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第13章 出会いと別れ

第444話 ゾロ目SS それぞれの門出

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 時は遡りケビンが下界に戻ってくる前のことで、当時で言えばケビンがまだ16歳の頃のとある場所での話である。

「なぁ、卒業したらどうすんだ?」

「そんなもん決まってるだろ」

「学院部へ進学か?」

「お前……わざと言ってんのか?」

「はは、行けるわけねぇよな」

「わかってんなら言ってんじゃねぇよ!」

 少年が2人、ベンチに座って話している内容としては、卒業後の進路に向けて探り合いにすらならない笑い話として花を咲かせていた。

「で、どっちに進む?」

「お前……またわざとか?」

「いや、上は選択肢に入れてない。俺が聞きたいのは兵士としてか冒険者としてかのどっちだってことだ」

「てっきり騎士へ進むのかと聞いてきてるとばかりに思ってたぜ」

「お前の頭じゃ騎士なんて無理だろ」

「自分でもわかっていることを他人に改めて言われると腹が立つな」

「まぁ、そう言うな。俺も似たようなもんだ」

「まぁ、とりあえずは兵士だな。どうせ弱小貴族の4男坊だ、どこで野垂れ死にしようと家には痛くも痒くもない。兵士が無理だったら潔く冒険者にでもなるさ」

「そうか……」

「お前はどうするんだ?」

「俺は冒険者を狙っている。兵士になっても今のご時世だ。退屈な毎日を送って無為に生きることになる。それなら冒険者になって己を磨き続けたい。冒険者によっては騎士よりも強い人が沢山いるからな」

「先のことまで考えてんだな」

「でだ、一緒に冒険者やらねぇか?」

「は? お前と、か?」

「他に誰がいるんだよ」

「俺は兵士でも別にいいんだがな……」

「逃げるのか? 兵士になってダラダラと楽な門番でもしとくか?」

「てめぇ……」

「ま、考えといてくれ。お前となら強いパーティーを作れそうだと思ったから声をかけたまでだ」

 言うだけ言った少年は、その場から手をヒラヒラとさせながら立ち去って行くのであった。

 そして別の日では、教室の席で語らう2人の少年の姿があった。

「なぁ、マイク」

「なんだい? サイモン」

「卒業したらどうすんだ?」

「僕はミナーヴァへ行ってあそこの学院に入学してみるよ」

「他国じゃねぇか」

「そうだけど、魔術関係の知識を増やしたいからね。それを得るためだとあそこ以外考えられない」

「あそこって難しいんじゃないのか? 金を積んでどうこうってもんじゃねぇだろ?」

「試しに今年ある入学試験を受けてみるつもりだよ。そのための準備も終わらせたし学院も許可してくれたから、その間の成績は不問にしてくれるってさ」

「もし落ちたらどうするんだ?」

「どうもしないよ。今年卒業したらそのままミナーヴァへ行くだけさ。それで1年間勉強してもう1度入学試験を受ける」

「色々と考えてんだなぁ……」

 自分とは違ってしっかりと進路を決めているマイクに対して、サイモンが尊敬の念を抱いているところへ1人の生徒が声をかける。

「私には聞いてくれないの?」

「ん? マルシアはどうせ政略結婚だろ? 俺はそれを思うと4男坊だが男に生まれて良かったぜ。さすがにジジイ相手に抱かれたくはないしな。まぁ、俺の性別で言うとババア相手の想像になるが、それでも無理だ」

「相変わらず空気が読めない上にデリカシーがないわね」

「空気? 今は進路の話だから空気読んでるだろ」

 空気を読んでいると豪語するサイモンへ女子生徒たちの視線が突き刺さるが、本人は全くもって気づいていない。

「本当に政略結婚をさせられる生徒も中にはいるのよ。それこそ自分の父親より年上の男性と」

「おう、だから俺は男に生まれて良かったって言ったんだぞ」

「はぁぁ……サイモンは何年経ってもサイモンね……」

「んなの、当たり前だろ。俺が2年後にマイクとかになったら驚きだろ」

「そういう意味じゃないと思うな」

 マルシアの呆れ果てた言葉にサイモンが当たり前のように返していると、マイクはそうではないと伝えるがサイモンは首を傾げていた。

「貴方はどうするの?」

「俺か? 俺は兵士になろうかと思ってたけどオリバーの野郎が冒険者に誘ってきてな。しかも兵士を選ぶと楽な道に逃げてるって言いやがってよ」

「そう……確か今のところオリバーの方が勝ち越しているのよね?」

「……1勝だけだ」

「つまり兵士を選んだら負けたままで逃げるから負け犬?」

「ッ! んだとぉ?」

「悔しいなら冒険者になってオリバーへ挑み続けなさいよ。勝ち逃げならまだしも負け逃げなんて貴方らしくないわ」

「そんなこたぁ言われなくてもわかってる! 負けたままでいられるかよ」

「ふふっ、それでこそサイモンよ」

 3人がそのような会話をしている中で、1人黙々と勉強をしている生徒がいた。あまりの集中力に周りが声をかけるのも憚られるほどである。

「カトレアさんは変わらないね」

「ジュディ先生が推薦するらしいわよ。進学して担任から外れたのにずっと面倒を見ているのよね」

「今までFクラスから学院部へ進学したやつとかいるのか? こう言っちゃなんだが、無理だろ」

「最低でもCクラス程度の学力が必要らしいよ」

「学院部はSからCまでしかクラスがないものね。でもカトレアさんは騎士科を目指すから貴族科よりも学力は問われないのではないかしら。騎士科は武力が基本だし」

「やっぱり騎士になりたいのかな?」

「そんなの当たり前じゃねぇか。騎士になりたいから騎士科を受けるんだろ?」

「うーん……でも、カトレアさんって謎なんだよね。家名を持ってるから貴族かと思ってたんだけど、リンドリー家って聞いたことがないから父さんに聞いてみたけど、その名の貴族はいないって言われたし……」

「それなら商人の娘ではないの? 商人によっては規模しだいで家名を名乗ることが許されてるわ」

「商人の線でも当たってみたけど、やっぱりリンドリー家はないんだよ。まぁ、全ての商人を調べたわけじゃないけどね」

「どっちでもいいんじゃねぇか? 家名なんて大したことねぇだろ。長男でもあるまいし、家を継がないやつにとってはただの飾りもんだろ」

「はぁぁ……やっぱりサイモンはサイモンだわ……」

 家名を持つ者にとっては誇りともいえるものを『飾りもん』と言い切ってしまうサイモンに対して、マルシアは頭を抱えて呆れ果ててしまう。

 その後も3人は他愛ない会話を続けながらも、ありふれた日常を過ごしていくのであった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 時は巡り高等部の卒業式が終わると、進学しない者たちはそれぞれの進路へと進んでいく。ここでもまたそれぞれの進む道が違うため別れの挨拶をしている者たちがいた。

「それじゃあ向こうに行っても頑張れよ」

「ああ、サイモンも頑張ってね。いつか有名なってミナーヴァに名前が届くのを待ってるよ」

 サイモンとマイクが別れの挨拶を済ませていたら、そこへマルシアがやってくる。

「マイク、魔術の勉強を頑張ってね。頑張れば爵位がもらえるらしいわね」

「そうだね。試験へ行った時に手に入れた情報だけど、ケビン君は侯爵位と大勲位魔導王章ってのを下賜された上に、学院の名誉教授になっていて前代未聞の成績を残したみたいだよ」

「ケビン君なら最初から凄い成績で独走してそうね」

「いや、それが最初の頃は真ん中よりも下の成績だったみたいだよ。そこから努力を重ねて全ての学科を修了したみたいなんだ。そしてついた二つ名が【パーフェクトプロフェッサー】っていうもので、教授よりも物知りな上に技術もあったみたい。歴代で過去最高の最優秀学生として殿堂入りしてたよ。未だにその記録を超えた生徒はいないんだってさ」

「そういえば親善試合を無敗で4連覇してたよな」

「学院である魔導具祭っていう行事も3連覇してたみたいだよ。初年度は新人賞を取ったみたいで、金賞は別の人が取ったらしくて4連覇じゃないけど」

「今思い返しても不思議な人だわ」

「だな」

「そうだね」

 その後マイクと別れたサイモンはオリバーと待ち合わせの場所まで向かっていたが、ついてきているマルシアの行動が理解できずつい問いかけてしまうのだった。

「マジでついてくる気か?」

「今更反対するつもり?」

「別に。お前の人生なんだから俺がとやかく言うことはねぇよ」

「それなら、いいじゃない」

「もの好きなやつだな」

 そしてオリバーとの待ち合わせ場所につくと、そこにはオリバー以外の者がいた。

「ようやく来たか。待ちくたびれたぞ」

「ダチと別れの挨拶を済ませてたんだ。それよりそいつは? カトレアさんに散々ボコられたやつだよな?」

 相変わらずのサイモンのもの言いにオリバーと一緒にいた少女がキッと睨みつけると、マルシアがサイモンの頭を叩いた。

「少しは相手を気遣う言い方ができないの!」

「まぁ……なんだ。こいつはミミルで一緒に来ることになった。で、そっちも同じ理由か?」

「ん? ああ、マルシアも何か知らないけどついてきた。もの好きなやつだよな」

 こうしてオリバーとサイモンが合流したことで予想外な付き添いがそれぞれに1人ずつついていたが、男子は男子、女子は女子でペアとなって世間話をしつつ冒険者ギルドへと向かう。

「ミミルさん」

「ミミルでいいわよ、私もマルシアって呼ぶから。それで、何?」

「やっぱり、そういうこと?」

 マルシアが直接的な言葉を使わずともミミルは少し考えてその意図を理解したら、マルシアの尋ねてきたことに対して素直に言葉を返す。

「……そうね。ついていく理由を聞かれた時に気持ちを伝えたわ。戸惑っていたから今まで気にもしていなかったんでしょうね。全く……あれだけアピールしていたってのに……マルシアもそうなのでしょ?」

「私はまだ気持ちを伝えてないわ。見てもわかると思うけどサイモンってちょっとアレだから、普通に友人関係の感情として受け取られそうなのよね。友達のマイクは気づいていたから応援してくれていたんだけど」

「お互い苦労しそうね」

「ミミルは気持ちを伝えたのだから私よりも楽だと思うわ。私の方は……はぁぁ……」

「私も変わらないわよ。ちっとも顔を赤くしてくれないし、赤くなるのは私だけだし……はぁぁ……」

「2人で戦ってる時はカッコイイのにねぇ……」

「恋愛関係がねぇ……」

 恋する乙女たちは、学院からの門出とともに新たに直面する問題を共に分かち合うのであった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 一方で学院の教員室に涙を流す1人の生徒と、それに対面する1人の教師の姿があった。

「ジュディ先生っ……ありがとう……先生のおかげで合格できた」

「私のおかげじゃないわ。カトレアさんが頑張って勉強をした結果よ」

「でも……先生が私に勉強を教えてくれたから」

「私はケビン君との約束を果たしただけ。そこから頑張ったのは本当にカトレアさんの力よ」

「ありがとう、先生……」

「でも、どうして学院部まで目指そうとしたの? カトレアさんの強さなら引く手数多だと思うのだけれど」

「……私はまだ強くないから。頭も悪いし……これじゃあ守れない……」

「守りたい人がいるの?」

 カトレアの独白に近い呟きを聞き逃さなかったジュディが問いかけると、ハッとしたカトレアは誤魔化すようにありきたりな内容で持って茶を濁すのだった。

「――ッ! や、やだなぁ……騎士を目指すんですから国民を守りたいに決まってるじゃないですか。あはは……」

「そう……騎士科だものね。志が高くて私は安心だわ」

 明らかに誤魔化した様子が見れるカトレアに対してジュディは深く追求するようなことはなく、今はただ教え子が無事に学院部への進学を果たしたことを素直に喜ぶことにしたのであった。
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