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第17章 魔王軍との戦い
第581話 ケビンによる間引き
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左翼後方の空きスペースへと転移したケビンたちは、これから兵士たちと勇者たちを入れ替えるための作戦行動をとる。
「ねぇ、ケビン。見るからに乱戦よ? どうするの?」
そうケビンに質問するのはサラだ。本当の魔王と戦える機会があるかもしれないということで、今回の戦争への参加に名乗りを上げた次第である。
「これは思ってたよりも酷いな」
後方にて前線を見るケビンたちの視線の先には、波のように押し寄せている魔物の大軍が映し出されていた。そして、それを目にする勇者たちは、数の暴力という言葉の意味を目の当たりにすることになる。
「ヤベェ……」
「あんなのアリか?」
「いや、ナシだろ……」
「ブートキャンプより数が多いよ……」
「私たちにやれるの?」
「こ、怖い……」
「お、王〇の群れであります!」
「誰が腐海に手を出したでごわすか!?」
「ひ、避難を! 避難をするですぞ!」
「ケビン殿は青き衣も纏ってないでござる!」
圧倒的な敵の数を目にする勇者たちは、多かれ少なかれ震えの止まらない者たちがいた。そのような中で、ケビンは勇者たちが戦意喪失する前に行動に移さないと、この先の戦いは無理だろうと判断する。
「とりあえず、勇者たちはここで待っててくれ。俺が間引きする」
「主殿よ、私も手伝うかの?」
「いや、クララは待機だ。暴れるのは間引きした後にしてくれ」
「あいわかった」
そう指示を出したケビンは1人で空に浮かび上がると、前線に向かって飛んでいく。それを見守る勇者たちは、ヒソヒソと話し合いを始めるのだった。
「なぁ、間引きってアレか?」
「アレだよな?」
「対、数の暴力戦……」
「なんて魔法だっけ?」
「確か……コズミックレイ?」
「理不尽魔法だよね……」
勇者たちはケビンが間引きをするとあってか先程までの恐怖は和らぎ、実演を見たことがあるのもさることながら、ケビンに対して絶対の信頼を寄せている。
「行っちゃったわね」
「主殿が暴れたら敵は残るのかの?」
「乱戦中の敵は少なからず残るわよ?」
サラやクララ、それにマリアンヌが会話をしていると、近場では他の嫁たちが同じくケビンについて語り合う。
「ケビン君って魔物相手には容赦しないよね」
「理不尽の権化」
「ケビン様はお強いですから!」
「そうよ、私のケビンなんだもの!」
「んー……遊べるほど敵が残ればいいなー」
そのような会話をしている正妻組に対し、お世話係として付き添っているメイド隊のプリシラが声をかける。
「皆様、お待ちの間にお茶でもどうですか?」
その言葉に対し嫁たちは勇者たちよりも全然余裕があるのか、戦地だというのにティータイムと洒落込むことにしたようだ。
それからテキパキとテーブルやらイスやらを出しては準備するメイド隊一同は、いつも通りの動きで速やかにお茶を楽しめる場所作りを終えてしまう。
そして、それを見せつけられている勇者たちは唖然としてしまうが、その中から嫁の一員である結愛たちも、ティータイムの席にお呼ばれする。
「サラお義母さんは怖くないんですか?」
「私が怖いと思うのはケビンを失うことだけよ。今はケビンとの子供のサヤも入るけど」
「お義母さん凄い……」
「大人だね……」
結愛たち三姉妹がサラと会話をしている中で、別の場所では弥勒院が駄々を捏ねていた。
「うぅぅ~……プリシラさんのお茶を飲むとケーキが欲しくなるよぉ……」
「どうぞ、こちらを」
「うそっ!? ケーキだ!」
弥勒院の要望に寸分違わず応えてみせたプリシラだが、それを見ている九十九が身を乗り出して抗議する。
「ちょっと待て! 香華だけズルいだろ。私にミートソーススパゲティと抹茶はないのか!」
「こちらにございます」
「おおっ、さすが完璧メイドのプリシラ殿だな! メイドの中のメイドと言える!」
自分の好物が出てきたことによって、九十九は先程までの抗議が嘘かのような手のひら返しで、それを成したプリシラをべた褒めするのだった。
そのような中、サラはある人物を追加で招待する。
「ガブちゃん、貴女もいらっしゃい」
「え……でも、私は……」
「いいのよ、ケビンのお嫁さんを目指しているのでしょう? それなら、ここに座っても誰も文句は言わないわ」
サラからの強引なお誘いによって勇者たちと待機していたガブリエルは、オドオドとしながらもサラの隣に腰掛けた。
「ガブちゃん、どこまでいったの? もう手は繋いだ?」
「うっ……鍛練に明け暮れてて……」
「もう……ガブちゃん、鍛練ばかりしてたらケビンが遠のくわよ」
「……ごめんなさい……」
痛いところを突かれてしまったガブリエルがシュンとして俯くと、サラはこれならばしているだろうという予想の元で会話を進める。
「お手紙交換はしているの?」
「はい……ケビンさんはちゃんと返事を書いてくれて……私の宝物です」
「もういっそのこと襲っちゃえばいいのに」
「むっ、無理です! お、お、襲うだなんて、そんな――」
ケビンを襲えと言われてしまったガブリエルが真っ赤になって否定すると、サラはそれを微笑みながら眺めていたのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
嫁たちがくつろいでいる中、ケビンは何も知らず(知っていても気にしない)に前線の上空から地上を俯瞰していた。その姿を見る指揮官クラスは歓喜し、前線で戦う兵士たちや冒険者たちを鼓舞していく。
そして、英雄が現れた報せを受けた前線で戦う兵士たちや冒険者たちは、僅かな隙に上空を見上げるとそれが真実であることを自覚し、更に闘志を湧き上がらせるのだった。
だが、上空にいるケビンは勢いの増した兵士たちや冒険者たちよりも、眼下に広がる敵の軍勢を観察していた。
「やけにオークが多くないか?」
『オークだけに? プークスクス……』
「……」
《サナちゃん……》
『ち、違いますからね! 戦争なんて陰鬱な雰囲気を吹き飛ばそうと、気遣いしただけなんですからね! サナが寒いオヤジギャグしか言えないだなんて思わないでくださいよ! サナはオヤジじゃなくてギャルなんですから、ギャル!』
「はぁぁ……そういうことにしておいてやる。で、G並みのゴブリンはともかくオークが多い理由は? 予想としては繁殖しながら進軍して数を増やしたって線だが……」
『マスターの予想通りだと思います。あいつらはメスであれば何でも孕ませますからね。しかも、食料がなくなれば共喰いして、餓死なんてしませんし』
《ゲスな種族ね》
『ちなみにゴブリンも同じことができます』
「まぁ、そうなるよな」
『しかも、オークより繁殖スピードが早いです。弱者ゆえに数で対抗ってことなんでしょうけど、まさにGですね!』
「メスさえいれば無限機関だな。さすがに1匹で30匹は無理だろうけど」
そのような結論に至ったケビンは、中央や右翼の方にも視線を向けてみると、ただ左翼の数が多いというだけで、どこも似たような感じで乱戦になっていることを知る。
「他のところもフォローを入れるか」
『広範囲戦略魔法になりますね』
《魔力は持つの?》
「『魔力が持たないなら省エネでいけばいいじゃないの』と、マリーさんじゃない貴族夫人が言っていた」
《嘘ね》
「まぁ、ご覧あれ」
そう言うケビンは魔法でドッカンする方法を取らず、1撃が壊滅級となる方法を取ろうとする。
「【龍化】」
その方法を取るためにスキルを発動すると、ケビンは光に包まれてその姿が見る見るうちに変貌していく。
「グルァァァァ――!」
ケビンのけたたましい咆哮が戦場に響きわたる。それを耳にした魔物勢や味方勢は我が目を疑ってしまう。それは後方にて控えている勇者たちもそうであった。
「なぁ……俺、目がおかしくなったみたいだ。ケビンさんが白いドラゴンになったんだぜ」
「お前もか? 実は俺も目がおかしいみたいだ」
「異世界に眼科ってあるのか? ちょっと、受診に行きたいんだが」
「ケビンさんって……人間じゃなかったの?」
「き、きっと、アレよ、アレ! 【偽装】スキルで姿を偽ってるのよ」
「そ、そうよね! 人間がドラゴンになるわけないもんね!」
勇者たちが現実逃避を始めた頃、事情を知らないサラたちの傍にいる勇者嫁たちも困惑する。
「え……健兄がドラゴン……?」
「人じゃなくてドラゴンに転生してたの?」
「転生したらドラゴンだった件……」
「ケビンくん、ドラゴンになっちゃった……あの手でケーキとか作れるのかな?」
「なん……だと……カッコイイではないか! 旦那様だけズルいぞ! 私も変身したい! 『変身をあと3つ残している』とか言ってみたい!」
そのような困惑の声が上がっていく中で、ケビンのドラゴン姿を見たクララはとある懸念が頭をよぎる。
「まさか主殿……アレをするつもりではないよの?」
ケビンのドラゴン姿から放たれる攻撃を間近で見たことのあるクララは、その懸念からか冷や汗が頬を伝っていく。
だが、クララの懸念は儚くも崩れ去ることになる。何故なら現場にいるケビンは、ちょーノリノリでテンションが上がっているからだ。
「ハハハハハッ! 有象無象の虫けらどもよ、我が力の片鱗をその身で受けるがいい。これが全力全開(手加減側に)のホワイトドラゴンブレスだぁぁぁぁ!」
『焼き払え!』
ケビンの大きく開けた口元がピカッと光った瞬間、眩いばかりの光線が左翼側の敵陣営へと飛んでいく。そして、着弾したと思えば轟音を響かせて大爆発を起こすのだった。
『薙ぎ払え!』
「……」
《サナちゃん……》
『どうしたんですか、マスター? 早く撃ってください! それでも世界で最も最強な一族の当主か!』
ノリノリなサナに合わせるつもりではないが、このまま時間を潰すのもどうかと思い至ったケビンは、中央から右翼にかけて薙ぎ払うかのように再びドラゴンブレス(笑)を放つのだった。
そのドラゴンブレス(笑)が敵陣営を薙ぎ払うと、再び轟音とともに大爆発を起こし、地面はえぐれ、その場にいた魔物たちは吹き飛ばされるでもなく、そのまま焼失してしまう。
その光景を目の当たりにしている王国軍や冒険者たちは唖然としてしまい、勇者たちも同じく開いた口が塞がらない。
「うひょー! 巨〇兵並であります!」
「ということは、この後は金色の地に舞い降りるでごわすな!」
「金色の地ではなく、魔物たちの死屍累々の地ですぞ!」
「白き鱗を纏った者でござる!」
「アレを操りたい! 私も『薙ぎ払え!』って言いたい!」
「晶子……」
「晶子ちゃん……」
「晶ちゃん……」
唖然とする勇者たちとは別で、【オクタ】の一部メンバーは興奮絶頂に飲み込まれているようだ。
だが、そのような快挙を成し遂げたケビンに近づく者がいた。
「ケビン君」
「ん? クリスか、どうした?」
その者は嫁のクリスであり、ケビン以外で空中浮遊を難なくやってのけるまでに技術を昇華させていたのだ。
「お楽しみなのはわかるけどね、味方も吹っ飛んだよ?」
「え……?」
「ほら」
そう言うクリスが指をさす方向に視線を向けるケビンは、爆発の際に起こった爆風で飛ばされてしまった兵士たちや冒険者たちだった。その姿はまるで地面をゴロゴロと転がって蹂躙されたあとのようだ。
「あ……」
せめてもの救いは魔物も一緒に吹き飛んだせいか、総崩れになるという情けない結果を生み出さなかったくらいである。
「え、えっと……」
「ソフィさんがね、『相変わらずね』って連絡してきたよ。後方待機組はソフィさんの張った結界で飛ばされずに済んだの」
「ごめん……」
クリスから事の顛末を聞き、最強の生物たるドラゴンがシュンとしている光景はなんともシュールであるが、ケビンのおかげか魔王軍の怒涛の攻撃はなりを潜めており、王国軍や冒険者たちが立て直す時間を稼げている。
「まだ生きている魔物にトドメを刺せ!」
「皇帝陛下の与えてくれたチャンスを逃すな!」
眼下では仲間を吹き飛ばしたケビンを責めるでもなく、今がチャンスだとばかりに指示が飛び交い、吹き飛ばされた魔物たちの息の根を止める兵士たちや冒険者たちの姿が映し出されていた。
「戻ろっか?」
「うん……」
完全に先程までのハイテンションがなくなり、ショボンとしているケビンの背にクリスが乗ると、ケビンは『俺も悪いけど、サナも共犯だよな?』と、道ずれにする気満々でどう言い逃れをするのかという考えを持ちながら、ゆっくりと嫁たちの待つ後方へと飛んでいくのであった。
その後、ケビンが後方待機所についてクリスが背から降りると、元の姿に戻ろうとしたところで、思わぬ伏兵?が現れる。
「旦那様! 私も背に乗せて飛んでくれ! ドラゴンライダーをやってみたい! いや、ここは龍騎士と言うべきか!?」
「ケビンくん、私も! 空を飛んでみたい!」
九十九や弥勒院はケビンがドラゴンの姿であろうと特に気にした風ではなく、ケビンに駆け寄るとその背に乗ろうとしてよじ登ろうとしていた。
「あらあら、それなら私も乗せてもらおうかしら。ドラゴン姿のケビンに乗ったことがないのよね」
ケビンによじ登る2人を見たサラが同じように主張すると、それに続いて他の嫁たちも「乗りたい!」と主張してくるのだった。
「ふふん、ケビンドラゴンに1番に乗ったのは私だからねー今回の1番は私のものだよー」
しれっとそのようなことを狙っていたクリスがそう言うと、次は2番の席を狙って我先にと嫁たちが殺到する。だが、そこでケビンの背に瞬時に現れたのは、スピードが売りであるサラではなく、ケビンの1番が大好きなソフィーリアだ。
「ふふっ、クリスに出し抜かれたから1番は取れなかったけど、2番が取れて良かったわ」
「え……ソフィ……?」
「3番はお母さんがもらうわね」
ソフィーリアの登場にケビンが驚いていると、すかさずスピードを活かしたサラが3番手を取り、ケビンの背でソフィーリアとともにニコニコとしている。
「ソフィ……その姿……」
「本来の姿で出てくるわけにはいかないでしょう? だから、今はあなたの大好きな女子高生の莉亜よ」
「カワイイ……」
ケビンとソフィーリアでよくやるイメプレの設定である莉亜の容姿は、黒髪ロングストレートのブラウンアイで身長は160cmほどだ。ちなみに幼い顔立ちとは違い体の方は成熟しており、俗に言うロリ巨乳を体現している。
「今回はブレザーじゃなくてセーラー服にしてみたの。スカートは膝上20cmのミニで二ーソックスよ。そそるでしょ?」
ケビンの背で見せつけるかのようにして、ヒラヒラとスカートをなびかせるソフィーリア。それをドラゴンの姿のままで、これでもかというくらいに凝視するケビン。それに構わずよじ登ろうとする嫁たち。
既にこの場は、誰が見てもわかるくらいに混沌と化している。
「ちょっと、今から寝室に行かない?」
「ダメよ。お預けなんだから」
「ソフィ……」
「はしゃいでオイタしたあなたへの罰よ」
「うっ……」
ケビンを嘲笑うかのようにしてチラチラとチラリズムを続けていくソフィーリアの罰は、ケビンにとってはもの凄く効果覿面の罰であるようだ。結局のところケビンはソフィーリアの手の上で、コロコロと転がされてしまうしかないようである。
こうして、今なお頑張っている前線で戦う者たちとは別で、後方ではなんとも言い難い光景が繰り広げられているのであった。
「ねぇ、ケビン。見るからに乱戦よ? どうするの?」
そうケビンに質問するのはサラだ。本当の魔王と戦える機会があるかもしれないということで、今回の戦争への参加に名乗りを上げた次第である。
「これは思ってたよりも酷いな」
後方にて前線を見るケビンたちの視線の先には、波のように押し寄せている魔物の大軍が映し出されていた。そして、それを目にする勇者たちは、数の暴力という言葉の意味を目の当たりにすることになる。
「ヤベェ……」
「あんなのアリか?」
「いや、ナシだろ……」
「ブートキャンプより数が多いよ……」
「私たちにやれるの?」
「こ、怖い……」
「お、王〇の群れであります!」
「誰が腐海に手を出したでごわすか!?」
「ひ、避難を! 避難をするですぞ!」
「ケビン殿は青き衣も纏ってないでござる!」
圧倒的な敵の数を目にする勇者たちは、多かれ少なかれ震えの止まらない者たちがいた。そのような中で、ケビンは勇者たちが戦意喪失する前に行動に移さないと、この先の戦いは無理だろうと判断する。
「とりあえず、勇者たちはここで待っててくれ。俺が間引きする」
「主殿よ、私も手伝うかの?」
「いや、クララは待機だ。暴れるのは間引きした後にしてくれ」
「あいわかった」
そう指示を出したケビンは1人で空に浮かび上がると、前線に向かって飛んでいく。それを見守る勇者たちは、ヒソヒソと話し合いを始めるのだった。
「なぁ、間引きってアレか?」
「アレだよな?」
「対、数の暴力戦……」
「なんて魔法だっけ?」
「確か……コズミックレイ?」
「理不尽魔法だよね……」
勇者たちはケビンが間引きをするとあってか先程までの恐怖は和らぎ、実演を見たことがあるのもさることながら、ケビンに対して絶対の信頼を寄せている。
「行っちゃったわね」
「主殿が暴れたら敵は残るのかの?」
「乱戦中の敵は少なからず残るわよ?」
サラやクララ、それにマリアンヌが会話をしていると、近場では他の嫁たちが同じくケビンについて語り合う。
「ケビン君って魔物相手には容赦しないよね」
「理不尽の権化」
「ケビン様はお強いですから!」
「そうよ、私のケビンなんだもの!」
「んー……遊べるほど敵が残ればいいなー」
そのような会話をしている正妻組に対し、お世話係として付き添っているメイド隊のプリシラが声をかける。
「皆様、お待ちの間にお茶でもどうですか?」
その言葉に対し嫁たちは勇者たちよりも全然余裕があるのか、戦地だというのにティータイムと洒落込むことにしたようだ。
それからテキパキとテーブルやらイスやらを出しては準備するメイド隊一同は、いつも通りの動きで速やかにお茶を楽しめる場所作りを終えてしまう。
そして、それを見せつけられている勇者たちは唖然としてしまうが、その中から嫁の一員である結愛たちも、ティータイムの席にお呼ばれする。
「サラお義母さんは怖くないんですか?」
「私が怖いと思うのはケビンを失うことだけよ。今はケビンとの子供のサヤも入るけど」
「お義母さん凄い……」
「大人だね……」
結愛たち三姉妹がサラと会話をしている中で、別の場所では弥勒院が駄々を捏ねていた。
「うぅぅ~……プリシラさんのお茶を飲むとケーキが欲しくなるよぉ……」
「どうぞ、こちらを」
「うそっ!? ケーキだ!」
弥勒院の要望に寸分違わず応えてみせたプリシラだが、それを見ている九十九が身を乗り出して抗議する。
「ちょっと待て! 香華だけズルいだろ。私にミートソーススパゲティと抹茶はないのか!」
「こちらにございます」
「おおっ、さすが完璧メイドのプリシラ殿だな! メイドの中のメイドと言える!」
自分の好物が出てきたことによって、九十九は先程までの抗議が嘘かのような手のひら返しで、それを成したプリシラをべた褒めするのだった。
そのような中、サラはある人物を追加で招待する。
「ガブちゃん、貴女もいらっしゃい」
「え……でも、私は……」
「いいのよ、ケビンのお嫁さんを目指しているのでしょう? それなら、ここに座っても誰も文句は言わないわ」
サラからの強引なお誘いによって勇者たちと待機していたガブリエルは、オドオドとしながらもサラの隣に腰掛けた。
「ガブちゃん、どこまでいったの? もう手は繋いだ?」
「うっ……鍛練に明け暮れてて……」
「もう……ガブちゃん、鍛練ばかりしてたらケビンが遠のくわよ」
「……ごめんなさい……」
痛いところを突かれてしまったガブリエルがシュンとして俯くと、サラはこれならばしているだろうという予想の元で会話を進める。
「お手紙交換はしているの?」
「はい……ケビンさんはちゃんと返事を書いてくれて……私の宝物です」
「もういっそのこと襲っちゃえばいいのに」
「むっ、無理です! お、お、襲うだなんて、そんな――」
ケビンを襲えと言われてしまったガブリエルが真っ赤になって否定すると、サラはそれを微笑みながら眺めていたのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
嫁たちがくつろいでいる中、ケビンは何も知らず(知っていても気にしない)に前線の上空から地上を俯瞰していた。その姿を見る指揮官クラスは歓喜し、前線で戦う兵士たちや冒険者たちを鼓舞していく。
そして、英雄が現れた報せを受けた前線で戦う兵士たちや冒険者たちは、僅かな隙に上空を見上げるとそれが真実であることを自覚し、更に闘志を湧き上がらせるのだった。
だが、上空にいるケビンは勢いの増した兵士たちや冒険者たちよりも、眼下に広がる敵の軍勢を観察していた。
「やけにオークが多くないか?」
『オークだけに? プークスクス……』
「……」
《サナちゃん……》
『ち、違いますからね! 戦争なんて陰鬱な雰囲気を吹き飛ばそうと、気遣いしただけなんですからね! サナが寒いオヤジギャグしか言えないだなんて思わないでくださいよ! サナはオヤジじゃなくてギャルなんですから、ギャル!』
「はぁぁ……そういうことにしておいてやる。で、G並みのゴブリンはともかくオークが多い理由は? 予想としては繁殖しながら進軍して数を増やしたって線だが……」
『マスターの予想通りだと思います。あいつらはメスであれば何でも孕ませますからね。しかも、食料がなくなれば共喰いして、餓死なんてしませんし』
《ゲスな種族ね》
『ちなみにゴブリンも同じことができます』
「まぁ、そうなるよな」
『しかも、オークより繁殖スピードが早いです。弱者ゆえに数で対抗ってことなんでしょうけど、まさにGですね!』
「メスさえいれば無限機関だな。さすがに1匹で30匹は無理だろうけど」
そのような結論に至ったケビンは、中央や右翼の方にも視線を向けてみると、ただ左翼の数が多いというだけで、どこも似たような感じで乱戦になっていることを知る。
「他のところもフォローを入れるか」
『広範囲戦略魔法になりますね』
《魔力は持つの?》
「『魔力が持たないなら省エネでいけばいいじゃないの』と、マリーさんじゃない貴族夫人が言っていた」
《嘘ね》
「まぁ、ご覧あれ」
そう言うケビンは魔法でドッカンする方法を取らず、1撃が壊滅級となる方法を取ろうとする。
「【龍化】」
その方法を取るためにスキルを発動すると、ケビンは光に包まれてその姿が見る見るうちに変貌していく。
「グルァァァァ――!」
ケビンのけたたましい咆哮が戦場に響きわたる。それを耳にした魔物勢や味方勢は我が目を疑ってしまう。それは後方にて控えている勇者たちもそうであった。
「なぁ……俺、目がおかしくなったみたいだ。ケビンさんが白いドラゴンになったんだぜ」
「お前もか? 実は俺も目がおかしいみたいだ」
「異世界に眼科ってあるのか? ちょっと、受診に行きたいんだが」
「ケビンさんって……人間じゃなかったの?」
「き、きっと、アレよ、アレ! 【偽装】スキルで姿を偽ってるのよ」
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「え……健兄がドラゴン……?」
「人じゃなくてドラゴンに転生してたの?」
「転生したらドラゴンだった件……」
「ケビンくん、ドラゴンになっちゃった……あの手でケーキとか作れるのかな?」
「なん……だと……カッコイイではないか! 旦那様だけズルいぞ! 私も変身したい! 『変身をあと3つ残している』とか言ってみたい!」
そのような困惑の声が上がっていく中で、ケビンのドラゴン姿を見たクララはとある懸念が頭をよぎる。
「まさか主殿……アレをするつもりではないよの?」
ケビンのドラゴン姿から放たれる攻撃を間近で見たことのあるクララは、その懸念からか冷や汗が頬を伝っていく。
だが、クララの懸念は儚くも崩れ去ることになる。何故なら現場にいるケビンは、ちょーノリノリでテンションが上がっているからだ。
「ハハハハハッ! 有象無象の虫けらどもよ、我が力の片鱗をその身で受けるがいい。これが全力全開(手加減側に)のホワイトドラゴンブレスだぁぁぁぁ!」
『焼き払え!』
ケビンの大きく開けた口元がピカッと光った瞬間、眩いばかりの光線が左翼側の敵陣営へと飛んでいく。そして、着弾したと思えば轟音を響かせて大爆発を起こすのだった。
『薙ぎ払え!』
「……」
《サナちゃん……》
『どうしたんですか、マスター? 早く撃ってください! それでも世界で最も最強な一族の当主か!』
ノリノリなサナに合わせるつもりではないが、このまま時間を潰すのもどうかと思い至ったケビンは、中央から右翼にかけて薙ぎ払うかのように再びドラゴンブレス(笑)を放つのだった。
そのドラゴンブレス(笑)が敵陣営を薙ぎ払うと、再び轟音とともに大爆発を起こし、地面はえぐれ、その場にいた魔物たちは吹き飛ばされるでもなく、そのまま焼失してしまう。
その光景を目の当たりにしている王国軍や冒険者たちは唖然としてしまい、勇者たちも同じく開いた口が塞がらない。
「うひょー! 巨〇兵並であります!」
「ということは、この後は金色の地に舞い降りるでごわすな!」
「金色の地ではなく、魔物たちの死屍累々の地ですぞ!」
「白き鱗を纏った者でござる!」
「アレを操りたい! 私も『薙ぎ払え!』って言いたい!」
「晶子……」
「晶子ちゃん……」
「晶ちゃん……」
唖然とする勇者たちとは別で、【オクタ】の一部メンバーは興奮絶頂に飲み込まれているようだ。
だが、そのような快挙を成し遂げたケビンに近づく者がいた。
「ケビン君」
「ん? クリスか、どうした?」
その者は嫁のクリスであり、ケビン以外で空中浮遊を難なくやってのけるまでに技術を昇華させていたのだ。
「お楽しみなのはわかるけどね、味方も吹っ飛んだよ?」
「え……?」
「ほら」
そう言うクリスが指をさす方向に視線を向けるケビンは、爆発の際に起こった爆風で飛ばされてしまった兵士たちや冒険者たちだった。その姿はまるで地面をゴロゴロと転がって蹂躙されたあとのようだ。
「あ……」
せめてもの救いは魔物も一緒に吹き飛んだせいか、総崩れになるという情けない結果を生み出さなかったくらいである。
「え、えっと……」
「ソフィさんがね、『相変わらずね』って連絡してきたよ。後方待機組はソフィさんの張った結界で飛ばされずに済んだの」
「ごめん……」
クリスから事の顛末を聞き、最強の生物たるドラゴンがシュンとしている光景はなんともシュールであるが、ケビンのおかげか魔王軍の怒涛の攻撃はなりを潜めており、王国軍や冒険者たちが立て直す時間を稼げている。
「まだ生きている魔物にトドメを刺せ!」
「皇帝陛下の与えてくれたチャンスを逃すな!」
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「戻ろっか?」
「うん……」
完全に先程までのハイテンションがなくなり、ショボンとしているケビンの背にクリスが乗ると、ケビンは『俺も悪いけど、サナも共犯だよな?』と、道ずれにする気満々でどう言い逃れをするのかという考えを持ちながら、ゆっくりと嫁たちの待つ後方へと飛んでいくのであった。
その後、ケビンが後方待機所についてクリスが背から降りると、元の姿に戻ろうとしたところで、思わぬ伏兵?が現れる。
「旦那様! 私も背に乗せて飛んでくれ! ドラゴンライダーをやってみたい! いや、ここは龍騎士と言うべきか!?」
「ケビンくん、私も! 空を飛んでみたい!」
九十九や弥勒院はケビンがドラゴンの姿であろうと特に気にした風ではなく、ケビンに駆け寄るとその背に乗ろうとしてよじ登ろうとしていた。
「あらあら、それなら私も乗せてもらおうかしら。ドラゴン姿のケビンに乗ったことがないのよね」
ケビンによじ登る2人を見たサラが同じように主張すると、それに続いて他の嫁たちも「乗りたい!」と主張してくるのだった。
「ふふん、ケビンドラゴンに1番に乗ったのは私だからねー今回の1番は私のものだよー」
しれっとそのようなことを狙っていたクリスがそう言うと、次は2番の席を狙って我先にと嫁たちが殺到する。だが、そこでケビンの背に瞬時に現れたのは、スピードが売りであるサラではなく、ケビンの1番が大好きなソフィーリアだ。
「ふふっ、クリスに出し抜かれたから1番は取れなかったけど、2番が取れて良かったわ」
「え……ソフィ……?」
「3番はお母さんがもらうわね」
ソフィーリアの登場にケビンが驚いていると、すかさずスピードを活かしたサラが3番手を取り、ケビンの背でソフィーリアとともにニコニコとしている。
「ソフィ……その姿……」
「本来の姿で出てくるわけにはいかないでしょう? だから、今はあなたの大好きな女子高生の莉亜よ」
「カワイイ……」
ケビンとソフィーリアでよくやるイメプレの設定である莉亜の容姿は、黒髪ロングストレートのブラウンアイで身長は160cmほどだ。ちなみに幼い顔立ちとは違い体の方は成熟しており、俗に言うロリ巨乳を体現している。
「今回はブレザーじゃなくてセーラー服にしてみたの。スカートは膝上20cmのミニで二ーソックスよ。そそるでしょ?」
ケビンの背で見せつけるかのようにして、ヒラヒラとスカートをなびかせるソフィーリア。それをドラゴンの姿のままで、これでもかというくらいに凝視するケビン。それに構わずよじ登ろうとする嫁たち。
既にこの場は、誰が見てもわかるくらいに混沌と化している。
「ちょっと、今から寝室に行かない?」
「ダメよ。お預けなんだから」
「ソフィ……」
「はしゃいでオイタしたあなたへの罰よ」
「うっ……」
ケビンを嘲笑うかのようにしてチラチラとチラリズムを続けていくソフィーリアの罰は、ケビンにとってはもの凄く効果覿面の罰であるようだ。結局のところケビンはソフィーリアの手の上で、コロコロと転がされてしまうしかないようである。
こうして、今なお頑張っている前線で戦う者たちとは別で、後方ではなんとも言い難い光景が繰り広げられているのであった。
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