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第15章 勇者召喚の儀

第494話 セリナの転職

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 ケビンが朝食を摂りに食堂へ姿を現すと、そこへ腕を絡ませて一緒に現れた女性へ嫁たちの視線が突き刺さる。

「ケビン君……誰?」

 新しい嫁が増える度に必ず突っ込むティナがケビンへそう質問すると、ケビンは昨日の晩に起きたあらましを説明するのだった。

 それを聞いた一部の嫁たちは『またか……』とケビンの手練手管に呆れてしまうが、自分たちもその手練手管を体験しているので、何をどうしても抗えないケビンの性技を受けてしまった女性に対しては同情の色を隠せない。

「あれは耐えろって言う方が無理ですよ」
「堕ちるという感覚を刻み込まれてしまいますから」
「それでダメだとわかってても、次が欲しくなりますよね」
「ああ、想像したら欲しくなってきてしまいました」

 口々にケビンの相手をしたことのある嫁たちが感想をこぼしていると、ケビンはセリナを紹介して食卓の席へとつく。そのセリナは知らない人ばかりなので、当然ケビンの隣へと座った。

「いただきます」

「「「「「いただきます!」」」」」

 そして始まった朝食の場で、ケビンはセリナへと声をかけながら箸を進めていく。

「セリナはこれからどうするんだ? 俺の女になったのはもう終わりなんだろ?」

「本国に戻っても任務失敗の罰を受けてしまうので、このまま帝国に留まろうかと……」

「旦那はどうするんだ?」

 ケビンがセリナに対して尋ねた言葉を聞いたティナがすかさず反応したら、驚きの声を挙げてケビンへ問いかけるのだった。

「えっ!? ケビン君、人妻に手を出したの!? 人妻だよ、人妻!」

 そのようなティナのたまに出る真っ当な言い分に反応したのは、尋ねられたケビンではなくイグドラ亜人集合国において、ヴァルトス地区の代表を務めるヴァリスである。

「ケビンさんならイグドラで人妻のお相手をずっとしていますよ?」

「えっ!? どういうこと!?」

「ケビンさんの種族繁栄のお仕事でそれを体験した女性たちが、他の女性へと体験話をして知らずうちに広まってしまい、今では女性たちの秘密の活動として種族問わずケビンさんに抱かれていますよ」

「寝取りまくっているってこと!?」

「取ってはいませんよ。お互いに割り切った関係という大人の付き合い方です」

「あ、ありえない……」

「ティナさんの価値観を責めるわけではございませんが、もしティナさんがケビンさんから一切相手にされなくなったらどうします? 長命種は冷めた夫婦関係になると別れない限りそれが数十、下手をすれば百年以上と長い期間で続くのですよ? エルフのティナさんならわかるでしょう?」

「そ……それは……でも、私はケビン君以外に抱かれたくない……でも、その人たちの気持ちもわかる気がする……」

「ですから、割り切った関係というものが成立するのですよ。あくまでも夫は夫、ケビンさんとは体の関係のみ。それでも無理な人は抱かれていませんから、ケビンさんが無理やり人妻を抱いているということはないのです」

「ほ、本当……? ケビン君……」

「まぁ、大抵はイグドラへ顔を出した時に誘われてしまうな。初めてする相手の時も誘われてるから、俺から行ったことはない。向こうにも都合のいい時間帯とかあるだろうし、その人の家庭環境を壊してまでしようとは思わないしな。俺が自分の意思で寝取ったと言えるのはナディアだけで、あとは不可抗力で結果的に寝取ってしまったニュンヒーくらいだな」

 そこでケビンによって元旦那から寝取られた、当の本人であるナディアが口を開く。

「ティナさん、私は元夫に浮気をされていましたし、夫婦関係は冷めきっていました。どれほど努力をしても当時の夫に振り向いてもらえないのです。そこでケビンさんの話を友人伝いにお聞きして、火遊びのつもりだったんですけど、結果的にはのめり込んでしまってお嫁さんにしていただきました」

「うん、ナディアの話は聞いているし、別に責めるつもりはないよ。あの旦那は最低だったもん」

「ティナさんも知っての通りで、ケビンさんって抱いてくれる時にもの凄く愛してくれるのです。初めての時もそうでしたし、今でもそうです。きっと性欲の捌け口だけだったら、1度きりの火遊びだけで終わっていたかもしれません」

 ナディアは当時の気持ちを思い出しているのか、火遊びのつもりだっただけのケビンへ視線を向けると、再びティナへ視線を戻して続きを話し始める。

「ですが、そうならないのはケビンさんも女性を抱く以上、その時だけは夫婦関係でなくても愛してくれるのです。きっと、今もケビンさんと体の関係を続けられている方たちは、夫からもらえなくなった愛情をケビンさんへ求めているのですよ」

 ナディアがそう締めくくるとティナは納得がいったのか、それ以上何かを言うことはなかった。そして話は元に戻り、セリナの今後の生活についてのこととなる。

「で、セリナは旦那をどうする? 連れてくるか?」

「いえ、もう夫に顔向けできないくらい、ケビンさんに自分の意思でこの身を委ねてしまったので、潔く別れようと思います。せめてもの償いとして、金銭は全て夫に差し出してゼロからスタートします」

「いいのか?」

「ええ、夫に暗殺者だと伝えるわけにもいきませんし、いきなり帝国に住むとなったら、疑いをかけられるのは目に見えています。セレスティアにおいてこの地は悪しき魔王の住む地として有名ですから」

「あぁぁ、確かに……フィリア教団から魔王認定されてるしな……」

「それで……その……ケビンさんがよろしければ、身の回りの警護担当にしていただければと……」

「警護? 俺に警護はいらないよ。体験したからわかると思うけど、暗殺はほぼ無力化できるし」

「いけません! 油断した時こそ何があるかわからないのが暗殺なのです!」

「それってセリナのことだよね? 油断して捕まったし」

「そ、それは……あんな所に縄の罠があるなんて思いませんよ。それに入った瞬間に頭から何か被ってしまいましたし」

「ああ、あれね。あれは媚薬だよ」

「――ッ! 初めから私を襲うつもりで……?」

「そりゃあそうだろ。女性暗殺者なんて襲ってくださいって言ってるようなもんだろ? こっちは命を狙われているんだから、それくらいの役得がないとな。帝都に入った時点で女性暗殺者なのはバレバレなんだし、歓迎会の準備をするのは当然だろ?」

「え……入った時点……」

 ケビンはそれからセリナへ伝えていない防犯対策を説明していくと、セリナは何故ケビンが『警護はいらない』と言ったその理由を知ることになる。

 そして、暗殺者キラーと言っても過言ではないその能力に対して戦慄すると、セリナはふとした疑問が頭をよぎりそれをケビンへと問いかける。

「じゃ、じゃあ……私が既婚者だと初めから……?」

「いや、それは知らなかった。俺が確認するのは拠点とした宿屋とその後の行動、あとは歓迎会の中身を決めるために性別くらいだな」

「では、人妻と気づいていたら襲ってなかったと?」

「いや、襲う。俺を殺しにきてるんだから、そこに配慮する必要はないだろ? 街中でばったり会った一般人じゃあるまいし、尋問もしなければいけないからな」

「どっちみち暗殺に来た時点で女性は襲われてしまうんですね……そして、虜にされてしまう……」

(あなた、ごめんなさい……私が暗殺者なんて人の道を外れた仕事を続けていたから……もうこの体はケビンさんのじゃないと、満足できなくなってしまったの……)

 ケビンの話を聞いてしまったセリナはどっちにしろ襲われていたことと、もう既にケビンの虜になってしまったことを心の内で懺悔するが、それが遠く離れた地に住む夫へ届くことはない。

 それから結局のところセリナの配置は本人たっての希望で(とある理由によって熱望した)、なんちゃって警護員というケビンにとってはあまり必要のない職に就くことになった。

 その後、朝食を終えたケビンがすることもなく暇をしていたので、自発的に執務へ取り掛かろうとすると、セリナは警護員としてケビンと一緒に執務室へと同行する。

 そして、ケビンと2人きりになった途端に、セリナがケビンのズボンを脱がしにかかってご奉仕を始めてしまう。

「おい、俺は珍しく仕事をしにここに来たんだが……」

「我慢ができないんです……こんな体にしたのはケビンさんなんですから、責任を取ってください」

「夫へ立てていた貞操はどこへ行った……」

「もう別れると決めたので、私の貞操は今後ケビンさんだけのものです」

「はぁぁ……全く……この格好じゃ締まらないがしょうがない」

 そう言ったケビンが1度セリナを立たせると、その指に嵌めてある指輪を外してから、新たにケビンの嫁の証となる指輪を両方の薬指に嵌めるのだった。

「まさかこれをする時がくるなんてな。まだ別れていないのに、その人の指輪を外してから俺のを嵌めたのはセリナが初めてだぞ。完全に寝取りになったな」

「……初めて……ケビンさんの初めて……嬉しいです……」

「そんなに簡単に気持ちを切り替えられるものなのか?」

「いいえ、後ろめたさや罪悪感はありますけど、それよりもケビンさんへの気持ちが少し大きいだけです。ですから、心の底からケビンさんを愛するのは少しだけ待っていてください」

「別に急いで心の整理をする必要はないからな。セリナのペースで構わない。それで、警護を希望したのはしたかったからか?」

「お気遣いありがとうございます。警護を希望した理由はその通りで、一緒にいたらいつでもケビンさんとできるからと思ったからです。私の体に気持ちいいことを教えこんだからですよ? これからは身篭るまでたっぷりとしてもらいますからね。覚悟してください」

 そうして始まった執務室での逢瀬によって、ケビンが執務に取りかかれたのは結局のところ、まだケビンとの交わりに慣れないセリナが完全にへばってしまってからとなるのであった。
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