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第16章 魔王対勇者

第516話 安定の魔王伴侶組

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 九鬼が同行者たちと揉めている頃、ケビンはケビンで助けた女の子たちを連れて帝城に戻ってきていた。女の子たちにはスープしか与えていなかったので、今は食堂にて軽めの食事を提供しているところだ。

「おかえりなさい、貴方」

 そのようなところにやってきたのは、ガウンを羽織ったケイトである。

「ん……よくわかったな?」

「貴方が私と寝ている時に舌打ちして「あの馬鹿」って言ったっきり消えるんだもの。何かあったと思うのが当然でしょう? そして、貴方は何かあった時に、決まって女の子を連れて帰ってくるんだもの」

「いや、名誉のために言わせてもらうと、毎回女の子を連れて帰っているわけじゃないからな?」

「ふふっ、そういうことにしておいてあげるわ。とにかく貴方が女の子を連れてきた場合、場所はここかお風呂場になるじゃない。時間も時間だし、憩いの広場は候補から消えるわね。当然貴方の寝室も。いきなり連れ込むことは今までに1度もなかったから候補からは消えるわ」

「はぁぁ……お手上げだ」

 それからケビンは保護した女の子たちにお風呂を薦めると、ケイトが突拍子もないことを口にしたことでいつもの流れに押し込まれて、ケイトに丸投げしようとしていたケビンの作戦はあえなく破られてしまうのである。

「いつもいつも丸投げできると思ったら大間違いよ」

 クスクスと笑いながらケビンが逃げられないように腕を絡ませると、ケイトは女の子たちを引き連れて浴室へと向かい、率先して脱いでは女の子たちにも羽織っている毛布を取り払うように伝えたら、ケビンの服を脱がせていくのだった。

「さ、貴方。女の子たちを綺麗に洗ってあげてね」

「はぁぁ……」

「洗われちゃうの?」
「恥ずかしい……」
「お風呂って初めて……」
「広い……」
「凄い……」

 こうしてケイト監修の元で行われた歓迎会はつつがなく進行していき、お風呂に初めて入る女の子たちは興味津々で彼方此方に視線を泳がせながら、ケビンによってその体を洗われていく。そして、浴槽に浸かると脱力してしまい、初めてのお風呂を満喫したのだった。

 その後の流れは言わずもがな。ケイトが一緒に寝ると言ったので、ケビンはてっきり女の子たちを連れて行ってくれると思っていたら、ケイトが向かった先はケビンの寝室である。

「ここ、俺の部屋なんだけど……」

「一緒に添い寝するだけよ。貴方が手を出したいなら、その時は私だけにしてね。彼女たちはまだ心の準備ができていないから」

「何だかなぁ……」

「ベッド大きい……」
「うぅぅ……」
「何者なんだろ……」
「冒険者じゃないの?」
「私たちと同じ?」

 ケビンが未だ自分の職業を明かしていないのと、薄暗い中で帝城内を歩いていたことにより、女の子たちはまさか目の前にいる人物が1国の主であることに気づいてはいない。

 そして、彼女たちの素性は実のところ5人組の冒険者パーティーで、野営中に盗賊たちから襲われ隷属の首輪を嵌められたあと囚われていたのだ。

 そこへ助ける気はさらさらなかった九鬼が間接的に助けたことにより、巡り巡ってはいないが、九鬼が頼ったことでケビンの元へ来ることになったという経緯である。

「さ、もう寝る時間は過ぎているのだし、早く寝ましょう」

「はぁぁ……寝るか。面倒なことは明日考えればいいや」

「もう今日になっているわよ?」

「面倒くせぇ……夜中に呼び出されると、碌なことがないな」

「寝るの?」
「一緒に?」
「襲われる?」
「あの人がいるし」
「添い寝する?」

 ケビンとケイトがやり取りをしている中で、5人組は内々でコソコソと話し合いにてどうするのかを決めると、結局のところ行き場がないので恐る恐るケビンの周りに添い寝することで話は纏まっていく。

 その後はケビンに重なるようにしてケイトが抱きついて上のポジションを取ると、あとはケビンを囲み込むかのようにして5人組が周りで横になる。その状態になってしまったケビンは思考を放棄して、ケイトを抱きしめながら眠りにつくのであった。

 翌朝、先に目覚めていたケイトに起こされたケビンは中途半端に寝たこともあり、眠気が全く取れない状態で寝ぼけたまま、隣に寝ていた女の子を抱きしめて体をまさぐってしまう。

「やんっ」

「はぁぁ……貴方、その人はまだお嫁さんじゃないのよ?」

「んあ?」

「あんっ」

 ケビンが寝ぼけたまま胸をモミモミしていたので、触られている女の子は頬を染めながらもケビンにされるがままとなっている。

「ほらほら、離してあげて。その子も困っているわよ」

「んー……」

「お兄さん……揉んじゃダメぇ……」

「…………ん? お兄さん……?」

 そこにきてようやくケビンも段々と頭が覚醒していき、自分の抱きしめている女性が嫁ではないことに気づくと、すかさず謝り始めるのだった。

「ご、ごめん! 寝ぼけて嫁と間違えてた!」

「んっ……それはいいけど……あんっ、おっぱいから手を離してぇ……」

 そう主張する女の子の言葉通りで、ケビンは自分のしたことを謝りつつも見事にその手は胸の感触を堪能しているままだったのだ。

「あ、ごめん! 触り心地が良かったから」

 ケビンはすぐさま手を引っ込めて起き上がり辺りを見回すと、物の見事に周りには昨日保護していた女の子たちが裸のままでケビンを見つめていた。

「え……俺……もしかして手を出した……?」

「おっぱいなら揉まれた」
「おっぱいだけ触られた」
「眠ったままなのに的確に触られた」
「手が離れた隙に逃げたら、次の子が捕まった」
「私は2回捕まった」

「……ごめん……」

「いいよ、お嫁さんになるんだし」

「え……嫁になるの?」

「触られた時に『責任取ってよ?』って言ったら、『嫁にする』って言ったよ?」

「……うそ……?」

「みんなにそう言ったよ」

 ケビンは寝ていたためその記憶は全くなくケイトに視線を向けたら、ケイトはニコニコとしながらケビンをからかう。

「他の4人の時は私も寝てたから聞いてないけど、最後の子の時は確かに言ってたわよ。ちなみに私にも言ってたわね。『嫁にするから触る』って。もう嫁なのに『生まれ変わってもお嫁さんにするの?』って聞いたら、『何回でもする』って言ったわ。生まれ変わってもお嫁さんにしてくれるなんてドキドキしたわよ」

「マジか……寝ぼけてそんなことを口走っていたんだな」

 ケビンは自分の寝ぼけた状態の悪癖に呆れ果ててしまうが、今更なので諦めることにすると、裸のままの5人を見て名前を呼ぼうとしたら、自己紹介すらもしないまま寝てしまっていたことに気づいてしまう。

「ごめん、自己紹介してなかった……」

「そうなの? 自己紹介もせずに連れてくるなんて誘拐ね」

「うっ……」

「まぁ、いいじゃない。都民たちからは嫁攫いとして有名だし、今更でしょう?」

「公の嫁攫いなんだ……」
「私たち攫われちゃった」
「誘拐犯?」
「エッチな誘拐犯?」
「おっぱい好き誘拐犯?」

「ま、待て! それ以上は変なことを言わないでくれ! ただでさえ、称号欄に変なのがいっぱいあるんだから」

 魔王の伴侶組が今までに口々にしてきた不名誉な呼び方により、称号欄にそれが反映されていたので、ケビンはこれ以上は増やしてなるものかと断固として防衛に走る。

 そして、その後はなんやかんやで自己紹介が終わると、5人組は自分たちが何処にいるのか把握して目の前にいるのが誰なのか知ってしまい、あからさまに恐縮し始める。

 それを見たケビンは恐縮するのを禁止したが、皇帝が目の前にいて更には閨を共にしたとあっては、一般庶民の5人組にしてみたら只事ではないほどの事態なので、落ち着くのはもうしばらくかかりそうであった。

 それからケビンが5人組に下着と服を創ったので着るように言うと、5人組は恐れ多いことだとして、ここでもまたてんやわんやとなってしまう。それを眺めていたケイトは話が進まないので、朝食の時間もあることから強引に5人組に対して服を着るように言うと、その場は何とか収まりケビンたちはようやく朝食に向かうことになる。

「ケビン君がまた攫ってきてる!」

「誘拐魔王」
「嫁攫い魔王」
「節操なし魔王」

「待てぇぇぇぇい! ギオーネたちのせいで三冠王が付いたんだぞ。これ以上は増やすな!」

 予想通り魔王の伴侶組がケビンをからかいだして、ケビンはクスクスと笑っているギオーネたちを窘めるが、それを聞いていた5人組は後ろでコソコソと呟いていた。

「魔王だって……」
「魔王なの……?」
「魔王な誘拐犯?」
「愉快な誘拐犯?」
「三冠王誘拐犯?」

「待て待て待て! お前たちまで変なことを言い出すな。ギオーネたちが真似するだろ!」

「聞いた?」
「聞いた、聞いた」
「次は誘拐犯ネタ」
「エッチな誘拐犯」
「スケベな誘拐犯」
「おっぱい誘拐犯」
「ん? それだとおっぱいを攫ってない?」
「じゃあ、おっぱい好き誘拐犯?」
「うん、それでいこう!」

「皆さん、ケビン様をあまりからかってはいけませんよ」

 魔王の伴侶組の中で、唯一ケビンの味方となるベッツィが他の者たちを窘めるが、その発言を機に一部の者たちから矛先がベッツィに移行する。

「Gは裏切り者!」
「妊娠してまた大きくなったらしい」
「なっ!? 私はまだ膨らんでないのに!」

「「「貧乳党にソフィーリア様の加護を!」」」

「ふふっ、ケビンは小さくても愛してくれるわよ? それでも大きくしたいならしてあげるけど?」

 貧乳党3人組の言葉にソフィーリアが普通に返すと、3人組は内輪だけでの会議を始めてしまう。

「むむむ……」
「どうする? 確かに魔王は小さくてもいっぱい愛してくれる」
「これがなくなると、私たちの存在意義がなくなるかも……」

「諦めるか……」
「魔王は小さくても夢中だしね」
「スライムベッツィを弄れなくなるし」

「あ、あの……スライムベッツィは確定なんですか……?」

 ケビン同様に3人組から不名誉なあだ名を付けられているベッツィが、それを問いかけるも3人組は華麗にスルーして結論へと達する。

「魔王がエッチで良かった」
「おっぱい好き魔王で良かった」
「性欲魔神バンザイ!」

「うぅぅ……スライムじゃないのに……」

 貧乳党3人組の意見が纏まるとベッツィは項垂れケビンは呆れ果ててしまうが、とりあえず5人組を家族たちに紹介して、どういう経緯で保護したのかを説明すると盗賊に攫われた経験のある嫁たちが囲いこんで、5人組が安心できるように自らの経験も明かしていく。

 その後はつつがなく朝食も食べ終わり、仕事に行く者は仕事先へと出かけていき、学園に通う子供たちは学園へと出かけていって、残る者たちは5人組を引き連れて憩いの広場へと向かうのだった。

 そして話題はケビンの嫁となるのかどうかになるが、本人たちが胸を触られた時に嫁にするとケビンが寝ぼけながらも言ったことを告白して、ケビンは呆れられた視線を嫁たちから浴びせられてしまう。

「ケビン君……おっぱい触りたさに嫁にするのは、さすがにどうかと思うよ?」

「ティナが珍しく正論」
「今回はケビン君を擁護できないかなー」
「お姉ちゃんも擁護できない」
「主殿は相変わらず盛んよの」
「ケビンはん、触りたければうちのを触ればええのに」

「やはり魔王おっぱい」
「称号は体を表す」
「おっぱいマイスター」

「ふふっ、ケビンは昔からおっぱいが好きだものね」
「私も一緒に寝る時はずっと触られているわ」

 このような感じに嫁たちから槍玉を食らってしまうケビンは、何も言い返すことができないのでマスコットと化しているヴィーアを抱きかかえて、1人癒されているのだった。

 そして、ティナは5人組が指輪をしていないことをケビンに指摘すると、ケビンはヴィーアを膝上から下ろして5人組の所へと向かう。

 それから1人ずつ最終確認を取ってからケビンが指輪を嵌めてキスをすると、5人組はポーっとした表情のまま心ここに在らずで、周りの嫁たちから祝福の声が上がると我に返り、一気に顔を紅潮させては俯いてしまうのであった。

 その後は新たに加わった嫁たちから何をして生きていきたいか聞き出したケビンは、農作業や花の育成などの要望が挙がってきたが、今回のことで怖い思いをしたけど冒険者をまだ諦めきれないという心持ちがわかり、5人組を盗賊たちに負けないくらいに育て上げるという提案をする。

「え……ケビン君もしかして……」
「新たな被害者……」
「久しぶりに私も参加したいなー」
「お姉ちゃんはまだ参加したことがないわ!」
「おお、主殿の教練か。手加減をできるようになったし、私が参加してもよかろう?」
「面白そうえ。うちも参加したい」
「ふふっ、私もケビンに鍛えてもらおうかしら?」
「あら、サラが参加するなら私も行くわよ」

「ティナさんたちが過酷と言ってた魔王直々の訓練……?」
「もしや……鬼軍曹降臨?」
「いや、鬼魔王降臨?」
「それだと鬼人族の魔王みたい」
「冒険者じゃなくて良かった」

 それからケビン監修のダンジョンツアーが瞬く間に嫁ネットワークで広まっていき、参加したことのない冒険者組はここぞとばかりに参加権利を主張して、雪だるま式に参加者が増大していく。

 さすがにケビンもこの人数で夢見亭に行くわけにはいかず、ひとまず初参加者の装備品をドワンに依頼するために、ドワンの所へと赴き事情を説明するのだった。

「さすがに1週間そこらじゃできんぞ……」

「すみません……」

「……仕方がない。引っ越すか」

 ドワンのこぼした言葉にケビンが驚いていると、当たり前のようにドワンから説明されていく。

「さすがの儂でも全員分の欲しい装備品は覚えられんぞ。それなら近場で仕上げつつ新しい装備品に取り掛かった方が効率的だ」

「でも、ドワンさんのお店が……」

「元々ここは交易品が集まりやすくて選んだ土地だ。特に愛着があるわけではない。一般人には包丁しか売ってないしな。冒険者たちは冒険するのが仕事だから気兼ねする必要性がないだろ。それに当時の帝国は物騒で足を運んだことがないし、ケビンが治めているならもう物騒ではなくなっただろ?」

「……それはそうですけど……」

「気にするな。これもまた新たな発見への挑戦だ。ケビンは引っ越しを手伝ってくれるだけでいい。さすがにここから引っ越し荷物を抱えて帝国まで旅をしたくはないからな。とは言っても、ケビンのくれたマジックバッグに入れるから手荷物はほとんどないが」

「わかりました。俺からせめてものお礼として帝都の1等地にお店を用意します。鍛冶関連の炉なども俺が最高級の物を準備しますので」

「それはどのくらいかかる? その間にここでの身辺整理を行っておこう」

「1日」

「……は?」

 ドワンは少なくとも全ての機材や環境を整えるのに、1ヶ月は最低でもかかるだろうと見込んでいたものが、ケビンの口から「1日」という回答が出てきたので理解が追いつかない。

 そこで呆けているドワンに、ケビンが身内にしか明かしていない【創造】のスキルを使って簡単な物を創り出して、それゆえの「1日」だということを説明すると、ドワンは当然の疑問をケビンに向けて問うのだった。

「装備品はそれで創ればいいんじゃねぇのか?」

「簡単に創り出せる物よりも、職人の手で1から作り上げられる物の方が味があるし、愛着も湧くじゃないですか。それにドワンさんの作る装備品は特級品ですからね。職人のお株を奪うような真似は極力したくないんですよ」

「そんなことを言われちゃあ、職人冥利に尽きるってやつだな」

 それからケビンはドワンと話を詰めていき、ドワンが1日で身支度を整えると言ったので、明日にまた迎えに来ることを伝えたら早速ドワンのお店造りのために帝都へと帰っていく。

 そしてケビンが買い占めている人通りの多い1等地の1角に、ドワンのための住居兼仕事場を建て始めると、周りにはいつもの如く『皇帝が何かし始めた』という恒例の野次馬たちが集まり始める。

「まーた、陛下が何か作ってるな」

「今度は何のお店だろうね?」

「煙突がついてるからパン屋か?」

「まぁ、出来上がってからのお楽しみだな」

 野次馬たちが口々にするその建物は平屋に地下1階を付け加えたもので、仕事場は防音も兼ねて地下に設置することにしたら、炉の煙突はそのまま上まで伸ばしていき屋根から突き出させると、煙による苦情が出ないように排煙口に浄化の付与魔法をつけて黒煙が舞わないように施す。

 そこまですると今度はその魔法が途切れないように、屋根にソーラーパネルならぬ魔素パネルを取り付けて半永久的に機能するように施したら、炉自体や煙突内部にも煤などの汚れが溜まらないように清潔の魔法を付与する。

 その後も鍛冶機材をどんどんと創り出しては設置していき、最終的な場所の配置などはドワンが来てから決めることにして、それぞれの機材には不朽など思いつく限りの効果を付与していった。

 地下がある程度終わったところで今度は1階の作業に取り掛かり、家具などひと通り創り出して設置すると、一般家庭にはない風呂場や水洗トイレなども創り出して、次はお店のレイアウトに取り掛かる。

 そして店側はショーケースに包丁が並べられるようにすると、武器類は壁に設置できるようにしたら、鍛冶の最中にお客が来てもわかるようにドアが開かれた時点で作業場に来客ベルとランプが光るように施して、応答マイクとスピーカーまで設置していく。

 そこまでしたケビンは仮に自分のお膝元でありえないことだが、泥棒されるようなことがないとも言いきれないので、ドワンが売却手続きをせずに持ち出そうとする者には、店外へ出られないように防犯対策を施すことにして、盗みを働いた者はドアに触れた瞬間にビリビリの刑に処して麻痺するようにした。

 そのようなことを翌日に帝都へ連れてきたドワンに対してひと通り説明していくと、ドワンは頭を抱えて溜息をついてしまう。

「無茶苦茶じゃねぇか……こんな店なんて世界中探してもないだろ……」

「いや、せっかくドワンさんに来てもらえるんだから、この街で気持ちよく仕事をして欲しくて……」

「はぁぁ……こりゃあ生涯をかけても返しきれねぇ恩ができちまったな」

「いえいえ、恩があるのはこっちですよ。交易都市のお店を畳んでまで来ていただいたので」

「仕方がねぇ……生涯独身を貫くつもりだったが、跡継ぎを作らねぇとこの店を有効活用できねぇな」

「えっ、ご結婚されるんですか!?」

「当たりめぇだろ。俺の代でこんな店が潰れるなんてもったいなさ過ぎる! もうここに永住して、この店を子々孫々に至るまで技術とともに継がせていくぞ」

「それは俺としても子々孫々に至るまで、ドワンさんの作品を手にすることができるのでありがたいですけど……お嫁さんの宛てってあるんですか? ドワンさんって故郷を飛び出してだいぶ経ちますよね?」

「ぐっ……そこはゴワンに聞けば見つかるだろ」

「あぁぁ、ゴワンさんですか……何だかそういうのは苦手そう……」

 ドワンの嫁探しという新たなる課題が浮上してしまうが、そこはケビンからの依頼を終えてからボチボチと進めていくことにしたドワンは、ケビンに手伝ってもらいながら元の店から持ち出してきた商品を並べていき、とりあえずはお店としての体裁が整う。

 その後は新しく創られた炉の癖を掴むということで、ドワンが作業に入ることをケビンに伝えたら、ケビンは邪魔にならないように帝城へと帰るのであった。
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