるであろう?」

 周りにいる魔物をクララが殴り飛ばしてからある方向に指をさすと、幻夢桜ゆめざくらはその先にいる勇者の姿を目にする。

「ヒャッハー! 暗黒神官様のお通りだぁぁぁぁ! ザコに用はねぇんだよ! ボスを出しやがれ、ボスを!」

 そう。指をさした先で暴れているのは、後衛職だと言うのに前へ突っ込んで前衛職並に暴れている月出里すだちだ。

「あやつは“猿”と呼ばれておるのだろう? 確か主殿の奴隷の1人がそう叫んでおった」

 その言葉を聞いた幻夢桜ゆめざくらは、すぐにある人物が思い浮かんでしまう。月出里すだちに対して「猿ぅぅぅぅ!」と叫んでいるのは、千喜良ただ1人だけだからだ。

「帝王たるこの俺はあいつのような馬鹿ではない。俺が歩むは王の道。馬鹿猿ごときと同列になるのは不愉快だ」

「ほう……では、馬鹿猿にならぬよう暴れるがよい。結果を出さねば馬鹿な王、つまり愚王だの」

「くっ……」

 このままでは月出里すだちと同レベル扱いされてしまうため、幻夢桜ゆめざくらは先程以上に能力を駆使して魔物を殺していき、結果を残そうとする。

 それを見たクララは『扱いやすい奴よの』と思ってしまうが、魔物の数を順調に減らしていっているため、そのまま見守りつつ周りの魔物を殴り飛ばしていくのであった。

 そして、別の場所では九鬼と無敵、それに十前ここのつが、討伐数ゲームを繰り広げていた。

「ハハッ! この3人で肩を並べて戦っていると、昔のことを思い出すな!」

「あの時はこんな命を張ったもんじゃねぇだろ。相手は同じ人間だ」

「そうだな」

 昔を思い出して無敵が楽しそうに魔物を蹴散らしていると、負けじと九鬼も魔物を蹴散らしながら言葉を交わし、十前ここのつは相槌を打ちながら安定感ある戦いを繰り広げる。

「これで負けた奴が1ヶ月飯奢りだからな!」

「ちょ……俺の獲物を取るな!」

「ちんたらしてる方が悪い!」

「てめぇ……《ウインドカッター》」

「あっ、魔法を使って横取りするな! 《ダークネスランス》」

「お前だって使ってんだろ!」

 無敵から獲物を横取りされた九鬼がやり返すと、無敵が更にやり返すといった悪循環を生んでいる中で、十前ここのつだけは『やれやれ』と思いながらも、淡々と作業を繰り返して討伐数を稼いでいたのであった。
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