196 / 661
第7章 ダンジョン都市
第192話 エレフセリア
しおりを挟む
ケビンたちが王都へ辿り着く頃には、既にニーナは回復しており、王都へ入る前にケビンから下りて自分の足で歩いていた。
そんなケビン一行は王都内へ入ると、そのままギルドへ赴いてサーシャの所へ足を運ぶのである。
「サーシャさん、クエスト終わったよ」
「相変わらずの早さね。何匹倒してきたの?」
「20匹」
「……」
思いもよらぬ討伐数にサーシャは唖然とするが、ケビンは構わず報告を続ける。
「とりあえず、あそこの依頼書は剥がしていいよ。1匹も残っていないから」
「……はぁぁ……つまり全滅させたのね?」
「そうだね。村の人が困ってたし」
「それにしても増えすぎね。他の冒険者たちは何をしているのかしら?」
「増えすぎて手に負えないから来なくなったっていう話を、御者の人が言ってたよ」
「はぁぁ……ダメダメね。手に負えないならギルドへ報告すべきでしょ!」
「とりあえず解体場に行く?」
「ライアットさんが嬉しい悲鳴を上げるでしょうね」
「置き場所あるかなぁ……」
ケビンはサーシャとともに解体場へと足を運び、ライアットに報告とともに確認する。
「ライアットさん、昨日の今日で申し訳ないのですが、未解体のワイバーンを出してもいいですか?」
「あぁ、2、3匹程度なら置く余裕はあるぞ」
「すみません、20匹です……」
「……」
呆然とするライアットに、サーシャが見兼ねて説明を始める。
「ケビン君は、ワイバーンの巣で間引くのではなく、全滅させてきたんです。他の冒険者たちが放置した結果、増えすぎていたそうで……」
「マジか……数ヶ月前から、全然ワイバーンの買取がないかと思ったら、そんなことになっていたのか」
「それで、どうしますか? 2匹ならティナさんたちが倒したのがあるから、そっちを出しましょうか? 傷だらけだから素材価値も下がると思いますし、すぐ済みますよね?」
「ケビン君が倒したのはどうなってるの?」
「無傷です」
「あぁ、あの倒し方か……それなら傷だらけの方を先に処理するか」
「わかりました。ここに出しておきますね」
「ケビンが倒したやつはダンジョンの素材が捌けてからにしよう」
「では、その報酬の受け取りの際に出しましょう」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ケビンたちはギルドでの用事が済んだあとは、次は王城へと向かうべく歩き出していた。
「ケビン君、転移しないのね」
「歩いて行ける距離だし、正面から乗り込まないと」
「“乗り込む”って……」
やがて城門へ到着すると、ケビンが代表して門番に声をかけた。
「すみません。陛下に会いたいのですけど会えますか?」
「子供が何の用だ? お前みたいな子供に陛下が会うわけないだろう」
いきなり現れて国王に会おうとする子供に、門番は唖然として会えないことを伝えた。
「あれ? これは予想外だね」
「何が予想外だ……想定内だろ。遊ぶなら他所に行って遊べ」
「これは困った……どうしようか?」
「どうもこうもない。あまり執拗いと連行するぞ?」
「そうなると、お城に入れますか?」
「牢屋だがな」
「じゃあ、それで」
「は?」
「いや、だから早く連行して下さい。城の中に用があるんですから」
「おい、後ろのお前たちは保護者だろ? この変な子供を早く連れて帰れ」
ケビンの捕まえてくれという物言いに、門番は背後に控えている者たちへと連れて帰るように言うが、聞こえてきたのは何も知らない門番にとって呆れ果てる内容であった。
「ケビン君、伯爵だって伝えたら? 一般人だと思われているわよ?」
「それもそうか……俺は伯爵なんですけど、陛下に会っても問題ないですよね?」
「今度は貴族ごっこか? 不敬罪で捕まるぞ?」
「ティナさん、これも無理みたいだよ?」
「知名度低いのね」
「しょうがない……マリーさんに来てもらおう」
「叫ぶの?」
「いや、強引に呼ぶ」
ケビンはマリアンヌ王妃の位置を【マップ】で確認すると、そこへ向かって威圧を放った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
一方で、プライベートテラスにてお茶を楽しんでいた王妃は、優雅な時間を過ごしつつ、小鳥の囀りに耳をすましていた。
(この時間が一番落ち着くわね……)
至福のひとときを満喫している王妃は、ティーカップを手に取ると口元へ運び静かに口にする。
そんな時、突如ケビンの威圧が王妃の身に襲いかかる。
「――ぶふっ!」
不意打ちで受けた威圧にビックリした王妃は、不覚にも口に含んでいたお茶を噴き出してしまう。
「――ゴホッゴホッ……は、鼻に入った!?」
プライベートテラスで他に誰もいないことが幸いしてか、晒してしまった醜態は他の者に見られることはなく、事なきを得ることに安堵する王妃。
「……ふぅ……この威圧は……ケビン君ね。イタズラにしてもタチが悪いわ。しっかりお説教しないと」
王妃は身なりを整えて変なところがないか姿見で確認すると、ケビンのところへと向かうのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
城門で威圧を放ちつつボーッと過ごしているケビンの元へ、お目当ての王妃がその姿を現す。
「ん? 何か怒ってる感じ?」
こちらへと向かってくる王妃は、片眉がピクピクと動いてるにも関わらず、その姿は優雅さに溢れ気品のある歩みで近づいてくる。
「坊主、まだ帰らないのか? 俺も暇じゃないんだぞ?」
「それはわかるよ。マリーさんがやってきているから、忙しくなるだろうね」
ケビンはマリーの方を指さすと、門番も釣られてその方向を目にした途端、体に電撃が走ったかのような感覚に陥った。
「お……お……王妃殿下! このような場所に如何ようなご用向きで!」
マリーは門番を一瞥すると、すぐさまケビンに視線を向ける。
「ケビン君、あんなイタズラしちゃダメよ? お説教なんだからね?」
「だって、この人が中に入れてくれないから、頼りになるマリー義母さんを呼ぶしかなかったんだよ」
ケビンは説教されたくない一心で、捨てられた子犬のような目をして、上目遣いでマリーへと話し掛ける。
「うっ……(い……今、マリー義母さんって言ったの!? ……何このキュンキュンする感じ!? ……しかもその上目遣いは反則よ!?)」
「ねぇ、マリー義母さん、お城の中に入れてよ?」
「……しょうがないわね、ついてらっしゃい」
「ありがとう、マリー義母さん!」
ケビンは、トドメとばかりにマリーへと抱きついて、上目遣いで感謝の言葉を口にすると、マリーは言い表しようのない気持ちを胸に抱えて悶絶していた。
「――ッ!! (何? 何なの!? この気持ちは!! キュンキュンしっ放しじゃない! あぁ……帰したくない! 一緒に添い寝してあげたい!)」
偏にここまで効果が現れるのは、実はケビンの持つ称号のせいだったりするが、それは本人にはわからないことである。
マリーと手を繋ぎながら城内へと入っていくケビンに、ティナたちも後へと続くが城門に取り残された門番は呆然と立ち尽くした。
「え!? 母さん? 王妃殿下の隠し子!?」
ケビンとマリーのやり取りに未だ混乱から回復できない門番は、交代の時間に同僚から声を掛けられるまで、その場で立ち尽くしていたのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
一方でマリーとともに城内へと入ったケビンたちは、国王に会いたいという要望をマリーに伝えて、案内して貰っていた。
「それにしても、お義母さんではなくてお義父さんに会いたいだなんて、ケビン君はお義母さんのことは必要ないのかしら?」
「そんなことないよ。お義母さんのことは凄く大事に思ってるよ。お義母さんは綺麗だし、優しいし、いい匂いがするから」
「ありがとう、後でお菓子を一緒に食べましょうね。(ああん、母性本能が擽られて、お義母さん胸がキュンキュンするわ!)」
マリーがお義母さんプレイに味を占めていると、ケビンは国王の元へ着くまでそのお遊びに付き合うのだった。
後ろからそれを眺めているティナたちは、ケビンの称号の凄まじさに戦慄を覚えずにはいられず、ボソボソと仲間内で話している。
「あれって、絶対称号が関係しているわよね?」
「しかも、当然年上だから効果が絶大」
「王妃様の顔が緩みっぱなしですね」
「人妻にも効果があるなんて……」
「多分、年上なら無条件」
「さすがはケビン様です!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そんな1コマがあったことなど露知らず、ケビンの会いたがっている国王は私室でのんびりと過ごしていた。
「今日も平和じゃのぉ……」
午後の政務の合間に休憩を取っている段階であり、ほのぼのとした様子でお茶を楽しんでいるが、たった今ケビンがやって来ていることなど、微塵も思ってはいないだろう。
そんな国王の元へ、ケビンを連れた王妃がその姿を現した。
「あなた、ケビン君が来たわよ?」
「ん? ケビンか……? どうしたのじゃ?」
「ちょっとね……話し込むから座ってもいい?」
「構わんぞ、お茶でも用意させるか」
国王はベルを鳴らして使用人を呼ぶと、人数分のお茶を用意するように言いつけると皆に椅子へ座るように促すが、ケビンが空いた椅子に座ろうとするも、マリーの手によって阻まれるのであった。
「ケビン君の座る場所はここよ?」
マリーは自分が椅子に座ると、その膝の上をポン、ポンと叩いてケビンに座るように促した。
ケビンもこれといって断る理由もなかったので、そのままマリーの膝の上に腰を下ろす。
ティナたちは、ケビンが女性に抱かれてしまうのはいつものことなので、気にせずにそれぞれ空いた椅子へと腰を下ろしていった。
「マリアンヌはケビンのことがお気に入りのようじゃの」
「だって、お義母さんって呼んでくれたのよ? こんな可愛い息子を持てて幸せだわ」
「そうか……儂は一足先に呼んで貰っておるからの。マリアンヌの気持ちもわかるというものじゃ」
そんな会話の中、使用人が入室して来て全員分のお茶が配られた。ケビンという子供がいることに気を利かしたのかお菓子付きである。
使用人が再度退室すると、国王はケビンに訪問の理由を尋ねることにした。
「して、ケビンよ。今日はどんな用事で来たのじゃ? また問題事か?」
以前の月光の騎士団との絡みからまだ日が浅いこともあり、国王としては“暇だから会いに来た”という平和的な理由で会いに来ていて欲しいと僅かながらに希望を胸に持っているのだが、ケビンのことなのでほぼ無理だろうと諦めの気持ちも持ち合わせていた。
「問題事は俺が片付けておいたよ。今日来たのはその事後処理を頼みたかったんだよ」
「何があったのじゃ?」
「ギルドでワイバーン討伐のクエストを受けて、北の山脈に向かったんだけどね、近くの村がワイバーンの被害に少なからず合っていたんだよ」
「冒険者たちは何をしておったのじゃ?」
「数の増えすぎたワイバーンが手に負えなくなって、久しく討伐されていなかったみたい。それで更に数が増えていったから負のスパイラルだね。ちなみにギルドへは未報告」
「つまらんのぉ」
ケビンから聞かされた冒険者の行動に呆れ果てる国王であるが、これから続く言葉に仕方ないと諦める反面、最低限のことはして欲しかったと願わずにはいられなかった。
「まぁ、自由を謳って自己責任でやっているからね、そこまで強くは言えないよ」
「それは確かじゃが……報告くらいはして欲しかったのぉ」
「それで、そんなことになる前に王国騎士は何をしてたんだって話になるわけ」
「陳情も上がっておらんかったから、知らなかったんじゃろ。儂のところにもそのような報告は上がっておらぬしな」
「御者の人に聞いたんだけど、昔は遠征訓練をしてたんだってね?」
「そうじゃな、昔は戦争が頻繁に起こっておったから、練度維持のためにやっておったの」
「国民全員とは限らないけど今日話した人によれば、王国騎士は冒険者以上の役立たずって認識されてるよ? 税金を払っているから守るべき者を忘れないで欲しいってさ」
「耳の痛い話じゃ……」
ケビンから聞く一国民のオブラートに包まれていない心情に、国王は顔を歪めた。
「そんな話を聞かされたら俺も動かざるを得ないしね。一応、伯爵位を持ってるわけだしさ。領地からの税金収入はないけど、国からの爵位収入はあるからね」
「いらぬ手間を掛けさせたの。どのくらい増えておったのじゃ?」
「20匹」
「……」
いくら増えたとしていても緊急事案として話があがってきていないので、5匹に満たないであろうと予想していた国王の考えを遥かに上回る数字がケビンの口から出てきて言葉を失う。
「ちゃんと全滅させておいたから、村への被害はもうないよ。でも、またいつ住処にされるかわからないから、騎士の遠征訓練を再開させて欲しいんだよ。定期的に各地を巡回するだけでも、国民たちからの印象も良くなると思うよ?」
「色々とすまぬな。遠征の件は、他国からの誤解を受けぬ範囲で行うように、儂から騎士団長に話を通しておこう」
「戦争がないのはいいことだけど、それならいつもは目を向けないところに目を向けないとね。あんなに増えていたのなら下手すれば近くの村が無くなっていたと思うよ。今回は間に合って良かったけど……多分陳情とかも来ていたはずだよ? 実際に村人たちが被害を受けていたんだし。些事として片付けられたのかは知らないけど」
「陳情についても今一度改めさせねばな。民があってこその国であるということを考えておらぬやもしれぬ」
「甘い汁吸っている人は自分さえ良ければいいって人が多いからね。それと話は変わるけど、俺って知名度低いの?」
「何故じゃ?」
突拍子もないケビンの質問に、国王は首を傾げる。
「いや、門番に止められたから。それでマリーさんを呼んだんだよ」
「ちゃんと名乗ったのか?」
「一般人に思われていたみたいだから伯爵だって言ったけど、信じて貰えなかった」
ケビンは門番とのやり取りで名前を名乗っていないことなど、とうの昔に忘れていた。
「確かに、貴族位を持つ子供はケビンだけじゃからの。知名度としては申し分ないのじゃが、普通に考えればありえないからの。門番にまで周知しておらんかったのかのぉ? 知っていて当然のはずじゃが……」
「まぁ、入れなくてもマリーさんを呼べばいいだけだし、特に困ってはないんだけど」
ケビンのその言葉に、被害者であるマリーが反応を示した。
「ケビン君、私を呼ぶのは構わないけど、おイタしちゃダメよ? いきなりだからビックリしたのよ?」
「ケビンよ、お主何をしたのじゃ?」
「マリーさんに、威圧を飛ばして知らせたんだよ」
「……威圧は相手を呼ぶ手段じゃなかろうに……」
ケビンの非常識な呼びだし方に、国王はほとほと呆れ果てていた。
「そういえばお主、家名をまだ決めておらぬじゃろ? 止められたのはそれも関係しておるんじゃないのか?」
「あなた、それに加えて貴族位を示す物も渡していないはずよ。家紋も決まっていないのですから」
「そういえば家名はまだだったね。貴族として動くことがなかったからすっかり忘れていたよ」
「この場で決めればよかろう。そうすれば、この後に皆へ示達できるからの」
「うーん……何にしようか……ティナさんたちは何か意見ある?」
「ケビン君の家名なんだから、自分で考えないと」
「大事なこと」
「どのような家名であろうと、素晴らしいものに違いありません」
「……うーん……家名かぁ……被らないもの……」
ケビンは当たり前のことだが、今までに家名など決めたことがないので、大いに悩んで考えこんでいた。
国王たちがケビンを他所に雑談をしていると、かれこれ数十分は悩み続けたであろうケビンが、ようやく答えを出した。
「……よし、エレフセリアにする」
「長いこと悩んでおったの?」
「そりゃあ一生に関わることだし、途中で変えられないよね?」
「余程のことがない限りは家名を変える者はおらぬな。無駄な混乱を生むしの」
ケビンの家名に関心のあるティナが、その名の由来を知りたがり逸る気持ちを抑えてそれを尋ねた。
「ケビン君、何でその名前にしたの?」
「うーん……色々と考えた結果、自分らしいのにしようと思って」
「自分らしい?」
「そう、元々は冒険者だからそれに因んで、自由って意味合いを込めたんだよ」
「確かに、ケビン君らしいわね」
「これでようやくケビンに家名がついたの。これからは、ケビン・エレフセリアと名乗るがよい」
「家紋はどうしようか?」
「それも好きに決めて良いぞ。大体の者は剣や盾を入れたりするの。あとはその地の名物とか植物を象ったものだな」
「ケビン君、それも冒険者に因んだものにしたら?」
「何か絵を描くものある?」
そう言われた国王は席を立つと、別のテーブルから紙と羽根ペンを持ってきてケビンに渡した。
「それを使うとよい」
渡された物を見たケビンは、明らかに上質な紙であったので国王に尋ねるのである。
「これ、凄く高い物だよね? 絵を描いても大丈夫なの?」
「質が悪いとな、インクが滲み過ぎてわからなくなるのじゃ。絵を描くのであれば尚更のことだ。滲んでしまっては何を描いてあるのかがわからなくなってしまうからの、家紋に関する文書は全てそうなっておる」
「わかったよ」
それからケビンはスラスラと描き出して見事な絵を完成させていく。絵描きの知識や技術など一般人レベルであるケビンがここまでできるのは、偏にスキルの賜物であった。
「よし、できた」
でき上がった絵に一同は感嘆の声を漏らす。目の前の絵がとても子供の描いたものとは思えずに、どこかの著名人が描いた絵と言われても信じてしまうような完成度であったからだ。
「ケビン君って絵描きの才能もあるのね。冒険者を辞めたとしても稼げるわね」
「物作りの才能もある」
ケビンの完成させた絵は、愛刀である【黒焰】と【白寂】を下向きに交差させたものを1番下に描き、その上の空いたスペースにドラゴンを描くというものであった。
「まだドラゴンは討伐していないけどそのうちするかもしれないし、冒険者としては倒してみたい相手でもあるからこれでもいいよね?」
「構わぬぞ。ドラゴンの家紋は誰も作っておらぬからな、知名度も高くなるじゃろうて」
「そうなの? どこかの貴族と被るかと思ってたのに」
「ドラゴンが指し示すものは圧倒的武力じゃ。おいそれと使うわけにもいくまい。圧倒的武力を持たぬ者がその武力を掲げるなぞ、とんだ笑い種じゃからの。貴族はプライドが高いのじゃ、そういった者たちは剣とか盾を用いて家紋を作って見栄を張っておる」
「へぇー貴族も大変だね」
「これでエレフセリア伯爵家の誕生ね。今日はお祝いよ、このまま夕食を食べていきなさい」
「ありがとう、ご馳走になるよ」
ケビンの家名と家紋が決まったことで、まだ領地も邸宅も持たないケビンの代わりに、国王が自身の名でそのことを各貴族へと書面で送ったのであった。
これにより貴族界にエレフセリア伯爵家の名が広まるのである。カロトバウン男爵家の他に、エレフセリア伯爵家にも手を出してはいけないというオマケ付きで。
新進気鋭の子供貴族の家名と家紋が決まったことにより、各貴族は将来的な繋がりを持とうと、まだ婚約の済んでいない娘を差し出すべく画策しているが、領地や邸宅を持たないケビンに対して手紙を出そうにも出せず、如何にしてそれを実行に移すか頭を悩ませるのであった。
そんなケビン一行は王都内へ入ると、そのままギルドへ赴いてサーシャの所へ足を運ぶのである。
「サーシャさん、クエスト終わったよ」
「相変わらずの早さね。何匹倒してきたの?」
「20匹」
「……」
思いもよらぬ討伐数にサーシャは唖然とするが、ケビンは構わず報告を続ける。
「とりあえず、あそこの依頼書は剥がしていいよ。1匹も残っていないから」
「……はぁぁ……つまり全滅させたのね?」
「そうだね。村の人が困ってたし」
「それにしても増えすぎね。他の冒険者たちは何をしているのかしら?」
「増えすぎて手に負えないから来なくなったっていう話を、御者の人が言ってたよ」
「はぁぁ……ダメダメね。手に負えないならギルドへ報告すべきでしょ!」
「とりあえず解体場に行く?」
「ライアットさんが嬉しい悲鳴を上げるでしょうね」
「置き場所あるかなぁ……」
ケビンはサーシャとともに解体場へと足を運び、ライアットに報告とともに確認する。
「ライアットさん、昨日の今日で申し訳ないのですが、未解体のワイバーンを出してもいいですか?」
「あぁ、2、3匹程度なら置く余裕はあるぞ」
「すみません、20匹です……」
「……」
呆然とするライアットに、サーシャが見兼ねて説明を始める。
「ケビン君は、ワイバーンの巣で間引くのではなく、全滅させてきたんです。他の冒険者たちが放置した結果、増えすぎていたそうで……」
「マジか……数ヶ月前から、全然ワイバーンの買取がないかと思ったら、そんなことになっていたのか」
「それで、どうしますか? 2匹ならティナさんたちが倒したのがあるから、そっちを出しましょうか? 傷だらけだから素材価値も下がると思いますし、すぐ済みますよね?」
「ケビン君が倒したのはどうなってるの?」
「無傷です」
「あぁ、あの倒し方か……それなら傷だらけの方を先に処理するか」
「わかりました。ここに出しておきますね」
「ケビンが倒したやつはダンジョンの素材が捌けてからにしよう」
「では、その報酬の受け取りの際に出しましょう」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ケビンたちはギルドでの用事が済んだあとは、次は王城へと向かうべく歩き出していた。
「ケビン君、転移しないのね」
「歩いて行ける距離だし、正面から乗り込まないと」
「“乗り込む”って……」
やがて城門へ到着すると、ケビンが代表して門番に声をかけた。
「すみません。陛下に会いたいのですけど会えますか?」
「子供が何の用だ? お前みたいな子供に陛下が会うわけないだろう」
いきなり現れて国王に会おうとする子供に、門番は唖然として会えないことを伝えた。
「あれ? これは予想外だね」
「何が予想外だ……想定内だろ。遊ぶなら他所に行って遊べ」
「これは困った……どうしようか?」
「どうもこうもない。あまり執拗いと連行するぞ?」
「そうなると、お城に入れますか?」
「牢屋だがな」
「じゃあ、それで」
「は?」
「いや、だから早く連行して下さい。城の中に用があるんですから」
「おい、後ろのお前たちは保護者だろ? この変な子供を早く連れて帰れ」
ケビンの捕まえてくれという物言いに、門番は背後に控えている者たちへと連れて帰るように言うが、聞こえてきたのは何も知らない門番にとって呆れ果てる内容であった。
「ケビン君、伯爵だって伝えたら? 一般人だと思われているわよ?」
「それもそうか……俺は伯爵なんですけど、陛下に会っても問題ないですよね?」
「今度は貴族ごっこか? 不敬罪で捕まるぞ?」
「ティナさん、これも無理みたいだよ?」
「知名度低いのね」
「しょうがない……マリーさんに来てもらおう」
「叫ぶの?」
「いや、強引に呼ぶ」
ケビンはマリアンヌ王妃の位置を【マップ】で確認すると、そこへ向かって威圧を放った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
一方で、プライベートテラスにてお茶を楽しんでいた王妃は、優雅な時間を過ごしつつ、小鳥の囀りに耳をすましていた。
(この時間が一番落ち着くわね……)
至福のひとときを満喫している王妃は、ティーカップを手に取ると口元へ運び静かに口にする。
そんな時、突如ケビンの威圧が王妃の身に襲いかかる。
「――ぶふっ!」
不意打ちで受けた威圧にビックリした王妃は、不覚にも口に含んでいたお茶を噴き出してしまう。
「――ゴホッゴホッ……は、鼻に入った!?」
プライベートテラスで他に誰もいないことが幸いしてか、晒してしまった醜態は他の者に見られることはなく、事なきを得ることに安堵する王妃。
「……ふぅ……この威圧は……ケビン君ね。イタズラにしてもタチが悪いわ。しっかりお説教しないと」
王妃は身なりを整えて変なところがないか姿見で確認すると、ケビンのところへと向かうのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
城門で威圧を放ちつつボーッと過ごしているケビンの元へ、お目当ての王妃がその姿を現す。
「ん? 何か怒ってる感じ?」
こちらへと向かってくる王妃は、片眉がピクピクと動いてるにも関わらず、その姿は優雅さに溢れ気品のある歩みで近づいてくる。
「坊主、まだ帰らないのか? 俺も暇じゃないんだぞ?」
「それはわかるよ。マリーさんがやってきているから、忙しくなるだろうね」
ケビンはマリーの方を指さすと、門番も釣られてその方向を目にした途端、体に電撃が走ったかのような感覚に陥った。
「お……お……王妃殿下! このような場所に如何ようなご用向きで!」
マリーは門番を一瞥すると、すぐさまケビンに視線を向ける。
「ケビン君、あんなイタズラしちゃダメよ? お説教なんだからね?」
「だって、この人が中に入れてくれないから、頼りになるマリー義母さんを呼ぶしかなかったんだよ」
ケビンは説教されたくない一心で、捨てられた子犬のような目をして、上目遣いでマリーへと話し掛ける。
「うっ……(い……今、マリー義母さんって言ったの!? ……何このキュンキュンする感じ!? ……しかもその上目遣いは反則よ!?)」
「ねぇ、マリー義母さん、お城の中に入れてよ?」
「……しょうがないわね、ついてらっしゃい」
「ありがとう、マリー義母さん!」
ケビンは、トドメとばかりにマリーへと抱きついて、上目遣いで感謝の言葉を口にすると、マリーは言い表しようのない気持ちを胸に抱えて悶絶していた。
「――ッ!! (何? 何なの!? この気持ちは!! キュンキュンしっ放しじゃない! あぁ……帰したくない! 一緒に添い寝してあげたい!)」
偏にここまで効果が現れるのは、実はケビンの持つ称号のせいだったりするが、それは本人にはわからないことである。
マリーと手を繋ぎながら城内へと入っていくケビンに、ティナたちも後へと続くが城門に取り残された門番は呆然と立ち尽くした。
「え!? 母さん? 王妃殿下の隠し子!?」
ケビンとマリーのやり取りに未だ混乱から回復できない門番は、交代の時間に同僚から声を掛けられるまで、その場で立ち尽くしていたのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
一方でマリーとともに城内へと入ったケビンたちは、国王に会いたいという要望をマリーに伝えて、案内して貰っていた。
「それにしても、お義母さんではなくてお義父さんに会いたいだなんて、ケビン君はお義母さんのことは必要ないのかしら?」
「そんなことないよ。お義母さんのことは凄く大事に思ってるよ。お義母さんは綺麗だし、優しいし、いい匂いがするから」
「ありがとう、後でお菓子を一緒に食べましょうね。(ああん、母性本能が擽られて、お義母さん胸がキュンキュンするわ!)」
マリーがお義母さんプレイに味を占めていると、ケビンは国王の元へ着くまでそのお遊びに付き合うのだった。
後ろからそれを眺めているティナたちは、ケビンの称号の凄まじさに戦慄を覚えずにはいられず、ボソボソと仲間内で話している。
「あれって、絶対称号が関係しているわよね?」
「しかも、当然年上だから効果が絶大」
「王妃様の顔が緩みっぱなしですね」
「人妻にも効果があるなんて……」
「多分、年上なら無条件」
「さすがはケビン様です!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そんな1コマがあったことなど露知らず、ケビンの会いたがっている国王は私室でのんびりと過ごしていた。
「今日も平和じゃのぉ……」
午後の政務の合間に休憩を取っている段階であり、ほのぼのとした様子でお茶を楽しんでいるが、たった今ケビンがやって来ていることなど、微塵も思ってはいないだろう。
そんな国王の元へ、ケビンを連れた王妃がその姿を現した。
「あなた、ケビン君が来たわよ?」
「ん? ケビンか……? どうしたのじゃ?」
「ちょっとね……話し込むから座ってもいい?」
「構わんぞ、お茶でも用意させるか」
国王はベルを鳴らして使用人を呼ぶと、人数分のお茶を用意するように言いつけると皆に椅子へ座るように促すが、ケビンが空いた椅子に座ろうとするも、マリーの手によって阻まれるのであった。
「ケビン君の座る場所はここよ?」
マリーは自分が椅子に座ると、その膝の上をポン、ポンと叩いてケビンに座るように促した。
ケビンもこれといって断る理由もなかったので、そのままマリーの膝の上に腰を下ろす。
ティナたちは、ケビンが女性に抱かれてしまうのはいつものことなので、気にせずにそれぞれ空いた椅子へと腰を下ろしていった。
「マリアンヌはケビンのことがお気に入りのようじゃの」
「だって、お義母さんって呼んでくれたのよ? こんな可愛い息子を持てて幸せだわ」
「そうか……儂は一足先に呼んで貰っておるからの。マリアンヌの気持ちもわかるというものじゃ」
そんな会話の中、使用人が入室して来て全員分のお茶が配られた。ケビンという子供がいることに気を利かしたのかお菓子付きである。
使用人が再度退室すると、国王はケビンに訪問の理由を尋ねることにした。
「して、ケビンよ。今日はどんな用事で来たのじゃ? また問題事か?」
以前の月光の騎士団との絡みからまだ日が浅いこともあり、国王としては“暇だから会いに来た”という平和的な理由で会いに来ていて欲しいと僅かながらに希望を胸に持っているのだが、ケビンのことなのでほぼ無理だろうと諦めの気持ちも持ち合わせていた。
「問題事は俺が片付けておいたよ。今日来たのはその事後処理を頼みたかったんだよ」
「何があったのじゃ?」
「ギルドでワイバーン討伐のクエストを受けて、北の山脈に向かったんだけどね、近くの村がワイバーンの被害に少なからず合っていたんだよ」
「冒険者たちは何をしておったのじゃ?」
「数の増えすぎたワイバーンが手に負えなくなって、久しく討伐されていなかったみたい。それで更に数が増えていったから負のスパイラルだね。ちなみにギルドへは未報告」
「つまらんのぉ」
ケビンから聞かされた冒険者の行動に呆れ果てる国王であるが、これから続く言葉に仕方ないと諦める反面、最低限のことはして欲しかったと願わずにはいられなかった。
「まぁ、自由を謳って自己責任でやっているからね、そこまで強くは言えないよ」
「それは確かじゃが……報告くらいはして欲しかったのぉ」
「それで、そんなことになる前に王国騎士は何をしてたんだって話になるわけ」
「陳情も上がっておらんかったから、知らなかったんじゃろ。儂のところにもそのような報告は上がっておらぬしな」
「御者の人に聞いたんだけど、昔は遠征訓練をしてたんだってね?」
「そうじゃな、昔は戦争が頻繁に起こっておったから、練度維持のためにやっておったの」
「国民全員とは限らないけど今日話した人によれば、王国騎士は冒険者以上の役立たずって認識されてるよ? 税金を払っているから守るべき者を忘れないで欲しいってさ」
「耳の痛い話じゃ……」
ケビンから聞く一国民のオブラートに包まれていない心情に、国王は顔を歪めた。
「そんな話を聞かされたら俺も動かざるを得ないしね。一応、伯爵位を持ってるわけだしさ。領地からの税金収入はないけど、国からの爵位収入はあるからね」
「いらぬ手間を掛けさせたの。どのくらい増えておったのじゃ?」
「20匹」
「……」
いくら増えたとしていても緊急事案として話があがってきていないので、5匹に満たないであろうと予想していた国王の考えを遥かに上回る数字がケビンの口から出てきて言葉を失う。
「ちゃんと全滅させておいたから、村への被害はもうないよ。でも、またいつ住処にされるかわからないから、騎士の遠征訓練を再開させて欲しいんだよ。定期的に各地を巡回するだけでも、国民たちからの印象も良くなると思うよ?」
「色々とすまぬな。遠征の件は、他国からの誤解を受けぬ範囲で行うように、儂から騎士団長に話を通しておこう」
「戦争がないのはいいことだけど、それならいつもは目を向けないところに目を向けないとね。あんなに増えていたのなら下手すれば近くの村が無くなっていたと思うよ。今回は間に合って良かったけど……多分陳情とかも来ていたはずだよ? 実際に村人たちが被害を受けていたんだし。些事として片付けられたのかは知らないけど」
「陳情についても今一度改めさせねばな。民があってこその国であるということを考えておらぬやもしれぬ」
「甘い汁吸っている人は自分さえ良ければいいって人が多いからね。それと話は変わるけど、俺って知名度低いの?」
「何故じゃ?」
突拍子もないケビンの質問に、国王は首を傾げる。
「いや、門番に止められたから。それでマリーさんを呼んだんだよ」
「ちゃんと名乗ったのか?」
「一般人に思われていたみたいだから伯爵だって言ったけど、信じて貰えなかった」
ケビンは門番とのやり取りで名前を名乗っていないことなど、とうの昔に忘れていた。
「確かに、貴族位を持つ子供はケビンだけじゃからの。知名度としては申し分ないのじゃが、普通に考えればありえないからの。門番にまで周知しておらんかったのかのぉ? 知っていて当然のはずじゃが……」
「まぁ、入れなくてもマリーさんを呼べばいいだけだし、特に困ってはないんだけど」
ケビンのその言葉に、被害者であるマリーが反応を示した。
「ケビン君、私を呼ぶのは構わないけど、おイタしちゃダメよ? いきなりだからビックリしたのよ?」
「ケビンよ、お主何をしたのじゃ?」
「マリーさんに、威圧を飛ばして知らせたんだよ」
「……威圧は相手を呼ぶ手段じゃなかろうに……」
ケビンの非常識な呼びだし方に、国王はほとほと呆れ果てていた。
「そういえばお主、家名をまだ決めておらぬじゃろ? 止められたのはそれも関係しておるんじゃないのか?」
「あなた、それに加えて貴族位を示す物も渡していないはずよ。家紋も決まっていないのですから」
「そういえば家名はまだだったね。貴族として動くことがなかったからすっかり忘れていたよ」
「この場で決めればよかろう。そうすれば、この後に皆へ示達できるからの」
「うーん……何にしようか……ティナさんたちは何か意見ある?」
「ケビン君の家名なんだから、自分で考えないと」
「大事なこと」
「どのような家名であろうと、素晴らしいものに違いありません」
「……うーん……家名かぁ……被らないもの……」
ケビンは当たり前のことだが、今までに家名など決めたことがないので、大いに悩んで考えこんでいた。
国王たちがケビンを他所に雑談をしていると、かれこれ数十分は悩み続けたであろうケビンが、ようやく答えを出した。
「……よし、エレフセリアにする」
「長いこと悩んでおったの?」
「そりゃあ一生に関わることだし、途中で変えられないよね?」
「余程のことがない限りは家名を変える者はおらぬな。無駄な混乱を生むしの」
ケビンの家名に関心のあるティナが、その名の由来を知りたがり逸る気持ちを抑えてそれを尋ねた。
「ケビン君、何でその名前にしたの?」
「うーん……色々と考えた結果、自分らしいのにしようと思って」
「自分らしい?」
「そう、元々は冒険者だからそれに因んで、自由って意味合いを込めたんだよ」
「確かに、ケビン君らしいわね」
「これでようやくケビンに家名がついたの。これからは、ケビン・エレフセリアと名乗るがよい」
「家紋はどうしようか?」
「それも好きに決めて良いぞ。大体の者は剣や盾を入れたりするの。あとはその地の名物とか植物を象ったものだな」
「ケビン君、それも冒険者に因んだものにしたら?」
「何か絵を描くものある?」
そう言われた国王は席を立つと、別のテーブルから紙と羽根ペンを持ってきてケビンに渡した。
「それを使うとよい」
渡された物を見たケビンは、明らかに上質な紙であったので国王に尋ねるのである。
「これ、凄く高い物だよね? 絵を描いても大丈夫なの?」
「質が悪いとな、インクが滲み過ぎてわからなくなるのじゃ。絵を描くのであれば尚更のことだ。滲んでしまっては何を描いてあるのかがわからなくなってしまうからの、家紋に関する文書は全てそうなっておる」
「わかったよ」
それからケビンはスラスラと描き出して見事な絵を完成させていく。絵描きの知識や技術など一般人レベルであるケビンがここまでできるのは、偏にスキルの賜物であった。
「よし、できた」
でき上がった絵に一同は感嘆の声を漏らす。目の前の絵がとても子供の描いたものとは思えずに、どこかの著名人が描いた絵と言われても信じてしまうような完成度であったからだ。
「ケビン君って絵描きの才能もあるのね。冒険者を辞めたとしても稼げるわね」
「物作りの才能もある」
ケビンの完成させた絵は、愛刀である【黒焰】と【白寂】を下向きに交差させたものを1番下に描き、その上の空いたスペースにドラゴンを描くというものであった。
「まだドラゴンは討伐していないけどそのうちするかもしれないし、冒険者としては倒してみたい相手でもあるからこれでもいいよね?」
「構わぬぞ。ドラゴンの家紋は誰も作っておらぬからな、知名度も高くなるじゃろうて」
「そうなの? どこかの貴族と被るかと思ってたのに」
「ドラゴンが指し示すものは圧倒的武力じゃ。おいそれと使うわけにもいくまい。圧倒的武力を持たぬ者がその武力を掲げるなぞ、とんだ笑い種じゃからの。貴族はプライドが高いのじゃ、そういった者たちは剣とか盾を用いて家紋を作って見栄を張っておる」
「へぇー貴族も大変だね」
「これでエレフセリア伯爵家の誕生ね。今日はお祝いよ、このまま夕食を食べていきなさい」
「ありがとう、ご馳走になるよ」
ケビンの家名と家紋が決まったことで、まだ領地も邸宅も持たないケビンの代わりに、国王が自身の名でそのことを各貴族へと書面で送ったのであった。
これにより貴族界にエレフセリア伯爵家の名が広まるのである。カロトバウン男爵家の他に、エレフセリア伯爵家にも手を出してはいけないというオマケ付きで。
新進気鋭の子供貴族の家名と家紋が決まったことにより、各貴族は将来的な繋がりを持とうと、まだ婚約の済んでいない娘を差し出すべく画策しているが、領地や邸宅を持たないケビンに対して手紙を出そうにも出せず、如何にしてそれを実行に移すか頭を悩ませるのであった。
3
お気に入りに追加
5,254
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる