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第16章 魔王対勇者
第519話 ミートソーススパゲティは世界一
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※ 今回は1名だけ氏名の更新があります。苗字は出ていましたが、名前が出たので最後に更新しています。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
フィアンマたちとのダンジョン攻略が終わったケビンは、お遊び班のクララたちを引き連れて、あまり数のない100階層のダンジョンに向かっていた。
「なぁケビン。クララたちが暴れるから暇だぞ」
ケビンの隣で愚痴をこぼしているのは、久しぶりにケビンと行動をともにするヴァレリアだ。そのヴァレリアは敵を倒そうにもクララが真っ先に突っ込み、余った敵を倒そうにもヴィーアが元黒の騎士団団長よろしく見事な暗殺術でいとも簡単に倒してしまい、あまり戦闘に参加しないクズミやセリナとともにお留守番となっている。
「そうだなぁ……今度敵が出たらヴァリーが真っ先に突っ込むのはどうだ? 敵が出そうになったら俺が教えてやる」
「絶対だぞ! 約束だからな!」
そして、ケビンの助けを借りてヴァレリアが戦闘を楽しめるようになれば、お留守番組のクズミとセリナはこれ幸いとケビンに腕を絡ませて胸に挟み込み、そのケビンは両手に花状態となる。
「ふふっ、ダンジョンデートも中々に乙え」
「ケビンさんと一緒なら何処でも幸せです」
「2人とも戦闘はしないのか?」
「野暮は言うべきやあらへんえ」
「ケビンさんは私たちの胸をご堪能ください」
「まぁいいや。腕が幸せなのは確かだしな」
ケビンはそう結論づけると前方で戦っている3人を眺めながら、トコトコと後をついて行くのであった。
それからしばらくしたらケビンは頭を抱えることになる。
「2度あることは3度ある……」
「もしかして話に聞いてた勇者かえ?」
「あらあら、ここの勇者は平和的だといいですね」
ケビンの気持ちなど知らずにクララたちは誰が多く敵を倒すかで競っていて、ケビンが止める間もなく奥へと進んでしまう。そして追いついたケビンが見た光景は、談笑している勇者とヴァレリアであった。
「お、ケビン。こいつ面白いぞ」
「はぁぁ……ヴァリー……知らない人に声をかけちゃダメだろ」
「俺を子供扱いするな! もう20歳になったんだぞ!」
「容姿が変わらないから仕方がないだろ。出会った頃のまんまだ」
「くぅぅ……絶対身長を伸ばしてケビンを抜いてやる!」
ケビンとヴァレリアの掛け合いが続いていると、ヴァレリアの側に立っていた少女がおもむろに口を開く。
「ほう、あの人がヴァレリア殿の言う夫なのだな。そして周りにいる女性たちは全て嫁だと」
「そんなことまで喋ったのか……」
「よいではないか、主殿。ヴァリーとて悪気があったわけではないからの」
「クララが付いてて喋らせたのか?」
「ふむ、ヴァリーが楽しそうにしておるでな、たまには見知らぬ相手とのやり取りもよかろうと思ったのだ」
ケビンたちがヴァレリアたちの側まで歩きつくと、少女がおもむろに手を差し出してきて自己紹介を勝手に始めてしまう。
「私は生徒会長の九十九百だ。好きな食べ物はミートソーススパゲティで、好きな飲み物は抹茶になる。今はミートソーススパゲティと抹茶を見つけるための旅をしている最中だ」
「九十九百? また変わった名前だな。子供の頃は虐められていそうだ」
「まさにその通り。99、100とよくからかわれていたが、なに、自分の名前を誰よりも早く覚えてもらえると思えば大したことではない。しかし、よく日本文化を心得ているな。もしや、日本人か?」
「俺のどこをどう見て日本人になる? 俺は現地人だ。異世界文化はこの世界に強く根付いているぞ。過去の勇者たちがバラ撒いていったからな、俺の知識もそこから得たものだ」
「そうであったか。で、ミートソーススパゲティを見かけなかったか? 各街を転々としながら北上してきたが、如何せん見つからないのだ」
「そんなに好きなのか? 残念ながらこの世界にミートソーススパゲティも抹茶もないぞ。まぁ、俺も世界を渡り歩いたわけでないから絶対とは言えないが」
「な、なんだと!? では、私は何のために生きていけばいいのだ。この世界に来た意味がないではないか」
相変わらずの生徒会長節が炸裂していると、パーティーを組んでいる他の生徒たちから呆れた声が上がってくる。
「生徒会長……だから、私たちは魔王を倒すために来たのであって、ミートソーススパゲティを食べるために来たのではないのです」
「絡みづらい……」
「相変わらずだ……」
「安定過ぎる……」
そのような時にさっきから飛び交っている意味のわからない言葉に対して、ヴァレリアが反応してケビンに問いかけるとケビンは食べ物のことだと伝えたのだが、そのヴァレリアがとんでもないことを口から滑らしてしまう。
「それならケビンが作ればいいだろ。料理を作るのはお手の物だろ」
それにすかさず飛びついたのは、自称ミートソーススパゲティを探す旅を続けている九十九であった。
「なっ!? ケビン殿はミートソーススパゲティが作れるのか!? 作れるんだな?! 是非とも作ってくれ!」
グイグイと詰め寄ってくる九十九にケビンがタジタジになっていると、そこへヴァレリアも参戦し始める。
「俺も食べてみたいぞ! ケビン、作ってくれ!」
かたや見かけのみ大和撫子な女子高生と、かたや背が伸びず幾つになっても子供扱いされるヴァレリアに迫られて、ケビンはこれ以上接近されてはなるまいと仕方なく作ることを渋々了承した。
そして、ひょんなことから始まったケビンのお料理クッキングは、目の前で【創造】を使うわけにもいかず、ダンジョン内の拓けた所でテントを張っては、その中のキッキンで地道な料理をすることになる。
その間は、ケビン作のダンジョンではないため安全地帯など存在せず、魔物に対する見張りはクララたちに任せることにして、料理中の安全を確保していた。
やがて作り終えたケビンはテントの外にテーブルとイスを出して、全員分のミートソーススパゲティを並べていく。
「な、懐かしきこの香り!? まさしく私の愛すべき世界一のミートソーススパゲティ!」
「ケビンまだか? 食べてもいいか?」
既に待てないとばかりにフォークを握りしめている2人に対して、ケビンが「待て」を言いつけると、女の子としてはどうなのか涎を垂らしながら待つという絵面的にもいただけない姿となりかわっている。そして、それぞれに飲み物を置いていくと、九十九の前にだけは別の物を置いた。
「百にはヴァリーの話し相手になってもらった礼として、これを用意した」
そう言うケビンが九十九の目の前に置いたものは、もう1つの探し求めていた抹茶である。
「――ッ! この香りは!?」
「抹茶だ」
「結婚してくれ! ケビン殿!」
「待て待て待て。いきなり結婚話を持ちかけるな」
「いいや、この世界において私の好きなミートソーススパゲティと抹茶を用意できるのは、もはやケビン殿しかいない! 結婚しよう! さあ、今すぐ!」
「テンションがおかしな方向に向かってるぞ。とりあえず飯だ、ずっと食べたかったんだろ?」
ケビンは求婚してくる九十九を華麗に?躱すと、若干2名の待ちに待ったお食事タイムとなるのだった。
「美味い! この甘み……まさに私のどストライクだ! 私の好みを熟知しているなんて、ケビン殿は最初から私を娶る気だったのか!?」
「それはない。その歳でミートソーススパゲティが好きだなんて豪語するくらいだから、子供向けの味が好みなんだろうと予測したに過ぎない」
「ケビン、これ美味いぞ! 家に帰っても作ってくれ!」
「ヴァリーは幾つになっても子供だな……」
ケビンはヴァレリアの口の周りを拭きながら、娘のような気がしてくる嫁に何とも言えない感情を抱く。そして反対隣の席でも同じように口の周りに付くのを気にしていないヴィーアの口周りも拭いて、ケビンは中々ミートソーススパゲティに手をつけられずにいた。
「ケビンさん、ヴィーアの面倒は私が見ますので、お食事を進められてください」
「すまない、助かる」
「これも妻の務めですから」
ここでセリナが妻力を見せつけると、正妻の座に座るクズミもそれに対抗してきた。
「それなら、うちがヴァリーの面倒を見るえ。子供を育てた経験があるさかい」
「あらあら、小さな子の面倒は子供云々ではありませんよ?」
「産んだ経験があらへん人の前でする話でもなかったな」
「「オホホホホ……」」
「食事中に揉めるなら帰すぞ?」
「ごめんなさい」
「かんにんや」
「つまらん争いはするものではないの。主殿の望むは皆の幸せというに」
ケビンにいい所を見せようとした2人を他所に、別の所では涙ながらに他の生徒たち4人が、ミートソーススパゲティを堪能しながら口々に生徒会長肯定派へと傾いていく。
「異世界でミートソーススパゲティが食べられるなんて……」
「変な人だけど生徒会長についてきて良かった……」
「俺もそう思う……」
「あながち生徒会長の行動は間違っていなかったのか……」
そのような平和な光景が映し出される中でも、美味しそうな香りに導かれた魔物が近づいてくると、広間に来る前にケビンが無詠唱でどんどんと殲滅しては遠隔で回収していた。
やがて食事が終わりお礼を言われたケビンはさっさとダンジョン攻略に戻ろうとするも、九十九がそれに待ったをかける。
「一緒に行こう! そしてミートソーススパゲティをまた私に作ってくれ! もちろん、抹茶付きだ!」
「だが断る」
「そこをなんとか!」
なおも食い下がる九十九にケビンは追加分をやると言って、何とか縋り付く九十九を離すことに成功する。そしてケビンがミートソーススパゲティを皿に盛り付けた状態で九十九に渡すのだが、九十九がマジックポーチに収納する段階でふと気になることを口にした。
「それ、時間停止がかかったやつか? かかってないならミートソーススパゲティが腐るぞ」
「なにっ!?」
既に十数皿と収納していた九十九は絶望の表情を浮かべて、ケビンに涙ながらに無言で訴えかける。
「……はぁぁ……」
ケビンが仕方がないと思い、九十九のマジックポーチを改造しようと鑑定をかけると、思わぬ事が判明するのだった。
「これ、追跡魔法の術式が刻まれているぞ。私物じゃないのか?」
「教団から借り受けたものだ」
「だからか……引率役の団長がどこも不在なのは」
「ん? ケビン殿は私たち以外にも勇者に会ったのか? やけに詳しいな」
「2組ほど会ったな。1組目はオタクの集まりで、2組目はヤンキーの集まりだ。1組目はウザかったから少し会話してさっさと別れたが、2組目は絡まれた時に情報を貰った」
「ふむ、初対面の相手に対して絡むとは、生徒会長として指導せねばなるまいな。で、そのポーチはどうするのだ?」
「術式を消すこともできるが、しない方がいいだろう。ついでに言うと、そのバングルも余計なものが刻まれているぞ。勇者たちが同じ物をしているから、どうせそれも教団からの物だろ?」
「なに……?」
「そっちはまぁ、あいつららしいと言えば、あいつららしいものだな」
「いったい何が施されているんだ?」
「奴隷ほどのものじゃないが隷属術式だ。何かを指示されても違和感を感じないやつだな。そもそも勇者たち全員にかけるんだ。集団心理を利用してかけやすかっただろ」
「「「「「――ッ!」」」」」
「おおかた使い勝手のいい魔導具で、外せるけど必ず身につけるように言われてんだろ?」
「……その通りだ。入浴中は外すが簡易結界が張れるからそれ以外はつけるようにしている。つまりこれも指示されて、それを受け入れてるということか……」
「どっぷりと利用されてるな。ご愁傷さまとしか言いようがない」
「ケビン殿、何とかならないか? そこまで読み取れるなら解決できる力があると見受けるが」
「そこまでの義理がないな」
「なっ!? 私は未来の妻だろう!」
「何でそうなる!?」
「ミートソーススパゲティを作れるのはケビン殿だけなんだぞ! 私の胃袋をガッツリ掴んでいるではないか!」
「ここで人生送らずに元の世界へ帰れよ!」
「帰る術がないから仕方がないだろ! 私はケビン殿の嫁になると決めたのだぞ! 男なら胃袋を掴んだ責任を取りたまえ!」
「胃袋を掴んだ責任なんて初めて聞いたぞ!」
あーでもないこーでもないとギャーギャー騒いでいる2人を他所に、ケビンサイドは異色の嫁が増えるのかと既に嫁ネットワークにて情報漏洩させており、九十九サイドは絡みづらいを通り越して、この世界で骨を埋めようと考えている九十九に対して唖然としている。その思考の大半を占めるのは、『ミートソーススパゲティがそこまでの物なのか』という共通認識であった。
「「はぁはぁ……」」
「主殿よ、そろそろ先に進まぬか? そこなおなごのバングルなどちょちょいのちょいで簡単に無効化できるであろ?」
「なにっ!? 簡単にできるならさっさとしてくれ! 妻が教団の手に落ちてもいいのか?!」
「誰が妻だ、誰が!」
「「はぁはぁ……」」
「よし、決めた。何とかしてくれないのなら、私はこれからケビン殿と行動を共にする。夫婦は一緒にいるべきだしな」
「だから夫婦じゃないって! あー、もうっ! やればいいんだろ、やれば!」
あまりにも女子高生としては異色過ぎる九十九に対して、とうとうケビンの方が先に根を上げてしまい、これからずっと付き纏われるのも嫌だと感じたのでバングルの不利効果を消してしまうのだった。そして、ポーチに関しては時間停止機能の付いた物をミートソーススパゲティ詰め合わせセットと共に九十九に渡した。
「おお、この大盤振る舞い! やはり妻を見捨てるのは忍びなかったのだな? 愛してるぞ、ケビン殿!」
「JKがポンポンと愛を口走ってんじゃねぇよ! お前が愛してるのはミートソーススパゲティだろ!」
「それもある。ちなみにこの中には抹茶も入っているのか?」
「…………入れてある」
「やっぱり妻にする気満々ではないか! もう私の胃袋はケビン殿のものだぞ」
「いらねぇよ、お前の胃袋なんざ……」
今までにないキャラである九十九の相手を延々とさせ続けられてしまったケビンは、もの凄く疲労感が押し寄せてきたのでさっさと別れて先に進みたかったのだが、九十九から更に止められてしまう。
「ケビン殿、私の連れの者たちのバングルがそのままなのだが?」
「…………百……お前、友達いないだろ?」
「友達か? 友達ならここにいっぱいいるではないか。ヴァリーとは既に友達になったぞ」
「おう、お前は面白いからな。俺の友達だ!」
ケビンの気苦労など知らないヴァレリアは、性格がサッパリしているためか面白いという理由だけで九十九を既にお友達認定しており、ケビンはその素直さ溢れるヴァレリアを羨ましくも思うのである。
そして、九十九サイドの生徒たちは、いつの間にか自分たちまでも友達にされていたことを知らされてしまい、ただただ愕然とするしかない。
その後はケビンが他の生徒たちのバングルも九十九が絡んでくるので不利効果を打ち消すと、教団にバレないようにくれぐれも従っているフリだけはしておくように注意喚起する。
「最悪処分されるからな。お前らは41人いるんだろ? 1人2人消えたところで、まだまだ使える駒が沢山いるんだ。死にたくなければ余程の命令じゃない限り従うフリをしておけ」
ケビンから伝えられる『処分』という内容に生徒たちは顔を青ざめさせて、勢いよく頭を縦に振ってしまう。それはひとえに九鬼という生徒が、真っ先に教団に見捨てられたことを知っているからだ。
それから九十九たちと別れたケビンはどっぷりと疲れ果てたまま、攻略はクララに任せてクズミとセリナの胸の感触を両腕で味わいながら、その日の攻略を済ませるのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
珍名高校 生徒名簿
九十九 百 (つくも もも)更新
今回は1人だけの更新となります。氏名に関してはおわかりの通りで99、100としたかったので、『百【もも】』としました。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
フィアンマたちとのダンジョン攻略が終わったケビンは、お遊び班のクララたちを引き連れて、あまり数のない100階層のダンジョンに向かっていた。
「なぁケビン。クララたちが暴れるから暇だぞ」
ケビンの隣で愚痴をこぼしているのは、久しぶりにケビンと行動をともにするヴァレリアだ。そのヴァレリアは敵を倒そうにもクララが真っ先に突っ込み、余った敵を倒そうにもヴィーアが元黒の騎士団団長よろしく見事な暗殺術でいとも簡単に倒してしまい、あまり戦闘に参加しないクズミやセリナとともにお留守番となっている。
「そうだなぁ……今度敵が出たらヴァリーが真っ先に突っ込むのはどうだ? 敵が出そうになったら俺が教えてやる」
「絶対だぞ! 約束だからな!」
そして、ケビンの助けを借りてヴァレリアが戦闘を楽しめるようになれば、お留守番組のクズミとセリナはこれ幸いとケビンに腕を絡ませて胸に挟み込み、そのケビンは両手に花状態となる。
「ふふっ、ダンジョンデートも中々に乙え」
「ケビンさんと一緒なら何処でも幸せです」
「2人とも戦闘はしないのか?」
「野暮は言うべきやあらへんえ」
「ケビンさんは私たちの胸をご堪能ください」
「まぁいいや。腕が幸せなのは確かだしな」
ケビンはそう結論づけると前方で戦っている3人を眺めながら、トコトコと後をついて行くのであった。
それからしばらくしたらケビンは頭を抱えることになる。
「2度あることは3度ある……」
「もしかして話に聞いてた勇者かえ?」
「あらあら、ここの勇者は平和的だといいですね」
ケビンの気持ちなど知らずにクララたちは誰が多く敵を倒すかで競っていて、ケビンが止める間もなく奥へと進んでしまう。そして追いついたケビンが見た光景は、談笑している勇者とヴァレリアであった。
「お、ケビン。こいつ面白いぞ」
「はぁぁ……ヴァリー……知らない人に声をかけちゃダメだろ」
「俺を子供扱いするな! もう20歳になったんだぞ!」
「容姿が変わらないから仕方がないだろ。出会った頃のまんまだ」
「くぅぅ……絶対身長を伸ばしてケビンを抜いてやる!」
ケビンとヴァレリアの掛け合いが続いていると、ヴァレリアの側に立っていた少女がおもむろに口を開く。
「ほう、あの人がヴァレリア殿の言う夫なのだな。そして周りにいる女性たちは全て嫁だと」
「そんなことまで喋ったのか……」
「よいではないか、主殿。ヴァリーとて悪気があったわけではないからの」
「クララが付いてて喋らせたのか?」
「ふむ、ヴァリーが楽しそうにしておるでな、たまには見知らぬ相手とのやり取りもよかろうと思ったのだ」
ケビンたちがヴァレリアたちの側まで歩きつくと、少女がおもむろに手を差し出してきて自己紹介を勝手に始めてしまう。
「私は生徒会長の九十九百だ。好きな食べ物はミートソーススパゲティで、好きな飲み物は抹茶になる。今はミートソーススパゲティと抹茶を見つけるための旅をしている最中だ」
「九十九百? また変わった名前だな。子供の頃は虐められていそうだ」
「まさにその通り。99、100とよくからかわれていたが、なに、自分の名前を誰よりも早く覚えてもらえると思えば大したことではない。しかし、よく日本文化を心得ているな。もしや、日本人か?」
「俺のどこをどう見て日本人になる? 俺は現地人だ。異世界文化はこの世界に強く根付いているぞ。過去の勇者たちがバラ撒いていったからな、俺の知識もそこから得たものだ」
「そうであったか。で、ミートソーススパゲティを見かけなかったか? 各街を転々としながら北上してきたが、如何せん見つからないのだ」
「そんなに好きなのか? 残念ながらこの世界にミートソーススパゲティも抹茶もないぞ。まぁ、俺も世界を渡り歩いたわけでないから絶対とは言えないが」
「な、なんだと!? では、私は何のために生きていけばいいのだ。この世界に来た意味がないではないか」
相変わらずの生徒会長節が炸裂していると、パーティーを組んでいる他の生徒たちから呆れた声が上がってくる。
「生徒会長……だから、私たちは魔王を倒すために来たのであって、ミートソーススパゲティを食べるために来たのではないのです」
「絡みづらい……」
「相変わらずだ……」
「安定過ぎる……」
そのような時にさっきから飛び交っている意味のわからない言葉に対して、ヴァレリアが反応してケビンに問いかけるとケビンは食べ物のことだと伝えたのだが、そのヴァレリアがとんでもないことを口から滑らしてしまう。
「それならケビンが作ればいいだろ。料理を作るのはお手の物だろ」
それにすかさず飛びついたのは、自称ミートソーススパゲティを探す旅を続けている九十九であった。
「なっ!? ケビン殿はミートソーススパゲティが作れるのか!? 作れるんだな?! 是非とも作ってくれ!」
グイグイと詰め寄ってくる九十九にケビンがタジタジになっていると、そこへヴァレリアも参戦し始める。
「俺も食べてみたいぞ! ケビン、作ってくれ!」
かたや見かけのみ大和撫子な女子高生と、かたや背が伸びず幾つになっても子供扱いされるヴァレリアに迫られて、ケビンはこれ以上接近されてはなるまいと仕方なく作ることを渋々了承した。
そして、ひょんなことから始まったケビンのお料理クッキングは、目の前で【創造】を使うわけにもいかず、ダンジョン内の拓けた所でテントを張っては、その中のキッキンで地道な料理をすることになる。
その間は、ケビン作のダンジョンではないため安全地帯など存在せず、魔物に対する見張りはクララたちに任せることにして、料理中の安全を確保していた。
やがて作り終えたケビンはテントの外にテーブルとイスを出して、全員分のミートソーススパゲティを並べていく。
「な、懐かしきこの香り!? まさしく私の愛すべき世界一のミートソーススパゲティ!」
「ケビンまだか? 食べてもいいか?」
既に待てないとばかりにフォークを握りしめている2人に対して、ケビンが「待て」を言いつけると、女の子としてはどうなのか涎を垂らしながら待つという絵面的にもいただけない姿となりかわっている。そして、それぞれに飲み物を置いていくと、九十九の前にだけは別の物を置いた。
「百にはヴァリーの話し相手になってもらった礼として、これを用意した」
そう言うケビンが九十九の目の前に置いたものは、もう1つの探し求めていた抹茶である。
「――ッ! この香りは!?」
「抹茶だ」
「結婚してくれ! ケビン殿!」
「待て待て待て。いきなり結婚話を持ちかけるな」
「いいや、この世界において私の好きなミートソーススパゲティと抹茶を用意できるのは、もはやケビン殿しかいない! 結婚しよう! さあ、今すぐ!」
「テンションがおかしな方向に向かってるぞ。とりあえず飯だ、ずっと食べたかったんだろ?」
ケビンは求婚してくる九十九を華麗に?躱すと、若干2名の待ちに待ったお食事タイムとなるのだった。
「美味い! この甘み……まさに私のどストライクだ! 私の好みを熟知しているなんて、ケビン殿は最初から私を娶る気だったのか!?」
「それはない。その歳でミートソーススパゲティが好きだなんて豪語するくらいだから、子供向けの味が好みなんだろうと予測したに過ぎない」
「ケビン、これ美味いぞ! 家に帰っても作ってくれ!」
「ヴァリーは幾つになっても子供だな……」
ケビンはヴァレリアの口の周りを拭きながら、娘のような気がしてくる嫁に何とも言えない感情を抱く。そして反対隣の席でも同じように口の周りに付くのを気にしていないヴィーアの口周りも拭いて、ケビンは中々ミートソーススパゲティに手をつけられずにいた。
「ケビンさん、ヴィーアの面倒は私が見ますので、お食事を進められてください」
「すまない、助かる」
「これも妻の務めですから」
ここでセリナが妻力を見せつけると、正妻の座に座るクズミもそれに対抗してきた。
「それなら、うちがヴァリーの面倒を見るえ。子供を育てた経験があるさかい」
「あらあら、小さな子の面倒は子供云々ではありませんよ?」
「産んだ経験があらへん人の前でする話でもなかったな」
「「オホホホホ……」」
「食事中に揉めるなら帰すぞ?」
「ごめんなさい」
「かんにんや」
「つまらん争いはするものではないの。主殿の望むは皆の幸せというに」
ケビンにいい所を見せようとした2人を他所に、別の所では涙ながらに他の生徒たち4人が、ミートソーススパゲティを堪能しながら口々に生徒会長肯定派へと傾いていく。
「異世界でミートソーススパゲティが食べられるなんて……」
「変な人だけど生徒会長についてきて良かった……」
「俺もそう思う……」
「あながち生徒会長の行動は間違っていなかったのか……」
そのような平和な光景が映し出される中でも、美味しそうな香りに導かれた魔物が近づいてくると、広間に来る前にケビンが無詠唱でどんどんと殲滅しては遠隔で回収していた。
やがて食事が終わりお礼を言われたケビンはさっさとダンジョン攻略に戻ろうとするも、九十九がそれに待ったをかける。
「一緒に行こう! そしてミートソーススパゲティをまた私に作ってくれ! もちろん、抹茶付きだ!」
「だが断る」
「そこをなんとか!」
なおも食い下がる九十九にケビンは追加分をやると言って、何とか縋り付く九十九を離すことに成功する。そしてケビンがミートソーススパゲティを皿に盛り付けた状態で九十九に渡すのだが、九十九がマジックポーチに収納する段階でふと気になることを口にした。
「それ、時間停止がかかったやつか? かかってないならミートソーススパゲティが腐るぞ」
「なにっ!?」
既に十数皿と収納していた九十九は絶望の表情を浮かべて、ケビンに涙ながらに無言で訴えかける。
「……はぁぁ……」
ケビンが仕方がないと思い、九十九のマジックポーチを改造しようと鑑定をかけると、思わぬ事が判明するのだった。
「これ、追跡魔法の術式が刻まれているぞ。私物じゃないのか?」
「教団から借り受けたものだ」
「だからか……引率役の団長がどこも不在なのは」
「ん? ケビン殿は私たち以外にも勇者に会ったのか? やけに詳しいな」
「2組ほど会ったな。1組目はオタクの集まりで、2組目はヤンキーの集まりだ。1組目はウザかったから少し会話してさっさと別れたが、2組目は絡まれた時に情報を貰った」
「ふむ、初対面の相手に対して絡むとは、生徒会長として指導せねばなるまいな。で、そのポーチはどうするのだ?」
「術式を消すこともできるが、しない方がいいだろう。ついでに言うと、そのバングルも余計なものが刻まれているぞ。勇者たちが同じ物をしているから、どうせそれも教団からの物だろ?」
「なに……?」
「そっちはまぁ、あいつららしいと言えば、あいつららしいものだな」
「いったい何が施されているんだ?」
「奴隷ほどのものじゃないが隷属術式だ。何かを指示されても違和感を感じないやつだな。そもそも勇者たち全員にかけるんだ。集団心理を利用してかけやすかっただろ」
「「「「「――ッ!」」」」」
「おおかた使い勝手のいい魔導具で、外せるけど必ず身につけるように言われてんだろ?」
「……その通りだ。入浴中は外すが簡易結界が張れるからそれ以外はつけるようにしている。つまりこれも指示されて、それを受け入れてるということか……」
「どっぷりと利用されてるな。ご愁傷さまとしか言いようがない」
「ケビン殿、何とかならないか? そこまで読み取れるなら解決できる力があると見受けるが」
「そこまでの義理がないな」
「なっ!? 私は未来の妻だろう!」
「何でそうなる!?」
「ミートソーススパゲティを作れるのはケビン殿だけなんだぞ! 私の胃袋をガッツリ掴んでいるではないか!」
「ここで人生送らずに元の世界へ帰れよ!」
「帰る術がないから仕方がないだろ! 私はケビン殿の嫁になると決めたのだぞ! 男なら胃袋を掴んだ責任を取りたまえ!」
「胃袋を掴んだ責任なんて初めて聞いたぞ!」
あーでもないこーでもないとギャーギャー騒いでいる2人を他所に、ケビンサイドは異色の嫁が増えるのかと既に嫁ネットワークにて情報漏洩させており、九十九サイドは絡みづらいを通り越して、この世界で骨を埋めようと考えている九十九に対して唖然としている。その思考の大半を占めるのは、『ミートソーススパゲティがそこまでの物なのか』という共通認識であった。
「「はぁはぁ……」」
「主殿よ、そろそろ先に進まぬか? そこなおなごのバングルなどちょちょいのちょいで簡単に無効化できるであろ?」
「なにっ!? 簡単にできるならさっさとしてくれ! 妻が教団の手に落ちてもいいのか?!」
「誰が妻だ、誰が!」
「「はぁはぁ……」」
「よし、決めた。何とかしてくれないのなら、私はこれからケビン殿と行動を共にする。夫婦は一緒にいるべきだしな」
「だから夫婦じゃないって! あー、もうっ! やればいいんだろ、やれば!」
あまりにも女子高生としては異色過ぎる九十九に対して、とうとうケビンの方が先に根を上げてしまい、これからずっと付き纏われるのも嫌だと感じたのでバングルの不利効果を消してしまうのだった。そして、ポーチに関しては時間停止機能の付いた物をミートソーススパゲティ詰め合わせセットと共に九十九に渡した。
「おお、この大盤振る舞い! やはり妻を見捨てるのは忍びなかったのだな? 愛してるぞ、ケビン殿!」
「JKがポンポンと愛を口走ってんじゃねぇよ! お前が愛してるのはミートソーススパゲティだろ!」
「それもある。ちなみにこの中には抹茶も入っているのか?」
「…………入れてある」
「やっぱり妻にする気満々ではないか! もう私の胃袋はケビン殿のものだぞ」
「いらねぇよ、お前の胃袋なんざ……」
今までにないキャラである九十九の相手を延々とさせ続けられてしまったケビンは、もの凄く疲労感が押し寄せてきたのでさっさと別れて先に進みたかったのだが、九十九から更に止められてしまう。
「ケビン殿、私の連れの者たちのバングルがそのままなのだが?」
「…………百……お前、友達いないだろ?」
「友達か? 友達ならここにいっぱいいるではないか。ヴァリーとは既に友達になったぞ」
「おう、お前は面白いからな。俺の友達だ!」
ケビンの気苦労など知らないヴァレリアは、性格がサッパリしているためか面白いという理由だけで九十九を既にお友達認定しており、ケビンはその素直さ溢れるヴァレリアを羨ましくも思うのである。
そして、九十九サイドの生徒たちは、いつの間にか自分たちまでも友達にされていたことを知らされてしまい、ただただ愕然とするしかない。
その後はケビンが他の生徒たちのバングルも九十九が絡んでくるので不利効果を打ち消すと、教団にバレないようにくれぐれも従っているフリだけはしておくように注意喚起する。
「最悪処分されるからな。お前らは41人いるんだろ? 1人2人消えたところで、まだまだ使える駒が沢山いるんだ。死にたくなければ余程の命令じゃない限り従うフリをしておけ」
ケビンから伝えられる『処分』という内容に生徒たちは顔を青ざめさせて、勢いよく頭を縦に振ってしまう。それはひとえに九鬼という生徒が、真っ先に教団に見捨てられたことを知っているからだ。
それから九十九たちと別れたケビンはどっぷりと疲れ果てたまま、攻略はクララに任せてクズミとセリナの胸の感触を両腕で味わいながら、その日の攻略を済ませるのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
珍名高校 生徒名簿
九十九 百 (つくも もも)更新
今回は1人だけの更新となります。氏名に関してはおわかりの通りで99、100としたかったので、『百【もも】』としました。
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