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第17章 魔王軍との戦い

第571話 第1回 勇者対魔王の作戦会議

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 神聖セレスティア皇国が魔王軍と戦争に入ったことを知ったケビンは、勇者たちを戦闘要員・非戦闘要員問わず集合させて、会議室にて話し合いを行うことにした。

 その話し合いの場には勇者ではないが、贖罪のために意気込んでいるガブリエルも居合わせている。

「【第1回 勇者対魔王】の作戦会議を始める」

 ケビンが神妙な面持ちの勇者たちを前にして、そのような宣言をすると早くもツッコミが入る。

「ケビンさん、勇者対魔王の作戦会議は以前に何回もやりましたよね?」

 ケビンにそうツッコミを入れるのは、ケビンと勇者たちの戦いの前に開かれた作戦会議に参加していた九鬼だ。

「何を言っているんだ、九鬼。前回のは【魔王対勇者】の作戦会議だ。今回は【勇者対魔王】なんだぞ」

 そう言ってのけるケビンだったが、その話を聞いた九鬼はおろか初耳であるほとんどの勇者たちも唖然としてしまう。

 そこで唖然としなかった者がケビンに更なるツッコミを入れる。

「馬鹿っしょ、ケビン。そんなんうちでも同じだってわかるし。ただひっくり返しただけじゃん。ちょーウケる!」

 笑いながらケビンにそう指摘したのは、ケビンのことを呼び捨てにする数少ない人物のうちの百鬼なきりである。その発言によってケビンはこめかみをピクピクとさせるが、大人としての広い心でもって何とか落ち着こうとする。

 ちなみに呼び捨てにする人物の中で、面と向かってケビンを馬鹿にできるのは、怖いもの知らずの百鬼なきりだけだ。だが、いくら怖いもの知らずの百鬼なきりと言えども、九鬼にだけはマジビビりするので馬鹿にすることはない。

 そして、九鬼の場合と違い逆にケビンの場合においては、暴力に訴えて実力行使に出てこないという、妙な安心感を何の根拠もなく抱いているからだ。

 だがしかし、百鬼なきりは知らない。ケビンも九鬼と同様に、女性相手であっても容赦なくボコった過去を持つことを。

 そのような百鬼なきりの無自覚な綱渡りを諌めるのは、同じ借金奴隷仲間の千喜良である。

夜行やえちゃん、ケビンさんにそんなこと言っちゃダメだよ。ケビンさんはご主人様なんだから」

 だが、千喜良の忠告は百鬼なきりの発言によって、斜め上の展開へと発展する。

「千代、ケビンに懐きすぎっしょ。マジで惚れてんじゃね?」

「な、ななな、なに言ってるの夜行やえちゃん?! 今はそんな話じゃないよね!? 夜行やえちゃんはパメラさんのブティックで働けているんだから、ご主人様に感謝しなきゃいけない立場なんだよ! ぶっちゃけ、ケビンさんはオーナーなんだよ、オーナー!」

 百鬼なきりの発言によってあたふたと挙動不審になりながらも、千喜良がケビンを立てる正当性を説明するのだが、後先考えない百鬼なきりには通用しない。むしろ、その時のノリで話がコロコロと変わってしまうのが、百鬼なきり百鬼なきりたるゆえんなのだ。

「パメラさんとロナさんって、マジでパないよねー! パメラさんの下着のデザインセンスもそうだし、ロナさんの服飾のセンスもマジ卍っしょ! うち、アルバイトだから新作とか試着できるし、お得感満載じゃね?」

 千喜良の奮闘虚しく百鬼なきりが雑談に花を咲かせようとすると、ケビンはパメラたちのことを褒められているので窘めるわけにもいかず、どうにかしろという思いを乗せて視線を九鬼に流した。

 そして、その視線を受けた九鬼は厄介事を押しつけられたことがわかり、諦めた顔をしながら溜息をつく。その次にすることと言えば、テンションが上がっている百鬼なきりを静かにさせることだ。

「うるさい」

 ただ一言、九鬼がそう言うだけで、百鬼なきりにとっては特効薬並の効果があったらしい。

「あ、はい」

 すぐさま返事を返した百鬼なきりは、先程までのうるささはどこへ行ったのかと言わんばかりに、背筋を伸ばし見違えるほどの静けさになる。

 そこでようやく話を進められると思ったケビンが溜息をつき、手に入れた情報を参加者たちに開示していく。

「まず、セレスティアが魔王軍との戦争に入った」

 そこで一呼吸入れたケビンは予想通りの展開を目にする。その話を聞いた参加者たちはざわめきだし、本当の意味での魔王が動き出したのだと、彼方此方で会話をし始める。

 そしてケビンは静まるように言うと、参加者たちはケビンの話の続きを聞こうと、会議を始める前以上に集中しだした。

「セレスティア領に攻め込んでいるのは、今のところ魔物らしい。らしいというのは、俺が直接見に行ったわけじゃないからだ」

 そこで参加者の1人から質問が上がる。

「魔王というのは魔物を操ることができるんですの?」

 その質問の発言者は勅使河原てしがわらだ。不確定要素をなくしていこうと、1つでも多くの情報を得ようとしている。それは勅使河原てしがわらのみならず、その疑問話を聞いた参加者たちも同意を示すかのようにして、ケビンに視線を向ける。

「恐らくそうなんだろうな。魔物は元々弱肉強食だ。強い者の指示には従うのだろう。身近なところで言えば、ゴブリンを従えるゴブリンキングとかが当てはまるだろ?」

 ケビンが返答した例え話によって、勅使河原てしがわらのみならず参加者たちも、先の疑問がストンと腑に落ちる。だが、そこで更なる質問が上がってしまう。

「ゴブリンがゴブリンキングに従うのはわかるが、これが仮に他の種族のオークキングとかだったらどうなんだ? 魔王がどんな種族かは知らないが別の種族だとしたら、他の種族の魔物たちは従うのか?」

 そう問いかけたのは無敵である。そのご尤もな意見に対して、ケビンはありのままの考えを伝えるのだった。

「それは知らん。俺は魔物じゃないしそこら辺は魔物に聞いてくれ。だが、方法としては1つだけ思いつくことがある」

「何だ?」

「キングクラスの知性が高いのは知っているだろ? 下っ端連中を統率しないといけないからな。そうなってくると、各種族のキングクラスを押さえておけば、必然とその下の連中もついてくるってことだ。種族の全てを従える必要はない。下っ端連中なんて魔王にとっては捨て駒だろうし、仮に謀反を起こされても下っ端の力なんてたかが知れてるだろ」

 ケビンが可能性として上げた話によって、参加者たちはありえそうな組織背景を想像し納得を見せる。

 そして、参加者たちが納得を示したところで、ケビンはこの場にいる者に対して質問をぶつけた。

「そこでだ、この中に正義感を振りかざし、セレスティア皇国を救いたいというやつはいるか?」

 セレスティア皇国を救うというケビンの言葉に対し、参加者たちは視線を巡らせる。国を救うと言われても、その規模の大きさからか想像がつかないのだ。

「仮に救いたいというやつがいるのなら、それはそれで構わないぞ。俺が現地へ飛ばしてやる」

 その言葉を聞いた参加者たちの中で、クラス委員長を務めていた【勇者】の能登が挙手をしてから口を開いた。

「すみません、仮に少しでも多くの人を助けたいと志願したとして、現地へ送られたその後はどうなるのですか?」

 やはり【勇者】であるからだろうか、困っている人がいるのなら助けたいと感じている能登がそのように質問をすると、ケビンは自分の考えを伝える。

「知らん。助けたいと思ったやつが現地入りするだけだ。俺の仕事はただ現地へ送ることだけ。その後のことは自分で考えろ」

「あの、ケビンさんは力のない人を助けたいとは思わないのですか?」

「力なき人なら助けてもいい」

「それなら――」

 言質を取れたと思った能登が先を言おうとしたところで、ケビンがそれを遮るかのように言葉をかぶせてきた。

「助けたあとどうする? 能登の言う助けるってのは、戦地から無力な人を移動させるってことだろ? その助けた人々はどこへ向かえばいい? 避難先に生活するだけの環境はあるのか? 能登にそれを用意するだけの力はあるのか?」

「そ……それは……」

「無力な人を助けたい気持ち……大いに結構だ。さすがは【勇者】に選ばれたことだけはある。だが、助けたいって言葉は簡単に口にできるけど、その後の責任までちゃんと考えてから口にするんだな」

「でも、ケビンさんなら……」

 ケビンの財力や権力などを使えば、戦争に巻き込まれる人たちを救えると暗に指し示した能登に対して、ケビンは現実を突きつける。

「俺は元より助けようとは考えていなかった。そこに住む人たちは、セレスティア皇国が嫌なら国を出れば済むだけの話なんだからな。そもそもセレスティア皇国はこの帝国の敵国だぞ。俺を殺そうとしている国を、何故俺が助けなければならないんだ」

「悪いのは教団であって、セレスティア皇国では……」

 段々と尻すぼみになっていく能登の主張に対して、ケビンは最終結論を下す。

「能登が現地へ行きたいのなら送ってやるぞ。ちなみに俺はごめんだ。烏合の衆の中に飛び込みたいとも思わないし、そんなヤツらを助ける気にもならない」

 ケビンが告げた言葉に反応したのは会話をしていた能登ではなく、勅使河原てしがわらだ。

「烏合の衆とはどういうことですの?」

 その質問に対してケビンが現在の戦地での状況を伝えると、それを聞いた勅使河原てしがわらは呆れ返ってしまう。そしてそれは勅使河原てしがわらだけに留まらなかった。

「せっかくの連合軍が好き勝手に動き回ってるなんざ、待っているのは確実に敗走だろ。危機感がないのか? それとも何か隠し球を用意しているとかか?」

 そのような感想を口にした無敵とは別で、ケビンに対し発言の声が上がる。

「ケビン氏、小生も気になる点があるのですが」

 そう口にしたのは【オクタ】グループのあずまだ。それに対してケビンは先を促すように返事をして、それを受けたあずまは自らの予想を語っていく。

「あの教団の支配者たちを考察するにあたり、今現場で戦っているのは辺境伯領の軍だけなのではと推察するであります。小生の予想としては、皇国軍本隊はまだ到着していないかと。教団は自分たちの懐を痛めないために、まずは各国の派遣した兵たちを使い潰す気なのではないかと、考えてみたのですが、何か?」

 あずまの立てた予想に対して、ケビンは納得の表情を見せる。

「ありえる……ありえすぎて、それが真実なような気がする。つまり皇国軍は現場へ到着しておらず、辺境軍だけで対応中ということか。それなら総指揮官が辺境伯なのも頷ける。普通は軍関係者の将軍クラスが出張ってくるだろうしな」

 そう言うケビンの言葉に相槌を打つのは、黙っていた勅使河原てしがわらである。

「つまり、圧倒的優位性が築けていないことから、各国の派遣軍が自由に動けているのですわね。辺境伯の統制力が足りず、御しきれていないとも言えますけれど」

 色々な憶測による意見が飛び交い、前線の状況も少しは見えてきたところで、ケビンが改めて能登に対して現地へ行くのかどうなのかを問いかける。

「まぁ、何はともあれ、前線はガタガタだ。そこへ行きたいのか能登は? 言っておくが、そういう場所ってのは孤立無援だぞ。お前が勇者だからといっても、誰も協力はしないだろうな。むしろ、お前を矢面に立たせて上手く操ろうとするだろう。俺を倒しに来た時と同じだな」

 ケビンから実際の話と言うよりも、能登自身が操られて実際に行った事実を明示されてしまい、能登は俯くことしかできなかった。

「能登君……」

 そのような能登を、クラス副委員長を務めていた剣持が心配そうに声をかけるが、同じ【勇者】という職を持つ者として剣持も共感できる部分はあるのだ。

 その剣持とて言葉には出さなかったものの、力のない人々を救いたいという気持ちは持ち合わせている。ただそこには声に出して主張した者と、黙って成り行きを見守っていた者の差が顕著に現れていた。

 それは他の参加者たちも少なからず思っていたことではある。戦争とは関係のない力なき人々が、魔王軍によって蹂躙されるかもしれないという事実は、改めて知らされてしまうことによって、何とかできないものかと考えてしまうものだ。

 だが、ケビンの言ったように後のことまで責任を持てるかと問われれば、そうはいかない事実も確かにある。1人、2人ならまだしも、村や街単位でとなると勇者たち全員が協力したとて限界があるのだ。それができるとするならば、難民を受け入れることのできる領地を治める領主か、国を治める国主しかいない。

 しかしそれとて、資産力に余裕がある場合に限られる。自領や自国に余裕がないのに、難民など受け入れてしまえば火の車となるのは明らかだからだ。

 人一人としての力の限界を突きつけられることになってしまった勇者たちは、そのことを端から受け入れていて割り切っている者や、力の無さに悔いる者、他に道はないのかと新たな打開策を考えようとする者たちでわかれていく。

 そのような話によって、会議前とは明らかに沈んでいる場の空気を一蹴する、新たな情報がこの場に現れた第3者によって齎されるのであった。
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