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第12章 イグドラ亜人集合国
第319話 ギースとサラの悩み
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翌朝、夜通し肌を重ね続けていた2人は未だに行為の真っ最中であった。そして、最後の1回が終わると2人の蜜月も終わりを迎える。
「本当に朝までしちゃったわね」
「まぁ、いつものことなんだけどね」
サラの信じられないという想いを乗せた言葉に、ケビンは魔法で辺りを綺麗にしながら答えていた。
「お母さんね、ケビンに抱かれている時だけは昔に戻れた気がするわ」
「途中からすっごい甘えてきたよね?」
「もう……言わないで。お母さんだって年甲斐もなく甘えちゃったことを思い出すと恥ずかしいのよ」
「俺は可愛く見えたからああいうのも好きだけど?」
「ふふっ、それじゃあケビンと2人きりの時は甘えさせてもらうわね」
それから2人は最後の締めと言わんばかりに濃密なキスを交わすと、その日の朝食へと向かっていった。
食堂へ到着した2人を見た女性たちは昨日よりもより近い雰囲気を察して、ケビンとサラが致してしまった事実を認識する。
食事中はその話題には一切触れず、食後にみんなで憩いの広場へ向かうと「やっと話せる!」と言わんばかりに到着した早々サラを質問攻めにした。
「お母様! ケビンと寝たの!?」
「一緒のベッドなのだから一緒に寝たわよ」
「そっちじゃない!」
「そっちじゃないならどっちかしら? ちゃんと言ってくれないとお母さんわからないわ」
シーラよりもサラの方が当然上手であり、恥ずかしがって言い淀むシーラを揶揄いながらサラが煽っていく。そこへ助け舟を出したのはクリスであった。
「お義母さん、ケビン君とHしたの?」
「ふふっ、したわよ。朝までね」
「そっかぁ……ケビン君凄かったでしょ?」
「凄かったわぁ……あれだけ体を求められたのは初めてよ」
そう言ってサラはケビンとの睦ごとを隠しもせずに話していく。その内容に周りの女性たちは、ケビンがサラで試した2本同時攻めの話を聞いて驚愕してしまう。
「あら、あなた……そんなこともできたのね?」
「試してみたらできてしまった」
「ふぅーん……初めては私じゃないのね?」
「あ……」
ケビンの1番を取れなかったソフィーリアは責めるような目付きで見つめていると、居心地の悪くなったケビンは視線を逸らしてしまう。
「まぁ、いいわ。相手はお義母さんなのだし、今回は大目に見てあげる」
「今夜はソフィにするから許してくれ」
「2番目ってことね、待ってるわ」
こうしてケビンはソフィーリアに対して2本攻めを体験させるため、ベッドの予約を入れるのであった。
その後は結局『サラなら致し方ないというか当然の結末?』と仲の良さを知っている嫁たちは結論に達して納得するが、奴隷たちはケビンとサラの仲の良さが他とは一線を画していることに、『2人にとっては当たり前のことなのかな?』と戸惑いながらも『仲が良いなら問題ないか』と難しく考えることをやめてしまうのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
1週間ほど帝城に滞在していたサラは、昼食後に家へ帰ることを唐突にケビンへ伝えた。
「このあと家まで送ってくれるかしら?」
「いきなりだね。まぁ、別にいいけど」
それからサラを送り届けることになると、子供たちはうさぎたちとの別れを惜しんで泣いてしまう。
「じゃあね、ケビンちゃん……」
「元気でね、サラちゃん……」
(すげぇ、違和感……)
2匹のうさぎに対して名前で呼んでいる子供たちを見て、ケビンはもの凄い違和感に包み込まれる。
そして子供たちの別れが終わったところで、ケビンはサラとうさぎたちを連れて実家へ転移するのだった。
「ふぅ……久々の我が家ね」
サラは着いて早々にそう呟くと、カレンへ手荷物を預けてギースの元へと向かう。ケビンも野菜類を預けるとサラの後を追うのだった。
軽いノックのあとにサラが執務室へ入ると、ギースとアインが仕事をしている真っ最中であった。
「ただいま、あなた」
「おかえり、サラ」
2人が挨拶を交わしたところで、ケビンが真面目な顔つきをして口を開いた。
「父さん、ちょっと母さんのことで話があるんだけど」
「それじゃあ僕は自室で仕事の続きをするよ」
いつもとは違う雰囲気を察したのか、アインが気を利かせて部屋から出ようとするとケビンが声をかけた。
「アイン兄さん、リビングにうさぎがいるけど気にしないでね。母さんが飼うために連れてきた子たちだから」
「うさぎかい? 珍しいね。それじゃあ仕事は後回しにしてうさぎと遊んでいようかな」
アインが仕事の続きはやめてうさぎたちと遊ぶために部屋を出て行ったら、ケビンは音漏れ防止のために遮音の結界を張った。
「それで? 話とは何だ?」
「母さんと寝た」
ギースが卓上で肘を立てて手を組むと、そこへおでこを預けてしばらく沈黙していたら、黙考が終わったのか顔を上げて大きなため息とともに口を開いた。
「はぁぁ……サラのお前に向ける愛情は、子供へのものの中に男に対してのものもあったからな……いつかはこうなるかもと想像していたが、それは間違いなく添い寝ということではないな?」
「肉体的に」
ケビンはそう伝えると【無限収納】から1本の剣を取り出して、ギースの前へと置く。
「好きなだけ俺を斬り刻んでいいよ。それだけのことをしたと自覚しているから。だけど、抱えているものがあるから命まではやれない」
「……その前に何故そうなった?」
ギースが尋ねてきた内容に、ケビンはサラから聞かされた悩みをギースへ伝えた。
告げられていく内容にギースは眉間に皺を寄せて、思い詰めた表情となっていく。
「――ということなんだけど、俺からも聞いていい? 父さんは何で手を出さないの? 母さんのことが嫌いってわけじゃないよね?」
ケビンからの質問にギースは重く閉ざされた口を開いて、その理由を語るのであった。
「まず、サラ」
「何? あなた」
「そこまで思い詰めていたのに気づいてやれなくてすまなかった。決してお前を女として見ていないだとか、嫌いになったとかではない。ケビンと寝たと言われた今でも俺はお前を愛している」
「私もケビンと寝たけど、あなたのことは1番に愛しているわ」
「それとケビン。サラを癒してくれてありがとう。本来なら俺がきちんと理由を話して夫婦で解決すべき問題だった」
「え……お礼を言われても逆に困るんだけど……罵ってくれた方がまだいいのに……」
怒鳴られて斬られる覚悟をしていたケビンだったが、実際はお礼を言われるという予想だにしなかった対応で戸惑いを隠せずにいた。
そのようなケビンの戸惑いを見つつも、ギースは話を続けていく。
「実はな、サラが子供を宿しにくい体で悩んでいたのと同じように、俺は俺でモノが立たなくなってしまったことを悩んでいた」
「……は?」
ギースの告白にケビンは全く理解が追いつかない。いきなり父親からEDであることを告げられたのだ。予想もしていない回答にただただ呆然とするしかない。
「お前も男ならこの辛さはわかるだろ? こんなことを愛する妻に打ち明けられるか? しかもそれが子供ができにくくて、それでも欲しいと願っている妻にだ。どう伝えればいい?」
「あなた……」
「お医者さんは何て言ってるの? もちろん診てもらったんだよね?」
「当時は年齢というよりも、気持ち的なものが大きいだろうって言われた」
「え、俺が生まれた時に何か悩んでたの?」
「逆だ……悩んでたんじゃなくて嬉しかったんだ。やっとサラとの間にお前を作ることができてな。無事に産まれさせることもできてホッとしたんだよ」
「それのどこが悪いの? 普通のことじゃないの?」
「そうだな……ホッとしたと言ったが、実際は見えないところで重圧を背負っていたらしい。サラは1度流産している。そして更に子供ができにくくなった。そんな環境でやっとできて生まれたのがお前だ。サラも産むまではだいぶ重圧を抱えていただろう。それは俺も同じだったんだ」
「俺を産ませるのが重荷になっていたの?」
「お前が悪いんじゃない。俺の心の弱さが原因だ。最初は疲労が溜まっているんだろうと思って気にしていなかった。それにサラも育児で大変だったし、立ったところで使いようもない」
「いつ気づいたの?」
「サラが誘惑してきた時だ。愛するサラの誘惑だ……立たない方がおかしいだろ? それでマイケルを護衛として引き連れ、医者へ相談しに行った結果で確定したわけだ。そこからはサラからも聞いているんだろう? サラの誘惑を何かと理由をつけてはことごとく跳ね除けたんだ」
全てを語り終えたと言わんばかりに息を吐くと、ギースは背もたれに体を預けて天井を仰いだ。
「俺がソフィに頼んで何とかしてもらうよ」
「いや、いい……」
「何で!?」
「医者には今も罹っている。もう歳だから回復は望めないんだとさ」
「あなた、ごめんなさい……自分のことばかり考えてあなたの苦悩をわかってあげられなくて」
「俺の方こそすまない。こういっては何だが、精力真っ盛りの若い頃に相手をしてあげられなくて。辛かっただろ? 当時は浮気されないかビクビクとしていたもんだ」
「心外ね、愛する人以外に抱かれたくないわ」
ギースが本気で言っていないことがわかっているのか、サラも軽い口調で返すのである。そしてギースが立ち上がるとケビンの置いた剣を手にした。
「これはしまえ。お前を斬るつもりはない」
「父さん……」
「俺からお前に伝えることがある」
「何?」
「今後もサラの相手をしてやってくれ。俺ではサラの欲求を満たしてあげられない。それは今後も変えようがない」
「えっ!?」
まさか父親から言われるとは予想だにできずケビンは唖然としてしまうが、ギースは全く意に介さず話を続けていく。
「それと俺が没したあと、サラのことは頼んだぞ。お前が幸せにするんだ」
「え、え、ちょっと待ってよ。どういうこと?」
次々とギースから告げられていく内容にケビンは混乱が後を絶たない。
「こういう言い方は良くないが、夫である俺がいなくなれば必然とサラは血の繋がりが誰1人としていないこの家で過ごすことになってしまう。サラと血の繋がりがあるのはお前だけだからな」
「あなた……」
「カロトバウンの名はアインとカインが後世に残していくだろう。だが、俺の血はお前にしか受け継がれていない。お前は血族としてカロトバウンの血を後世に残していくんだ。とは言っても、あれだけの嫁さんがいるなら心配するだけ徒労だが」
「父さん、縁起でもないこと言うなよ!」
「いつかは伝えようと思っていたことだ。サラの時は伝えなかったせいで辛い思いをさせてしまった。同じ轍は踏みたくない」
それだけ言うとギースは再びイスへと腰を下ろして、ケビンへ視線を向ける。
「ふぅ……他に何かあるか?」
それに反応したのはケビンではなくてサラだった。
「あなた、最初にケビンが言ったように、うちでうさぎを2匹飼うことにしたの」
「そうか。構わないぞ、名前はつけたのか?」
「黒うさがケビンで白うさがサラよ」
「ははっ! 相変わらずだな。今度は黒うさのケビンに嫉妬してしまいそうだ」
先程までの重い雰囲気など一切なく、いつも通りの光景がそこには広がっていた。長年連れ添った夫婦故なのかお互いが信頼しきっており、問題が解決したのなら後にまでズルズルと引きずるようなことがないみたいである。
やがて話を終えたケビンとサラはリビングへと向かい、新しい住人となったうさぎたちの相手をするのだった。
「父さんとの話し合いは終わったようだね。僕も執務に戻るとするかな」
今までうさぎと過ごしていたアインはケビンたちがやってきたことで、本来の業務に戻るため執務室へと向かっていく。
「母さん、ちょっと右手を貸して」
サラから右手を差し出されたケビンは、指輪の部分に触れて魔法を施していく。
「指輪に通信機能をつけたから会いたくなったらこれで知らせて。あと、父さんの身に何かあったときも。さっきは死期を悟ったみたいな雰囲気だったから」
「わかったわ。今回はありがとうね、ケビン。お父さんへの誤解が解けて良かったわ」
「それじゃあ俺は帰るよ」
「ケビン、しばらく我慢できるようにキスをしてくれる?」
ケビンはさっと気配を探って周りに人がいないことを確認したら、サラへ熱烈な口づけをする。
「んはぁ……ちょっと火がついちゃったわ。ケビンったらいけない子ね、唇を合わせるだけで良かったのに」
「父さんからも頼まれたしね、これからは全力でお相手するよ」
「ふふっ、愛してるわ、ケビン」
「俺も愛してるよ、サラ」
「んんっ……ゾクってしちゃったわ」
上機嫌になっていくサラに別れを告げて、ケビンは実家を後にするのであった。
「本当に朝までしちゃったわね」
「まぁ、いつものことなんだけどね」
サラの信じられないという想いを乗せた言葉に、ケビンは魔法で辺りを綺麗にしながら答えていた。
「お母さんね、ケビンに抱かれている時だけは昔に戻れた気がするわ」
「途中からすっごい甘えてきたよね?」
「もう……言わないで。お母さんだって年甲斐もなく甘えちゃったことを思い出すと恥ずかしいのよ」
「俺は可愛く見えたからああいうのも好きだけど?」
「ふふっ、それじゃあケビンと2人きりの時は甘えさせてもらうわね」
それから2人は最後の締めと言わんばかりに濃密なキスを交わすと、その日の朝食へと向かっていった。
食堂へ到着した2人を見た女性たちは昨日よりもより近い雰囲気を察して、ケビンとサラが致してしまった事実を認識する。
食事中はその話題には一切触れず、食後にみんなで憩いの広場へ向かうと「やっと話せる!」と言わんばかりに到着した早々サラを質問攻めにした。
「お母様! ケビンと寝たの!?」
「一緒のベッドなのだから一緒に寝たわよ」
「そっちじゃない!」
「そっちじゃないならどっちかしら? ちゃんと言ってくれないとお母さんわからないわ」
シーラよりもサラの方が当然上手であり、恥ずかしがって言い淀むシーラを揶揄いながらサラが煽っていく。そこへ助け舟を出したのはクリスであった。
「お義母さん、ケビン君とHしたの?」
「ふふっ、したわよ。朝までね」
「そっかぁ……ケビン君凄かったでしょ?」
「凄かったわぁ……あれだけ体を求められたのは初めてよ」
そう言ってサラはケビンとの睦ごとを隠しもせずに話していく。その内容に周りの女性たちは、ケビンがサラで試した2本同時攻めの話を聞いて驚愕してしまう。
「あら、あなた……そんなこともできたのね?」
「試してみたらできてしまった」
「ふぅーん……初めては私じゃないのね?」
「あ……」
ケビンの1番を取れなかったソフィーリアは責めるような目付きで見つめていると、居心地の悪くなったケビンは視線を逸らしてしまう。
「まぁ、いいわ。相手はお義母さんなのだし、今回は大目に見てあげる」
「今夜はソフィにするから許してくれ」
「2番目ってことね、待ってるわ」
こうしてケビンはソフィーリアに対して2本攻めを体験させるため、ベッドの予約を入れるのであった。
その後は結局『サラなら致し方ないというか当然の結末?』と仲の良さを知っている嫁たちは結論に達して納得するが、奴隷たちはケビンとサラの仲の良さが他とは一線を画していることに、『2人にとっては当たり前のことなのかな?』と戸惑いながらも『仲が良いなら問題ないか』と難しく考えることをやめてしまうのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
1週間ほど帝城に滞在していたサラは、昼食後に家へ帰ることを唐突にケビンへ伝えた。
「このあと家まで送ってくれるかしら?」
「いきなりだね。まぁ、別にいいけど」
それからサラを送り届けることになると、子供たちはうさぎたちとの別れを惜しんで泣いてしまう。
「じゃあね、ケビンちゃん……」
「元気でね、サラちゃん……」
(すげぇ、違和感……)
2匹のうさぎに対して名前で呼んでいる子供たちを見て、ケビンはもの凄い違和感に包み込まれる。
そして子供たちの別れが終わったところで、ケビンはサラとうさぎたちを連れて実家へ転移するのだった。
「ふぅ……久々の我が家ね」
サラは着いて早々にそう呟くと、カレンへ手荷物を預けてギースの元へと向かう。ケビンも野菜類を預けるとサラの後を追うのだった。
軽いノックのあとにサラが執務室へ入ると、ギースとアインが仕事をしている真っ最中であった。
「ただいま、あなた」
「おかえり、サラ」
2人が挨拶を交わしたところで、ケビンが真面目な顔つきをして口を開いた。
「父さん、ちょっと母さんのことで話があるんだけど」
「それじゃあ僕は自室で仕事の続きをするよ」
いつもとは違う雰囲気を察したのか、アインが気を利かせて部屋から出ようとするとケビンが声をかけた。
「アイン兄さん、リビングにうさぎがいるけど気にしないでね。母さんが飼うために連れてきた子たちだから」
「うさぎかい? 珍しいね。それじゃあ仕事は後回しにしてうさぎと遊んでいようかな」
アインが仕事の続きはやめてうさぎたちと遊ぶために部屋を出て行ったら、ケビンは音漏れ防止のために遮音の結界を張った。
「それで? 話とは何だ?」
「母さんと寝た」
ギースが卓上で肘を立てて手を組むと、そこへおでこを預けてしばらく沈黙していたら、黙考が終わったのか顔を上げて大きなため息とともに口を開いた。
「はぁぁ……サラのお前に向ける愛情は、子供へのものの中に男に対してのものもあったからな……いつかはこうなるかもと想像していたが、それは間違いなく添い寝ということではないな?」
「肉体的に」
ケビンはそう伝えると【無限収納】から1本の剣を取り出して、ギースの前へと置く。
「好きなだけ俺を斬り刻んでいいよ。それだけのことをしたと自覚しているから。だけど、抱えているものがあるから命まではやれない」
「……その前に何故そうなった?」
ギースが尋ねてきた内容に、ケビンはサラから聞かされた悩みをギースへ伝えた。
告げられていく内容にギースは眉間に皺を寄せて、思い詰めた表情となっていく。
「――ということなんだけど、俺からも聞いていい? 父さんは何で手を出さないの? 母さんのことが嫌いってわけじゃないよね?」
ケビンからの質問にギースは重く閉ざされた口を開いて、その理由を語るのであった。
「まず、サラ」
「何? あなた」
「そこまで思い詰めていたのに気づいてやれなくてすまなかった。決してお前を女として見ていないだとか、嫌いになったとかではない。ケビンと寝たと言われた今でも俺はお前を愛している」
「私もケビンと寝たけど、あなたのことは1番に愛しているわ」
「それとケビン。サラを癒してくれてありがとう。本来なら俺がきちんと理由を話して夫婦で解決すべき問題だった」
「え……お礼を言われても逆に困るんだけど……罵ってくれた方がまだいいのに……」
怒鳴られて斬られる覚悟をしていたケビンだったが、実際はお礼を言われるという予想だにしなかった対応で戸惑いを隠せずにいた。
そのようなケビンの戸惑いを見つつも、ギースは話を続けていく。
「実はな、サラが子供を宿しにくい体で悩んでいたのと同じように、俺は俺でモノが立たなくなってしまったことを悩んでいた」
「……は?」
ギースの告白にケビンは全く理解が追いつかない。いきなり父親からEDであることを告げられたのだ。予想もしていない回答にただただ呆然とするしかない。
「お前も男ならこの辛さはわかるだろ? こんなことを愛する妻に打ち明けられるか? しかもそれが子供ができにくくて、それでも欲しいと願っている妻にだ。どう伝えればいい?」
「あなた……」
「お医者さんは何て言ってるの? もちろん診てもらったんだよね?」
「当時は年齢というよりも、気持ち的なものが大きいだろうって言われた」
「え、俺が生まれた時に何か悩んでたの?」
「逆だ……悩んでたんじゃなくて嬉しかったんだ。やっとサラとの間にお前を作ることができてな。無事に産まれさせることもできてホッとしたんだよ」
「それのどこが悪いの? 普通のことじゃないの?」
「そうだな……ホッとしたと言ったが、実際は見えないところで重圧を背負っていたらしい。サラは1度流産している。そして更に子供ができにくくなった。そんな環境でやっとできて生まれたのがお前だ。サラも産むまではだいぶ重圧を抱えていただろう。それは俺も同じだったんだ」
「俺を産ませるのが重荷になっていたの?」
「お前が悪いんじゃない。俺の心の弱さが原因だ。最初は疲労が溜まっているんだろうと思って気にしていなかった。それにサラも育児で大変だったし、立ったところで使いようもない」
「いつ気づいたの?」
「サラが誘惑してきた時だ。愛するサラの誘惑だ……立たない方がおかしいだろ? それでマイケルを護衛として引き連れ、医者へ相談しに行った結果で確定したわけだ。そこからはサラからも聞いているんだろう? サラの誘惑を何かと理由をつけてはことごとく跳ね除けたんだ」
全てを語り終えたと言わんばかりに息を吐くと、ギースは背もたれに体を預けて天井を仰いだ。
「俺がソフィに頼んで何とかしてもらうよ」
「いや、いい……」
「何で!?」
「医者には今も罹っている。もう歳だから回復は望めないんだとさ」
「あなた、ごめんなさい……自分のことばかり考えてあなたの苦悩をわかってあげられなくて」
「俺の方こそすまない。こういっては何だが、精力真っ盛りの若い頃に相手をしてあげられなくて。辛かっただろ? 当時は浮気されないかビクビクとしていたもんだ」
「心外ね、愛する人以外に抱かれたくないわ」
ギースが本気で言っていないことがわかっているのか、サラも軽い口調で返すのである。そしてギースが立ち上がるとケビンの置いた剣を手にした。
「これはしまえ。お前を斬るつもりはない」
「父さん……」
「俺からお前に伝えることがある」
「何?」
「今後もサラの相手をしてやってくれ。俺ではサラの欲求を満たしてあげられない。それは今後も変えようがない」
「えっ!?」
まさか父親から言われるとは予想だにできずケビンは唖然としてしまうが、ギースは全く意に介さず話を続けていく。
「それと俺が没したあと、サラのことは頼んだぞ。お前が幸せにするんだ」
「え、え、ちょっと待ってよ。どういうこと?」
次々とギースから告げられていく内容にケビンは混乱が後を絶たない。
「こういう言い方は良くないが、夫である俺がいなくなれば必然とサラは血の繋がりが誰1人としていないこの家で過ごすことになってしまう。サラと血の繋がりがあるのはお前だけだからな」
「あなた……」
「カロトバウンの名はアインとカインが後世に残していくだろう。だが、俺の血はお前にしか受け継がれていない。お前は血族としてカロトバウンの血を後世に残していくんだ。とは言っても、あれだけの嫁さんがいるなら心配するだけ徒労だが」
「父さん、縁起でもないこと言うなよ!」
「いつかは伝えようと思っていたことだ。サラの時は伝えなかったせいで辛い思いをさせてしまった。同じ轍は踏みたくない」
それだけ言うとギースは再びイスへと腰を下ろして、ケビンへ視線を向ける。
「ふぅ……他に何かあるか?」
それに反応したのはケビンではなくてサラだった。
「あなた、最初にケビンが言ったように、うちでうさぎを2匹飼うことにしたの」
「そうか。構わないぞ、名前はつけたのか?」
「黒うさがケビンで白うさがサラよ」
「ははっ! 相変わらずだな。今度は黒うさのケビンに嫉妬してしまいそうだ」
先程までの重い雰囲気など一切なく、いつも通りの光景がそこには広がっていた。長年連れ添った夫婦故なのかお互いが信頼しきっており、問題が解決したのなら後にまでズルズルと引きずるようなことがないみたいである。
やがて話を終えたケビンとサラはリビングへと向かい、新しい住人となったうさぎたちの相手をするのだった。
「父さんとの話し合いは終わったようだね。僕も執務に戻るとするかな」
今までうさぎと過ごしていたアインはケビンたちがやってきたことで、本来の業務に戻るため執務室へと向かっていく。
「母さん、ちょっと右手を貸して」
サラから右手を差し出されたケビンは、指輪の部分に触れて魔法を施していく。
「指輪に通信機能をつけたから会いたくなったらこれで知らせて。あと、父さんの身に何かあったときも。さっきは死期を悟ったみたいな雰囲気だったから」
「わかったわ。今回はありがとうね、ケビン。お父さんへの誤解が解けて良かったわ」
「それじゃあ俺は帰るよ」
「ケビン、しばらく我慢できるようにキスをしてくれる?」
ケビンはさっと気配を探って周りに人がいないことを確認したら、サラへ熱烈な口づけをする。
「んはぁ……ちょっと火がついちゃったわ。ケビンったらいけない子ね、唇を合わせるだけで良かったのに」
「父さんからも頼まれたしね、これからは全力でお相手するよ」
「ふふっ、愛してるわ、ケビン」
「俺も愛してるよ、サラ」
「んんっ……ゾクってしちゃったわ」
上機嫌になっていくサラに別れを告げて、ケビンは実家を後にするのであった。
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