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第16章 魔王対勇者
第518話 グァバ?
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次のダンジョンを目指すためにケビンはサラ班とともに、セレスティア皇国の70階層代に来ていた。
サラ班のメンバーはサラとマリアンヌ、それにシーラの3人であり、ケビンが手を出すまでもなく、逆に魔物が可哀想に思えるくらいの蹂躙劇が繰り広げられている。そのような中でケビンはその蹂躙劇を鑑賞しながら最短コースを教えて、後ろからついて行くだけであった。
ティナ班より人数が少ないのに、あっという間に70階層代のダンジョンを踏破してしまうと、ケビンはダンジョンコアの上書きを済ませて次のダンジョンへ移動を開始する。
「70階層代なのに張り合いがないわね」
「私はケビンと一緒にデートができているから、それだけで充分だわ」
「私もケビンと一緒なら何でもいいです!」
「ダンジョン攻略をデートって言うのは、サラくらいよ?」
「あら、そうなの? 他のみんなもデートのつもりで参加してるわよ? マリーだってケビンと一緒にいたいから参加したのでしょう?」
「それはそうだけど……」
「それならいいじゃない、デートって言っても」
マリアンヌが初めてのダンジョン攻略に手応えのなさを感じていたら、サラはデート感覚で攻略していて、シーラも同じようにケビンが優先であるので、1人除け者感を味わってしまうのだった。
「次は80階層代になるから、多少なりともマシにはなるんじゃない?」
「でも10階層増えただけでしょ? ケビンの作り替えたダンジョンに挑戦してみたいわ」
「んー……じゃあ、行く? そこまで焦ってセレスティアのダンジョンを制覇しなきゃいけないってわけでもないし」
「えっ、いいの!?」
「マリーはワガママねぇ……アリスさんの方がよっぽど大人よ?」
「アリスは私の育て方が良かったのよ」
「その育て方の良さで育った女の子が噛みついてきたのは、どこの誰だったかしら?」
「……今日のサラはイジワルね」
「ふふっ、ケビンと一緒にいられるから楽しいのよ」
こうしてマリアンヌの楽しい攻略をしたいという欲求を満たすために、ケビンは急遽予定を変更して、自分の管理しているダンジョンへ足を運ぶことになる。そして到着したK’sダンジョン本店にて、待ちに待ったマリアンヌのダンジョン攻略が開始される。
「これよ、これ! この危機感を感じたかったのよ」
「全く……後衛のシーラのことも考えなさいよ」
「はっ、はっ……き、きつい……ケビン……」
50階層代まで難なく踏破したマリアンヌは、51階層目からケビンの用意した鉄球ゴロゴロトラップを起動してしまい、と言うよりもケビンのいやらしい配置により強制起動させられたことによって、3人は現在鉄球から走って逃げている最中である。
「ニーナはこれをクリアしたみたいよ?」
「あら、ニーナさんは後衛なのにやるわね」
「ニ、ニーナが……はっ、はっ……う、嘘でしょ……ふっ、はっ……」
「これがティナたちの言ってたケビンの特訓よ。本来はもっと過酷らしいわ」
「確か1番遅い人に合わせる速度と距離らしいわね。だから、私たちには余裕でシーラが1番キツい思いをするのよ」
「……ケビン……お姉ちゃんを虐めるの……はっ、ひっ……」
さすがのシーラもこれには白旗を上げたいらしく、サラたちとは違って1人一生懸命に走っているが、その様子をケビンはマスタールームにて鑑賞している。
「姉さんは運動不足が顕著だねぇーまだ1球目なのにもうバテそうになってる」
シーラの気も知らずケビンは呑気に感想をこぼしているが、たとえ姉であろうとも特訓において手加減をしないのが、【ドSの鬼畜】と言われるケビンである。
そしてこの日は大した攻略もできずに、シーラの鉄球ゴロゴロ逃走劇というケビンの特訓によって幕を下ろすのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
あれから2週間もの間、サラたちはセーフティゾーンにてケビンの与えたテントを使いながら、ダンジョンの攻略を進めていた。地道にシーラの逃走劇を繰り返していたあの日々、今となっては鉄球ゴロゴロゾーンを無事に抜け出しており、本格的な攻略を開始するに至っている。
そして、サラとマリアンヌの連携により、手強くなっている敵も難なく倒されてしまい、シーラはシーラでいつもの通り前衛無視の氷の世界を作り出しては、頑張っている感をケビンにアピールしていた。その前衛無視のシーラがここまでできているのは、ひとえに氷の世界をものともしない超人2人のおかげである。
サラとマリアンヌは地面が凍りついていようとも、『地面が使えないなら壁を使えばいいじゃない』と言わんばかりに、壁を蹴って移動しては変則的な攻撃を魔物相手にしてのけると、今度は倒した魔物を足場にして更に移動を繰り返して魔物を倒していくのだ。
これによってシーラは2人から怒られることもなく、ご自慢の氷の世界を顕現できていたのだった。
そして迎えた100階層のボスをサラが難なく倒してしまうと、ケビンは創作者としてのプライドを刺激されてしまい、敷地に規格外用のダンジョンを創ることを決め、サラでも早々に踏破できないようなヘルモードにしようと画策していく。
その後4人揃って帝城へ久しぶりに帰ったら、シーラは鉄球ゴロゴロ地獄をクリアしたことをニーナに報告して、その時の話を嬉しそうに語るシーラにニーナもお姉ちゃん風を吹かせると、微笑みながらシーラを褒めてその頑張りを労って頭を撫でるのであった。
それからというもの、ターニャ班と森のさえずり班は踏破数が少ないものの安定したダンジョン攻略を行い、メイド班は当然と言うべきか班の中で1番の連携力を見せつけて、淡々とダンジョン攻略を成し遂げていく。
そして、フィアンマ班の番になると元各色騎士団団長とあってかお互いのことは把握しており、カトレアもカトレアでフィアンマの部下として所属していたので危なげなく中層での戦闘を行えていた。
「さすがにガブがいない状態での90階層代はキツイな」
「人数も4人だものね~」
「ないものねだりをしても仕方がないでしょう」
「私はこんなに深い階層に挑むのは初めてです」
「騎士たちは60階層目辺りが限界だしな」
「強さがバラバラだもんね~」
「安定した攻略訓練になると、それぞれの中間辺りの強さに合わせますからね」
そのようなことを口にしながら進んでいくと、またしても何者かの気配をケビンが探知してしまう。
「はぁぁ……1度あることは2度あるって言うしなぁ……」
「どうしたんだ、陛下」
「あぁぁ……フィアンマ、今から陛下呼び禁止だ。他の者たちも俺を様付けするなよ。この先に人がいる」
「うっ……難しい注文だな……ケ、ケビン……くん?」
「何故に疑問形?」
「ケビンく~ん」
「ケ、ケ……ケビンしゃん!」
「……メリッサは急展開に弱いところがあるな」
「私はいつも通りケビン君だね」
カトレア以外のそれぞれが呼び方の変更をしていると、ケビンはこの先に勇者たちがいるかもしれないことを伝えて、不用意な発言は控えるように伝えたら先へと進んでいく。
そして少し拓けた場所でケビンの嫌な予感通りに、勇者たちと相見えることになる。とにかく関わりたくないケビンは攻略を進めるために、無視をしつつ先へ進もうとするが相手がそれを許さなかった。
「挨拶なしに通り過ぎるつもりかぁ?」
「あ、どうも。俺たちは先に行くのでそれじゃあサヨナラ」
挨拶のことを指摘されたのでケビンがサクッと済まして先に進もうとするが、残念ながらケビンの思い通りにはいかないようである。
「ちょっと待てや、コラァ! なに調子くれっちゃってんの? 女侍らせて調子に乗っちゃってるわけ? ああ?」
「いえ、先を急いでいるもので。絡むなら暇な人を相手にしてくれませんかね?」
「おいおい、調子に乗り過ぎじゃね? テメェ、どこ中だ?」
「え……?」
まさかまさかの『どこ中』発言により、ケビンは『いつの時代のヤンキーだ?』と思ってしまう。まさか異世界に来てまで『どこ中』と聞いてくる馬鹿がいるとは思ってもみなかったのだ。
「えぇーっと、経歴を言うのなら初等部を中退して専門学の学院を卒業したから、お前の言う中等部は行ってない。つまりどこ中でもない。あえて言うなら今は会話中?」
「ぷっ……」
「ふふっ……」
「くくっ……」
「ふ、ふふ……」
フィアンマたちは真面目に回答したケビンが、最後の最後で思いもよらぬことを口にしたため笑いをこらえるのに必死であったが、それを言われた相手は憤慨ものだったようだ。
「馬鹿にしてんじゃねぇぞ、ゴルァ!」
「真面目に返答しただけであって別に馬鹿にしてないけど、自分でそう思うなら自分自身で馬鹿だと言っているようなもんだぞ。お前、馬鹿なのか?」
「舐めてんじゃねぇ!」
その瞬間に少年がケビンに殴りかかったが、あまりにも遅かったためにケビンのカウンターで放った回し蹴りが綺麗にハマり、少年は吹き飛ばされてダンジョンの壁に激突する。
「ぐぁばっ!」
「……ぶっ……ハハハハハッ! ぐぁば、ぐぁばって! ヤンキーの癖に女子力高めちゃうわけ? ヤローなのに? 将来の就職先はそっち系ですかぁ? ぐぁば……ぶふっ! ぐぁばーっ! ハハハハハッ! あー腹痛てぇ……」
「ケビンくん……」
「大爆笑だね~」
「何か面白いことがあったんでしょうか?」
「ケビン君笑いすぎだよ……」
ケビンが大爆笑して4人が何に対して笑っているのかわからずに困惑する中で、蹴り飛ばされた少年に少女が駆け寄り安否を確かめていた。
「ちょ、月出里! 大丈夫かよ?!」
「がはっ……はぁはぁ……ちょっと油断しただけだ」
「あんたから殴りかかっといて油断も何もないっしょ……」
少女の手を借りながら立ち上がった少年は、大爆笑しているケビンに対してメンチを切る。
「ちっ……虎雄、やるぞ」
「は? お前の喧嘩じゃないのか?」
「ぶっ……ハハハハハッ! 1人で敵わないから仲間に助けを求めたら、その仲間から見捨てられるって……くくく……俺を笑い死にさせるのがお前の作戦か? ハハハハハッ! やべぇ、腹痛くて死にそー! 敵の作戦にまんまとハマってしまったー! お前、ヤンキーじゃなくてお笑い芸人になれよ」
「テメェェェェッ!」
「ちょ、あーもうっ! 急急如律令! 赤っち、青っち、やっちゃって!」
再びケビンに向かっていく月出里に少女が慌てて援護すると2体の鬼が召喚されて、その鬼たちは軽々と月出里を抜き去ってケビンに襲いかかる。
「へぇー陰陽師? クズミがついてきてなくて良かった」
そう言うケビンは金棒を振るう鬼たちの攻撃を難なく避けていると、月出里が武器を片手に駆けて来ている姿が見えたので、そこへ向かって鬼たちを蹴り飛ばした。
「――ッ!」
そしてそのままケビンはカトレアの背後に回り、気配を消して近づいていた少女の首を掴み持ち上げる。
「お前、俺の嫁に何をしようとしてたんだ?」
「っ……ぐっ……」
「えっ!? ケビン君?」
カトレアはまさか自分の背後を取られていたなんて気づかずに、いきなり背後にいたケビンと、ケビンの手を掴んで脚をばたつかせている少女に驚いていた。そしてそれはフィアンマたちも同様で、少女の足下に落ちているナイフによって何が起ころうとしていたのかを察してしまう。その4人が驚きの中にいる状態で、ケビンは掴んでいる少女を壁に向かって投げ捨てた。
「がはっ!」
「「千代っ!」」
すぐさま少女たちが駆け寄りケビンによって投げ飛ばされた少女の身を案じていると、鬼もろとも飛ばされていた月出里が更に逆上する。
「許さねぇ、許さねぇぞ、ゴルァ!」
「てめぇが喧嘩を売ってきたんだろ? それでもってそこの女はナイフ片手に俺の女の背後を取った。自業自得だな」
「貴様ぁぁぁぁ!」
そのような時に静観していた少年の1人が声を上げる。
「待て、竜也」
落ち着いている雰囲気と月出里が止まったことによって、ケビンはその少年がこのグループの中心なんだと予測を立てた。
「大将のお出ましか?」
「ハッ、イキがっていられんのも今のうちだ! 力也が出たらお前はボコボコになるしかねぇんだよ。なんつっても力也は【大魔王】だからな。【大魔王】無敵力也の前にお前は泣いて謝るしかねぇんだよ!」
「へぇーお前があの大魔王ねぇ……それよりも、そこのお前って三下感がハンパないな。虎の威を借る狐って知ってるか? 弱っちぃヤンキーがよく取る手段なんだけど」
「知るか、そんな言葉。日本語を喋りやがれ!」
「うわぁ……ないわぁ……」
「竜也黙ってろ。さすがにここまで身内のもんがやられたんじゃ、いくら自業自得でも少しばかり相手になってもらう」
「ほう……自業自得って認めるんだな」
「当たり前だ。喧嘩を先に売っておいて、やられたからって腹を立てるなんざ馬鹿だからな」
「くくっ……お前、大将に馬鹿にされてんぞ」
「て、テメェ……」
「まぁいいや。そっちが大魔王ならこっちも大魔王を喚んじゃおうかな。とりあえず【召喚】っと」
そう言うケビンが正面に向かって【召喚】を発動すると、魔法陣が現れて輝きを放ちだす。そして光とともに現れたのは、角、羽、尻尾を持つ明らかに普通じゃない魔族っぽい出で立ちをした者であった。
「フハハハハハッ! 再登場せし我が名は大「チェンジ!」」
「え……ケビンくん?」
「何か現れたね~」
「今のは……?」
「何を喚び出したの?」
「いや、まさかアイツが出てくるとは……」
そして気を取り直したケビンが再び【召喚】を行使する。
「ッ!? フハハハハハッ!「チェンジ、【召喚】」」
「!? フハハハハ「チェンジ、【召喚】」」
「!! フハ「チェンジ、【召喚】」」
「くっ、我が名はっ「チェンジ、【召喚】」」
「おいっ!「チェンジ、【召喚】」」
「お前っ「チェンジ、【召喚】」」
「せっかく「チェンジ、【召喚】」」
「再登場「チェンジ、【召喚】」」
「したの「チェンジ……ふぅ……くくっ……」」
「……ケビン君……遊んでるよね?」
「ソンナコトナイヨ?」
久しぶりに会った旧友?で遊んでいたケビンにカトレアが呆れていると、その光景を見ていた無敵たちも何が何やらわからずに呆然としている。
「よし、笑いも落ち着いたし改めて【召喚】」
「……? あれ、送還しないのか?」
再び喚び出された変な人はキョトンとしてケビンを見たら、すぐさま送還されないことを不思議に思い尋ねてみるも、ケビンからの返答は待ちに待った名乗りタイムのご褒美であった。
「ああ、好きなだけ名乗りを上げていいぞ」
「――ッ! クックック……フハハハハ……ハァーハッハッハッハッ! 我が名は大魔王ジャスキディン! 今度こそ消されないでここに降臨!」
「へぇージャスキディンって名前だったのか。10年ぶりだな」
「やはり貴様はあの時のガキか……あんな無茶苦茶な召喚をする奴は、後にも先にもアレしかなかったぞ」
「で、あそこに立ってるやつが大魔王を名乗ってるんだけど、ジャスキディンは本物か? 実は偽物とかじゃないよな?」
「何を言う! 我こそは偉大なる大魔王ジャスキディンであるぞ! あやつが偽物に決まっておろう!」
「じゃあ、アイツと戦って証明して。本物なら余裕で勝てるよな?」
「余裕も余裕、指1本で倒してこようぞ」
そして、大魔王無敵と大魔王ジャスキディンの戦いのゴングが鳴り響こうとしていたが、少女たちが無敵に対して警鐘を鳴らす。
「ちょ、無敵! あの冒険者、大魔王を召喚してんじゃん。ヤバいっしょ!」
「月出里が手も足も出ず、千代の隠密をいとも簡単に見つけ出して片手で投げつける……あの冒険者はただの冒険者じゃないわ。きっとSランクのサモナーのはずよ」
「大魔王が相手なら願ったり叶ったりだ。自分の実力を知るには調度いい機会だしな」
「フハハハハ! 実に謙虚ではないか。うむ、後進の育成をするのもまた大魔王としての務め。実力次第では魔王と名乗ることを許そう」
それからケビンが合図を出したので、これから凄まじいほどの大魔王同士の戦いがダンジョン内で巻き起こるはずだったのだが、それは叶わぬ夢となってしまう。
「ぷぎゃ」
「え……」
なんと無敵の放った拳がジャスキディンの顔にめり込み、ジャスキディンはそのまま殴り飛ばされてしまうのだった。その光景にケビン以外の誰しもが開いた口が塞がらずに呆然としてしまう。
「1発……」
「飛んでいったね~」
「あれが大魔王……」
「どういうこと……」
「なぁ、大魔王が飛んでいった感じなんだけど」
「無敵が強すぎたのかしら」
「よくわからんな」
「やっぱり力也はパネェ」
「うぅぅ……背中がまだズキズキする……」
そのような困惑の嵐が吹き荒れる中で、ケビンは溜息をつきながらジャスキディンを回復させる。
「礼を言うぞ、召喚主」
「まぁ、人生色々だ。これからもめげずに頑張れよ」
「うむ、我はこれから魔大陸を統一せねばならぬからな。時間がなきゆえ、今回は広き心を持って後進に花を持たせただけのことよ」
「さすが偉大なる大魔王、ジャスキディンだ。それじゃあな、魔大陸統一を頑張れよ」
ケビンがジャスキディンを送還すると、フィアンマたちが肩透かしを受けたジャスキディンのことをケビンに問いかけた。
「ケビンくん、アイツって何者だったんだ?」
「最弱無敗の自称大魔王だ」
「えっ……最弱なのに無敗?」
「たった今負けたよね~」
「1発で負けましたね」
「自称だったんだ……」
「ジャスキディンはさっき本人が言ってた通りで、負けても何かと理由をつけて負けを認めない。だから最弱なのに無敗で自称大魔王。言うだけはタダだしな。中々に面白い余興だった」
ケビンの説明を同じように呆けていた無敵たちも聞いていて、それを聞いた月出里が更にイキがり増長する。
「ハハハハハッ! 調子こいといて喚び出したのが最弱無敗の自称大魔王かよ! 所詮ザコが喚び出せるのはその程度ってことだ!」
「お前、マジで典型的な三下だな……無敵、いいのか? あんなんが仲間で」
「竜也は竜也なりに面白いところがあるからな」
「心が広いんだな」
「それよりも手合わせを願おうか? まさかさっきの奴で終わりってことはないだろ? こっちは不完全燃焼だ」
「なに? 俺と戦いたいわけ?」
「月出里と千喜良に対する対応。そこら辺にいる冒険者とは違うんだろ? 千手の言った通りでSランクはあるはずだ。まだSランクとはやり合ったことがないんでな、俺が今この世界でどの辺りの強さなのか知りたい」
「んなもん、ガブリエルに戦いを挑めばいいだろ。あいつは2Sランク相当だぞ」
「そいつなら別グループの引率をしているから無理だ」
「え、なに? あいつ、総団長を辞めて異世界ツアーの引率者になってるわけ? 転職したの?」
「総団長は辞めてない。今回の旅で各団長がグループの引率役になってる」
無敵が言った言葉に対してケビンは近くに団長がいないので問い返してみると、ダンジョンに潜るのが嫌だそうで宿屋で待機しているとのことだった。
「おいおい、ウォルターは馬鹿なのか? 怠け者を団長に任命して何やってんだよ。ってゆーか、勇者を召喚しておいて大魔王を召喚するくらいだしな、馬鹿なのは当然か」
「先程からやけに詳しいな」
「そりゃそうだろ。勇者が召喚された話なんか彼方此方で噂されているぞ。黒髪黒目の集団で目立ちすぎなんだよ」
「で、お前は何ランクなんだ?」
無敵がケビンのランクを知りたがっていたので、ケビンはぬけぬけとメインではなくサブカードを取り出しては、プラチナに輝いているのを見せつける。
「まぁ、Sランクだな」
「やはりか」
それから無敵の纏う雰囲気が変わると、ケビンは仕方がないとばかりにフィアンマたちを下がらせて、無敵の相手をすることにした。
「いくぞ」
「どうぞ、ご自由に」
次の瞬間、無敵の姿が消えるとケビンの目の前に現れて拳を打ち放っていたが、ケビンは難なくそれを躱してしまう。
「武器は使わなくていいのか?」
「喧嘩に得物を使うなんざ、ザコのすることだろ」
「それを言っちゃうと三下とあの女がザコ扱いになるぞ。ああ、ついでに陰陽師も武器じゃないが式神をけしかけたからザコだな」
「んだとゴルァ!」
「うっ……確かに速攻やられてザコ感ハンパないけど……」
「えっ……うちってとばっちりじゃない?」
「竜也の喧嘩に手を出すからだ」
「自業自得よ」
その後も無敵による連打の嵐がケビンを襲うが、ケビンは軽々しくそれをいなしていく。
「嘘だろ……」
「力也が遊ばれてるな」
「ってゆーかヤバくね?」
「Sランクってあんなに強いの?」
「Sランクをまだ彼しか見ていないから、判断のしようがないわね」
やがて距離を取った無敵が満足がいったかのように、ケビンに対して声をかけた。
「だいたいわかった。俺はまだSランクに達していないってことだな」
「いや、スキルも魔法も使わずに殴る蹴るだけしかしてないだろ。肉弾戦だけでSランクを取ろうなんて無謀だな」
「身体強化は使っていたぞ。それでも1発も当てられないんだ。良くて俺はAランク止まりってとこだろ。初対面なのに手間を取らせて悪かった。こっちだと中々喧嘩を売る相手がいないもんでな」
「お前、ヤンキーのボスの癖に礼儀がなってるな。三下とはえらい違いだ」
「別に好きで不良をやってるわけじゃない。普通のやつらとは相容れないだけだ」
「あぁぁ……アレか? 噂が勝手に独り歩きしてそういう目で見られるから、そういう行動を取るようになった口か?」
「好きに想像してろ」
「……ふむ。無敵に免じて面白い情報を教えてやる」
「何だ? 強くなれる情報か?」
無敵が情報と聞いて強くなれる情報かもしれないとケビンの言葉に食いつくが、そのケビンはそれから無敵たちを見渡すと少女2人に目をつけた。
「鬼っ娘、名前は?」
「な、百鬼だし、うちは鬼っ娘じゃねえし」
「人質を取ろうとしたおバカ、お前の名前は?」
「うっ……千喜良千代です……」
「ん? チェケラッチョ?」
「ああぁぁぁぁっ! それ言うな! 私はチェケラッチョじゃなくて、千喜良千代なの! 名前で馬鹿にするな!」
千喜良が昔から名前のことで散々馬鹿にされ続けてきたあだ名を、そうとは知ってか知らずかケビンが口にしたことによって、千喜良はもの凄い勢いで抗議していた。
「すまん、他意はない。それなら名乗る時は名前だけにしておけ。家名を持つのは王侯貴族か大商人だけだ。百鬼はどっちだ?」
「苗字だし、名前は……や、夜行だし」
「ぶっ……ハハハハハッ! お前、氏名を書いたら百鬼夜行なの!? それで陰陽師やってんの!? どんだけ物好きなんだよ。ってゆーか、どっちの味方だよ。ハハハハハッ!」
「ちょ、笑うなっ! お前さっきから名前のことで馬鹿にし過ぎだし! 確信犯だろ! 絶対わざとだろ!」
「ひぃー腹痛てぇ……すまん、すまん……他意は……プフっ……ない」
「「嘘つけ!」」
大爆笑した上に他意はないと言ってのけるケビンに百鬼たちがツッコミを入れると、ケビンは全く悪びれもせずに話を続けていく。
「俺はな、基本的にやられたらやり返す派なんだけど、とある人物に頼まれたのと無敵の態度で夜行と千代は許すことにする。三下は関わりたくないから元からパスだ」
相変わらず三下と呼ばれ続けている月出里が怒りを顕にするが、無敵がそれを諌めてしまうとケビンは続きの言葉を口にした。
「だが、何もしないってわけじゃない。お前たち2人には飛びっきりのプレゼントをやろう」
「な、何するつもりだし」
「わ、私は投げられて痛い目を見てるのに……」
「まぁ待て。お前らの身を案じた、とある人物ってのが気になってるだろ? そのとある人物とは…………」
もったいつけて言うケビンの言葉に百鬼たちが生唾を飲み込むと、それを見たケビンがその名を口にする。
「九鬼泰次だ」
「「「「「――ッ!」」」」」
「……? 桃太郎?」
「1ヶ月ほど前に九鬼と会ったが、まさしく【鬼神】だな。話を聞いたら腹に剣をぶっ刺されたままで暴れ回ってたみたいだ。ちなみに相手は盗賊だったが、ほとんど殴り殺していたぞ。数人は斬り殺したみたいだがな」
「ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!」
「どうしようどうしようどうしよう――」
「ハハッ、お前たち2人は九鬼に怒られるようなことでもしたのか? 顔が青ざめているぞ」
鑑定によってステータスにある備考欄を見たことなど教えもしないケビンは、さも何も知りませんでしたと言わんばかりの口調で語っていると、無敵がケビンの言ったことに疑問を投げかけた。
「九鬼は【学生】って職業で村人同然と判断されていた。何故その九鬼が盗賊たちを殴り殺せる?」
「ん? それは俺が弟子にして1ヶ月ほど鍛えたからな。そこら辺の冒険者よりかは強くなってるぞ。まだ教えた通りに鍛錬してるなら、軽くAランクくらいの強さにはなってるんじゃないか?」
「なに……?」
「たまたま昔馴染みの奴らと会って、そこに一緒にいたのが九鬼だ。で、そいつらから九鬼を鍛えてやってくれって頼まれたから、俺も人を鍛えるのは久しぶりだったし、面白そうだから鍛えたんだ」
「今の俺と九鬼とではどっちが強い?」
「お前の全力を見たわけではないし、鍛えていた当初で言うなら無敵の勝ちだな。今は九鬼も成長しているだろうから、やってみなきゃわからんぞ」
「無敵ぃ……強くなって庇ってよー」
「無敵ぃぃぃぃ!」
「くくっ……百鬼は陰陽師だろ。鬼神くらい倒して見せろよ。鬼退治なんて陰陽師冥利に尽きるじゃないか」
「お前、絶対わざとだろ! うちが勝てるなんてこれっぽっちも思ってないくせに!」
【鬼神】九鬼泰次の降臨に百鬼と千喜良が無敵に懇願するも、無敵としてもどれほど九鬼が強くなっているのかわからず、簡単に肯定することはできなかった。そして、過去の九鬼のことを唯一知らない月出里は、何故百鬼たちや無敵が危機感を募らせているのか、全くもって理解していない。
「そんな百鬼たちに朗報だ。九鬼はこの国にいないぞ。今は北のアリシテア王国のダンジョン都市にいるはずだ。1ヶ月ほど前に会った時はそこへ向かうと愚痴っていたからな」
「ダンジョン都市……?」
「ああ、街中にダンジョンがある都市だ。街の外にも1つあるけどな。どちらも100階層の深層ダンジョンになってる」
「そこに九鬼がいるんだな?」
「移動してなければな。行くか行かないかは無敵が決めろ。百鬼たちは行きたくなさそうだが」
「無敵やめようよー」
「ここでも強くなれるよ!」
「虎雄、どうする?」
「九鬼が暴れだしたら俺の手に負えないのはお前も知ってるだろ。【鬼神】の名は伊達じゃない。そちらさんの言い分によると、現に腹を剣でぶっ刺されたままでも暴れ回ってたんだろ。ブチ切れた理由は知らんが、【鬼神】はこの世界に来ても健在だ」
「あぁぁ、ブチ切れた理由なら、盗賊たちが女の子を襲って服をビリビリに破いたからだ。それを見たらブチ切れたらしい。まぁ、俺でもブチ切れるが」
「アイツらしいな」
「女は敵と言いながらも弱者には味方する……か……」
無敵と十前が感慨に耽っていると、ケビンはもう用はないとばかりに挨拶を済ませてダンジョン攻略を再開させるため、フィアンマたちを連れて奥へと進んでいく。
それを見送る無敵たちだったが、月出里が相変わらず喚いているので無敵が一喝すると、手のひら返しで黙ってしまうのだった。
「ダンジョン都市か……」
「力也、行くのか?」
「強くなるにはもってこいだろ。100階層が近場で2ヶ所だぞ」
「無敵ぃ、やめようよー」
「ここら辺にも深いダンジョンがあるんだしさー」
「九鬼がそのダンジョンを制覇したら、今よりも強くなっているんだぞ? 庇わなくていいのか?」
「「うっ……」」
「夜行、千代、諦めなさい。自業自得なあなたたちが悪いんでしょ?」
「差し入れ何にする? 土下座必須っしょ」
「うぅぅ……途中で美味しいお菓子とか売ってるかな?」
そのようにこれからのことで頭を抱えている百鬼たちを他所に、月出里は無敵に何をそんなに怯えているのか問いかけるが、無敵は「お前は知らなくていいことだ」と返すだけで、百鬼とは違い九鬼の過去をバラす真似はしないのであった。
サラ班のメンバーはサラとマリアンヌ、それにシーラの3人であり、ケビンが手を出すまでもなく、逆に魔物が可哀想に思えるくらいの蹂躙劇が繰り広げられている。そのような中でケビンはその蹂躙劇を鑑賞しながら最短コースを教えて、後ろからついて行くだけであった。
ティナ班より人数が少ないのに、あっという間に70階層代のダンジョンを踏破してしまうと、ケビンはダンジョンコアの上書きを済ませて次のダンジョンへ移動を開始する。
「70階層代なのに張り合いがないわね」
「私はケビンと一緒にデートができているから、それだけで充分だわ」
「私もケビンと一緒なら何でもいいです!」
「ダンジョン攻略をデートって言うのは、サラくらいよ?」
「あら、そうなの? 他のみんなもデートのつもりで参加してるわよ? マリーだってケビンと一緒にいたいから参加したのでしょう?」
「それはそうだけど……」
「それならいいじゃない、デートって言っても」
マリアンヌが初めてのダンジョン攻略に手応えのなさを感じていたら、サラはデート感覚で攻略していて、シーラも同じようにケビンが優先であるので、1人除け者感を味わってしまうのだった。
「次は80階層代になるから、多少なりともマシにはなるんじゃない?」
「でも10階層増えただけでしょ? ケビンの作り替えたダンジョンに挑戦してみたいわ」
「んー……じゃあ、行く? そこまで焦ってセレスティアのダンジョンを制覇しなきゃいけないってわけでもないし」
「えっ、いいの!?」
「マリーはワガママねぇ……アリスさんの方がよっぽど大人よ?」
「アリスは私の育て方が良かったのよ」
「その育て方の良さで育った女の子が噛みついてきたのは、どこの誰だったかしら?」
「……今日のサラはイジワルね」
「ふふっ、ケビンと一緒にいられるから楽しいのよ」
こうしてマリアンヌの楽しい攻略をしたいという欲求を満たすために、ケビンは急遽予定を変更して、自分の管理しているダンジョンへ足を運ぶことになる。そして到着したK’sダンジョン本店にて、待ちに待ったマリアンヌのダンジョン攻略が開始される。
「これよ、これ! この危機感を感じたかったのよ」
「全く……後衛のシーラのことも考えなさいよ」
「はっ、はっ……き、きつい……ケビン……」
50階層代まで難なく踏破したマリアンヌは、51階層目からケビンの用意した鉄球ゴロゴロトラップを起動してしまい、と言うよりもケビンのいやらしい配置により強制起動させられたことによって、3人は現在鉄球から走って逃げている最中である。
「ニーナはこれをクリアしたみたいよ?」
「あら、ニーナさんは後衛なのにやるわね」
「ニ、ニーナが……はっ、はっ……う、嘘でしょ……ふっ、はっ……」
「これがティナたちの言ってたケビンの特訓よ。本来はもっと過酷らしいわ」
「確か1番遅い人に合わせる速度と距離らしいわね。だから、私たちには余裕でシーラが1番キツい思いをするのよ」
「……ケビン……お姉ちゃんを虐めるの……はっ、ひっ……」
さすがのシーラもこれには白旗を上げたいらしく、サラたちとは違って1人一生懸命に走っているが、その様子をケビンはマスタールームにて鑑賞している。
「姉さんは運動不足が顕著だねぇーまだ1球目なのにもうバテそうになってる」
シーラの気も知らずケビンは呑気に感想をこぼしているが、たとえ姉であろうとも特訓において手加減をしないのが、【ドSの鬼畜】と言われるケビンである。
そしてこの日は大した攻略もできずに、シーラの鉄球ゴロゴロ逃走劇というケビンの特訓によって幕を下ろすのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
あれから2週間もの間、サラたちはセーフティゾーンにてケビンの与えたテントを使いながら、ダンジョンの攻略を進めていた。地道にシーラの逃走劇を繰り返していたあの日々、今となっては鉄球ゴロゴロゾーンを無事に抜け出しており、本格的な攻略を開始するに至っている。
そして、サラとマリアンヌの連携により、手強くなっている敵も難なく倒されてしまい、シーラはシーラでいつもの通り前衛無視の氷の世界を作り出しては、頑張っている感をケビンにアピールしていた。その前衛無視のシーラがここまでできているのは、ひとえに氷の世界をものともしない超人2人のおかげである。
サラとマリアンヌは地面が凍りついていようとも、『地面が使えないなら壁を使えばいいじゃない』と言わんばかりに、壁を蹴って移動しては変則的な攻撃を魔物相手にしてのけると、今度は倒した魔物を足場にして更に移動を繰り返して魔物を倒していくのだ。
これによってシーラは2人から怒られることもなく、ご自慢の氷の世界を顕現できていたのだった。
そして迎えた100階層のボスをサラが難なく倒してしまうと、ケビンは創作者としてのプライドを刺激されてしまい、敷地に規格外用のダンジョンを創ることを決め、サラでも早々に踏破できないようなヘルモードにしようと画策していく。
その後4人揃って帝城へ久しぶりに帰ったら、シーラは鉄球ゴロゴロ地獄をクリアしたことをニーナに報告して、その時の話を嬉しそうに語るシーラにニーナもお姉ちゃん風を吹かせると、微笑みながらシーラを褒めてその頑張りを労って頭を撫でるのであった。
それからというもの、ターニャ班と森のさえずり班は踏破数が少ないものの安定したダンジョン攻略を行い、メイド班は当然と言うべきか班の中で1番の連携力を見せつけて、淡々とダンジョン攻略を成し遂げていく。
そして、フィアンマ班の番になると元各色騎士団団長とあってかお互いのことは把握しており、カトレアもカトレアでフィアンマの部下として所属していたので危なげなく中層での戦闘を行えていた。
「さすがにガブがいない状態での90階層代はキツイな」
「人数も4人だものね~」
「ないものねだりをしても仕方がないでしょう」
「私はこんなに深い階層に挑むのは初めてです」
「騎士たちは60階層目辺りが限界だしな」
「強さがバラバラだもんね~」
「安定した攻略訓練になると、それぞれの中間辺りの強さに合わせますからね」
そのようなことを口にしながら進んでいくと、またしても何者かの気配をケビンが探知してしまう。
「はぁぁ……1度あることは2度あるって言うしなぁ……」
「どうしたんだ、陛下」
「あぁぁ……フィアンマ、今から陛下呼び禁止だ。他の者たちも俺を様付けするなよ。この先に人がいる」
「うっ……難しい注文だな……ケ、ケビン……くん?」
「何故に疑問形?」
「ケビンく~ん」
「ケ、ケ……ケビンしゃん!」
「……メリッサは急展開に弱いところがあるな」
「私はいつも通りケビン君だね」
カトレア以外のそれぞれが呼び方の変更をしていると、ケビンはこの先に勇者たちがいるかもしれないことを伝えて、不用意な発言は控えるように伝えたら先へと進んでいく。
そして少し拓けた場所でケビンの嫌な予感通りに、勇者たちと相見えることになる。とにかく関わりたくないケビンは攻略を進めるために、無視をしつつ先へ進もうとするが相手がそれを許さなかった。
「挨拶なしに通り過ぎるつもりかぁ?」
「あ、どうも。俺たちは先に行くのでそれじゃあサヨナラ」
挨拶のことを指摘されたのでケビンがサクッと済まして先に進もうとするが、残念ながらケビンの思い通りにはいかないようである。
「ちょっと待てや、コラァ! なに調子くれっちゃってんの? 女侍らせて調子に乗っちゃってるわけ? ああ?」
「いえ、先を急いでいるもので。絡むなら暇な人を相手にしてくれませんかね?」
「おいおい、調子に乗り過ぎじゃね? テメェ、どこ中だ?」
「え……?」
まさかまさかの『どこ中』発言により、ケビンは『いつの時代のヤンキーだ?』と思ってしまう。まさか異世界に来てまで『どこ中』と聞いてくる馬鹿がいるとは思ってもみなかったのだ。
「えぇーっと、経歴を言うのなら初等部を中退して専門学の学院を卒業したから、お前の言う中等部は行ってない。つまりどこ中でもない。あえて言うなら今は会話中?」
「ぷっ……」
「ふふっ……」
「くくっ……」
「ふ、ふふ……」
フィアンマたちは真面目に回答したケビンが、最後の最後で思いもよらぬことを口にしたため笑いをこらえるのに必死であったが、それを言われた相手は憤慨ものだったようだ。
「馬鹿にしてんじゃねぇぞ、ゴルァ!」
「真面目に返答しただけであって別に馬鹿にしてないけど、自分でそう思うなら自分自身で馬鹿だと言っているようなもんだぞ。お前、馬鹿なのか?」
「舐めてんじゃねぇ!」
その瞬間に少年がケビンに殴りかかったが、あまりにも遅かったためにケビンのカウンターで放った回し蹴りが綺麗にハマり、少年は吹き飛ばされてダンジョンの壁に激突する。
「ぐぁばっ!」
「……ぶっ……ハハハハハッ! ぐぁば、ぐぁばって! ヤンキーの癖に女子力高めちゃうわけ? ヤローなのに? 将来の就職先はそっち系ですかぁ? ぐぁば……ぶふっ! ぐぁばーっ! ハハハハハッ! あー腹痛てぇ……」
「ケビンくん……」
「大爆笑だね~」
「何か面白いことがあったんでしょうか?」
「ケビン君笑いすぎだよ……」
ケビンが大爆笑して4人が何に対して笑っているのかわからずに困惑する中で、蹴り飛ばされた少年に少女が駆け寄り安否を確かめていた。
「ちょ、月出里! 大丈夫かよ?!」
「がはっ……はぁはぁ……ちょっと油断しただけだ」
「あんたから殴りかかっといて油断も何もないっしょ……」
少女の手を借りながら立ち上がった少年は、大爆笑しているケビンに対してメンチを切る。
「ちっ……虎雄、やるぞ」
「は? お前の喧嘩じゃないのか?」
「ぶっ……ハハハハハッ! 1人で敵わないから仲間に助けを求めたら、その仲間から見捨てられるって……くくく……俺を笑い死にさせるのがお前の作戦か? ハハハハハッ! やべぇ、腹痛くて死にそー! 敵の作戦にまんまとハマってしまったー! お前、ヤンキーじゃなくてお笑い芸人になれよ」
「テメェェェェッ!」
「ちょ、あーもうっ! 急急如律令! 赤っち、青っち、やっちゃって!」
再びケビンに向かっていく月出里に少女が慌てて援護すると2体の鬼が召喚されて、その鬼たちは軽々と月出里を抜き去ってケビンに襲いかかる。
「へぇー陰陽師? クズミがついてきてなくて良かった」
そう言うケビンは金棒を振るう鬼たちの攻撃を難なく避けていると、月出里が武器を片手に駆けて来ている姿が見えたので、そこへ向かって鬼たちを蹴り飛ばした。
「――ッ!」
そしてそのままケビンはカトレアの背後に回り、気配を消して近づいていた少女の首を掴み持ち上げる。
「お前、俺の嫁に何をしようとしてたんだ?」
「っ……ぐっ……」
「えっ!? ケビン君?」
カトレアはまさか自分の背後を取られていたなんて気づかずに、いきなり背後にいたケビンと、ケビンの手を掴んで脚をばたつかせている少女に驚いていた。そしてそれはフィアンマたちも同様で、少女の足下に落ちているナイフによって何が起ころうとしていたのかを察してしまう。その4人が驚きの中にいる状態で、ケビンは掴んでいる少女を壁に向かって投げ捨てた。
「がはっ!」
「「千代っ!」」
すぐさま少女たちが駆け寄りケビンによって投げ飛ばされた少女の身を案じていると、鬼もろとも飛ばされていた月出里が更に逆上する。
「許さねぇ、許さねぇぞ、ゴルァ!」
「てめぇが喧嘩を売ってきたんだろ? それでもってそこの女はナイフ片手に俺の女の背後を取った。自業自得だな」
「貴様ぁぁぁぁ!」
そのような時に静観していた少年の1人が声を上げる。
「待て、竜也」
落ち着いている雰囲気と月出里が止まったことによって、ケビンはその少年がこのグループの中心なんだと予測を立てた。
「大将のお出ましか?」
「ハッ、イキがっていられんのも今のうちだ! 力也が出たらお前はボコボコになるしかねぇんだよ。なんつっても力也は【大魔王】だからな。【大魔王】無敵力也の前にお前は泣いて謝るしかねぇんだよ!」
「へぇーお前があの大魔王ねぇ……それよりも、そこのお前って三下感がハンパないな。虎の威を借る狐って知ってるか? 弱っちぃヤンキーがよく取る手段なんだけど」
「知るか、そんな言葉。日本語を喋りやがれ!」
「うわぁ……ないわぁ……」
「竜也黙ってろ。さすがにここまで身内のもんがやられたんじゃ、いくら自業自得でも少しばかり相手になってもらう」
「ほう……自業自得って認めるんだな」
「当たり前だ。喧嘩を先に売っておいて、やられたからって腹を立てるなんざ馬鹿だからな」
「くくっ……お前、大将に馬鹿にされてんぞ」
「て、テメェ……」
「まぁいいや。そっちが大魔王ならこっちも大魔王を喚んじゃおうかな。とりあえず【召喚】っと」
そう言うケビンが正面に向かって【召喚】を発動すると、魔法陣が現れて輝きを放ちだす。そして光とともに現れたのは、角、羽、尻尾を持つ明らかに普通じゃない魔族っぽい出で立ちをした者であった。
「フハハハハハッ! 再登場せし我が名は大「チェンジ!」」
「え……ケビンくん?」
「何か現れたね~」
「今のは……?」
「何を喚び出したの?」
「いや、まさかアイツが出てくるとは……」
そして気を取り直したケビンが再び【召喚】を行使する。
「ッ!? フハハハハハッ!「チェンジ、【召喚】」」
「!? フハハハハ「チェンジ、【召喚】」」
「!! フハ「チェンジ、【召喚】」」
「くっ、我が名はっ「チェンジ、【召喚】」」
「おいっ!「チェンジ、【召喚】」」
「お前っ「チェンジ、【召喚】」」
「せっかく「チェンジ、【召喚】」」
「再登場「チェンジ、【召喚】」」
「したの「チェンジ……ふぅ……くくっ……」」
「……ケビン君……遊んでるよね?」
「ソンナコトナイヨ?」
久しぶりに会った旧友?で遊んでいたケビンにカトレアが呆れていると、その光景を見ていた無敵たちも何が何やらわからずに呆然としている。
「よし、笑いも落ち着いたし改めて【召喚】」
「……? あれ、送還しないのか?」
再び喚び出された変な人はキョトンとしてケビンを見たら、すぐさま送還されないことを不思議に思い尋ねてみるも、ケビンからの返答は待ちに待った名乗りタイムのご褒美であった。
「ああ、好きなだけ名乗りを上げていいぞ」
「――ッ! クックック……フハハハハ……ハァーハッハッハッハッ! 我が名は大魔王ジャスキディン! 今度こそ消されないでここに降臨!」
「へぇージャスキディンって名前だったのか。10年ぶりだな」
「やはり貴様はあの時のガキか……あんな無茶苦茶な召喚をする奴は、後にも先にもアレしかなかったぞ」
「で、あそこに立ってるやつが大魔王を名乗ってるんだけど、ジャスキディンは本物か? 実は偽物とかじゃないよな?」
「何を言う! 我こそは偉大なる大魔王ジャスキディンであるぞ! あやつが偽物に決まっておろう!」
「じゃあ、アイツと戦って証明して。本物なら余裕で勝てるよな?」
「余裕も余裕、指1本で倒してこようぞ」
そして、大魔王無敵と大魔王ジャスキディンの戦いのゴングが鳴り響こうとしていたが、少女たちが無敵に対して警鐘を鳴らす。
「ちょ、無敵! あの冒険者、大魔王を召喚してんじゃん。ヤバいっしょ!」
「月出里が手も足も出ず、千代の隠密をいとも簡単に見つけ出して片手で投げつける……あの冒険者はただの冒険者じゃないわ。きっとSランクのサモナーのはずよ」
「大魔王が相手なら願ったり叶ったりだ。自分の実力を知るには調度いい機会だしな」
「フハハハハ! 実に謙虚ではないか。うむ、後進の育成をするのもまた大魔王としての務め。実力次第では魔王と名乗ることを許そう」
それからケビンが合図を出したので、これから凄まじいほどの大魔王同士の戦いがダンジョン内で巻き起こるはずだったのだが、それは叶わぬ夢となってしまう。
「ぷぎゃ」
「え……」
なんと無敵の放った拳がジャスキディンの顔にめり込み、ジャスキディンはそのまま殴り飛ばされてしまうのだった。その光景にケビン以外の誰しもが開いた口が塞がらずに呆然としてしまう。
「1発……」
「飛んでいったね~」
「あれが大魔王……」
「どういうこと……」
「なぁ、大魔王が飛んでいった感じなんだけど」
「無敵が強すぎたのかしら」
「よくわからんな」
「やっぱり力也はパネェ」
「うぅぅ……背中がまだズキズキする……」
そのような困惑の嵐が吹き荒れる中で、ケビンは溜息をつきながらジャスキディンを回復させる。
「礼を言うぞ、召喚主」
「まぁ、人生色々だ。これからもめげずに頑張れよ」
「うむ、我はこれから魔大陸を統一せねばならぬからな。時間がなきゆえ、今回は広き心を持って後進に花を持たせただけのことよ」
「さすが偉大なる大魔王、ジャスキディンだ。それじゃあな、魔大陸統一を頑張れよ」
ケビンがジャスキディンを送還すると、フィアンマたちが肩透かしを受けたジャスキディンのことをケビンに問いかけた。
「ケビンくん、アイツって何者だったんだ?」
「最弱無敗の自称大魔王だ」
「えっ……最弱なのに無敗?」
「たった今負けたよね~」
「1発で負けましたね」
「自称だったんだ……」
「ジャスキディンはさっき本人が言ってた通りで、負けても何かと理由をつけて負けを認めない。だから最弱なのに無敗で自称大魔王。言うだけはタダだしな。中々に面白い余興だった」
ケビンの説明を同じように呆けていた無敵たちも聞いていて、それを聞いた月出里が更にイキがり増長する。
「ハハハハハッ! 調子こいといて喚び出したのが最弱無敗の自称大魔王かよ! 所詮ザコが喚び出せるのはその程度ってことだ!」
「お前、マジで典型的な三下だな……無敵、いいのか? あんなんが仲間で」
「竜也は竜也なりに面白いところがあるからな」
「心が広いんだな」
「それよりも手合わせを願おうか? まさかさっきの奴で終わりってことはないだろ? こっちは不完全燃焼だ」
「なに? 俺と戦いたいわけ?」
「月出里と千喜良に対する対応。そこら辺にいる冒険者とは違うんだろ? 千手の言った通りでSランクはあるはずだ。まだSランクとはやり合ったことがないんでな、俺が今この世界でどの辺りの強さなのか知りたい」
「んなもん、ガブリエルに戦いを挑めばいいだろ。あいつは2Sランク相当だぞ」
「そいつなら別グループの引率をしているから無理だ」
「え、なに? あいつ、総団長を辞めて異世界ツアーの引率者になってるわけ? 転職したの?」
「総団長は辞めてない。今回の旅で各団長がグループの引率役になってる」
無敵が言った言葉に対してケビンは近くに団長がいないので問い返してみると、ダンジョンに潜るのが嫌だそうで宿屋で待機しているとのことだった。
「おいおい、ウォルターは馬鹿なのか? 怠け者を団長に任命して何やってんだよ。ってゆーか、勇者を召喚しておいて大魔王を召喚するくらいだしな、馬鹿なのは当然か」
「先程からやけに詳しいな」
「そりゃそうだろ。勇者が召喚された話なんか彼方此方で噂されているぞ。黒髪黒目の集団で目立ちすぎなんだよ」
「で、お前は何ランクなんだ?」
無敵がケビンのランクを知りたがっていたので、ケビンはぬけぬけとメインではなくサブカードを取り出しては、プラチナに輝いているのを見せつける。
「まぁ、Sランクだな」
「やはりか」
それから無敵の纏う雰囲気が変わると、ケビンは仕方がないとばかりにフィアンマたちを下がらせて、無敵の相手をすることにした。
「いくぞ」
「どうぞ、ご自由に」
次の瞬間、無敵の姿が消えるとケビンの目の前に現れて拳を打ち放っていたが、ケビンは難なくそれを躱してしまう。
「武器は使わなくていいのか?」
「喧嘩に得物を使うなんざ、ザコのすることだろ」
「それを言っちゃうと三下とあの女がザコ扱いになるぞ。ああ、ついでに陰陽師も武器じゃないが式神をけしかけたからザコだな」
「んだとゴルァ!」
「うっ……確かに速攻やられてザコ感ハンパないけど……」
「えっ……うちってとばっちりじゃない?」
「竜也の喧嘩に手を出すからだ」
「自業自得よ」
その後も無敵による連打の嵐がケビンを襲うが、ケビンは軽々しくそれをいなしていく。
「嘘だろ……」
「力也が遊ばれてるな」
「ってゆーかヤバくね?」
「Sランクってあんなに強いの?」
「Sランクをまだ彼しか見ていないから、判断のしようがないわね」
やがて距離を取った無敵が満足がいったかのように、ケビンに対して声をかけた。
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「あぁぁ……アレか? 噂が勝手に独り歩きしてそういう目で見られるから、そういう行動を取るようになった口か?」
「好きに想像してろ」
「……ふむ。無敵に免じて面白い情報を教えてやる」
「何だ? 強くなれる情報か?」
無敵が情報と聞いて強くなれる情報かもしれないとケビンの言葉に食いつくが、そのケビンはそれから無敵たちを見渡すと少女2人に目をつけた。
「鬼っ娘、名前は?」
「な、百鬼だし、うちは鬼っ娘じゃねえし」
「人質を取ろうとしたおバカ、お前の名前は?」
「うっ……千喜良千代です……」
「ん? チェケラッチョ?」
「ああぁぁぁぁっ! それ言うな! 私はチェケラッチョじゃなくて、千喜良千代なの! 名前で馬鹿にするな!」
千喜良が昔から名前のことで散々馬鹿にされ続けてきたあだ名を、そうとは知ってか知らずかケビンが口にしたことによって、千喜良はもの凄い勢いで抗議していた。
「すまん、他意はない。それなら名乗る時は名前だけにしておけ。家名を持つのは王侯貴族か大商人だけだ。百鬼はどっちだ?」
「苗字だし、名前は……や、夜行だし」
「ぶっ……ハハハハハッ! お前、氏名を書いたら百鬼夜行なの!? それで陰陽師やってんの!? どんだけ物好きなんだよ。ってゆーか、どっちの味方だよ。ハハハハハッ!」
「ちょ、笑うなっ! お前さっきから名前のことで馬鹿にし過ぎだし! 確信犯だろ! 絶対わざとだろ!」
「ひぃー腹痛てぇ……すまん、すまん……他意は……プフっ……ない」
「「嘘つけ!」」
大爆笑した上に他意はないと言ってのけるケビンに百鬼たちがツッコミを入れると、ケビンは全く悪びれもせずに話を続けていく。
「俺はな、基本的にやられたらやり返す派なんだけど、とある人物に頼まれたのと無敵の態度で夜行と千代は許すことにする。三下は関わりたくないから元からパスだ」
相変わらず三下と呼ばれ続けている月出里が怒りを顕にするが、無敵がそれを諌めてしまうとケビンは続きの言葉を口にした。
「だが、何もしないってわけじゃない。お前たち2人には飛びっきりのプレゼントをやろう」
「な、何するつもりだし」
「わ、私は投げられて痛い目を見てるのに……」
「まぁ待て。お前らの身を案じた、とある人物ってのが気になってるだろ? そのとある人物とは…………」
もったいつけて言うケビンの言葉に百鬼たちが生唾を飲み込むと、それを見たケビンがその名を口にする。
「九鬼泰次だ」
「「「「「――ッ!」」」」」
「……? 桃太郎?」
「1ヶ月ほど前に九鬼と会ったが、まさしく【鬼神】だな。話を聞いたら腹に剣をぶっ刺されたままで暴れ回ってたみたいだ。ちなみに相手は盗賊だったが、ほとんど殴り殺していたぞ。数人は斬り殺したみたいだがな」
「ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!」
「どうしようどうしようどうしよう――」
「ハハッ、お前たち2人は九鬼に怒られるようなことでもしたのか? 顔が青ざめているぞ」
鑑定によってステータスにある備考欄を見たことなど教えもしないケビンは、さも何も知りませんでしたと言わんばかりの口調で語っていると、無敵がケビンの言ったことに疑問を投げかけた。
「九鬼は【学生】って職業で村人同然と判断されていた。何故その九鬼が盗賊たちを殴り殺せる?」
「ん? それは俺が弟子にして1ヶ月ほど鍛えたからな。そこら辺の冒険者よりかは強くなってるぞ。まだ教えた通りに鍛錬してるなら、軽くAランクくらいの強さにはなってるんじゃないか?」
「なに……?」
「たまたま昔馴染みの奴らと会って、そこに一緒にいたのが九鬼だ。で、そいつらから九鬼を鍛えてやってくれって頼まれたから、俺も人を鍛えるのは久しぶりだったし、面白そうだから鍛えたんだ」
「今の俺と九鬼とではどっちが強い?」
「お前の全力を見たわけではないし、鍛えていた当初で言うなら無敵の勝ちだな。今は九鬼も成長しているだろうから、やってみなきゃわからんぞ」
「無敵ぃ……強くなって庇ってよー」
「無敵ぃぃぃぃ!」
「くくっ……百鬼は陰陽師だろ。鬼神くらい倒して見せろよ。鬼退治なんて陰陽師冥利に尽きるじゃないか」
「お前、絶対わざとだろ! うちが勝てるなんてこれっぽっちも思ってないくせに!」
【鬼神】九鬼泰次の降臨に百鬼と千喜良が無敵に懇願するも、無敵としてもどれほど九鬼が強くなっているのかわからず、簡単に肯定することはできなかった。そして、過去の九鬼のことを唯一知らない月出里は、何故百鬼たちや無敵が危機感を募らせているのか、全くもって理解していない。
「そんな百鬼たちに朗報だ。九鬼はこの国にいないぞ。今は北のアリシテア王国のダンジョン都市にいるはずだ。1ヶ月ほど前に会った時はそこへ向かうと愚痴っていたからな」
「ダンジョン都市……?」
「ああ、街中にダンジョンがある都市だ。街の外にも1つあるけどな。どちらも100階層の深層ダンジョンになってる」
「そこに九鬼がいるんだな?」
「移動してなければな。行くか行かないかは無敵が決めろ。百鬼たちは行きたくなさそうだが」
「無敵やめようよー」
「ここでも強くなれるよ!」
「虎雄、どうする?」
「九鬼が暴れだしたら俺の手に負えないのはお前も知ってるだろ。【鬼神】の名は伊達じゃない。そちらさんの言い分によると、現に腹を剣でぶっ刺されたままでも暴れ回ってたんだろ。ブチ切れた理由は知らんが、【鬼神】はこの世界に来ても健在だ」
「あぁぁ、ブチ切れた理由なら、盗賊たちが女の子を襲って服をビリビリに破いたからだ。それを見たらブチ切れたらしい。まぁ、俺でもブチ切れるが」
「アイツらしいな」
「女は敵と言いながらも弱者には味方する……か……」
無敵と十前が感慨に耽っていると、ケビンはもう用はないとばかりに挨拶を済ませてダンジョン攻略を再開させるため、フィアンマたちを連れて奥へと進んでいく。
それを見送る無敵たちだったが、月出里が相変わらず喚いているので無敵が一喝すると、手のひら返しで黙ってしまうのだった。
「ダンジョン都市か……」
「力也、行くのか?」
「強くなるにはもってこいだろ。100階層が近場で2ヶ所だぞ」
「無敵ぃ、やめようよー」
「ここら辺にも深いダンジョンがあるんだしさー」
「九鬼がそのダンジョンを制覇したら、今よりも強くなっているんだぞ? 庇わなくていいのか?」
「「うっ……」」
「夜行、千代、諦めなさい。自業自得なあなたたちが悪いんでしょ?」
「差し入れ何にする? 土下座必須っしょ」
「うぅぅ……途中で美味しいお菓子とか売ってるかな?」
そのようにこれからのことで頭を抱えている百鬼たちを他所に、月出里は無敵に何をそんなに怯えているのか問いかけるが、無敵は「お前は知らなくていいことだ」と返すだけで、百鬼とは違い九鬼の過去をバラす真似はしないのであった。
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