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第14章 聖戦
第482話 動き出すそれぞれの思惑
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黒の騎士団からの刺客を退けた翌日の朝、ケビンは朝食の場にてそれをみんなへ報告した。
「気前よく酒を買っていく顧客だったが、5人とも昨日の晩に俺を殺しに来たから魔物の巣へ熨斗をつけて送ってやった」
「仕方がないよ。客は客でも命を取りに来たらその時点で客じゃなくなるから」
「ご主人様の指示で放っておいたら、何かといっぱいお酒を買っていく人たちでしたね」
「そうだよね。セレスティア皇国の人ってお酒を飲んだことないのかな?」
ケビンの話を聞いた嫁たちがそのような会話を繰り広げていると、オフェリーがその会話へ物申した。
「違うよ~セレスティア皇国でケビン様のお酒は~プレミアが付いた超希少価値なお酒なんだよ~滅多にお目にかかれないんだよ~普通に売ってるのは~セレスティア人からしたらありえないんだよ~」
「そうなんだぁ。セレスティア皇国って、魔王様の作るお酒をありがたがって飲んでるんだねー」
「馬鹿だねー」
「魔王様が作ってるって知らないんじゃない?」
「益々馬鹿だねー」
「敵である魔王様のお酒に、魔王として敵視した自分たちで希少価値をつけてるんだー」
「更に上を行く馬鹿だねー」
「うぅぅ~馬鹿馬鹿言わないでよ~元皇国民としてグサグサ刺さるからぁ~」
白の騎士団から救い出したセレスティア皇国にいい思い出がない女の子たちは、ズバズバと言っていきセレスティア皇国を馬鹿にしては、会話をしていたオフェリーを精神的に追い詰めていた。
そこへ輪をかけて賛同派が会話に参加しては馬鹿だったということを自ら自己申告していき、オフェリー擁護派がいないことでオフェリーは更に落ち込んでいく。
「まぁ、馬鹿だよな。何にも知らねぇで陛下に喧嘩売ってたんだしよ」
「そうですね。過去の馬鹿な自分に言ってやりたいです。ケビン様の素晴らしいところを」
「お酒はケビン君が作ってるって知らなかったけど、聖戦の相手はケビン君だって知ってたから、私は最初から無謀だって気づいてましたよ?」
「そうだよな、カトレアはあたしに忠告してくれたもんな。あの頃のあたしは本当に馬鹿だよな」
そのような中で本人はそのつもりがなくても、1人だけ『私は、違いますよ?』的な発言をしてしまうカトレアに、オフェリーは逃がさないといった感じで抗議をする。
「カトレアちゃ~ん、1人だけ馬鹿から外れようとするなんてズルいよ~」
「いえ、そういうつもりじゃ……」
オフェリーからのジト目を受けたカトレアはタジタジとなってしまうが、ケビンが助け舟を出すためにこれからの行動予定を全員へと知らせることにした。
「ひとまず暗殺週間……と言うよりは暗殺月間だな。下手すれば軽く四半期に入ってしまいそうだったが、今後暗殺者が来ないようなら俺はセレスティア皇国へ遊びに行こうかなって思ってる」
唐突に告げたケビンの敵国への訪問に関して家族は絶句してしまうが、そこへ絶句しなかった者が声高々に随伴希望する。
「ケビン君、遊びに行くなら私も!」
アピールをするためなのか手を挙げて発言したのは、何を隠そう比較的……いや、ほぼ暇人であるティナだった。
だが、ティナの発言に相方のニーナが呆れた視線を向けて毒を吐く。
「馬鹿ティナ降臨」
「ちょっ、ニーナ! 私は馬鹿じゃないわよ!」
「シルヴィオの方が賢い」
「ひどっ!?」
ニーナから息子の方が賢いと言われて愕然とするティナだが、すぐさまその息子であるシルヴィオへ馬鹿ではないことを証明してもらうため、話しかけるのであった。
「シルヴィオはママのことを馬鹿だとは思わないよね?」
ティナから急に話を振られたシルヴィオは、テーブルマナーがしっかり叩き込まれているのか慌てることはなく、咀嚼中の物をまずは飲み込んでから飲み物を口にしたあと、手元のナプキンで口元を拭いたのちにティナへと返答をし始める。
「お母さん、今は食事中ですよ。あまり騒ぎ立てるのはどうかと思います」
「ほらね、シルヴィオの方が賢い」
「なんでっ!?」
実の息子から擁護されるどころか注意されてしまったティナは、何を思い立ったのか席を立つとケビンの元へ行って、その膝上へ強引に座ってしまうのだった。
「おい、ティナ。飯が食いづらい。というか、行儀が悪い」
「ケビンく~ん、ニーナがいじめる~! ケビン君は私のこと馬鹿だと思ってないよね?」
「ティナは馬鹿だろ」
「え"っ……」
1番の味方であるケビンの所へ助けを求めに来たティナだったが、まさかケビンからも馬鹿扱いされるとは思わずに呆然としてしまう。
「ただしティナの馬鹿は愛せる馬鹿だ。救いようのない馬鹿とは違う」
「愛せる……馬鹿……?」
「ティナの馬鹿さ加減は許容できるってことだ。その馬鹿さ加減で食卓が楽しい雰囲気になるだろ? ティナはみんなに愛される馬鹿だから、自信を持って胸を張れ。その胸はティナの自慢なんだろ?」
ケビンからかけられた言葉でティナは馬鹿馬鹿言われてしまっているが、褒められているのか貶されているのかの判断がつかず、複雑な表情を浮かべるとどうしたもんかと悩み始める。
「ほら、わかったら席に戻れ。イチャつくのは飯を食べ終えてからだ」
「うん?」
結局のところティナは答えを出せなかったが、助けを求めたケビンに言われたので大人しく席に戻ると、未だに悩みながらも食事を再開させた。
そしてそのようなティナへ、馬鹿だと言われた理由をケビンが教える。
「ティナ、セレスティア皇国は差別主義の国だ。言いたいことはわかるか?」
「差別されるんだよね?」
「そうだ。それでティナの種族は?」
「「エロフです!」」
そこへ声を揃えて発言したのは、ティナのエロさを教材としているアリスとスカーレットであった。
「あぁぁ……2人とも、子供たちの前でそれはやめろ。ティナにもメンツってもんがあるし、シルヴィオが気にするだろ。せめて大人たちの時だけにしろ」
「「すみません……」」
滅多に怒られない2人が、滅多に怒らないケビンから注意されてしまったことでシュンとしてしまうと、ケビンは話のズレた路線を修正する。
「で、話を元に戻すと、ティナの種族はエルフだ。あの国は人族が治めている差別主義国。つまり人族至上主義の集まりだ。セレスティア組を見ればわかる通り全員が全員そうじゃないけど、そういう奴らもいるってことだ」
「私だと差別されるから一緒に行けないの?」
「そういうことだな。それに遊びに行くと言ったけど、本来の目的は帝都に住んでいるセレスティア組の家族を捜し、亡命もしくは移住させることだ」
「「えっ……!?」」
「そういうことか~」
ティナへの説明をしているケビンの話の内容で、セレスティア組の家族を連れてくるというのを聞き取ってしまい、フィアンマやメリッサは驚いているがオフェリーは合点がいったと納得顔であった。
「陛下、その気持ちは嬉しいが、うちは貴族だから無理だぜ」
「私の所も貴族です。今の貴族の地位を捨ててまで、こちらに来ようとは思わないでしょう」
「そうだよね~プライド高い貴族ばかりだし~平民に落とされるって聞いたら納得しないよね~」
「団長組はナシか……他のセレスティア組にも聞いておいてくれ、連れてきて欲しい人がいるならリスト化を頼む」
「りょうか~い。こういうのは私の仕事だよね~情報関係は任せて~」
こうしてケビンの連絡が終わるとそのあとはつつがなく朝食は進んでいくが、ただ1人、ティナだけはずっと頭を悩ませながら、『愛せる馬鹿』について考えていたのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ところ変わってとある執務室では、頭を抱えている1人の男がいた。
「どういうことだ……毒蜂、糸師、拳骨、剣殺、戯箱……もう5人も送り込んでいるのに全員の連絡が途絶えた……」
頭を抱えているその者は、黒の騎士団の暗殺者たちを送り込んだ張本人であるドウェイン枢機卿だった。
「まずい……まずいぞ……魔王が報復に走ったら俺は終わりだ……」
暗殺者たちを送り込んでいたドウェイン枢機卿は、魔王からの報復を恐れてここのところ睡眠時間が減っているが、それは自業自得というものだろう。そしてそれゆえか、正常な判断ができないことも仕方がないと言える。
「いや、待てよ……5人も送り込んでいたから報復しようと思えば、もう報復しているはず……この地に魔王が来たなんて情報は、黒の騎士団からもあがってきていない。つまり魔王は暗殺者のことなど歯牙にかけていない……報復はない……?」
そのような結論に至ったドウェイン枢機卿は、先程までの陰鬱な気持ちは消え失せていき、報復がなければどうということはないと急に気が大きくなっていった。
「フッ……この地に来ないのであれば、魔王など恐るるに足らん! くっくっくっ、あやつが任務を終えたら行かせてみるか……いや、待てよ……そういえば晩餐用の羊肉が揃ったみたいだから、そろそろ勇者召喚が行われるはずだな。そいつらを派遣するまでの場繋ぎ程度に留めておくのも手か……」
こうしてドウェイン枢機卿は、散々失敗したというのに性懲りもなく次の暗殺計画を練っていくのであった。
ケビンがセレスティア皇国へ遊びに行けるのは、まだ先のことかもしれない。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
とある日のこと、豪華な会議室で教皇聖下と4人の枢機卿が話し合いを行っていた。
「教皇聖下、晩餐用の羊肉が揃いました」
「……うむ……」
外交担当のアルフィー枢機卿が教皇へ報告をあげると教皇は一言返事を返すだけで、話の続きは軍務担当ウォルター枢機卿が引き取り先を促していく。
「次の満月はいつになる?」
「7日後です」
「ではその時に向けて準備を進めるか」
アルフィー枢機卿とウォルター枢機卿が話し合っている中で、財務担当のウォード枢機卿が準備金やら維持費のことを考えてしまったのか、つい愚痴をこぼしてしまう。
「また金が飛ぶわい……」
「戦力が増えるので悪いことだけではないでしょう」
「戦力が増えて喜ぶのはお主の所だけじゃろ」
戦力アップの直接的恩恵を受けるウォルター枢機卿へウォード枢機卿が話しかけていたら、そこへ暗部担当のドウェイン枢機卿が参戦してきた。
「いえ、私としても喜ばしいところです」
「ふん、お主は暗殺に失敗した尻拭いをさせたいだけじゃろ」
「いやはや耳の痛い話ですな」
「経費をどんどん消費しおってからに。何が『失敗したことがない』だ。失敗続きではないか」
「ですが、得た物もあるのですよ?」
「得た物じゃと? 金か?」
「いえいえ、魔王の行動基準ですよ。あの魔王は暗殺者を差し向けても歯牙にかけないようで、報復を全くしようとはしないのですよ。つまり、刺客を送り放題と言ったところですな」
「馬鹿かお主は! 送り放題で消費する金のことは考えておるのか! 魔王の行動よりも金を持ってこい、金を! 来年度のお前のところの予算は削るからな! この考えなしの金食い虫め!」
ドウェイン枢機卿が良かれと思って報告した内容はウォード枢機卿の地雷を踏んだようで、情報の価値を称賛されるどころか逆に怒鳴られるという始末に終わってしまう。
「まぁまぁ、落ち着いてください。教皇聖下の前ですから」
「ふん……仕方がない」
ウォード枢機卿に怒鳴られるドウェイン枢機卿を見兼ねたアルフィー枢機卿は、ウォード枢機卿が怒り出すと他の3人は序列の関係上どうしようもないので、教団のトップである教皇の威光を使って落ち着かせることに成功した。
それからは勇者召喚に関するあれやこれやを取り決めていき、話が纏まって今後の予定が決まると、教皇へ最終確認を行ってから了承をもらいこの日の話し合いは終わりを迎えたのであった。
「気前よく酒を買っていく顧客だったが、5人とも昨日の晩に俺を殺しに来たから魔物の巣へ熨斗をつけて送ってやった」
「仕方がないよ。客は客でも命を取りに来たらその時点で客じゃなくなるから」
「ご主人様の指示で放っておいたら、何かといっぱいお酒を買っていく人たちでしたね」
「そうだよね。セレスティア皇国の人ってお酒を飲んだことないのかな?」
ケビンの話を聞いた嫁たちがそのような会話を繰り広げていると、オフェリーがその会話へ物申した。
「違うよ~セレスティア皇国でケビン様のお酒は~プレミアが付いた超希少価値なお酒なんだよ~滅多にお目にかかれないんだよ~普通に売ってるのは~セレスティア人からしたらありえないんだよ~」
「そうなんだぁ。セレスティア皇国って、魔王様の作るお酒をありがたがって飲んでるんだねー」
「馬鹿だねー」
「魔王様が作ってるって知らないんじゃない?」
「益々馬鹿だねー」
「敵である魔王様のお酒に、魔王として敵視した自分たちで希少価値をつけてるんだー」
「更に上を行く馬鹿だねー」
「うぅぅ~馬鹿馬鹿言わないでよ~元皇国民としてグサグサ刺さるからぁ~」
白の騎士団から救い出したセレスティア皇国にいい思い出がない女の子たちは、ズバズバと言っていきセレスティア皇国を馬鹿にしては、会話をしていたオフェリーを精神的に追い詰めていた。
そこへ輪をかけて賛同派が会話に参加しては馬鹿だったということを自ら自己申告していき、オフェリー擁護派がいないことでオフェリーは更に落ち込んでいく。
「まぁ、馬鹿だよな。何にも知らねぇで陛下に喧嘩売ってたんだしよ」
「そうですね。過去の馬鹿な自分に言ってやりたいです。ケビン様の素晴らしいところを」
「お酒はケビン君が作ってるって知らなかったけど、聖戦の相手はケビン君だって知ってたから、私は最初から無謀だって気づいてましたよ?」
「そうだよな、カトレアはあたしに忠告してくれたもんな。あの頃のあたしは本当に馬鹿だよな」
そのような中で本人はそのつもりがなくても、1人だけ『私は、違いますよ?』的な発言をしてしまうカトレアに、オフェリーは逃がさないといった感じで抗議をする。
「カトレアちゃ~ん、1人だけ馬鹿から外れようとするなんてズルいよ~」
「いえ、そういうつもりじゃ……」
オフェリーからのジト目を受けたカトレアはタジタジとなってしまうが、ケビンが助け舟を出すためにこれからの行動予定を全員へと知らせることにした。
「ひとまず暗殺週間……と言うよりは暗殺月間だな。下手すれば軽く四半期に入ってしまいそうだったが、今後暗殺者が来ないようなら俺はセレスティア皇国へ遊びに行こうかなって思ってる」
唐突に告げたケビンの敵国への訪問に関して家族は絶句してしまうが、そこへ絶句しなかった者が声高々に随伴希望する。
「ケビン君、遊びに行くなら私も!」
アピールをするためなのか手を挙げて発言したのは、何を隠そう比較的……いや、ほぼ暇人であるティナだった。
だが、ティナの発言に相方のニーナが呆れた視線を向けて毒を吐く。
「馬鹿ティナ降臨」
「ちょっ、ニーナ! 私は馬鹿じゃないわよ!」
「シルヴィオの方が賢い」
「ひどっ!?」
ニーナから息子の方が賢いと言われて愕然とするティナだが、すぐさまその息子であるシルヴィオへ馬鹿ではないことを証明してもらうため、話しかけるのであった。
「シルヴィオはママのことを馬鹿だとは思わないよね?」
ティナから急に話を振られたシルヴィオは、テーブルマナーがしっかり叩き込まれているのか慌てることはなく、咀嚼中の物をまずは飲み込んでから飲み物を口にしたあと、手元のナプキンで口元を拭いたのちにティナへと返答をし始める。
「お母さん、今は食事中ですよ。あまり騒ぎ立てるのはどうかと思います」
「ほらね、シルヴィオの方が賢い」
「なんでっ!?」
実の息子から擁護されるどころか注意されてしまったティナは、何を思い立ったのか席を立つとケビンの元へ行って、その膝上へ強引に座ってしまうのだった。
「おい、ティナ。飯が食いづらい。というか、行儀が悪い」
「ケビンく~ん、ニーナがいじめる~! ケビン君は私のこと馬鹿だと思ってないよね?」
「ティナは馬鹿だろ」
「え"っ……」
1番の味方であるケビンの所へ助けを求めに来たティナだったが、まさかケビンからも馬鹿扱いされるとは思わずに呆然としてしまう。
「ただしティナの馬鹿は愛せる馬鹿だ。救いようのない馬鹿とは違う」
「愛せる……馬鹿……?」
「ティナの馬鹿さ加減は許容できるってことだ。その馬鹿さ加減で食卓が楽しい雰囲気になるだろ? ティナはみんなに愛される馬鹿だから、自信を持って胸を張れ。その胸はティナの自慢なんだろ?」
ケビンからかけられた言葉でティナは馬鹿馬鹿言われてしまっているが、褒められているのか貶されているのかの判断がつかず、複雑な表情を浮かべるとどうしたもんかと悩み始める。
「ほら、わかったら席に戻れ。イチャつくのは飯を食べ終えてからだ」
「うん?」
結局のところティナは答えを出せなかったが、助けを求めたケビンに言われたので大人しく席に戻ると、未だに悩みながらも食事を再開させた。
そしてそのようなティナへ、馬鹿だと言われた理由をケビンが教える。
「ティナ、セレスティア皇国は差別主義の国だ。言いたいことはわかるか?」
「差別されるんだよね?」
「そうだ。それでティナの種族は?」
「「エロフです!」」
そこへ声を揃えて発言したのは、ティナのエロさを教材としているアリスとスカーレットであった。
「あぁぁ……2人とも、子供たちの前でそれはやめろ。ティナにもメンツってもんがあるし、シルヴィオが気にするだろ。せめて大人たちの時だけにしろ」
「「すみません……」」
滅多に怒られない2人が、滅多に怒らないケビンから注意されてしまったことでシュンとしてしまうと、ケビンは話のズレた路線を修正する。
「で、話を元に戻すと、ティナの種族はエルフだ。あの国は人族が治めている差別主義国。つまり人族至上主義の集まりだ。セレスティア組を見ればわかる通り全員が全員そうじゃないけど、そういう奴らもいるってことだ」
「私だと差別されるから一緒に行けないの?」
「そういうことだな。それに遊びに行くと言ったけど、本来の目的は帝都に住んでいるセレスティア組の家族を捜し、亡命もしくは移住させることだ」
「「えっ……!?」」
「そういうことか~」
ティナへの説明をしているケビンの話の内容で、セレスティア組の家族を連れてくるというのを聞き取ってしまい、フィアンマやメリッサは驚いているがオフェリーは合点がいったと納得顔であった。
「陛下、その気持ちは嬉しいが、うちは貴族だから無理だぜ」
「私の所も貴族です。今の貴族の地位を捨ててまで、こちらに来ようとは思わないでしょう」
「そうだよね~プライド高い貴族ばかりだし~平民に落とされるって聞いたら納得しないよね~」
「団長組はナシか……他のセレスティア組にも聞いておいてくれ、連れてきて欲しい人がいるならリスト化を頼む」
「りょうか~い。こういうのは私の仕事だよね~情報関係は任せて~」
こうしてケビンの連絡が終わるとそのあとはつつがなく朝食は進んでいくが、ただ1人、ティナだけはずっと頭を悩ませながら、『愛せる馬鹿』について考えていたのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ところ変わってとある執務室では、頭を抱えている1人の男がいた。
「どういうことだ……毒蜂、糸師、拳骨、剣殺、戯箱……もう5人も送り込んでいるのに全員の連絡が途絶えた……」
頭を抱えているその者は、黒の騎士団の暗殺者たちを送り込んだ張本人であるドウェイン枢機卿だった。
「まずい……まずいぞ……魔王が報復に走ったら俺は終わりだ……」
暗殺者たちを送り込んでいたドウェイン枢機卿は、魔王からの報復を恐れてここのところ睡眠時間が減っているが、それは自業自得というものだろう。そしてそれゆえか、正常な判断ができないことも仕方がないと言える。
「いや、待てよ……5人も送り込んでいたから報復しようと思えば、もう報復しているはず……この地に魔王が来たなんて情報は、黒の騎士団からもあがってきていない。つまり魔王は暗殺者のことなど歯牙にかけていない……報復はない……?」
そのような結論に至ったドウェイン枢機卿は、先程までの陰鬱な気持ちは消え失せていき、報復がなければどうということはないと急に気が大きくなっていった。
「フッ……この地に来ないのであれば、魔王など恐るるに足らん! くっくっくっ、あやつが任務を終えたら行かせてみるか……いや、待てよ……そういえば晩餐用の羊肉が揃ったみたいだから、そろそろ勇者召喚が行われるはずだな。そいつらを派遣するまでの場繋ぎ程度に留めておくのも手か……」
こうしてドウェイン枢機卿は、散々失敗したというのに性懲りもなく次の暗殺計画を練っていくのであった。
ケビンがセレスティア皇国へ遊びに行けるのは、まだ先のことかもしれない。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
とある日のこと、豪華な会議室で教皇聖下と4人の枢機卿が話し合いを行っていた。
「教皇聖下、晩餐用の羊肉が揃いました」
「……うむ……」
外交担当のアルフィー枢機卿が教皇へ報告をあげると教皇は一言返事を返すだけで、話の続きは軍務担当ウォルター枢機卿が引き取り先を促していく。
「次の満月はいつになる?」
「7日後です」
「ではその時に向けて準備を進めるか」
アルフィー枢機卿とウォルター枢機卿が話し合っている中で、財務担当のウォード枢機卿が準備金やら維持費のことを考えてしまったのか、つい愚痴をこぼしてしまう。
「また金が飛ぶわい……」
「戦力が増えるので悪いことだけではないでしょう」
「戦力が増えて喜ぶのはお主の所だけじゃろ」
戦力アップの直接的恩恵を受けるウォルター枢機卿へウォード枢機卿が話しかけていたら、そこへ暗部担当のドウェイン枢機卿が参戦してきた。
「いえ、私としても喜ばしいところです」
「ふん、お主は暗殺に失敗した尻拭いをさせたいだけじゃろ」
「いやはや耳の痛い話ですな」
「経費をどんどん消費しおってからに。何が『失敗したことがない』だ。失敗続きではないか」
「ですが、得た物もあるのですよ?」
「得た物じゃと? 金か?」
「いえいえ、魔王の行動基準ですよ。あの魔王は暗殺者を差し向けても歯牙にかけないようで、報復を全くしようとはしないのですよ。つまり、刺客を送り放題と言ったところですな」
「馬鹿かお主は! 送り放題で消費する金のことは考えておるのか! 魔王の行動よりも金を持ってこい、金を! 来年度のお前のところの予算は削るからな! この考えなしの金食い虫め!」
ドウェイン枢機卿が良かれと思って報告した内容はウォード枢機卿の地雷を踏んだようで、情報の価値を称賛されるどころか逆に怒鳴られるという始末に終わってしまう。
「まぁまぁ、落ち着いてください。教皇聖下の前ですから」
「ふん……仕方がない」
ウォード枢機卿に怒鳴られるドウェイン枢機卿を見兼ねたアルフィー枢機卿は、ウォード枢機卿が怒り出すと他の3人は序列の関係上どうしようもないので、教団のトップである教皇の威光を使って落ち着かせることに成功した。
それからは勇者召喚に関するあれやこれやを取り決めていき、話が纏まって今後の予定が決まると、教皇へ最終確認を行ってから了承をもらいこの日の話し合いは終わりを迎えたのであった。
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