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第17章 魔王軍との戦い

第564話 エレフセリア学園 ~武闘会~ ⑤

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「次の対戦カードはこれだぁ!」

 舞台上空には四方から見えるようにと巨大モニターが設置されているのだが、そのモニターにヨルスの熱い掛け声とともにペア戦の対戦カードが表示される。

「ウィーガン家の双子、トーマス君とトーレス君! 対するのはエレフセリア家のラーク君とルーク君! ソウスケさん、この対戦はどう思われますか?」

 テンションの上がっているヨルスの振りによって、未だ実況席にいる猿飛は真面目な解説者役としてそれに応じる。

「トーマス殿やトーレス殿による、双子ならではのコンビネーションに注目でござる。しかし、対戦相手のラーク殿やルーク殿とて、母君は双子であるからにして、普通の兄弟よりかはコンビネーションに優れてござろう」

「やはりペア戦の鍵を握るのは、如何に上手く連携を取るかですね!」

「それが肝となるのは確実でござるが、それ以前にウィーガン家の双子は3年生でござるからな。対してエレフセリア家は5年生。2年差という月日の流れによって、そこに積み重なる経験の差が双子にとってはきついものとなるでござろう」

「確かに経験の差は如実に現れるでしょうね」

「しかしながらこの無差別級の良いところは、たとえ年上相手に挑んで負けたとしても、それが1つの経験となり、後の成長に大きく寄与するところでござるな」

「先輩の胸を借りるというやつですね! いやぁ、ソウスケさんが解説を担ってくれるおかげで、実況席が実況席らしくなりますね! どこかの三年寝太郎、この場合は寝花子? とりあえず寝てばかりのネーボさんとは全然違います!」

 もうネーボのことなど既にどうでもいいと判断しているヨルスは、ここぞとばかりに貶すだけ貶すと、猿飛がことの成り行きで始めた解説役を真面目にしていることで、それを持ち上げては嬉々として仕事に身が入っていた。

 そのような時に皇族専用席では、ケビンによってウィーガン家が貴賓席から招かれており、ともに観戦をするようである。

「後輩よ、あそこにいるのは噂の勇者か?」

 ターナボッタは実況席に座っている黒髪黒目の男性を見たことによって、その素性が気になるのかケビンに問いかけていた。

「そうですね。先輩は勇者を見るのは初めてですか?」

「ああ、そうだな。物語を読んだことがあるから知ってはいるが、実際のところ目にするのは初めてだ」

「彼のグループは発想が面白いですよ。先輩の発明にも一役買ってくれるかもしれません」

 そのようにしてケビンとターナボッタが旧交を深めていると、ターナボッタの第2夫人であるフォリチーヌはララやルルと会話をしていた。

「ララ様、ルル様。今日は御子息たちの胸をお借りしますわ」

 にこやかに微笑むフォリチーヌに対して、ララやルルも微笑みを返しながら言葉を口にする。

「トーマス君とトーレス君の頑張りに、息子たちが足元をすくわれなければいいのですけれど」
「崇高なるケビン様の息子として恥じぬ戦いをしてくれれば、何も言うことはありません」

 和やかな雰囲気で会話がなされていると、舞台では両家の子供たちが挨拶を交わしていた。

「ラーク先輩、ルーク先輩。本日はよろしくお願いします」
「父上の開発した魔導武器。今大会に向けて改良してもらえたので、是非ともご堪能ください」

 トーマスとトーレスが若干緊張した面持ちで声をかけると、ラークとルークは楽しげに言葉を返した。

「とりあえず……学年別のペア戦、優勝おめでとう」
「いいコンビネーションだったよ。素晴らしいね」

 そして、それぞれが笑みを浮かべながら握手を交わすと、開始線の位置まで下がり、審判からの合図を待った。

「それでは……始めっ!」

 トーマスとトーレスが胸を借りるつもりで走り出すと、ラークとルークは先輩としてその場から動かずに待ち構えているが、間合いを詰めるトーマスたちは予め担当を決めていたのか、長剣を持つトーマスがラークへ向かい、槍を持つトーレスがルークへと向かう。

「「《エンチャント・ライトニング》」」

 そしてトーマスたちが武器に雷属性を付与すると、バチバチと音を立てながらそれぞれの相手に攻撃を繰り出した。

 対するラークたちは、トーマスたちが武器での対戦を望んでいると感じ取り、魔法を使って虚をつく行為は控えることにして、自身の持つ武器でそれに応えるのだった。

 だが、個人戦とは違い相手がテオでないためにケビン印の武器が使えず、一般的な武器を使っているのでそこまでの性能はない。ただ、せめてもの救いは武器に魔力を纏わせているので、耐久力はあるということだろうか。

 やがて、相対したトーマスとラークはお互いに長剣であるため剣同士での剣戟となるが、一方でトーレスの持つ武器が槍であるためか、長剣を持つルークはリーチの違いでいささか不利を被ることになる。

 そのトーレスが無数の突きを放つとルークはそれをバックステップで躱し、踏み込んで斬りかかろうにも払いで牽制される。

「槍さばきが以前よりも上達したようだね」

「余裕でいられるのも今のうちです!」

 トーレスの槍さばきにルークが攻めあぐねている一方で、ラークは逆にトーマスを追い詰めていた。鍔迫り合いとなる中で、ラークがトーマスに話しかける。

「ただ剣を振るうだけなら、ここで仕留めてしまうよ?」

「まだまだこれからです!」

 トーマスがラークの剣を押し返して横薙ぎの一閃を繰り出すと、ラークはそれをバックステップで躱してしまう。空を斬る剣閃はバチバチと音を鳴らすだけに留まった。

「なかなか魔力切れを起こしそうにないね」

「父上の魔導武器は魔力が少ない人でも扱えるようにと、日々改良が加えられているのです。それにこの武器は僕たちに合わせて作られた、言わば特注品。性能も一般的なやつとでは違います」

「ターナボッタおじさんは、本当に稀代の発明家だよね」

「父上を好評価していただきありがとうござい……ますっ――!」

 再び間合いを詰めたトーマスがが斬りかかると、ラークはそれを難なく受け止める。そして、また剣戟が続くようになり状況は膠着する。

 舞台では果敢に攻めるトーマスたちと、それを受けるラークたちのせめぎ合いが続くかのように思えたが、トーマスとトーレスが攻撃の合間にアイコンタクトをする。

 それは傍目に見れば兄弟の状況を確認するかのような仕草にしか見えず、実際ラークとルークに至っても、トーマスたちがお互いの状況をチラッと確認したのだろうと誤認していた。

「「解放!」」

 果敢に攻める中でトーマスたちがほぼ同時に声を上げると、突き出した武器から閃光が迸り、放たれた雷光がラークたちに襲いかかる。

 それは至近距離で放たれたということもあるが、武器にそのような性能が隠されていると思ってもみなかったラークたちは、もろに雷撃を浴びて苦痛に顔をゆがめ膝をついてしまった。 

「「ぐっ!」」

 決して油断でもないが予想だにしなかったことで無防備に浴びてしまった雷撃によって、ラークたちは体の自由を一時的に奪われてしまう。それは戦場であったのなら致命的な隙となる状況だ。

 ただ、ラークたちも遠距離から放たれたのならまだ対処の仕様はあったが、近距離から放たれてしまったことで避けることもままならず、なおかつ間合いが空いていないというところで、次のトーマスたちの行動に対する対処が遅れてしまうというのは必然とも言えるだろう。

 ゆえに、ラークたちはそれを抵抗なく受け入れる形となる。

「「終わりです」」

 トーマスはラークに、トーレスはルークの首筋にそれぞれ武器を当て、この試合に終止符を打つのだった。

「参ったね、これは……」

「母さんたちにドヤされそうだ」

 お互いに離れた場所で思いを口にするラークたちは、未だ痺れの取れない体では満足に反撃へと移ることもできないだろうと判断し、降参することを審判に告げる。

「勝者っ、トーマス、トーレスペア!」

 審判からの勝利宣言によって、会場は割れんばかりの歓声に包み込まれる。年下ながらに健闘はするものの、誰もトーマスたちが勝てるとは思っていなかったのだ。

 だが実際は、持ち得る手を尽くしたトーマスたちの勝利となっている。大金星を上げた2人に対して惜しみない拍手が送られ、それを背に2人は舞台を後にした。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「あぁ~負けちゃったか……」

「こっちの作戦勝ちだな」

 皇族専用席にてケビンがこぼした感想をターナボッタが拾う。2人とも勝ち星を上げたトーマスたちに拍手を送りながら、試合内容とは別のことを話し始める。

「それにしても、アレを完成させていたんですか?」

「まだまだ飛距離を稼げないがな」

 2人が話しているのは、トーマスたちが使った剣に纏わせた属性の放出であった。

「あれは元々、後輩の技を参考にしたんだぞ」

「俺の技……ですか?」

 ケビンが自身の技と言われてもピンとこないで首を傾げていると、ターナボッタは呆れたような視線を向けて参考にした技のことを語り始める。

「後輩が親善試合で使っただろ? 雷属性を飛ばして相手に当てる技を。その技を食らった俺が言うんだから、記憶違いってことはないぞ」

「…………あっ……あぁ、あぁ。確かに先輩に対してぶっ放していましたね」

 ポンと手を叩いてちゃんと思い出しましたよと言わんばかりのケビンに、ターナボッタは溜息をつく。

「再現するのに滅茶苦茶苦労してるんだから、どうでもいいようなことみたいに忘れたりするなよ……」

 あっけらかんとするケビンに呆れながらも、そのようなケビンとも付き合いの長いターナボッタは、今さらその性格は治らないだろうと諦めの境地に達していた。

「勝ててしまいましたわ……」

 ケビンとターナボッタが会話している最中、ボソリと呟くフォリチーヌは、目をパチパチとさせながら現実に思考が追いつかないようである。

「おめでとうございます。フォリチーヌ様」
「御子息たちは目を見張る成長ぶりでしたね」

 呆然としているフォリチーヌにララとルルが笑みを向けて声をかけると、フォリチーヌは少しずつ現実に追いついてくる。

「あ……ありがとうございます」

 お礼を伝えるフォリチーヌとは別で、ララとルルは既に負けてしまった息子たちに対しての処置をどうするか相談しあっていた。

「それにしても、油断が過ぎたわね」
「尊くない負けっぷりだったね」

 決してラークたちは油断をしていたわけではないが、母親たちからしてみればそのようなことは瑣末でしかない。そして、何やら雰囲気の変わっていく2人に対して、フォリチーヌはラークたちの身を案じてしまいフォローを入れようとする。

「あ、あの……ラーク君たちも一生懸命頑張っていたと思いますよ? 決して手抜きをして負けたとかではなく……」

「手抜き……手抜きですか……」
「確かに本気は出していなかったよね……」

「あの……あの……」

 ララとルルのオーラが、ますます膨れ上がっていくのを肌で感じてしまっているフォリチーヌは、助けを求めようと楽しく魔導武具の話をしているケビンたちに、チラチラと視線を向けてはオロオロとしていた。

「ふふっ……帰ったら話し合いね」
「みっちり話し合いだね」

 こうしてラークたちの預かり知らぬところで、ララとルルから話し合いの場を設けられることが決定したのだった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「さて、続きましては、テオ君に挑む個人戦のお時間です! 次にテオ君に挑む選手はこの子だぁ!」

 ヨルスの叫びとともにモニターに表示されたのは、クララの息子となるクラウスだった。

「その血に宿るは龍族の血! 過去の歴史を紐解いても、その姿を見せたことのない希少種族! 生まれ持ったポテンシャルは言わずと知れたもの! 果たしてこの戦いで不敗神話を継続するのか!? それとも、ここで不敗神話が終わってしまうのか!? ソウスケさんはどう思われますか?」

「拙僧が思うに、今大会きっての1番注目度が高い試合だと思うですぞ!」

 先程と違う声音が聞こえたヨルスは、横を向いた途端に視界に入ったあまりの出来事にババっと二度見する。

 そして、猿飛に向けて話しかけたと思っていたヨルスは、全く違う人物からの回答を得てしまって固まったものの、すぐに再起動を果たすと誰何した。その辺は、さすがプロ根性と言っても過言ではないだろう。

「…………代わってるぅぅぅぅ?? ソウスケさんはいったいどこに?! というか、貴方は誰っ!?」

「ソウスケ殿はトイレですぞ。ちなみに拙僧は交代としてやって来たシスイと申す者ですぞ」

「またまたトイレ交代!?」

 あずまのトイレ休憩で猿飛が来て、その猿飛のトイレ休憩で百武ひゃくたけが来たことによって、ヨルスは解説の助っ人役がトイレ休憩をする度に、隣に座る人が代わるのではないかと戦慄する。

 そのヨルスが驚いている中でも百武ひゃくたけは逆に落ち着いており、淡々とトークを開始してしまうのだった。

「龍の血を引くと言われている龍人族……その基礎能力値は人間の遥か上を行くのですぞ。対してテオ殿は、今まで表舞台に出てこなかった謎の人物。不敗を誇るクラウス殿との戦いによって、その戦闘力が如何程のものなのか、はっきりと明るみに出るのですぞ」

「確かに! 第1回戦でヴァンス君が健闘したと言っても、それはまだまだ発展途上の強さ。対してクラウス君は、今まで積み重ねてきた不敗記録の保持者に恥じぬ強さ! これは片時も目が離せなくなりそうです!」

 実況席で熱く語られていく中で、選手入場口からはクラウスがその姿を現し、舞台へと上がっていく。

「やっちまえ、クラウスー!」
「不敗のまま卒業して、伝説を作れー!」

 沸き起こる黄色い声援は黄色い声援なのだが、そこには女子が含まれず男子の声のみで構成されていた。どれも子供の声なので野太い大人の声が入っていないのが、クラウスにとってはせめてもの救いか。

「クラウスは毎度のことながら女子人気がないな」

 皇族専用席に座るケビンが指摘すると、それに答えるのは母親であるクララだ。

「それも良かろう。男子はクラウスの強さに憧れを抱いておるのだろう。ああ見えて面倒見が良いからの」

 しかし、その返答に対してケビンが口にしたのは、将来的に起こりうる懸念を指摘するのだった。

「そのまま男ばっかり集まったら、紅の長のところみたいになりかねんぞ?」

「――ッ!」

「ゆくゆくは【喧嘩上等】の羽織を着始めるかもな」

 次々と上がってくるケビンの懸念事項によって、クララは古くからの知り合いである紅の長の集団を想像すると、それがクラウスと取り巻きたちの姿に移り変わり、珍しくわたわたとしてしまう。

「ど、どうするのだ、主殿!? クラウスがあの馬鹿みたいになったら、目も当てられんぞ!」

 慌てるクララとは裏腹に、ケビンは落ち着いて答える。

「そこはどうしようもない。クラウスの人生はクラウスのものだ。まぁ、そのうち彼女でもできたら価値観も変わるだろ。男なんだから好きに生きさせればいい」

 そのような形で娘たちの身辺には最大限の警戒を払っているケビンでも、ひとたびそれが息子たちに変わると、将来は本人任せという奔放な育児方針を貫くのだった。
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