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第12章 イグドラ亜人集合国

第334話 地下通路のアンデッド

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 ケビンたちは地下通路の入口近くまでやってくると、拓けた場所を探して携帯ハウスを建てたら攻略は翌日の朝からとして、この日は作戦会議を開くことにした。

「地下通路って言うくらいだから、通路の広さはダンジョンくらいだと予想しておこう。外で戦うのとはわけが違うからダンジョン未経験者は注意するように」

「ケビン君、それなら1回だけでも通路の広さを確認しに行かない? アリスたちもその方が感覚が掴みやすくなるだろうし」

「それもそうだな。じゃあ、言い出しっぺのクリスが引率してみんなを連れて行ってくれ」

「ケビン君は?」

「ティナと留守番をしている」

「……わかった。じゃあ、みんなはクリス先生についてくるんだよ。はぐれないようにね」

 引率する気満々のクリスが伝えると、ダンジョン未経験者はクリスのあとに続いて外へと出て地下通路へ向かって行った。

「さてと、ティナおいで」

 ケビンはクリスたちが出かけたところで、ティナを呼んで膝上に抱きかかえる。

「いきなりどうしたの?」

「気づいてないとでも?」

 ケビンからの言葉で思い当たる節があるのか、ティナは黙り込んでしまう。

「ちなみにクリスも気づいてる」

「クリスも?」

「ああ、だから引率役を引き受けてくれたんだよ」

「そっか……あとでクリスに心配かけたことを謝らないとね」

「それで? 予想はついてるけど一応ティナの口から聞いておこうか」

「予想がついてるなら当ててみて?」

「子供」

「うん、当たり」

「できないのを気にしているんだろ?」

「だって……周りに気を使って控えめなニーナは子供ができたのに、1番スケベな私が回数もこなしていて孕んでいないから、やっぱり難しいのかなって思ったら悲しくなって……」

「ティナの生理周期は?」

「半年から遅くても1年」

「それができにくい理由だね。ピンポイントで狙わないと人と比べても半年間は確実にチャンスがないってことだよ。周期が遅れてしまえば1年は妊娠しないことになる」

「中に出して貰えればできるんじゃないの? 昔、女性冒険者に聞いた話と違うよ。中に出されると妊娠するって言ってたのに」

「その冒険者って人族じゃない?」

「そうだよ」

「ティナはエルフだから当てはまらないんだよ」

「じゃあ、チャンスが来ない間にどれだけしても私は妊娠しないの?」

「そういうことだね。これが種族の違いによるできにくい理由だね。ちなみに人だとだいたい1ヶ月周期になる。遅れたとしても人によるけど2ヶ月未満でそれ以上だとお医者さんに要相談だね」

「ケビン君やけに詳しいね」

「そりゃあ、ティナみたいに勉強してるからね。奥さんが悩んでたら今みたいに相談に乗りたいし」

「ケビン君が旦那さんでよかった」

「ちなみに前回はいつきたの?」

「うーん……あまり覚えてないけど半年以上前? いつも忘れた頃にくるから」

「結論を言うと恐らくエルフは寿命が長い分、周期自体も長いんだと思う。人間みたいにすぐ亡くなるわけじゃないからね。のんびり歳をとるから周期ものんびりしているんだよ。エルフって基本的にエルフ同士で結婚するだろ? そうなってくるとのんびり生きながら子作りをするから、できにくいなんて感覚にはならないんだよ。ティナは俺と結婚して周りに人族の嫁がいるから、エルフにとって普通のことでも状況が違うから焦ってしまうんだろうね」

「そっか……ケビン君に相談できてよかった。できにくい理由がわかって安心したよ。でも、やっぱり子供は欲しいなぁ……」

 ケビンのお悩み相談で納得して吹っ切れたティナは、どこかスッキリとした表情を浮かべるが、やはり子供が欲しいと思ってしまうのである。

 そのようなティナに対して、少しでも悩まなくていいようにケビンはずっと考えていたことを伝える決意をするのだった。

「ティナ、誰にも言わないって約束できる?」

「ケビン君との約束ならちゃんと守るよ」

「もし、仮に人族の嫁が全員妊娠してティナがまだだったら、ズルをして妊娠させようと思ってる」

「ズル?」

「ああ、確実に妊娠する魔法をかける。避妊魔法の逆だよ」

「本当? 信じていい?」

「ああ、約束する。だからティナもこのことは誰にも言わないって約束してくれ。ズルをして妊娠させたなんて知られたら女性たちの間で不和を招くからな」

「約束する! でも、きっと不和にはならないよ。確実に女性たちが殺到して妊娠させてってケビン君を襲うくらいだよ」

「それはありえそうで怖い……」

「ふふっ、ケビン君の甲斐性を見せる時だね」

 こうしてティナの悩みを解決してアフターケアまでしてしまうと、残りの時間はのんびりと2人でイチャイチャしながら過ごすのであった。

 やがて現地確認に向かったメンバーが戻ってくると、2人のイチャイチャを見てしまい混ざるためにアリスとクララが押し寄せてくる。

 その時にケビンとクリスの目が合うと、クリスはティナの様子から察していたのか、ケビンへ向けて微笑むのだった。

 そして、ティナは他の嫁たちとバトンタッチするかのようにケビンの元を離れてクリスの元へと向かい、2人で会話に興じてクリスの気遣いにお礼を述べていた。

 この日は夕食後にまた作戦会議を開くと、現地確認に行ったおかげか地下通路ではどういう動きをすればいいのかイメージができていたようで、色々な意見が飛び交い滞りなく作戦会議を終わらせることができたのだった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 翌日の朝、朝食を済ませたケビンたちは地下通路の中へと入って行く。中の様子はなんの変哲もない殺風景な通路であり、灯りがないためか奥の方は真っ暗な闇が広がっていた。

 そのような中でケビンたちは、前方の警戒をしつつ中へと歩みを進めていく。

「アンデッドは奥にいるようだな」

「昨日調べたんだけど入口に魔よけの魔法陣が刻まれてたから、入口には近寄らないんだと思うよ」

「外に出さないために封じ込めたわけか」

「まぁ、CランクやBランク冒険者がアンデッドになっちゃったしね、うろつかれたらギルドとしては困るんじゃない?」

「それに新たな魔物が中に入って数が増えるのも抑えられるしな」

「そういうことだね。だからある程度は放置していたんだろうね。人が入らないようにすれば現状維持ができるしね」

 ケビンとクリスが会話をしている中で、ティナはメンバーへ指示を出していく。

「ニコルは前方を警戒しつつ進んでね。アリスはいつもみたいな地形を利用した離脱攻撃ができないから、突出し過ぎないように注意をして。シーラは灯りの確保を最優先でお願い。クララは……殴る?」

「私だけ指示がぞんざいではないか?」

 そのような時にクリスと話を終えたケビンが助け舟を出すと、指示の修正を行うのであった。

「クララ、火を使わずに灯りを維持することはできるか?」

「可能だの。光を使えば良いのだろう?」

「それならクララが灯りの確保担当だ。シーラは灯りのことは気にせず戦闘に集中してくれ。クリスは左右の警戒をしつつニコルとともに前進。ティナは敵がいたら弓で牽制しつつ前衛のサポートがメインだ」

「主殿よ、私は灯りだけか?」

「龍魔法の手加減はできるようになったのか? こんな所で生き埋めはごめんだぞ?」

「うぬぅ……しかしだな……」

「はぁぁ……クララは俺と手を繋いで地下通路デートだ」

「おぉ! それならば我慢しよう」

「ふふっ、クララは役得だねぇ」

 そしてみんなの準備が整ったらクララが光を灯して視界の確保を図ると、手加減ができなかったのか通路の奥の方まで一気に光が灯っていく。

 当然アンデッドたちが反応してワラワラとそこら中から集まり始めて、通路はアンデッドで埋め尽くされていった。

「おいおい……」

「す、すまぬ……悪気はないのだ……本当だ……」

 ケビンがクララに対して呆れ果てていると、ティナがすかさず反応して指示を飛ばしていく。

「アリスとシーラは魔法で先制攻撃! 私は弓を放つわ。ニコルとクリスは敵が近づいてきたら押し込まれないように迎撃をお願い!」

 ティナの指示に従い、アリスは光魔法をどんどん詠唱しながら放っていき、シーラはお得意の氷魔法で敵を串刺しにしていく。

 集まりだしたアンデッドたちは屍の山を越えてきだして、ウルフ系の魔物が素早く接近してくる。

「くっ……ウルフごときが!」

「ほい、ほい、ほーい」

 迫ってきたウルフ系アンデッドに対して、ニコルは盾を上手く使いながら斬り刻んでいき、クリスは軽やかに槍を捌いては刺したり払ったりしている。

「埒があかぬのぅ」

「誰のせいだ、誰の」

「ぬぅぅ……主殿はSだ」

「ちょっと待とうか、クララよ。その言葉、誰に教わった?」

「秘密だ。答えを言ってしまえば、その者がお仕置きポイントとやらを獲得してしまうからの」

「くっ……用意周到かっ!」

 恐らくクララへ伝えたであろう者はある程度絞りこめるが、ケビンはこれもまた嫁たちのコミュニケーションの一貫になっているので、無理に聞き出すことはやめて犯人探しは諦めるのであった。

 ケビンとクララがそのような会話をしている中で、ティナたち戦闘組は屍の山をどんどん増やしていく。

「シーラ! 貴女の魔法で横に繋がっている通路を氷漬けにできない?」

「わかったわ。《氷河時代の顕現アイスエイジ》」

 シーラの放った魔法で横に繋がる通路が氷漬けにされると、これ以上アンデッドの数が増えることもなくなり、時間とともに少しずつ数を減らしてやがて戦闘も終息した。

「ふぅぅ……みんなお疲れ様。先へ進む前に少し休みましょ」

 攻略の開始早々クララの凡ミスで息つく暇もなく始まった戦闘によって思いのほか疲れてしまったメンバーたちは、ティナの号令で少し休憩をすることとなり、その場で腰を下ろしたり壁にもたれかかったりして思い思いに体力を回復させていく。

「みんな、すまぬ」

「気にしなくていいわ、不測の事態に対応するのも冒険者として必要なことだから」

 クララのフォローを上手くやってのけるティナに対して、クリスがニーナの代わりと言わんばかりに揶揄い始める。

「ティナが珍しく真面目」

「ちょ、クリス!」

「ニーナさんみたいです」

「確かにそんな感じでつっこむわね」

「しかも貴女、ニーナの声真似してるでしょ!」

「えへへー中々似てるでしょ? ニーナに聞かせてあげた時は『私、そんな声じゃない』って恥ずかしがってたけどねぇ」

「これで寂しくならぬのぅ」

「全く……」

 ティナもクリスが慰めのために揶揄ってきたことには気づいているので、特に怒ることもなくその行動に仕方のない感じで微笑むのだった。

 そしてしばらく休んだ後に通路を進むと死屍累々の山を見て、何かに気づいたニコルがケビンへ声をかける。

「ケビン様、これは……」

「そうだな、恐らくニコルの考えている通りだ」

「これは明らかに面倒くさいことになったねぇ」

「ケビン様、どういうことですか?」

「アンデッドの大半がゴブリンなんだよ」

「つまり……?」

「元々ここはゴブリンに占拠されていたってこと。ゴブリンの巣だ」

「では、これから先もゴブリンアンデッドとの戦いになるということですか?」

「それだけならいいけど。仮にゴブリンを使役してアンデッドに変えている魔物がいたとしたら最悪だ」

「ケビン君、それって“ふらぐ”ってやつじゃない?」

「そうだねぇ。ケビン君が嫌がるやつだね」

「しまった! 俺としたことがうっかり旗を建築してしまうとは……」

「ねぇケビン、それで親玉がいたらどうなるの?」

「普通のゴブリンを繁殖させつつアンデッド兵を作ることができる」

「入口に魔よけが施してあるんだし、増やすとしても食料がないじゃない」

「共食いがあるだろ。アンデッドを餌にしてもいいし、多分、腹を壊すことなんてないだろ? ゴブリンなんだし」

「まぁ、お腹は壊しそうにないわね。何でも食べるイメージがあるから」

「結局のところ、最悪のパターンは無限湧きになっていることだ。最良のパターンは親玉なんていなくて、今いるアンデッドたちが全てってところかな」

「そんなのケビンの【マップ】を使えばわかるでしょう?」

「ネタバレは面白くないんだよ」

「もうワガママね」

「どっちみち近づけば気配探知で誰でもわかるんだから、今見る必要もないだろ?」

「気配探知でも既にケビンの領域内じゃないの?」

「つまらなくなるから範囲を狭めてる」

「徹底してるのね……」

 楽しいことはあとに取っておきたいというケビンの徹底したこだわりに、シーラは呆れつつもやはり子供っぽくて可愛らしい弟だと再認識するのである。

 その後ケビンたちはアンデッドだった塊をどうするか話し合った結果、毎度毎度浄化するのが面倒くさいと感じたケビンが、クララのストレス発散のために【無限収納】へ回収したあと、外で一気に燃やし尽くすという方法を取ることにしたのだった。
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