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第7章 ダンジョン都市

第196話 鮮血の傭兵団の決意

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 ケビンがダンジョンを改造して様々な騒動があったものの、数日も経てば下火となって、冒険者たちは以前より攻略しやすくなったダンジョンに、足繁く通っていた。

 ケビンの見立て通りにレアボスとレアドロップ品の話が、瞬く間に冒険者たちの間で話題となり、それを目当てにダンジョンへと潜っているのも起因している。

 ギルドも最初の頃は、深層の素材が卸されなくなり落胆していたものの、今となっては以前よりもダンジョンに潜る冒険者が明らかに増えて、大量の素材が手に入るようになり、長期的に見れば利益が上がるとわかった途端、手のひら返しで喜んでいた。

 そんな中でも、相変わらずでいたのは鮮血の傭兵団ブラッドファイターズだった。むしろ、以前よりも躍起になってケビン捜しをしていた。

 せっかく75階層まで攻略していたのに、1階層にリセットされてしまったものだから、フラストレーションが溜まっているのだ。

 更には、狩場の独占目的でやっていた、ボス部屋の小細工も通用しなくなり、冒険者たちが自由にダンジョンを探索していることも、何気に苛立ちを募らせる原因となっていた。

 それでも、何とかケビンを見つけ出そうと、今日もまた攻略作業に勤しんでいる。そんな彼らが現在いるのは20階層である。

 攻略が遅れ気味になっているのは、ボスが倒せないのではなく、毎回変わるトラップの配置に手こずっているからだ。

 ケビンによる転移をトラップだと勘違いしている彼らは、またそのような目に合わないように慎重に進むようになっていたことも、攻略の遅れている原因でもある。

 そんな彼らが追っているケビンはというと、既に30階層を攻略し終えて下層へと下りていた。転移事件はケビンが起こしたものであり、このダンジョンを管理しているのもケビンであるが故に、転移トラップがないのは百も承知であるからだ。

 更には、団員が集まり次第徒歩でやってくる彼らと、部屋から転移でやってくるケビンとでは、スタートダッシュから違ってくる上に、転移ですぐに帰れる以上、ギリギリまで攻略を進めているケビンたちの方が、圧倒的に攻略するスピードが早い。

 ダンジョンが新装開店してから、1から攻略しなおしているのに中々追いつけない理由には、そういう背景があったからに他ならない。

 そして、今日もまた会えずじまいで、彼らは夕陽を背にダンジョンから帰路につくのであった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 数週間後、ケビンたちはダンジョンの最下層を攻略し終えて、再びダンジョンを制覇したことになり、今はマスタールームにて歓談中である。

「はぁ……結構かかったね」

「ボスとかも再配置したからじゃない?」

「浅層ぐらいはいいけど、中層以降は同じボスと戦っても練度が上がらないし、面白みがないからね。ボスを変えて徐々に難しくなっていく方が楽しいでしょ?」

「それもそうね」

「楽しかった」

「私も楽しかったです」

「次は、都市外ダンジョンだね」

「ここはどうするの?」

「どうしようか? コア、ここは俺が魔力供給をしなくても、何とかなりそうか?」

〈現在、多数の冒険者がダンジョンに入ってきていますので、マスターの魔力供給がなくても維持は可能です〉

「そうか。それなら、都市外ダンジョンに入り浸っても問題なさそうだな」

「明日から向かうの?」

「いや、しばらくは休憩かな。素材を売り払わないといけないし」

 ケビンたちは今後の予定を立てつつ、マスタールームを後にしたのだった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 後日、ドワンの元を尋ねたケビンたちは、素材を破格の値段で売却して、刀の改造を依頼した。

 その後、王都のギルドへとやってきたケビンたちは、前回と同様に大量のダンジョン素材を卸して、ライアットは嬉しい悲鳴をあげるが、サーシャにギルドカードを提出した際に、ちょっとした問題が起こってしまった。

「……」

「サーシャさん、どうしたの?」

「……ケビン君、ダンジョン制覇したの……?」

「したね」

「……2回も……?」

「そだね」

「……」

 サーシャは、あまりの出来事に言葉が出なかった。そんなサーシャ相手に、ケビンはいつも通り何食わぬ顔で問いかける。

「よく制覇したのが2回だってわかったね」

「……」

「サーシャさん?」

「……ギルドマスターに会ってくる……」

 それだけを言い残して、サーシャは受付を去っていった。残されたケビンはどうしたものかと思っていたが、ティナたちに相談すると、気にするほどのことでもないと返されるだけであった。

 しばらくしてサーシャが戻ってくると、ケビンたちはギルド長室に連行されることとなった。

「久しぶりだな、ケビン」

「お久しぶりです、カーバインさん」

「ここに呼ばれた理由はわかるか?」

「さあ?」

 特に気にした風でもなくケビンが答えると、カーバインは頭を抱えながら教えるのであった。

「お前……ダンジョン、制覇したろ?」

「しましたね」

「2回も……」

「そうですね」

「はぁぁ……」

 大きくため息をついて頭を抱えるカーバインに、ケビンは気を使って声をかけるが、自分のせいだとは全く気づいていなかった。

「疲れでも溜まっているんですか? たまには、タミアに行った方がいいですよ?」

「この疲れはお前が原因だ」

「俺は何もしてませんよ」

「したろ。2回もダンジョン制覇を」

「制覇したら不味かったんですか?」

「不味くはねぇが、短期間に制覇しすぎだ」

「ダンジョン都市にいて、ダンジョンを攻略するのは当たり前では?」

「それでも、手ぇくらいは抜いとけよ」

「大分抜いてますよ。攻略はティナさんたちがメインですから」

「お前の周りは規格外の集まりかっ!? 何で4人だけでダンジョン制覇が出来ているんだ」

「ティナさんたちが頑張っていましたからねぇ。俺が手を出し始めたのは、70階層を超えたあたりですから」

「いやぁ、ケビン君のお陰だよ。適切なサポートなんだもん」

「教え方が上手い」

「あとは、ドワンさんの作る装備が素晴らしいことですね」

「それもある」

「いやいや、ティナさんたちが頑張って練度を上げたからだよ」

 カーバインそっちのけで、ケビンたちは仲間内で互いに褒めたたえて、和やかなムードを演出していた。

「……とりあえず、お前たちのクランはSランクに上げる。あと、パーティーとしてもSランクだ。個人としては、3人とも今のままのAランクに留めておいて、ルルの冒険者ランクをAランクに上げる」

「これで、みんな揃ってAランクになるのかぁ。それにしても、そんな簡単にSランクにして大丈夫なんですか? ドラゴンとか倒してませんよ?」

「前にも言っただろ。功績によってSランクに上がることもあると」

「確かに……」

「しかも、誰も成しえなかったダンジョン制覇を、2回もやってんだぞ?」

「あ、それで思い出したんですけど、何で2回ってバレてるんです?」

「ギルドカードに、履歴が残ることくらい知ってるだろ?」

「いやぁ、同じダンジョンだし、イケるかなって思ったんですけど」

「無理だな。ダンジョン名が、【ウシュウキュ都市内ダンジョン】から【K’sダンジョン】に変わってる」

「え……」

「履歴にそう載ってるんだよ。誤魔化しようがないな」

「……あの……新しいダンジョンの名前をもう1度……」

 ケビンは一抹の不安を抱えながらも、再度カーバインに聞きなおした。

「【K’sダンジョン】だ。制覇されたのも初めてのことだから、情報がない上にどういう意味かはさっぱりわからんがな」

「……ソ、ソウナンデスカ……」

 どうか間違いであって欲しいと願ったのも虚しく、聞き間違いではなかったことを再認識しただけで、ケビンはやり場のない気持ちとともに、問題を引き出しの奥にそっとしまった。

 それからケビンはカーバインとの面談が終わると、どこか心ここに在らずといった感じで、ギルドを後にして夢見亭へと帰るのであった。

 
◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ケビンのクランが王都ギルドでSランクに昇格した数日後、ダンジョン都市のギルドでもその情報が届いて話題となっていた。

 以前のダンジョンをしれっと制覇していた上、新しく変わったダンジョンすらも制覇していたことに加え、最近ケビンの姿を見かけないと思っていたギルドは、王都ギルドに出し抜かれたと感じていた。

 質のいい深層の素材がここのギルドではなくて、王都ギルドに流れてしまっているのだ。

 このままでは、深層の素材は鮮血の傭兵団に頼ることとなり、荒くれ者たちを増長させかねないと懸念していた。

 そんなギルドの事情など知る由もない冒険者たちは、専らケビンたち【ウロボロス】の話題を口にして、彼方此方で騒ぎ立てていた。

 Sランククラン【ウロボロス】は、ケビンを除く3人が女性であり、しかも全員が美少女で、ケビンがハーレムを築いていることも騒ぎ立てる要因となっている。

 如何にして、そのクランに入れてもらうか画策するも、ケビンにその気がないので全くの無意味となっていたが……

 この騒ぎは当然、鮮血の傭兵団も耳にすることになり、彼らの気持ちを逆撫でするには充分過ぎるほどの情報であった。

 散々探し回っていたケビンたちが、以前のダンジョンをしれっと制覇していて、新しく変わったダンジョンすらも制覇している上に、クランランクが自分たちを超えてSランクになったのだ。

 全くもって平静でいられるわけがなく、散々無駄足を踏まされて尻尾も掴めないことに、最終手段を取ることにした。

「チッ! こうなったら、あのガキを引きずり出すしかねぇな」

 いつものたまり場で茶髪の幹部がそう言うと、周りの幹部たちは何をしようとしているのか察したようで、消極的な意見が返ってくる。

「アレをやるのか?」

「リスクが高いぞ」

「俺っちも、止めておいた方がいいと思うけど?」

「じゃあ、諦めろっていうのか!? このままだと、どっちみち捕まえることは出来ねぇぞ!」

 茶髪の幹部が苛立ちを顕にしてそう言うものの、賛同するような者はこの場にはいなかった。

「しかしだな……」

「負けたときのことは、考えているのか?」

「俺たちが負けるはずねぇだろ!」

「でもアイツら俺っちたちがまだなのに、ダンジョン制覇してるっしょ? ここまできたら、諦めるのも1つの手じゃん? かなりの実力者だと俺っちは思うわけ」

「団長!」

 全く賛同を得られない自分の意見に、団長に頼るべく呼びかけると、団長は静かに語り出した。

「……このまま攻略を続けていても、捕まえることはできない。かと言って、放置するわけにもいかない。俺たち荒くれ者は舐められたら終わりだ。確かにリスクは高いが、舐められっ放しは性に合わん」

「しかし、団長――」

「リスクは承知だ」

「……」

 副団長が諌めるも、団長の決意は固く意見を覆す様子がないとわかると、それ以上の説得は無意味だと悟り、沈黙するのであった。

「クランバトル……開幕だ!」

「「「「おうっ!」」」」

 団長のひと声により、もはや意味もなく反対するような者はおらず、決意を固めた鮮血の傭兵団は、クランバトルをするべくダンジョン攻略を中断して、準備を進めていくのだった。
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